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インボイス制度開始から1年超!まだある「よくある間違い」

2023年10月1日にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が開始されてから1年以上が経過しました。日々の業務にも慣れてきた頃かと思いますが、実務の現場では依然として間違いやすいポイントが散見されます。

本記事では、公認会計士の視点から、制度開始後に見えてきた実務上の「よくある間違い」を5つピックアップし、具体的な事例と正しい処理方法を、根拠となる法令に触れながら分かりやすく解説します。自社の経理処理が正しく行われているか、この機会にぜひ一度見直してみてください。


1. 値引きや返品…「返還インボイス」の端数処理、間違っていませんか?

商品の値引きや返品、販売奨励金の支払いなど、売上に係る対価の返還等を行う場合、「適格返還請求書(返還インボイス)」の交付が必要です。この返還インボイスにおける消費税額の計算で、間違いが多く見られます。

よくある間違い: 元の請求書(インボイス)で商品ごとに消費税を計算していたため、返還インボイスでも対象商品の消費税額をそのまま記載してしまっている。

正しい処理: 返還インボイスに記載する消費税額は、1枚の返還インボイスにつき、税率ごとに1回の端数処理を行うのが原則です。たとえ元の請求書で商品ごとに端数処理を行っていても、返還インボイスでは、返還する金額の合計額に対して消費税額を計算し直し、端数処理(切捨て、切上げ、四捨五入のいずれか、事業者が選択した方法)を一度だけ行います。

例えば、10%対象のA商品(税抜10,500円、消費税1,050円)とB商品(税抜8,200円、消費税820円)のうち、A商品を返品されたとします。この場合、返還インボイスに記載する消費税額は、返品されたA商品の消費税額1,050円ではなく、対価の返還等の金額である10,500円に対して算出した消費税額1,050円となります(この例では端数が生じませんが、端数が生じる場合はここで処理します)。

【参照条文】 適格請求書発行事業者は、国内において行った課税資産の譲渡等につき、返品を受け、又は値引きをしたことにより、当該課税資産の譲渡等の対価の額に係る消費税額が減少した場合には、その減少した消費税額の合計額を基礎として、消費税法第45条第1項の規定により、その売上に対する消費税額から控除しなければならない。

また、適格返還請求書の記載事項については、消費税法施行令第70条の9第2項に定められています。


2. 「立替金精算書」があれば、どんな領収書でもOK?

従業員が支払った経費を会社が精算する際、インボイスの要件を満たした領収書等と、「立替金精算書」を保存することで、仕入税額控除が可能です。しかし、この領収書の宛名がポイントになります。

よくある間違い: 従業員が個人名で受け取った領収書(例:飲食店のレシート)でも、立替金精算書を添付すれば問題ないと思い込んでいる。

正しい処理: 原則として、仕入税額控除の対象となるインボイスは、交付を受ける事業者の氏名又は名称が記載されている必要があります。つまり、領収書の宛名が「会社名」でなければなりません。

ただし、従業員が宛名を指定できない場合も考慮され、従業員宛の領収書であっても、立替金精算書を併せて保存することで、会社の経費として処理することが認められています。この立替金精算書には、立替払いをした従業員の氏名、支払年月日、支払内容、支払金額などを記載し、どの領収書に対応するものかを明確にする必要があります。

なお、3万円未満の公共交通機関の運賃など、インボイスの交付義務が免除される取引については、帳簿への一定事項の記載のみで仕入税額控除が認められます(公共交通機関特例)。

【参照条文】 消費税法第30条第7項では、帳簿及び請求書等の保存が仕入税額控除の要件とされています。また、従業員への立替経費に関する取扱いは、国税庁のQ&A問104等で詳細が示されています。


3. 請求書に記載する消費税額、いまだに「1商品ごと」に端数処理?

制度開始から最も多く見られた間違いの一つですが、いまだに散見されるのが消費税額の端数処理ルールです。

よくある間違い: 請求書に記載する複数の商品について、それぞれで消費税額を計算し、端数処理を行ってから合計している。

正しい処理: 1枚の適格請求書(インボイス)につき、税率ごとに区分して合計した金額に対して、それぞれ1回の端数処理を行います。

例えば、10%対象商品が複数ある場合、それらの税抜価格をすべて合計し、その合計額に10%を乗じて消費税額を算出します。そして、その結果に対して1回だけ端数処理を行います。商品ごとに消費税を計算し、端数処理を繰り返すと、最終的な消費税額にズレが生じ、正しいインボイスとは認められない可能性があります。

正しいインボイスの例:税率ごとに合計してから消費税を計算している。

【参照条文】 適格請求書の記載事項として、消費税法第57条の4第1項第5号に「税率ごとに区分した消費税額等」と規定されており、その具体的な計算方法は消費税法施行令第70条の10第1項に定められています。


4. 受領したインボイスの「登録番号」が間違っていた!どうする?

取引先から受け取ったインボイスに記載された登録番号が、国税庁の公表サイトで確認すると存在しない、あるいは別の事業者のものだった、というケースがあります。

よくある間違い: 番号が間違っていることに気づかず、そのまま仕入税額控除を行ってしまっている。または、間違いに気づいたが、自社で勝手に修正してしまっている。

正しい処理: 記載された登録番号に誤りがあるインボイスは、原則として適格請求書に該当せず、仕入税額控除を行うことができません。

この場合、インボイスを発行した事業者(売手側)に連絡し、修正したインボイスを再発行してもらう必要があります。買手側で追記や修正を行うことは、原則として認められていません。ただし、双方の合意のもと、修正内容を明確にした上で、買手側で修正を行うことも一定の条件下で許容されていますが、トラブルを避けるためにも、発行元に修正を依頼するのが最も確実です。

【参照条文】 適格請求書発行事業者には、交付した適格請求書に誤りがあった場合に、修正した適格請求書を交付する義務があります(消費税法第57条の4第7項)。


5. 少額な取引だから…とインボイスの保存を省略していないか?

インボイス制度では、原則として、仕入税額控除の適用を受けるためには、適格請求書の保存が必須です。

よくある間違い: 1万円未満の少額な取引だから、インボイスは不要だと思い込み、保存していない。

正しい処理: 令和5年度税制改正で、基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5千万円以下の事業者については、税込1万円未満の課税仕入れについて、インボイスの保存がなくとも帳簿のみの保存で仕入税額控除が可能となる、いわゆる「少額特例」が設けられました。

しかし、この特例は期間限定の措置(2029年9月30日まで)であり、すべての事業者に適用されるわけではありません。自社がこの特例の対象事業者であるかを正しく把握し、対象外である場合は、たとえ少額であっても必ずインボイスを保存する必要があります。

【参照条文】 少額特例については、改正消費税法附則に規定されています。

まとめ

インボイス制度は、経理実務の根幹に関わる重要な制度です。今回ご紹介したポイントは、いずれも日々の業務の中で起こりがちな間違いです。制度開始から時間が経ち、慣れが生じる今だからこそ、改めて自社の請求書発行・受領のプロセスを見直し、正確な処理を徹底することが、将来の税務リスクを回避するために不可欠です。

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