はじめに:簿記3級は「知識」+「戦略」で合格する
簿記3級の合格に向けて、日々学習に励んでいる皆さん、本当にお疲れ様です。勘定科目や仕訳のルールを一つひとつ着実に身につけていく中で、「本番の試験で、本当に時間内に全て解ききれるだろうか?」という不安を感じたことはありませんか?
その不安は、多くの受験生が抱くものです。そして、その不安こそが、合否を分ける重要なポイントに気づいている証拠でもあります。
日商簿記3級の試験時間は、わずか60分 。この限られた時間の中で、合格基準である
70点以上を確保するためには、蓄えた知識を正確にアウトプットする力はもちろんのこと、「どの問題から、どのくらいの時間をかけて解くか」という試験戦略が極めて重要になります 。
公認会計士として多くの受験生を見てきましたが、合格を掴む人と涙をのむ人の差は、必ずしも知識量の差だけではありません。むしろ、60分間という試合をどう戦うか、その「ゲームプラン」の有無が結果を大きく左右するのです。
この記事では、単なる論点解説に留まらず、公認会計士である私が実践してきた「合格点を確実に取りにいくための戦略」を、以下の3つのステップで徹底的に解説します。
- 【大戦略】鉄則の解答順序と時間配分:60分を制するための黄金ルール
- 【各個撃破】大問別の攻略法:第1問・第2問・第3問の賢い戦い方
- 【満点への道】最重要・決算整理仕訳の完全チェックリスト
この記事を読み終える頃には、あなたは試験本番の60分間を冷静に、そして戦略的に戦い抜くための明確な羅針盤を手にしているはずです。さあ、一緒に合格への最短ルートを駆け抜けましょう。
【大戦略】合否を分ける60分!鉄則の時間配分と解く順番
簿記3級の試験は、大問が3つで構成されています。それぞれの配点と特徴をまず確認しましょう 。
大問 | 主な内容 | 配点 | 特徴 |
第1問 | 仕訳問題(15問) | 45点 | 基礎知識が問われる。1問あたりの時間は短いが、配点が最も高い。 |
第2問 | 勘定記入・補助簿選択など | 20点 | 出題範囲が広く対策が立てにくい。難易度に波があり、時間がかかる場合も。 |
第3問 | 精算表・財務諸表の作成など | 35点 | 総合的な理解力が問われる。決算整理仕訳がカギ。時間はかかるが、練習量が点数に直結する。 |
この配点と特徴を踏まえた上で、公認会計士が推奨する、そして多くの合格者が実践する「黄金の解答順序」は、以下の通りです 。
解答順序:第1問 → 第3問 → 第2問
なぜこの順番なのか?理由は極めてシンプルです。「得点しやすい問題から、配点の大きい順に攻略する」という試験の鉄則に基づいているからです。
- 最初に第1問(仕訳): 配点が45点と最も高く、基本的な仕訳問題が中心のため、ここで一気に得点を稼ぎ、精神的な余裕を作ります 。
- 次に第3問(決算): 配点35点と次に高く、簿記の総合力が試されます。ここは時間をかければ解ける問題が多く、練習の成果が最も表れる部分です 。
- 最後に第2問: 配点が20点と最も低く、対策がしづらい問題が多いため、残った時間で解けるところだけを解き、部分点を拾いにいきます 。
この順番に沿った、具体的な時間配分のモデルプランは以下の通りです。日頃の学習から、この時間感覚を体に染み込ませてください 。
- 第1問:15分 (1問1分ペース)
- 第3問:30分
- 第2問:10分
- 見直し:5分
この時間配分を守ることで、焦りからくるケアレスミスを防ぎ、実力を最大限に発揮することが可能になります。
【各個撃破①】第1問(仕訳)で40点以上を確保せよ!
第1問は、合格への基盤を築く最重要エリアです。配点45点のうち、目標は40点以上(15問中13問正解)。ここを安定させることが、合格への絶対条件です。
第1問の頻出論点と対策
第1問で問われるのは、簿記の基本である仕訳の力です。以下の頻出論点は、問題文を読んだ瞬間に仕訳が頭に浮かぶレベルまで、徹底的に反復練習しましょう。
- 商品売買:三分法はもちろん、仕入諸掛(引取運賃など)の処理、返品、クレジット売掛金の処理(支払手数料も忘れずに)などを確実に押さえます 。
- 現金・預金関連:小切手の振出・受取(他人振出か自己振出か)、当座借越の処理は頻出です 。
- 固定資産の売買:減価償却累計額の処理、売却損益の計算をスムーズに行えるようにしましょう 。
- 電子記録債権・債務:最近の試験で重要度が増している論点です。発生、譲渡、決済まで一連の流れを理解しておきましょう 。
- 貸倒れと貸倒引当金:当期発生債権の貸倒れ(貸倒損失)と、前期以前の債権の貸倒れ(貸倒引当金を取り崩す)の違いを明確に区別してください 。
- 株式会社会計:資本金の払込み、剰余金の配当と準備金の積立など、基本的な処理は必須です 。
- 証憑(しょうひょう)問題:納品書や領収書などの資料を読み取って仕訳を行う問題です。慌てず、日付や金額、取引内容を正確に読み取ることが重要です 。
第1問を攻略する3つのコツ
- 取引の分解: 問題文を読み、「どの勘定科目が」「増えたのか減ったのか」を冷静に分解する癖をつけましょう 。
- ホームポジションの意識: 「資産・費用は借方(左)が増加」「負債・純資産・収益は貸方(右)が増加」という大原則に常に立ち返りましょう。
- 貸借の一致を確認: 仕訳を書き終えたら、必ず借方と貸方の合計金額が一致しているかを確認しましょう。一致していなければ、どこかが間違っています 。
【各個撃破②】捨て問はどれ?第2問は「深追い禁物」で賢く10点稼ぐ
第2問は、多くの受験生を悩ませるクセのあるエリアです。配点は20点と低いにもかかわらず、勘定記入や補助簿の選択など、出題範囲が広く対策が立てにくいのが特徴です 。
ここで重要なのは、「満点を狙わない勇気」です 。第2問の目標は10点(半分)。難しい問題に時間を費やすくらいなら、第1問や第3問の見直しに時間を使いましょう 。
第2問の戦略的アプローチ
- 時間を区切る: 第2問に使える時間は最大10分と決め、それを超えたら、たとえ途中でも次の問題(または見直し)に進む勇気を持ちましょう 。
- 部分点を拾う意識: 第2問は完答できなくても部分点がもらえる可能性があります 。わかる箇所、埋められる箇所だけでも解答欄を埋めることが大切です。
- 得意な形式から手をつける: 第2問は通常、小問2つで構成されます。勘定記入、補助簿の選択、語句の穴埋めなど、自分が得意とする形式の問題から手をつけるのが得策です。
- 補助簿選択は得点源に: どの取引がどの補助簿(現金出納帳、仕入帳、売掛金元帳など)に関係するかを問う問題は、比較的対策しやすく、出題されればラッキー問題です 。ここは確実に得点できるよう、各補助簿の役割をしっかり理解しておきましょう。
第2問は「捨てる」のではありません。「深追いせず、効率的に部分点を稼ぐ」という賢い戦い方を徹底してください。
【各個撃破③】第3問(決算)で満点を狙うための決算整理チェックリスト
配点35点の第3問は、簿記一巡の手続きの集大成であり、学習の成果が最も問われる総合問題です 。出題形式は、
精算表の作成、財務諸表(損益計算書・貸借対照表)の作成、決算整理後残高試算表の作成のいずれかです 。
どの形式が出ても対応できるよう、決算整理仕訳を反射的に、かつ正確にできるようになることが合格への絶対条件です 。
頻出!決算整理仕訳 完全攻略チェックリスト
以下の決算整理事項は、第3問で頻出の論点です。それぞれの処理手順を完璧にマスターしましょう 。
✅ 1. 売上原価の算定(最重要・ミス多発ポイント)
- 目的: 期末に残った在庫(期末商品棚卸高)を費用から除外し、当期に売れた分だけの原価を計算する。
- 仕訳: いわゆる「しーくり、くりしー」の仕訳です。
(借) 仕入 XXX / (貸) 繰越商品 XXX
← 期首商品の分(借) 繰越商品 YYY / (貸) 仕入 YYY
← 期末商品の分
- 注意点: 決算整理前残高試算表の「繰越商品」は期首の在庫額、「仕入」は当期の仕入高です。問題文の期末商品棚卸高の数値を正確に使うことが重要です 。
✅ 2. 貸倒引当金の設定(最重要・ミス多発ポイント)
- 目的: 回収不能になりそうな売掛金等の金額を見積もり、あらかじめ当期の費用として計上する。
- 計算(差額補充法):
- 貸倒見積高を計算: (期末の売掛金残高 + 受取手形残高) × 設定率(%)
- 繰入額を計算: ①貸倒見積高 - 決算整理前残高試算表の貸倒引当金残高
- 仕訳:
(借) 貸倒引当金繰入 ZZZ / (貸) 貸倒引当金 ZZZ
- 注意点: 計算した繰入額(差額)を仕訳します。貸倒見積高そのものではない点に注意してください 。
✅ 3. 減価償却
- 目的: 建物や備品など、長期間使う固定資産の価値の減少分を費用として計上する。
- 計算(定額法):
(取得原価 - 残存価額) ÷ 耐用年数
- ※残存価額は取得原価の10%かゼロの場合がほとんどです。
- ※期中に取得した資産は、月割計算(× 使用月数 ÷ 12ヶ月)を絶対に忘れないでください 。
- 仕訳:
(借) 減価償却費 XXX / (貸) 建物減価償却累計額 XXX
(借) 減価償却費 YYY / (貸) 備品減価償却累計額 YYY
- 注意点: 減価償却「累計額」という勘定科目名を正確に書きましょう 。
✅ 4. 費用・収益の繰延と見越
- 目的: お金の支払い・受取時点ではなく、サービス提供の期間に合わせて費用と収益を正しく計上する。
- 4つのパターン:
- 費用の繰延(前払):
(借) 前払費用 / (貸) 支払家賃など
- 収益の繰延(前受):
(借) 受取手数料など / (貸) 前受収益
- 費用の見越(未払):
(借) 支払利息など / (貸) 未払費用
- 収益の見越(未収):
(借) 未収収益 / (貸) 受取利息など
- 費用の繰延(前払):
- 注意点: どの勘定科目が資産・負債・費用・収益のどれに当たるかを正確に理解することがカギです。
✅ 5. その他の頻出整理事項
- 貯蔵品の振替: 未使用の切手や収入印紙を費用(通信費、租税公課)から資産(貯蔵品)へ振り替えます。
- 現金過不足の整理: 原因不明の現金過不足を雑損または雑益に振り替えます。
- 法人税等の計上: 計算された法人税等を費用計上し、中間納付額を差し引いた残額を未払法人税等とします 。
第3問は、これらの決算整理仕訳を一つひとつ丁寧に行い、試算表や精算表の各勘定科目に正確に加減算していく地道な作業です。計算用紙をうまく活用し 、焦らず着実に解き進めましょう。
まとめ:完璧ではなく「合格点」を。戦略があなたを合格へ導く
簿記3級の合格は、満点を取ることではありません。60分という限られた時間内に、確実に70点以上を積み上げることです。
今回ご紹介した戦略を、最後にもう一度確認しましょう。
- 解く順番は「第1問 → 第3問 → 第2問」
- 時間配分は「第1問:15分」「第3問:30分」「第2問:10分」「見直し:5分」
- 第1問は得点源。 頻出仕訳をマスターし、40点以上を確保する。
- 第2問は深追い禁物。 10分で部分点を拾い、10点を目標にする。
- 第3問は練習量が命。 頻出の決算整理を完璧にし、高得点を狙う。
このゲームプランを胸に、ぜひ過去問や模擬試験に取り組んでみてください。最初は時間内に終わらなくても構いません。何度も繰り返すうちに、必ず時間感覚と戦略的な思考が身についてきます。
あなたのこれまでの努力は、決して裏切りません。そこに正しい「戦略」という武器を加えれば、合格はもう目の前です。試験当日、自信を持って臨めるよう、心から応援しています!