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【初心者の壁】決算整理仕訳が苦手なあなたへ。簿記3級で絶対押さえるべき決算整理仕訳

「仕訳はなんとか分かってきたけど、決算整理に入った途端、まったく意味が分からない…」

簿記3級の学習を進める中で、多くの人がぶつかる巨大な壁、それが「決算整理仕訳」です 。貸倒引当金、減価償却、費用の繰延べ…次々と現れる新しいルールに、頭がパンクしそうになっていませんか?「もう無理かも」と、テキストを閉じてしまいたくなる気持ち、痛いほどよく分かります。  

こんにちは、公認会計士のSatoです。断言します。決算整理は、簿記学習における最大の「ふるい」です。しかし、一つ一つの処理が「なぜ必要なのか?」という目的を理解すれば、この壁は必ず乗り越えられます。暗記に頼るのではなく、その背景にあるロジックを掴むことが、攻略の唯一にして最強の鍵なのです。

この記事では、簿記3級で出題される決算整理仕訳の必須8項目を、一つずつ丁寧に、具体例と図解を交えながら徹底的に解説します。この記事を読み終える頃には、あなたは決算整理への苦手意識を克服し、試験の最重要項目である第3問の総合問題に自信を持って挑めるようになっているはずです。

さあ、一緒に簿記学習最大の壁を乗り越え、合格への道を切り拓きましょう。

第1章 そもそも「決算整理」って何のためにやるの?

多くの学習者が決算整理でつまずくのは、日々の仕訳(期中仕訳)との違いが分からず、混乱してしまうからです 。まずは、なぜこの面倒な作業が必要なのか、その目的から理解しましょう。  

一言でいうと、決算整理とは「1年間の正しい成績表(財務諸表)を作るための最終調整」です 。  

会社は1年間、毎日たくさんの取引を行い、その都度仕訳を記録していきます。しかし、期中に行った仕訳だけでは、期末の時点で会社の財産や儲けの状態を正確に表すことができません。

例えば、

  • 期末に残っている商品の在庫は、まだ売れていないので「費用」ではなく「資産」として扱うべきです 。  
  • 1年分の保険料を前払いしていても、当期の費用として計上すべきなのは、当期の期間に対応する分だけです 。  
  • 建物や車は時間とともに価値が下がっていくので、その価値の減少分を費用として認識する必要があります 。  

このように、期中の記録と期末時点での実態との間に生じたズレを、会計のルールに従って正しく修正する作業。それが「決算整理」なのです 。この作業があるからこそ、会社の利害関係者(株主や銀行など)に対して、信頼性の高い情報を提供できるのです。  

第2章 簿記3級で絶対押さえるべき決算整理仕訳【完全攻略】

ここからは、簿記3級の試験で頻出する8つの決算整理仕訳を、一つずつマスターしていきましょう 。それぞれの項目で「①なぜこの処理が必要なの?」「②仕訳のルールと計算方法」「③例題で実践!」の3ステップで解説します。  

1. 売上原価の算定

  • ①なぜこの処理が必要なの? 期中に商品を仕入れたときは、すべて「仕入」という費用勘定で処理します(三分法)。しかし、期末に売れ残った商品(期末商品棚卸高)は、まだ費用ではなく会社の財産(資産)です。そこで、当期の費用である「売上原価」を正しく計算するために、期中の仕入勘定から売れ残った分を差し引く調整が必要になります 。  
  • ②仕訳のルールと計算方法 売上原価は「期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高」で計算されます 。この計算を決算整理仕訳で行います。仕訳は2行セットで覚えるのが鉄則です。多くの専門学校では、この仕訳を「しーくり、くりし」という呪文で覚えます 。
    1. (借) 仕入 XXX / (貸) 繰越商品 XXX (期首の在庫を費用に振り替える)
    2. (借) 繰越商品 YYY / (貸) 仕入 YYY (期末の在庫を資産に振り替える)
  • ③例題で実践!
  • 【問題】 決算にあたり、売上原価を算定する。期首商品棚卸高は100円、期末商品棚卸高は150円であった。なお、決算整理前の仕入勘定の残高は1,000円である。
  • 【解答】
    1. (借) 仕入 100 / (貸) 繰越商品 100(借) 繰越商品 150 / (貸) 仕入 150
    この仕訳の結果、仕入勘定の残高は 1,000円 + 100円 - 150円 = 950円 となり、これが当期の売上原価となります。

2. 貸倒引当金の設定

  • ①なぜこの処理が必要なの? 売掛金や受取手形といった売上債権は、将来得意先から回収する権利ですが、中には倒産などで回収できなくなるリスク(貸倒れ)が常に伴います。そこで、あらかじめ当期に発生した売上債権のうち、どれくらいが回収不能になりそうかを見積もり、その分を当期の費用として計上しておく必要があります 。  
  • ②仕訳のルールと計算方法 簿記3級では「差額補充法」という方法で計算します。これは、期末に必要な貸倒引当金の額を計算し、すでに設定されている残高との差額だけを補充(繰り入れ)する方法です 。
    • 期末に必要な設定額 = 期末の売上債権残高 × 設定率
    • 当期の繰入額 = 期末に必要な設定額 - 決算整理前の貸倒引当金残高
  • ③例題で実践!
  • 【問題】 決算にあたり、売掛金の期末残高10,000円に対して2%の貸倒引当金を設定する。なお、決算整理前の貸倒引当金勘定の残高は50円である 。  
  • 【解答】
    1. 期末に必要な設定額: 10,000円 × 2% = 200円
    2. 当期の繰入額: 200円 - 50円 = 150円
    3. 仕訳: (借) 貸倒引当金繰入 150 / (貸) 貸倒引当金 150

3. 減価償却

  • ①なぜこの処理が必要なの? 会社が長期間使用する建物、備品、車両などの固定資産は、時間が経つにつれて価値が減少していきます。この価値の減少分を、使用した期間に応じて費用として計上する手続きが減価償却です 。  
  • ②仕訳のルールと計算方法 簿記3級では「定額法」で計算します。これは、毎年一定額の価値が減少すると考える方法です 。
    • 減価償却費 = (取得原価 - 残存価額) ÷ 耐用年数
    • ※残存価額は、取得原価の10%で計算するか、ゼロの場合があります。問題文の指示に従いましょう。
    • ※期中に取得した場合は、月割計算が必要です。
  • ③例題で実践!
  • 【問題】 決算にあたり、備品(取得原価:100,000円、残存価額:取得原価の10%、耐用年数:5年、定額法)の減価償却を行う 。  
  • 【解答】
    1. 減価償却費の計算: (100,000円 - 10,000円) ÷ 5年 = 18,000円
    2. 仕訳: (借) 減価償却費 18,000 / (貸) 備品減価償却累計額 18,000

4. 費用・収益の繰延と見越

  • ①なぜこの処理が必要なの? 会計では、お金を支払った時点や受け取った時点ではなく、その費用や収益が「発生した期間」に正しく計上する必要があります(発生主義)。そのため、期間をまたいで支払い・受け取りが発生する家賃や保険料、利息などについて、当期に属する分だけを正しく計上するための調整が必要です 。  
  • ②仕訳のルールと計算方法 4つのパターンがあります。語呂合わせ「くまみみ」(りのべ=えばらい・えうけ、こし=はらい・しゅう)で覚えると便利です 。
    • 費用の繰延(前払費用): 当期に支払った次期以降の費用を、当期の費用から除き、資産(前払費用)に振り替える。
    • 収益の繰延(前受収益): 当期に受け取った次期以降の収益を、当期の収益から除き、負債(前受収益)に振り替える。
    • 費用の見越(未払費用): 当期の費用だが、まだ支払っていないものを、当期の費用として計上し、負債(未払費用)に振り替える。
    • 収益の見越(未収収益): 当期の収益だが、まだ受け取っていないものを、当期の収益として計上し、資産(未収収益)に振り替える。
  • ③例題で実践!
  • 【問題】 支払家賃は毎年9月1日に1年分12,000円を前払いしている。決算日は3月31日である。
  • 【解答】
    1. 期間の分析: 当期分は9月1日~3月31日の7ヶ月。次期分は4月1日~8月31日の5ヶ月。
    2. 次期分の家賃計算: 12,000円 × (5ヶ月 ÷ 12ヶ月) = 5,000円
    3. 仕訳: (借) 前払家賃 5,000 / (貸) 支払家賃 5,000

5. 貯蔵品の振替

  • ①なぜこの処理が必要なの? 郵便切手(通信費)や収入印紙(租税公課)などを購入したときは、一旦費用として処理します。しかし、決算時に未使用のものが残っている場合、それは費用ではなく資産(貯蔵品)として翌期に繰り越す必要があります 。  
  • ②仕訳のルールと計算方法 期末に未使用分を、費用勘定から資産である「貯蔵品」勘定に振り替えます。

③例題で実践!

  • 【問題】 決算にあたり、未使用の収入印紙2,000円分を貯蔵品に振り替える。
  • 【解答】
    • 仕訳: (借) 貯蔵品 2,000 / (貸) 租税公課 2,000 ※翌期の期首には、この逆仕訳(再振替仕訳)を行い、費用に戻します 。  

6. 現金過不足の処理

  • ①なぜこの処理が必要なの? 期中に現金の実際有高と帳簿残高が合わない場合、「現金過不足」という仮の勘定で処理しています。決算日になってもその原因が不明な場合、この仮勘定を清算し、「雑損」(費用)または「雑益」(収益)として確定させる必要があります 。  
  • ②仕訳のルールと計算方法 決算整理前の現金過不足勘定の残高をゼロにするように仕訳をします。
    • 現金過不足勘定が借方残(現金が不足していた)の場合 → 貸方に現金過不足を記入し、借方は「雑損」。
    • 現金過不足勘定が貸方残(現金が過剰だった)の場合 → 借方に現金過不足を記入し、貸方は「雑益」。
  • ③例題で実践!
  • 【問題】 決算日において、現金過不足勘定の借方に500円の残高があったが、原因は不明のままであった 。  
  • 【解答】 仕訳: (借) 雑損 500 / (貸) 現金過不足 500

7. 消費税の処理

  • ①なぜこの処理が必要なの? 簿記3級で学習する税抜方式では、仕入時に支払った消費税を「仮払消費税」(資産)、売上時に預かった消費税を「仮受消費税」(負債)として処理します。決算では、この2つを相殺し、国に納付すべき消費税額(または還付される額)を計算します 。  
  • ②仕訳のルールと計算方法 仮受消費税と仮払消費税を相殺し、差額を「未払消費税等」(負債)または「未収還付消費税等」(資産)として計上します。
  • ③例題で実践! 【問題】 決算にあたり、消費税の納税額を計算する。仮受消費税の残高は10,000円、仮払消費税の残高は6,000円であった 。   【解答】 仕訳: (借) 仮受消費税 10,000 / (貸) 仮払消費税 6,000 (貸) 未払消費税等 4,000

8. 法人税等の処理

  • ①なぜこの処理が必要なの? 会社が稼いだ利益に対してかかる法人税、住民税、事業税を計算し、当期の費用として計上するとともに、未払額を負債として計上する必要があります。
  • ②仕訳のルールと計算方法 確定した税額を「法人税、住民税及び事業税」(費用)として計上します。期中に中間納付している場合は、その分(仮払法人税等)を差し引き、残額を「未払法人税等」(負債)として計上します。
  • ③例題で実践!
  • 【問題】 決算にあたり、法人税等が8,000円と算定された。なお、中間納付として3,000円を仮払法人税等で処理している。
  • 【解答】 仕訳: (借) 法人税、住民税及び事業税 8,000 / (貸) 仮払法人税等 3,000 (貸) 未払法人税等 5,000

第3章 試験で点を稼ぐ!決算整理問題の解き方と近年の傾向

決算整理仕訳は、簿記3級試験の第3問(配点35点)で総合問題として出題されます 。ここを攻略することが合格の鍵です。  

第3問の解き方【3ステップ】

【Step 1】決算整理事項を一つずつ仕訳する 問題用紙の空きスペースに、8つの決算整理仕訳を一つずつ丁寧に書き出します。焦らず、計算ミスや勘定科目の間違いがないか確認しながら進めましょう。

【Step 2】仕訳を転記・集計する 決算整理前残高試算表の金額に、Step 1で作成した仕訳の金額を足したり引いたりして、決算整理後の正しい残高を計算します。T字勘定を使うとミスを減らせます 。  

【Step 3】答案用紙(精算表など)を完成させる Step 2で計算した最終的な金額を、答案用紙の正しい場所に記入していきます。損益計算書と貸借対照表のどちらに属する勘定科目か、落ち着いて判断しましょう。

    近年の試験傾向と対策

    近年のネット試験では、第3問は難問・奇問が減り、基本的な論点が問われる傾向にあります 。しかし、対策が不要なわけではありません。むしろ、  

    基本的な問題を、いかに速く、正確に解けるかという処理能力が問われます 。  

    • パターンを掴む: 第3問で問われる決算整理事項はある程度パターン化されています 。問題集を繰り返し解き、どの論点が出ても反射的に仕訳が思い浮かぶレベルまで練習しましょう。  
    • 時間配分を意識する: 第3問の目標解答時間は25分~30分です 。日頃から時間を計って解く練習が不可欠です。  
    • 満点を狙わない: 第3問は部分点が狙えます 。もし分からない項目があっても、分かる部分だけは確実に得点する、という意識が大切です。  

    第4章 実務ではどう使われる?決算整理と経理の仕事

    あなたが今学んでいる決算整理は、試験のためだけの知識ではありません。すべての会社の経理部で、年に一度必ず行われる非常に重要な業務です 。  

    実際の経理の現場では、会計ソフトを使って決算整理を行います 。期中の仕訳とは別に「決算整理仕訳」として入力する機能があり、これを入力することで、ソフトが自動的に財務諸表を作成してくれます 。  

    しかし、どの勘定科目をどう修正すべきかを最終的に判断するのは、経理担当者です。会計ソフトはあくまでツールであり、その元となる簿記の知識、特に決算整理のロジックを理解していなければ、正しい決算書を作ることはできません 。  

    あなたが今、一つ一つの決算整理仕訳の「なぜ?」を学んでいることは、将来、経理担当者として、あるいはビジネスパーソンとして、会社の財政状態を正しく読み解き、適切な意思決定を行うための、揺るぎない土台を築いていることに他ならないのです 。  

    まとめ:最大の壁を乗り越え、合格を掴み取ろう

    決算整理仕訳は、多くの論点が一度に出てくるため、最初は難しく感じるかもしれません。しかし、今日学んだように、一つ一つの処理にはすべて「会社の成績を正しく計算する」という明確な目的があります。

    • 売れ残りは資産(売上原価の算定)
    • 回収できないリスクに備える(貸倒引当金)
    • 時の経過で価値が減る(減価償却)
    • 期間のズレを正す(繰延・見越)

    この「なぜ?」を常に意識しながら問題演習を繰り返せば、知識は必ず定着します。簿記学習最大の壁を乗り越えた先には、合格という大きな自信と、ビジネスの世界を数字で理解できる新しい視界が待っています。

    あなたの努力が実を結ぶことを、心から応援しています!

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    Sato

    Sato/公認会計士/ あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務の知識を分かりやすく解説しています。

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