5.会計実務

公認会計士・税理士への道は簿記3級から。夢を叶えるための長期キャリアプランを徹底解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

「いつかは公認会計士や税理士のような、会計のプロフェッショナルになりたい」。 そう考えたことはありませんか?しかし、その道のりはあまりに遠く、何から手をつければ良いのかわからない、と感じている方も多いかもしれません。

こんにちは。公認会計士として、多くの企業の監査やコンサルティングに携わっています。私自身も、かつては皆さんと同じように、大きな夢と少しの不安を抱えながら、最初の教科書を開いた一人です。

この記事では、会計の専門家を目指す壮大な夢が、実は「日商簿記3級」という確かな一歩から始まることを、具体的なデータと法的な根拠、そして現実的なキャリアプランと共にお伝えします。これは単なる学習ガイドではありません。あなたの夢を現実に変えるための、長期的な設計図です。

1. すべてはここから始まる:簿記3級が「最も重要な資格」である理由

キャリアプランを語る上で、なぜ最初に簿記3級が来るのでしょうか。それは、この資格が単なる入門編ではなく、プロフェッショナルへの道を歩むために法的に、そして実務的に不可欠な「土台」そのものだからです。

簿記はプロフェッショナルの「共通言語」

まず理解すべきは、簿記が高度な会計知識の根幹をなす「言語」であるという事実です 。公認会計士や税理士が扱う複雑な会計基準や税法は、すべて簿記3級で学ぶ「仕訳」や「勘定科目」といった基本的な文法ルールの上に成り立っています。この言語を習得しなければ、より高度な専門書(会計基準や税法)を読み解くことはできません。  

法的に定められた「実務経験」への唯一の扉

そして、これが最も重要なポイントです。公認会計士や税理士として正式に登録されるためには、難関試験に合格するだけでなく、法律で定められた期間の「実務経験」を積むことが義務付けられています。

  • 公認会計士: 公認会計士法に基づき、3年以上の実務経験(業務補助等)が必要 。  
  • 税理士: 税理士法第三条に基づき、2年以上の実務経験(租税又は会計に関する事務)が必要 。  

では、未経験者がこの実務経験を積むためにはどうすればよいのでしょうか?その答えこそが、簿記3級です。多くの会計事務所や監査法人は、未経験者を採用する際の応募条件として「簿記3級以上」を掲げています 。  

つまり、簿記3級の合格は、単に知識を証明するだけでなく、法律で定められた実務経験のスタートラインに立つための「入場券」なのです。この資格を取得して初めて、会計業界への扉が開き、プロになるためのキャリアの時計の針を動かし始めることができるのです。

2. 頂上へのロードマップ:キャリア登山図で見るステップアップ戦略

公認会計士や税理士という頂上は高く見えますが、そこへ至る道筋は明確に存在します。ここでは、その道のりを「キャリア登山図」として、ステップごとに解説します。

(注:上記は図のイメージです。実際の図はブログ上で作成してください)

  • ベースキャンプ(現在地):簿記3級学習開始 すべての旅はここから始まります。ビジネスの基本言語を学び、キャリアの土台を築きます。
  • ステップ1(第一の関門):簿記3級合格 → 実務経験スタート 合格後、会計事務所や監査法人のアシスタントとして就職・転職します。これにより、給与を得ながら法的に必要な実務経験を積み始めることができます 。  
  • ステップ2(実務への橋渡し):簿記2級合格 3級の商業簿記に加え、メーカーなどで必須の「工業簿記」を学びます。これにより、活躍できるフィールドが広がり、転職市場での評価も格段に上がります。多くの企業が経理職の応募条件に「簿記2級以上」を挙げており、キャリアの選択肢と収入を増やす上で重要なステップです 。  
  • ステップ3(プロへの登竜門):簿記1級合格 会計基準や会社法といった、より専門的・理論的な領域を学びます。その内容は公認会計士試験や税理士試験の範囲と直接重なるため、最終目標への強力な布石となります。そして何より、簿記1級に合格すると税理士試験の受験資格が得られます 。  
  • サミット(山頂):公認会計士 or 税理士 簿記の学習と実務経験を通じて培った知識とスキルを総動員し、国家試験に挑戦します。

このように、各ステップの資格が次のステージへの扉を開ける鍵となっています。一つずつ着実にクリアしていくことで、誰もが頂上を目指すことができるのです。

3. 双子の頂:データで見る公認会計士と税理士の世界

最終目標である二つの国家資格。どちらを目指すべきか、その違いを客観的なデータに基づいて見ていきましょう。

公認会計士:企業の「健康診断」を行う監査の専門家

公認会計士の最も重要な役割は、企業の財務諸表が正しく作られているかをチェックする「監査」です。投資家や銀行が安心してその企業にお金を出せるよう、社会的な信頼を担保する、まさに「株式会社のドクター」のような存在です 。  

  • 試験の難易度: 公認会計士・監査審査会の発表によると、令和6年(2024年)の最終合格率は7.4%でした 。短答式試験(マークシート)と論文式試験を両方突破する必要があり、非常に狭き門です。  
  • 必要な実務経験: 前述の通り、公認会計士法により3年以上と定められています 。  

税理士:税のルールを案内する税務の専門家

税理士は、法人税や所得税といった複雑な税金の専門家です。企業の税務申告を代理したり、節税に関するアドバイスを行ったりと、税に関するあらゆる相談に応える「税のスペシャリスト」です 。  

  • 試験の難易度: 国税庁の発表によると、令和6年(2024年)の合格率(受験者数ベース)は16.6%でした 。  
  • 必要な実務経験: 税理士法により2年以上と定められています 。  

あなたに合うのはどちら?働きながら学ぶ視点からの戦略

ここで注目すべきは、試験制度の根本的な違いです。公認会計士試験が短答式・論文式を一括で合格しなければならない「一点突破型」であるのに対し、税理士試験は全11科目の中から5科目に合格すればクリアとなる「科目合格制(積み上げ型)」です 。  

この違いは、特に働きながら学習を進める社会人にとって大きな意味を持ちます。 公認会計士試験は、一度に広範な知識が問われるため、集中的な学習時間を確保できる学生や受験専念者に有利な側面があります。 一方、税理士試験は「今年は簿記論、来年は財務諸表論」というように、1科目ずつ着実に合格を積み重ねていくことができます 。これにより、仕事と勉強のバランスを取りながら、数年かけてゴールを目指すという長期的なプランが立てやすくなります。  

どちらの道が優れているということではなく、ご自身のライフスタイルや学習に割ける時間を考慮して、戦略的に目標を設定することが重要です。

特徴公認会計士税理士
主な役割企業の「健康診断」を行う監査の専門家税金の複雑なルールを案内する税務の専門家
監督官庁金融庁国税庁
試験制度短答式+論文式の一括合格方式科目合格制(5科目合格でクリア)
全体の合格率(2024年)7.4%  16.6%  
必要な実務経験3年以上  2年以上  

4. 学びながら稼ぐ:現実的なキャリアと年収のステップアップモデル

「勉強中は収入が不安定になるのでは?」という不安を解消するため、学びながら収入とキャリアを向上させていく現実的なモデルを、公的データと求人情報に基づいてご紹介します。

「実務経験」こそが最高の学習機会

最も効率的な戦略は、簿記3級合格後に会計業界で働き始め、「実務経験を積みながら」上位資格の勉強をすることです 。日々の業務で伝票を処理し、決算書作成の補助をすることが、教科書の内容を血肉に変える最高のトレーニングになります。実務と学習が相互に作用し、知識の定着を加速させるのです。  

この好循環は、キャリアプランにおける強力なエンジンとなります。簿記3級で得た就職の機会が、給与という経済的安定だけでなく、法律が求める実務経験と、学習効果を高める実践の場という、三つのリターンをもたらします。そして、簿記2級、1級とステップアップするごとに、より専門的な業務を任され、それがさらなる学習の助けとなり、給与も上昇していく。このポジティブなサイクルを回し始めることが、長期的な成功の鍵です。

データで見る年収推移

資格と経験年数に応じて、年収は着実に上昇していきます。

  • フェーズ1:スタート地点
    • 資格: 日商簿記3級
    • 役職: 会計事務所スタッフ(未経験)
    • 想定年収: 300万円~400万円
    • 解説: まずは会計業界に足を踏み入れ、実務経験をスタートさせることが目標です。実際の求人情報を見ても、未経験者向けのポジションはこの年収帯で数多く募集されています 。  
  • フェーズ2:成長期
    • 資格: 日商簿記2級 + 実務経験2~3年
    • 役職: 税務・監査スタッフ
    • 想定年収: 400万円~600万円
    • 解説: 日々の業務を一人でこなせるようになり、後輩の指導なども任されるレベルです。簿記2級の知識を活かし、より複雑な会計処理を担当することで、専門性を高めていきます 。  
  • フェーズ3:ゴール
    • 資格: 公認会計士 or 税理士
    • 役職: 資格者(プロフェッショナル)
    • 想定年収: 平均700万円以上
    • 解説: 政府の公的統計である「賃金構造基本統計調査」によると、「公認会計士,税理士」の平均年収は約700万円に達します 。これはあくまで平均値であり、大手監査法人や独立開業など、その後のキャリア次第で年収1,000万円以上を目指すことも十分に可能です。  
フェーズあなたの資格主な役職現実的な年収の目安(概算)この段階の目標
1. スタート日商簿記3級会計事務所スタッフ(未経験)300万円~400万円  実務経験の開始
2. 成長日商簿記2級 + 実務経験2~3年税務・監査スタッフ400万円~600万円  専門知識の深化と上位資格の学習
3. ゴール公認会計士 or 税理士資格者平均700万円以上  専門家としてのキャリア確立

結論:あなたの夢は、マラソンである

公認会計士や税理士への道は、短距離走ではありません。何年にもわたる学習と実務経験を要する、長いマラソンです。合格率のデータが示す通り、その道のりは決して平坦ではありません。

しかし、そのマラソンには、はっきりとした道筋と、一歩ずつ進むための確かな道しるべがあります。その最初の、そして最も重要な道しるべが「日商簿記3級」です。

この記事で示したロードマップは、夢物語ではなく、データと法律に基づいた現実的な計画です。簿記3級の学習を始めるという今日の決断が、数年後のあなたをプロフェッショナルというゴールに導くスタートの号砲となります。

あなたの未来は、今日この瞬間から始まります。さあ、最初の一歩を踏み出しましょう。

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