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PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)の会計処理|業績連動型インセンティブの仕訳の解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

「役員報酬としてPSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)を導入したが、会計処理が複雑でよくわからない…」 「具体的な仕訳や費用計上の計算方法を、わかりやすく解説してほしい」

近年、企業の持続的な成長と株主価値向上へのインセンティブとして、PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)をはじめとする業績連動型株式報酬制度を導入する企業が増えています。

しかし、その会計処理は複数年にわたり、将来の業績予測も絡むため、経理担当者の方にとっては悩みの種となりがちです。

この記事では、PSUの会計処理について、基本的な考え方から具体的な仕訳例、さらには税務上の注意点まで、ステップ・バイ・ステップでやさしく解説します。

この記事を読めば、複雑に見えるPSUの会計処理が、シンプルな原則に基づいていることを理解し、自信を持って実務に対応できるようになります。

そもそもPSUとは? 1分でわかる基本

まず、「PSUとは何か?」を1分で理解しましょう。

PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)とは、一言でいうと「会社の業績目標を達成したら、将来、会社の株式を無償で交付(付与)する約束」のことです。

この言葉を3つのパーツに分解すると、より理解が深まります。

  • パフォーマンス(Performance): 売上高や営業利益、株価といった、あらかじめ定められた業績目標
  • シェア(Share): 会社の株式
  • ユニット(Unit): 交付される株式の単位。

つまり、「業績(パフォーマンス)目標の達成度合いに応じて、株式(シェア)を受け取れる権利(ユニット)を付与する」制度なのです。役員や従業員は、会社の業績向上に貢献することで、その対価として自社の株式を得ることができます。これにより、経営陣と株主の利害が一致し、中長期的な企業価値向上へのモチベーションが高まる効果が期待されます 。  

株式報酬制度にはPSU以外にも類似の制度があり、混同されがちです。ここで主な制度との違いを整理しておきましょう。

表1:PSUと関連する株式報酬制度の比較

制度名称報酬の形態株式交付のタイミング特徴
PSU株式または現金事後交付型(業績達成後に交付)業績目標の達成度に応じて交付数が変動する。
PS株式事前交付型(先に譲渡制限付株式を交付)業績目標の達成度に応じて譲渡制限が解除される。
RSU株式または現金事後交付型(一定期間の勤務後に交付)主に勤務期間の継続が条件。業績条件はないことが多い。
RS株式事前交付型(先に譲渡制限付株式を交付)一定期間の勤務継続を条件に譲渡制限が解除される。

このように、PSUは「業績達成」を条件に「事後」で株式が交付される点が大きな特徴です 。  

会計処理の基本原則:「役務提供」の対価を費用化する

PSUの具体的な会計処理に入る前に、最も重要な基本原則を一つだけ押さえておきましょう。それは、

「役員や従業員から受けたサービスの対価を、費用として計上する」

という考え方です。

会社は、役員や従業員に「将来、業績を達成してくれたら株式をあげますよ」と約束することで、彼らから「中長期的に会社のために働く」というサービスを受け取っています。

会計の世界では、この「受けたサービス」の価値をきちんと測定し、サービスの提供期間にわたって規則的に費用として認識する必要があるのです。たとえ現金の支出がなくても、費用は発生していると考えます。

この考え方は、日本の会計基準において、株式を用いた報酬に関する指針である実務対応報告第36号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」 に示されており、基本的な会計処理は、ストック・オプション会計(企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」)に準じて行われます。

【ステップ別】PSUの会計処理と仕訳例

まず、会計処理の全体像をタイムラインで確認します。PSUの会計処理は、主に「付与日」「対象勤務期間中の各期末」「権利確定日」の3つのタイミングで発生します。

【設例】

  • 以下の条件でPSUを導入したと仮定します。
  • 対象者: 取締役A
  • 付与日: 20X1年4月1日
  • 対象勤務期間: 3年間(20X1年4月1日~20X4年3月31日)
  • 権利確定日: 20X4年3月31日
  • 業績目標: 3年後の営業利益目標を達成した場合、1,000株を交付する。
  • 株価の推移:
    1. 20X2年3月31日(1年目期末)の株価:550円
    2. 20X3年3月31日(2年目期末)の株価:600円
    3. 20X4年3月31日(3年目期末)の株価:650円

ステップ1:付与日(20X1年4月1日)の会計処理

結論から言うと、付与日時点では費用計上のための仕訳は不要です。

この日に行われるのは、取締役会などでPSU制度の導入を決議し、対象者や条件を決定することです。会計処理は発生しませんが、誰に、いつ、どのような条件で、何株を交付する可能性があるのかを明確にした議事録等の文書を整備しておくことが、後の監査対応などで非常に重要になります。


ステップ2:対象勤務期間中の各期末の会計処理

ここからが本格的な会計処理の始まりです。対象勤務期間中(この設例では3年間)は、毎期末に「株式報酬費用」を計上します。

計算のポイントは、「その期末時点で見込まれる費用の総額」を計算し、そこから「前期末までに計上した費用の累計額」を差し引いて、当期の費用計上額を算出することです。

PSUのような事後交付型の株式報酬では、費用測定の基礎となる株価は、付与時の株価ではなく、各期末時点の株価を用いる点に注意が必要です。これは、将来交付する株式の価値(=費用)が、その時々の株価によって変動するためです 。  

【1年目期末(20X2年3月31日)】

この時点で、業績目標は達成可能であると合理的に見積もられたとします。

  1. 費用総額の見積り: 1,000株×550円(1年目期末の株価)=550,000円
  2. 当期末までの費用計上累計額: 550,000円×(1年/3年)=183,333円
  3. 当期の費用計上額: 183,333円−0円(前期末までの累計)=183,333円

<仕訳>

勘定科目借方貸方
株式報酬費用183,333
株式報酬引当金183,333

【2年目期末(20X3年3月31日)】

引き続き、業績目標は達成可能と見積もられているとします。

  1. 費用総額の見積り(再計算): 1,000株×600円(2年目期末の株価)=600,000円
  2. 当期末までの費用計上累計額: 600,000円×(2年/3年)=400,000円
  3. 当期の費用計上額: 400,000円−183,333円(前期末までの累計)=216,667円

<仕訳>

勘定科目借方貸方
株式報酬費用216,667
株式報酬引当金216,667

【補足】業績目標の達成可能性の見直し 各期末には、最新の業績予測に基づき、目標の達成可能性を毎回見直す必要があります。もし「達成は困難」と判断が変わった場合、交付見込み株数をゼロとして費用を再計算し、過去に計上した費用を取り崩す(戻し入れる)会計処理を行います。この評価プロセスは客観的な根拠をもって行い、記録を残しておくことが重要です。


ステップ3:権利確定日(20X4年3月31日)の会計処理

いよいよ3年間の勤務期間が終了し、業績目標の達成・未達が確定します。

【ケース1:業績目標を達成した場合】

目標を達成したので、約束通り1,000株を交付します。

  1. 費用総額の確定: 1,000株×650円(権利確定日の株価)=650,000円
  2. 最終年度の費用計上額: 650,000円−400,000円(前期末までの累計)=250,000円

まず、最終年度の費用を計上します。

<仕訳1:最終年度の費用計上>

勘定科目借方貸方
株式報酬費用250,000
株式報酬引当金250,000

この仕訳により、貸方の「株式報酬引当金」の残高は、費用総額である650,000円(183,333 + 216,667 + 250,000)になります。

次に、この権利(株式引受権)と引き換えに、自己株式を交付(または新株を発行)します。ここでは自己株式を交付する例を示します。

<仕訳2:自己株式の交付>

勘定科目借方貸方
株式報酬引当金650,000
自己株式600,000
自己株式処分差益(その他資本剰余金)50,000
  • 株式引受権: 報酬費用計上時に積み立てた引当金を取り崩します。
  • 自己株式: 交付した自己株式の帳簿価額分(600,000円)を減少させます。
  • 自己株式処分差益: 自己株式の処分価額が帳簿価額を上回った場合に計上します(自己株式の処分価額が帳簿価額を下回った場合は、自己株式処分差損となります)。

※自己株式を交付する場合、貸方の勘定科目は資本剰余金やその他資本剰余金(自己株式処分差益・自己株式処分差損)となります。新株発行の場合は資本金及び資本準備金です。

【ケース2:業績目標が未達だった場合】

残念ながら目標未達となり、株式は交付されません。この場合、これまで計上してきた費用(株式引受権)をすべて取り崩します。

<仕訳>

勘定科目借方貸方
株式報酬引当金400,000
株式報酬費用400,000

※前期末までに計上した株式報酬引当金の累計額400,000円を、費用(または特別利益など)のマイナスとして戻し入れます。

PSU会計処理の仕訳まとめ

これまでの仕訳を一覧表にまとめます。

表2:PSU会計処理の仕訳一覧(目標達成時)

タイミング借方貸方金額
1年目期末株式報酬費用株式報酬引当金183,333
2年目期末株式報酬費用株式報酬引当金216,667
3年目期末株式報酬費用株式報酬引当金250,000
権利確定日株式報酬引当金自己株式600,000
権利確定日株式報酬引当金自己株式処分差益50,000

【重要ポイント】税務上の取扱いと損金算入の注意点

会計上で「費用」として計上したものが、税金の計算上でも「損金(経費)」として認められるとは限りません。特に役員報酬については、税務上、厳しいルールが定められています。

PSUに関する費用を税務上の損金に算入するためには、原則として「業績連動給与」の要件を満たす必要があります 。  

「業績連動給与」として認められるには、有価証券報告書で算定方法を開示するなど、客観性や透明性を確保するための複数の厳しい要件をクリアしなければなりません。これらの要件を満たさない場合、会計上は費用計上していても、法人税の計算上は損金として認められず(損金不算入)、結果として税負担が増える可能性があります。

また、要件を満たす場合でも、会計が費用を期間按分して計上するのに対し、税務では権利が確定した事業年度に一括で損金算入されるため、費用計上と損金算入のタイミングにズレが生じます。このズレは「税効果会計」の対象となるため、注意が必要です 。  

PSU制度を設計する際には、会計処理だけでなく、法人税法第三十四条などの税務上の要件も踏まえて、会計士や税理士などの専門家と十分に協議することが極めて重要です。

参照元:e-Gov法令検索 - 法人税法

まとめ

今回は、PSU(パフォーマンス・シェア・ユニット)の会計処理について解説しました。最後に重要なポイントを振り返ります。

  • 基本原則: PSUの会計処理は、「役員から受けたサービスの対価を、対象勤務期間にわたって費用計上する」というシンプルな考え方に基づいている。
  • 費用計算: 費用は各期末の株価を用いて算定し、期間にわたって按分計上する。毎期末、業績目標の達成可能性を見直す必要がある。
  • 仕訳の流れ: 「株式報酬費用 / 株式引受権」という仕訳を毎期計上し、権利確定日に株式引受権を取り崩して株式を交付する。
  • 実務上の注意点: 監査対応のため、評価単価の算定根拠や業績目標の達成可能性の評価プロセスを文書で記録しておくことが重要。
  • 税務上の論点: 損金算入のためには「業績連動給与」の要件を満たす必要があり、制度設計段階での検討が不可欠。

一見複雑に見えるPSUの会計処理も、基本原則とステップごとの処理を理解すれば、決して難しいものではありません。この記事が、皆さまの実務の一助となれば幸いです。

免責事項: 本記事は、PSUの会計処理に関する一般的な情報提供を目的としており、特定の状況に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。個別の事案については、必ず公認会計士や税理士などの専門家にご相談ください。


ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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