2.会計

PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)の会計処理|業績連動型インセンティブの仕訳の解説

近年、経営陣の士気を高め、株主と利害を一致させることで企業価値向上へのコミットメントを促すインセンティブ制度として、PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)を導入する上場企業や準備企業が非常に増えています。

しかし、このPSU、会計処理が少々厄介です。現金の支出がないのに費用を計上し、業績目標の達成度合いによって金額も変動する。実務担当者にとっては、悩ましい論点の一つでしょう。

今回は、このPSUの会計処理について、その考え方の基本から具体的な仕訳例まで、IPO準備の現場で求められるレベルで、ステップ・バイ・ステップで解説します。

そもそもPSUとは? 1分でわかる基本

PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)とは、一言でいえば、「会社の業績目標を達成したら、将来、会社の株式を無償で交付しますよ」という約束(インセンティブプラン)のことです。

  • パフォーマンス(Performance): 売上高や営業利益、株価といった、あらかじめ定められた業績目標
  • シェア(Share): 会社の株式
  • ユニット(Unit): 交付される株式の単位。

予め設定した複数年度の「対象勤務期間」における業績目標の達成度合いに応じて、最終的に交付される株式数が決まる仕組みです。役員は、株価上昇だけでなく、業績目標を達成することでも報酬が得られるため、企業価値向上への強力な動機付けとなります。

会計処理の基本原則:「役務提供」の対価を費用化する

PSUの会計処理を理解する上での最重要ポイントは、「会社は、役員から提供される労働サービス(役務提供)の対価として、自社の株式を報酬として支払っている」と考える点です。

現金の支出はありませんが、会社は「役務」という価値を受け取っています。そのため、その対価(=将来交付する株式の価値)を、役務が提供される期間(=対象勤務期間)にわたって、按分して費用計上していく必要があります。

この考え方は、日本の会計基準において、株式を用いた報酬に関する指針である実務対応報告第36号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」 に示されています。基本的な会計処理は、ストック・オプション会計(企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」)に準じて行われます。

【ステップ別】PSUの会計処理と仕訳例

それでは、具体的な設例を使って、一連の会計処理を見ていきましょう。

【設例】

  • 付与日: N1年4月1日
  • 対象役員: A取締役
  • 対象勤務期間: 3年間(N1年4月1日~N4年3月31日)
  • 業績目標: 3年後のN4年3月期の営業利益目標。
    • 目標100%達成の場合、A取締役に当社株式1,000株を交付。
  • 付与日の公正な評価単価(1株あたり): 500円
  • 株式報酬費用の総額(見込): 1,000株 × 500円 = 500,000円

ステップ1:付与日(N1年4月1日)

この時点では、まだ役務提供は開始されておらず、具体的な費用は発生していません。 したがって、仕訳は不要です。ただし、このPSUプランを取締役会で決議し、その内容を議事録等に正確に記録しておく必要があります。


ステップ2:対象勤務期間中の各期末(N2年3月期、N3年3月期、N4年3月期)

対象勤務期間である3年間にわたって、株式報酬費用の総額(見込)を按分して費用計上していきます。

● N2年3月期末の処理 当期に対応する費用を計上します。

  • 費用計上額の計算: 500,000円 × (1年 ÷ 3年) = 166,667円
  • 仕訳例:(借) 株式報酬費用 166,667 / (貸) 株式引受権 166,667
    • [借方] 株式報酬費用: 役員への報酬として、販管費に計上します。
    • [貸方] 株式引受権: 将来、株式を交付する可能性を示す、負債(または資本の調整項目)として計上します。勘定科目は「新株予約権」や「株式報酬引当金」などが使われることもあります。

● N3年3月期末、N4年3月期末の処理 同様に、各期末に166,667円ずつ費用計上を繰り返し、3年間で合計500,000円の費用と株式引受権が計上されることになります。

【補足】 実際には、各期末において「業績目標の達成可能性」を再検討する必要があります。もし、目標達成が困難になった場合は、将来の費用計上を見直したり、過去に計上した費用を取り消したりする会計処理が必要となり、監査法人との慎重な協議が求められます。


ステップ3:権利確定日(N4年3月31日以降)

3年間の対象勤務期間が終了し、業績目標の達成度が確定した後の処理です。

● ケースA:業績目標を達成し、株式を交付する場合 :目標を100%達成し、A取締役に新株を1,000株交付したとします。

  • 仕訳例(新株発行の場合):(借) 株式引受権 500,000 / (貸) 資本金   250,000 (貸) 資本準備金 250,000
    • これまで貸方に計上してきた「株式引受権」(負債)を取り崩し、純資産である「資本金」と「資本準備金」に振り替えます。振替額は、会社法第445条の規定に基づき、原則として払込額の2分の1以上を資本金とします。

● ケースB:業績目標が未達で、権利が失効する場合 :残念ながら目標が達成できず、株式が交付されない場合です。

  • 仕訳例:(借) 株式引受権 500,000 / (貸) 株式報酬費用戻入益 500,000
    • これまで計上してきた「株式引受権」を取り崩すとともに、対応する相手勘定として、特別利益などに「戻入益」を計上し、費用を取り消します。

まとめ

PSUの会計処理は、一見すると複雑です。しかし、その根底にあるのは「役員から受けたサービスの対価を、提供された期間に応じて費用計上する」という、至ってシンプルな原則です。

なお、PSU導入においては、特に以下の点が重要となります。

  • 付与日の公正な評価単価の算定根拠を、明確に文書化しておくこと。
  • 各期末における、業績目標の達成可能性の評価プロセスを、議事録等で記録しておくこと。

これらの点は、監査法人による監査で必ず精査されるポイントです。この一見複雑な会計処理を正しく理解し、運用することは、攻めのインセンティブプランを導入する上で不可欠な“守りの実務”です。ぜひ、監査法人とも早期に協議しながら、適切な体制を構築してください。

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