企業の成長に日々心血を注いでおられる経営者・役員の皆様。会社の資産形成と並行して、ご自身の個人的な資産形成について、どのようにお考えでしょうか。
多忙な日々の中で、個人の資産運用は後回しになりがちかもしれません。しかし、2024年から始まった新しいNISA(少額投資非課税制度)は、多忙な経営者の皆様にこそ活用していただきたい、極めて強力な資産形成ツールです。
これは単なる節税制度ではありません。会社の財産とは切り離された、純粋な個人資産を非課税で効率的に築くための、いわば「第二の財布」を育てる仕組みです 。
事業には常にリスクが伴います。だからこそ、会社の資産とは別に、税金の負担なく着実に成長させられる個人資産の柱を築いておくことは、将来の安心に直結する重要な経営判断と言えるでしょう。
公認会計士である私の視点から、経営者・役員の皆様が新NISAを最大限に活用するための具体的な戦略を、専門用語を極力排して分かりやすく解説します。
1,800万円の非課税枠を最大限に活かしたい方は、こちらの記事も参照してください。
目次
1. 新NISAの概要:経営者が押さえるべき3つの革命的変更点
まず、新NISAが従来の制度からいかに進化したのか、その核心を掴みましょう。重要な変更点は3つに集約されます 。
- 制度の恒久化:いつでも始められるようになり、長期的な計画が立てやすくなりました。
- 年間投資枠の拡大:年間最大360万円まで投資可能となり、スピーディーな資産形成が可能です。
- 生涯非課税限度額の新設:生涯にわたって1,800万円までの元本投資が非課税対象となりました。
これらの変更点を旧制度と比較すると、その差は歴然です。
| 項目 | 旧NISA(~2023年) | 新NISA(2024年~) |
| 口座開設期間 | 2023年まで | 恒久化 |
| 年間投資枠 | つみたて: 40万円 一般: 120万円 | つみたて: 120万円 成長投資: 240万円 (合計360万円) |
| 生涯非課税限度額 | つみたて: 800万円 一般: 600万円 | 1,800万円 |
| 枠の再利用 | 不可 | 可能 |
| 制度の併用 | いずれか一方を選択 | 併用可能 |
この表が示す通り、新NISAは非課税で投資できる金額、期間、そして総額のすべてにおいて、旧制度を圧倒しています。特に、一度使った非課税枠が売却によって翌年以降に復活する「投資枠の再利用」は、経営者の皆様にとって極めて重要なポイントです 。
2. 経営の常識を変える!1,800万円「非課税枠の復活」という最強の武器
新NISAの最も画期的な特徴が、生涯投資枠1,800万円の「枠の復活」ルールです。これは、経営者特有の資金ニーズに応える、非常に柔軟な仕組みと言えます。
仕組みの解説:簿価残高管理とは?
重要なのは、この1,800万円の枠は「簿価残高(=取得価額)」で管理されるという点です。時価評価額ではありません 。
そして、NISA口座内の商品を売却した場合、その商品の簿価残高分の枠が翌年以降に復活し、再利用が可能になります。
【具体例】
- 2024年: 300万円を投資(生涯枠の使用額: 300万円、残り1,500万円)
- 2027年: 投資した300万円が400万円に値上がり。ここで事業の資金繰りのため、全額を売却。
- 2028年: 売却した元本300万円分の非課税枠が完全に復活。再び1,800万円の枠をフルで利用可能に。
このルールにより、「将来のために投資はしたいが、いざという時に資金が拘束されるのは困る」という経営者特有の悩みに応えることが可能になります。新NISAは単なる長期積立だけでなく、「非課税の資金プール」としても機能するのです。
この非課税の仕組みは、租税特別措置法第三十七条の十四によって法的に定められており、国が認めた強力な優遇措置です 。
3. 【会計士の視点】役員報酬をNISAに回す!損金算入を活用した戦略的資金創出術
では、具体的にどうやって年間360万円、最短5年で1,800万円の枠を埋める資金を捻出すればよいのでしょうか。鍵は「役員報酬」の設計にあります。
法人税法上、役員報酬は特定の要件を満たさなければ経費(損金)として認められませんが、このルールを戦略的に活用します 。
戦略1:定期同額給与の改定を活用する
最も基本的な方法は、毎月同額を支給する「定期同額給与」を増額し、その増額分をNISA投資に充てる方法です。
役員報酬の変更は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う必要があります。この期間内であれば、増額分も全額損金算入が可能です 。例えば、月々の役員報酬を30万円増額すれば、年間360万円の投資原資を確保できます。
戦略2:「事前確定届出給与」でボーナスから一括投資
まとまった資金を特定の時期に投入したい場合、「事前確定届出給与」が有効です。これは、いわゆる役員賞与ですが、損金算入するためには「事前に、支給日と支給額を税務署に届け出ること」が絶対条件です 。
例えば、「6月30日に360万円を支給する」という届出を事前に行い、その通りに支給すれば、その360万円は全額法人の経費となります。これにより、会社の利益を圧縮し法人税を抑えつつ、個人のNISA口座へまとまった資金を投入する「短期集中投資」が可能になります。
4. 盤石な資産防衛ラインを築く!NISA・iDeCo・小規模企業共済の最適ポートフォリオ
「iDeCoや小規模企業共済にも入っているが、NISAもやるべきか?」これは多くの経営者様からいただく質問です。結論から言うと、これらは全く役割の異なる制度であり、併用することで最強の資産ポートフォリオが完成します。
それぞれの制度の目的と特性を理解し、戦略的に使い分けることが重要です。
| 項目 | 新NISA | iDeCo(個人型確定拠出年金) | 小規模企業共済 |
| 主な目的 | 柔軟な非課税資産の形成 (第二の財布) | 老後資金の準備 | 経営者の退職金準備 |
| 税制メリット | 運用益が非課税 | 掛金が全額所得控除 運用益が非課税 受取時も控除あり | 掛金が全額所得控除 受取時も控除あり |
| 資金の流動性 | いつでも引き出し可能 (枠の復活あり) | 原則60歳まで引き出し不可 | 任意解約は元本割れの可能性 (貸付制度あり) |
| 差押えリスク | 対象となる | 差押禁止財産 | 差押禁止財産 |
| 拠出限度額 | 年間360万円 | 年間最大81.6万円(条件による) | 年間84万円(月額7万円) |
| 根拠法/運営 | 租税特別措置法/金融機関 | 確定拠出年金法/国民年金基金連合会 | 小規模企業共済法/中小機構 |
この表からわかる通り、戦略は明確です。
- 守りの資産(節税と保全): 掛金が全額所得控除になるiDeCoと小規模企業共済で、現在の所得税・住民税を最大限に圧縮しつつ、いかなる場合も差し押さえられない「聖域」としての退職金を確保します 。
- 攻めの資産(非課税と流動性): 新NISAで、運用益非課税の恩恵を享受しながら、いつでも引き出せる柔軟な資金プールを構築します。
この三位一体の布陣を敷くことで、節税、資産保全、そして資産成長という、経営者に求められるすべての要素をカバーした盤石な財務基盤を個人レベルで築くことができます。
まずは、無料の証券口座開設によりNISA、iDeCoによる非課税枠を最大限活用しましょう。
5. 究極の出口戦略:引退と事業承継を見据えたNISA活用法
新NISAの真価は、長期的な視点、特に経営者人生の「出口」で発揮されます。
5.1. 役員退職金の「非課税の上乗せ」原資として
役員退職金は、勤続年数に応じた「退職所得控除」という非常に有利な税制が適用されます。例えば、勤続30年の場合、1,500万円までが控除の対象です 。
計算式: 800万円 + 70万円 × (勤続年数30年 - 20年) = 1,500万円
しかし、功績倍率法などで計算した結果、退職金がこの控除額を大きく上回るケースも少なくありません。その控除を超えた部分の受け皿として、非課税でいつでも引き出せるNISAは最適です。会社の損金として計上する退職金とは別に、個人資産として準備したNISAの1,800万円(+運用益)を組み合わせることで、実質的な手取り額を最大化できます。
5.2. 円滑な資産承継・事業承継のツールとして
経営者にとって、次世代への資産承継は重要な課題です。新NISAは、この課題に対する有効な一手となり得ます 。
具体的には、年間110万円の暦年贈与の非課税枠を活用します 。
【承継戦略のステップ】
- 経営者から、後継者である子や配偶者へ、年間110万円以内の現金を贈与する。
- 贈与を受けた子や配偶者は、その資金を元手に自身のNISA口座で投資を開始する。
これを家族単位で実行すれば、その効果は絶大です。例えば、夫婦と成人した子供2人の4人家族であれば、生涯で最大7,200万円(1,800万円 × 4人)もの非課税投資枠を家族全体で確保できます 。
これは、単に相続財産を減らすだけでなく、家族全体の金融資産を非課税で成長させるという、極めて戦略的な資産移転です。事業という単一のリスクに集中しがちな経営者一族の資産を、流動性の高い金融資産へ分散させる効果もあり、一族全体の財務的安定性を高めることにも繋がります。
6. 賢明な経営者として知るべき重要リスク
これほど強力な制度ですが、当然リスクも存在します。メリットだけでなく、デメリットも正確に理解することが、賢明な経営判断の基本です。
- 元本割れリスク: NISAは投資です。預金とは異なり、市場の変動によっては購入した金融商品の価格が下落し、元本を割り込む可能性があります。
- 損益通算・繰越控除の不可: NISA口座での損失は、他の課税口座(特定口座など)で得た利益と相殺(損益通算)することはできません。また、損失を翌年以降に繰り越すことも不可能です 。
- 自己破産時の差押え対象: これは経営者にとって最も重要なリスクです。万が一、個人として自己破産に至った場合、NISA口座内の資産は個人の財産と見なされ、債権者による差押えの対象となります 。前述のiDeCoや小規模企業共済の受給権が法律で保護されているのとは対照的です。
この差押えリスクを理解すれば、NISAを「最後の砦」ではなく、あくまで流動性を確保した「第二の財布」と位置づける戦略の重要性がより明確になるはずです。
まとめ:経営者こそ、今すぐ新NISAという「第二の財布」作りを
2024年から始まった新NISAは、これまでの制度とは一線を画す、非常に自由度と拡張性の高い資産形成制度です。
- 会社の事業リスクから隔離された、純粋な個人資産を非課税で築ける
- 「枠の復活」により、投資の長期性と資金の流動性を両立できる
- 役員報酬の設計や他の制度との組み合わせで、戦略的に活用できる
これは、日夜リスクと向き合う経営者・役員の皆様にとって、攻めと守りを兼ね備えた、まさに理想的なツールと言えるでしょう。
まずは少額からでも、ご自身の会社の財務状況と個人のライフプランを見据えながら、この新しい制度を活用した資産形成の第一歩を踏出してみてはいかがでしょうか。
よくある質問(Q&A)
役員賞与(事前確定届出給与)で新NISAに一括投資できますか?
はい、可能です。所定の期日までに税務署へ「事前確定届出給与に関する届出書」を提出し、届け出た通りの日付・金額で賞与を支給すれば、その賞与は法人の経費(損金)として認められます。その資金を元手に、新NISAの年間投資枠(最大360万円)へ一括投資することは、法人・個人双方にとって税務上効率的な戦略です。
経営者にとって、iDeCoや小規模企業共済より新NISAを優先すべきですか?
優先順位ではなく「役割分担」で考えるべきです。iDeCoや小規模企業共済は、掛金が全額所得控除になるため現在の節税効果が非常に高く、万一の際に差押えられない「守りの資産」です。一方、新NISAは運用益が非課税で、いつでも引き出せる流動性が魅力の「攻めの資産」です。これらを併用することで、節税、資産保全、資産成長をすべてカバーする盤石なポートフォリオを築くことができます。
会社の業績が悪化した場合、新NISAの資産は守られますか?
会社の倒産と個人の自己破産は別です。会社が倒産しても、経営者個人が自己破産をしなければ、新NISA口座の資産は個人のものであり守られます。これが「会社の事業リスクから隔離された第二の財布」という意味です。ただし、経営者個人が連帯保証人になっており、会社の債務を返済できずに自己破産した場合は、NISA資産も差押えの対象となるため注意が必要です。
ご注意: 本記事は新NISA制度の一般的な情報提供を目的としており、特定の金融商品の購入を推奨するものではありません。実際の投資判断にあたっては、ご自身の責任において行うとともに、必要に応じて金融機関等の専門家にご相談ください。
数ある証券会社の中からいくつかご紹介致します。証券口座開設のご参考として頂けますと幸いです。
NISA・iDeCo・株式投資・ロボアド・投資信託口座を開設する方
NISA・iDeCo・株式投資・投資信託口座を開設する方
NISA・iDeCo・株式投資・投資信託口座を開設する方