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持分法適用会社の配当金は収益NG?会計士が二重計上の謎を解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • 持分法の基本を学びたい経営者の方
  • 受取配当金の会計処理に悩む経理担当者
  • 連結決算の仕組みをシンプルに理解したい方
  • 「利益の二重計上」の意味を知りたい方

はじめに:「儲かった」と報告があったのに、配当金が利益にならない不思議

「関連会社が黒字で、そこから配当金を受け取った。当然、当社の収益として計上できるはずだ」

多くの経営者や実務担当者の方が、このように考えるのは自然なことです。手元に現金が増え、その源泉が関連会社の利益であるならば、それを自社の利益と捉えたいと思うのは当然でしょう。

しかし、連結会計の世界、特に「持分法」を適用している会社からの配当金は、単純に「受取配当金」として収益計上することができません。もしそうしてしまうと、「利益の二重計上」という会計上の大きな誤りを犯すことになります 。  

この記事では、なぜ持分法適用会社からの配当金が収益にならないのか、その核心である「利益の二重計上」のメカニズムを、会計の専門家でない方にもご理解いただけるよう、図や具体的な仕訳例を交えて徹底的に解説します。

この記事を最後まで読めば、あなたは以下の点を明確に理解できます。

  • 持分法会計の基本的な考え方
  • なぜ配当金の収益計上が「利益の二重計上」になるのか
  • 正しい会計処理と具体的な仕訳の方法

複雑に見える会計ルールも、その背景にあるロジックを理解すれば、決して難しいものではありません。

Step 1:持分法の大原則を理解する

配当金の話に入る前に、まずは「持分法」とは何か、その本質を理解する必要があります。

持分法とは「みなし連結」

持分法とは、一言でいえば「簡易版の連結会計」です 。  

子会社のように支配はしていないものの、議決権の20%以上を保有するなどして、経営に重要な影響を与えている「関連会社」の業績を、親会社の連結財務諸表に取り込むための会計手法です 。  

具体的には、関連会社の純利益(または純損失)のうち、親会社の持分比率に応じた金額を、連結損益計算書に「持分法による投資損益」という勘定科目で計上します 。  

【具体例】

  • A社(親会社)がB社(関連会社)の株式を30%保有している。
  • B社が当期に1,000万円の純利益を上げた。

この場合、A社はB社の利益のうち300万円(1,000万円 × 30%)を自社の利益として認識します。この時点で、A社の連結財務諸表には以下の仕訳が計上されます。

借方(Debit)貸方(Credit)
投資有価証券 300万円持分法による投資損益 300万円

ポイントはここです。

  • 貸方(右側):損益計算書に「持分法による投資損益」が計上され、A社の利益が300万円増加します。
  • 借方(左側):貸借対照表の「投資有価証券」(B社株式の帳簿価額)が300万円増加します。

つまり、A社は、B社が利益を上げたその時点で、まだ配当金を受け取っていなくても、すでにB社の利益を自社の利益として取り込んでいるのです。これが持分法の最も重要な基本原則です。

Step 2:本題!なぜ配当金が「利益の二重計上」になるのか?

さて、ここからが本題です。上記の例の続きで考えてみましょう。

B社は、前期に稼いだ利益1,000万円の中から、500万円を配当することを決定しました。A社は持分30%なので、150万円(500万円 × 30%)の配当金を現金で受け取ります。

この時、もしA社がこの150万円を「受取配当金」として収益計上してしまうと、何が起こるでしょうか?

【誤った会計処理】

借方(Debit)貸方(Credit)
現金預金 150万円受取配当金(収益) 150万円

この仕訳を切ってしまうと、A社はB社の利益を2回にわたって自社の利益として計上してしまいます。

  1. 1回目の利益計上:B社が利益を上げた時(前期)に、「持分法による投資損益」として300万円を計上済み。
  2. 2回目の利益計上:B社がその利益を配当した時(当期)に、「受取配当金」として150万円を計上。

これは、同じ源泉(B社の利益)から生まれた利益を、形を変えて二度も計上していることになり、会計上「利益の二重計上」という誤りになるのです 。  

図解:利益の二重計上のイメージ

(※上記はイメージ図です。実際の表示とは異なります。)

  1. B社の利益発生時:B社の利益(緑の箱)の一部が、持分法によってA社の利益に既に取り込まれる。
  2. 配当時:B社の利益(緑の箱)が配当金としてA社に移動。これを再度A社の利益として計上すると、同じ緑の箱を2回数えることになる。

Step 3:正しい会計処理と仕訳例

では、会計基準ではどのように処理するのでしょうか。 企業会計基準委員会(ASBJ)が定める『持分法に関する会計基準』では、持分法適用会社から受け取った配当金は、「投資の回収」として扱うべきだとされています 。  

つまり、B社に投じた資金(投資有価証券)の一部が、配当という形で手元に返ってきただけ、と考えるのです。これは収益の発生ではありません。

この考え方に基づいた正しい会計処理は、以下の2段階で行われます。

1. 親会社の個別財務諸表での処理

まず、A社単体の帳簿上では、配当金を受け取った事実を記録します。ここでは通常通り「受取配当金」を収益として計上します 。  

借方(Debit)貸方(Credit)
現金預金 150万円受取配当金 150万円

2. 連結財務諸表作成時の「修正仕訳」

次に、連結財務諸表を作成する際に、先ほどの「利益の二重計上」を解消するための「修正仕訳」を行います。

この修正仕訳こそが、持分法会計の核心部分です。

借方(Debit)貸方(Credit)
受取配当金 150万円投資有価証券 150万円

この仕訳の意味を分解してみましょう。

  • 借方(左側):個別財務諸表で計上した「受取配当金」(収益)を、借方に持ってくることで相殺消去します。これにより、連結損益計算書から配当収益が消えます。
  • 貸方(右側):「投資有価証券」(資産)を減少させます。これは、B社への投資額の一部を配当金として回収した、という事実を貸借対照表に反映させるためです 。  

表:会計処理の比較

個別財務諸表(A社単体)連結財務諸表(A社グループ)
配当金受取時収益として計上収益計上はNG
会計上の意味現金の増加と収益の発生投資の回収
仕訳(借)現金預金 / (貸)受取配当金(借)受取配当金 / (貸)投資有価証券 (※連結修正仕訳)

この結果、連結財務諸表上では、B社の利益は「持分法による投資損益」として一度だけ計上され、配当金は投資の回収として正しく処理されることになります。

まとめ:持分法の配当は「利益」ではなく「投資の払い戻し」

本記事で解説したポイントをまとめます。

  1. 持分法の基本:関連会社が利益を上げた時点で、親会社は持分比率に応じた利益を「持分法による投資損益」として既に計上している。
  2. 二重計上の罠:その後の配当金を「受取配当金」として収益計上すると、同じ利益を二度計上することになる。
  3. 正しい処理:連結決算上、受取配当金は「投資の回収」と捉える。収益を消去し、その分だけ「投資有価証券」の残高を減らす修正仕訳を行う。

このロジックを理解すれば、「なぜ持分法適用会社からの配当金が収益にならないのか」という疑問は解消されるはずです。これは、グループ全体としての経済的実態をより正確に財務諸表に反映させるための、会計上の重要なルールなのです。

なお、剰余金の配当手続きそのものは、会社法第454条等で定められており、株主総会の決議を経て行われるのが原則です 。会計処理と法務手続きは連動するため、両面から正しく理解しておくことが重要です。  

よくある質問(Q&A)

なぜ持分法適用会社からの配当金を収益として計上すると「利益の二重計上」になるのですか?

なぜなら、親会社は、関連会社が利益を稼いだ時点で、すでに自社の持分相当額を「持分法による投資損益」として連結損益計算書に計上済みだからです。配当金はその既に計上した利益の中から支払われるため、これを再度収益として計上すると、同じ利益を2回数えることになってしまいます 。

連結財務諸表上、受取配当金は最終的にどのように扱われるのですか?

連結財務諸表上では「投資の回収」として扱われます 。具体的には、連結修正仕訳によって、個別会計で計上した「受取配当金」(収益)を全額取り消し、同額を「投資有価証券」(資産)勘定から減額します。これにより、配当金は損益に影響を与えず、投資元本の一部が払い戻されたものとして処理されます 。

親会社の個別の決算書では、受取配当金はどのように処理すればよいですか?

親会社の個別の(単体の)決算書では、受け取った配当金は通常通り「受取配当金」として営業外収益に計上します 。本記事で解説した「収益計上NG」や「投資の回収」という考え方は、あくまでグループ全体の財政状態を示す連結財務諸表を作成する際の調整の話です。個別の会計処理と連結上の調整は分けて考える必要があります。


ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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