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新リース会計基準導入実務(1) 新リース会計基準をわかりやすく解説|経営者が今すぐ知るべき影響と3つの対策

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • 新リース会計基準の変更点を手早く知りたい経営者の方
  • オンバランス化が自社の財務に与える影響を試算したい方
  • 経理担当者として具体的な計算や仕訳方法を知りたい方
  • 中小企業なので対応が不要か確認したい方

はじめに:なぜ今、リース会計が変わるのか?会計基準の「世界標準パスポート」

「なぜまた会計基準が変わるのか…」多くの経営者様や実務担当者様から、このようなお声を頻繁に伺います。今回のリース会計基準の変更は、単なる国内のルール変更ではありません。これは、国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」との整合性を図り、グローバルな投資家が日本企業の財務諸表を他国の企業と正確に比較できるようにするための、いわば「世界標準へのパスポート」なのです。

私の実務経験上、多くのクライアント企業が当初はこの変更をコンプライアンス上の負担と捉えていらっしゃいました。しかし、導入準備を進める中で、これまで把握しきれていなかった契約上の義務が可視化され、自社の資産管理や財務戦略を見直す絶好の機会になったと評価するケースが少なくありません。あるCFOの方は、「初めて全社の契約上の債務を一枚の絵で見ることができ、将来の資金計画に計り知れない価値があった」と仰っていました。

この変更は、財務諸表の透明性を高め、企業の真の財政状態を映し出すための重要な一歩と言えるでしょう。本記事では、公認会計士である私が、この複雑に見える新基準を、経営者や実務担当者の皆様にとって分かりやすく、実用的なアクションに繋がるよう、徹底的に解説していきます。

最大の変更点:すべてのリースが資産・負債になる「オンバランス化」

旧基準 vs. 新基準:何が決定的に違うのか?ひと目でわかる比較表

今回の改正で最もインパクトが大きいのが、借手(リースを利用する側)の会計処理における「オンバランス化」です。

これまで、多くの企業ではコピー機や社用車、さらにはオフィスの賃貸借契約などを「オペレーティング・リース」として、単に支払ったリース料を費用として計上するだけで済みました。つまり、貸借対照表(BS)には何も載ってこなかったのです(オフバランス処理)。

しかし、2024年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した新リース会計基準では、この「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の区分が原則として廃止されます。その結果、短期リースや少額リースといった一部の例外を除き、すべてのリース契約について、借手はBSに「使用権資産」と「リース負債」を計上することが求められます

これは何を意味するのでしょうか?簡単に言えば、「資産を使う権利」を資産として、「将来リース料を支払う義務」を負債として、両方をBSに計上するということです。「もし自社で10年間のオフィス賃貸借契約を結んだら、それは10年間その場所を使える『権利』という資産を得たことになり、同時に10年間家賃を払い続ける『義務』という負債を負ったことになる」と考えていただくと分かりやすいでしょう。

この根本的な違いを、以下の表で整理しました。

表1:旧基準と新基準の比較

項目旧基準新基準経営への影響
対象リースファイナンス/オペレーティングの区分あり原則すべてのリース(短期・少額等を除く)これまで対象外だった契約の洗い出しが必須
BS計上ファイナンス・リースのみオンバランス原則すべてオンバランス総資産・総負債が増加し、財務比率が悪化
PL計上支払リース料(定額)減価償却費+支払利息費用の性質が変わり、EBITDA等の指標に影響
費用計上パターン定額(オペレーティング・リースの場合)前倒し(利息費用が当初大きい)期間比較可能性や予算策定に注意が必要

実践ウォークスルー:新基準の計算と仕訳を設例で学ぶ

「理論は分かったけれど、具体的にどう計算するのか?」という疑問にお答えするため、ここからは具体的な設例を使って、計算と仕訳の流れをステップ・バイ・ステップで見ていきましょう。

ステップ1:設例で理解する「リース負債」と「使用権資産」の計算方法

会計処理は、まず「リース負債」を計算することから始まります。「リース負債」とは、将来支払うリース料総額を、現在の価値に割り引いた金額のことです。

「現在価値に割り引く」とは、金利の概念(時間の価値)を考慮することです。例えば、「1年後に100万円もらう約束」は、「今すぐ100万円もらう」ことより価値が低いですよね。この差を計算するのが「割引計算」です。この計算に使う利率を「割引率」といい、通常は企業の追加借入利子率(もし同じ金額を銀行から借りたら、どのくらいの金利になるか)を用います。

【設例】

  • リース対象: 業務用複合機
  • リース期間: 5年(60ヶ月)
  • 月額リース料: 100,000円(支払総額 6,000,000円)
  • 割引率: 年3%(月利0.25%)
  • その他: 契約時の付随費用などはないものとします。

この条件で将来の支払額(毎月10万円×60回)を現在価値に割り引くと、リース負債の当初計上額は 5,565,075円 となります。そして、付随費用がない場合、使用権資産も同額の 5,565,075円 で計上します。

このリース負債が、毎月の支払いによってどのように減っていくのかを示したのが、以下の償却予定表です。支払額10万円のうち、当初は利息の割合が大きく、徐々に元本返済の割合が増えていくことが分かります。これが、費用が「前倒し」で計上される仕組みです。

表2:リース負債償却予定表(抜粋)

支払月期首負債残高支払額支払利息元本返済額期末負債残高
15,565,075円100,000円13,913円86,087円5,478,988円
25,478,988円100,000円13,697円86,303円5,392,685円
..................
6099,751円100,000円249円99,751円0円

ステップ2:契約開始から決算まで、一連の仕訳を追う

上記の計算結果を、実際の会計処理である「仕訳」に落とし込んでみましょう。経理担当者の方は、この流れを掴むことが重要です。

表3:設例に基づく一連の仕訳例

タイミング借方貸方説明
リース開始時使用権資産 5,565,075リース負債 5,565,075リース資産・負債をBSに計上します。
毎月の支払時(1ヶ月目)リース負債 86,087
支払利息 13,913
現金預金 100,000支払額を元本返済と利息費用に分けて計上します。
決算時(1年経過後)減価償却費 1,113,015使用権資産 1,113,015資産をリース期間(5年)で定額償却します。
決算時(1年経過後)リース負債 (XXX)1年内返済予定リース負債 (XXX)決算日の翌日から1年以内に返済予定の負債を流動負債へ振り替えます 。

経営へのインパクト:あなたの会社の企業価値はどう変わるか?

この会計処理の変更は、単なる帳簿上の話では済みません。企業の財務体質や企業価値評価に直接的な影響を及ぼします。

要注意!主要な経営指標はこう変わる(悪化する)

オンバランス化の最も直接的な影響は、BSの資産と負債が同時に膨らむことです。自己資本の額は変わらないため、総資産を分母に使う経営指標は軒並み悪化します。

  • 自己資本比率( 自己資本 / 総資産): 分母である総資産が増えるため、比率は低下します(安全性が低く見える)。
  • 負債比率(負債 / 自己資本): 分子である負債が増えるため、比率は上昇します(財務リスクが高く見える)。
  • 総資産利益率 (ROA)( 利益 / 総資産): 分母である総資産が増えるため、比率は低下します(資産効率が悪く見える)。

このインパクトを視覚的に理解するために、簡単なシミュレーションを見てみましょう。

表4:オンバランス化による財務指標への影響シミュレーション

項目新基準適用前(旧基準)新基準適用後変化
総資産100,000千円105,565千円+5,565千円
総負債50,000千円55,565千円+5,565千円
自己資本50,000千円50,000千円変化なし
自己資本比率50.0%47.4%悪化
ROA(利益5,000千円と仮定)5.0%4.7%悪化

経営者への警告:融資契約の「財務制限条項(コベナンツ)」に抵触するリスク

経営者が最も警戒すべきなのが、この指標悪化が引き起こす二次的なリスクです。特に、金融機関との融資契約に含まれる「財務制限条項(コベナンツ)」には細心の注意が必要です。

多くの融資契約には、「自己資本比率を30%以上に維持すること」といった条項が盛り込まれています。新基準の適用によって、企業の経営実態は何も変わっていないにもかかわらず、会計上の数値が悪化し、意図せずこの条項に抵触してしまう可能性があります。最悪の場合、これを理由に融資の一括返済を求められるリスクすらゼロではありません。

【公認会計士からの実践的アドバイス】

これは経理部門だけの問題ではなく、CFOや経営者が主導すべき財務戦略上の重要課題です。今すぐ、以下の2つのアクションに着手してください。

  1. すべての融資契約書をレビューし、財務制限条項の有無と内容をリストアップする。
  2. 早期に金融機関との対話を開始する。 新基準への対応準備中であることを伝え、適用後のコベナンツの計算方法について事前に協議し、合意を取り付けることが極めて重要です。金融機関側もこの変更は認識していますが、企業側からのプロアクティブな働きかけが、円滑な関係を維持する鍵となります。

企業価値評価の「EBITDA」はどうなる?M&Aで注意すべき点

一方で、M&Aなどでよく使われる企業価値評価指標「EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)」は、機械的に増加します。

  • 旧基準: 支払リース料は営業費用(販管費)であり、EBITDAを減少させていました。
  • 新基準: 支払リース料は「減価償却費(D)」と「支払利息(I)」に分解されます。EBITDAの計算式は「営業利益+減価償却費」なので、旧基準の支払リース料に相当する費用が計算上、営業利益の外に出ることになり、結果としてEBITDAは増加します。

これは一見すると企業価値が上がったように見えるかもしれませんが、M&Aの専門家や投資家はこの会計マジックを当然見抜いています。重要なのは、自社のEBITDAがなぜ増加したのかを経営者自身が正確に理解し、交渉の場で論理的に説明できることです。この変化を知らないままだと、デューデリジェンス(買収監査)の過程で不利な状況に陥る可能性があります。

適用対象とスケジュール:あなたの会社はいつから対応すべきか

チェックリストで確認!新基準の対象となる企業

まず、自社が新基準の適用対象となるかを確認しましょう。強制適用の対象となるのは、主に以下の企業です。

  • 上場企業
  • 会社法上の大会社(資本金5億円以上 または 負債総額200億円以上)
  • 上記企業の子会社・関連会社で、会計監査人の監査対象となっている企業

【朗報】中小企業は対象外!「中小企業の会計に関する指針」とは

上記のいずれにも該当しない中小企業については、新リース会計基準への対応は強制されません

これらの中小企業は、引き続き「中小企業の会計に関する指針」に沿った会計処理が認められます。この指針では、所有権移転外ファイナンス・リースについて、従来通りの賃貸借処理(支払リース料を費用計上するだけのオフバランス処理)を選択することが可能です。多くの企業にとっては、これが最も重要な情報かもしれません。

ただし、将来的に上場(IPO)を目指していたり、大企業の傘下に入る可能性がある場合は、今のうちから新基準を理解し、対応を検討しておくことが望ましいでしょう。

sato
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『中小企業の会計に関する指針』に沿った会計処理の解説についてはこちらで。

例外ルール:「短期リース」と「少額リース」は今まで通りでOK

強制適用対象となる大企業であっても、実務上の負担を軽減するための例外規定が設けられています。以下の2つに該当するリースは、オンバランスせずに従来通りの費用処理が認められます。

  1. 短期リース: リース開始日時点のリース期間が12ヶ月以内のリース 。
  2. 少額リース: リースしている資産そのものの価値が少額であるリース。国際的な基準では、新品購入時の価格が5,000米ドル以下がひとつの目安とされています。パソコンやタブレット、小規模なオフィス家具などがこれに該当します。

適用スケジュールと早期適用の戦略的判断

適用スケジュールは以下の通りです。

  • 強制適用: 2027年4月1日以後に開始する事業年度の期首から
  • 早期適用: 2025年4月1日以後に開始する事業年度の期首から

「2027年ならまだ先」と考えるのは非常に危険です。全社的な契約の洗い出しから、会計方針の決定、業務プロセスやシステムの改修には、1年半から2年以上かかることも珍しくありません。

また、「いつ適用するか」は経営上の戦略的判断です。

  • 早期適用のメリット: 市場に対して透明性の高さをアピールできる。グローバルな競合他社と早期に比較可能になる。
  • 早期適用のデメリット: 国内の競合他社に先駆けて、財務比率が悪化した姿を見せることになる。準備を急ぐ必要がある。

この決定は、自社のIR戦略や競合の動向、そして内部の準備状況を総合的に勘案し、経営層が慎重に行うべき重要な経営判断です。

結論:経営者が今すぐ着手すべき3つのアクションプラン

新リース会計基準への対応は、一朝一夕には完了しません。経営者の皆様には、以下の3つのアクションを直ちに開始することを強くお勧めします。

  1. プロジェクト責任者の任命:この対応は経理部門だけの仕事ではありません。法務(契約内容の確認)、IT(システム改修)、総務・営業(各部署が結んでいる契約の把握)など、全部門を巻き込む横断的なプロジェクトです。強力なリーダーシップを発揮できる責任者を任命し、全社的なプロジェクトとして始動させてください。
  2. 全社的なリース契約の棚卸し:実務上、最も困難なのが「リースに該当する契約」をすべて洗い出すことです。新しい定義では、賃貸借契約だけでなく、サーバーの利用契約など「資産の使用権の移転」を伴うサービス契約の一部もリースに該当する可能性があります。まずは各部署に協力を仰ぎ、契約書をリストアップすることから始めましょう。
  3. 財務インパクトの簡易試算:まずは、本社オフィスや工場、大型の設備など、金額的にインパクトの大きい上位10〜20件のリース契約について、本記事の表4のような簡易的なシミュレーションを実施してみてください。これにより、BSや経営指標にどれほどのインパクトがあるかを早期に把握でき、経営課題としての優先順位と危機感を全社で共有することができます。

初動の速さが、プロジェクトの成否を分けます。まずは現状把握から着手し、計画的かつ戦略的にこの変革を乗り越えていきましょう。

よくある質問(Q&A)

中小企業は本当に何もしなくていいのですか?

はい、会計監査の対象でない多くの中小企業は、新リース会計基準を強制適用する必要はなく、従来の「中小企業の会計に関する指針」に基づき、支払リース料を費用処理する「賃貸借処理」を継続できます。ただし、取引先の金融機関や親会社から新基準に準拠した財務情報の提出を求められる可能性はあります。また、将来のIPOやM&Aを視野に入れている場合は、早期から新基準を理解しておくことが有利に働きます。

貸手(リース会社側)の会計処理も変わるのですか?

今回の基準変更の主な対象は借手(リースを利用する側)です。貸手の会計処理については、現行のファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類する会計処理が基本的に維持されるため、大きな変更はありません。

割引率の決め方がよくわかりません。具体的にどうすれば?

割引率の算定は実務上の重要な論点です。原則として、リース契約に利率に関する情報が明記されていればそれを使用します。しかし、多くの場合それは不明なため、「借手の追加借入利子率」を使用します。これは、「もしリース資産と同じ価値の資産を、同じ期間、同じような担保条件で調達するために銀行から借り入れをするとしたら、適用されるであろう利率」を指します。経理部門が財務部門や取引金融機関にヒアリングして、合理的に見積もる必要があります。

システム対応は必須ですか?Excelでも管理できますか?

リース契約が数件程度であれば、Excelでの管理も不可能ではありません。しかし、数十件以上になると、リース負債の計算、償却スケジュールの管理、契約変更時の再計算、決算時の注記情報の作成などを手作業で行うのは非常に煩雑で、ミスも発生しやすくなります 。多くの企業では、リース資産管理に特化した会計システムの導入や、既存ERPシステムの改修が必要になるでしょう。早期にシステムベンダーに相談することをお勧めします。

リース期間の途中で契約条件が変更された場合はどうなりますか?

リース期間の延長やリース料の変更など、契約条件が変更された場合は、その変更が有効になる時点でリース負債を再測定(再計算)する必要があります 。変更後のリース料やリース期間、そして変更時点での割引率を使って、リース負債の残高を計算し直し、その差額は使用権資産の帳簿価額を修正することで調整します。これは実務上、非常に手間のかかる作業となるため、管理体制の構築が重要です。


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ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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