企業の人材確保やモチベーション向上策として、**ストックオプション(新株予約権)を導入する企業が増えています。役員や従業員が権利行使を行う際、企業は新株を発行するだけでなく、自己株式を処分して交付する方法も認められています。
今回は、特に「自己株式処分によるストックオプション権利行使時の会計処理」について解説します。
■ ストックオプションの仕組み
ストックオプションとは、あらかじめ定めた価格(権利行使価格)で株式を取得できる権利を付与する制度です。
権利行使が行われると、対象者は権利行使価格を払込む代わりに株式を受け取ります。企業側は通常、
- 新株を発行する
- 自己株式を処分する
の2つの方法で対応できます。
■ 自己株式処分のメリット
自己株式を使う場合、新株発行と比べて以下のメリットがあります。
- 発行済株式数が増加しない(希薄化の抑制)
- 市場での需給バランスを考慮しやすい
■ 会計処理の考え方
1. 権利行使時の仕訳
権利行使による払込金額を自己株式の処分代金として計上します。
例えば、
- 権利行使価格:500円
- 自己株式の帳簿価額:300円
- 株式数:1,000株
の場合、以下の仕訳になります。
(借)現金預金 500,000円
(貸)自己株式 300,000円
(貸)資本剰余金 200,000円
権利行使価格(500円×1,000株)のうち、自己株式の帳簿価額を控除した差額が「資本剰余金」に振り替わります。
2. ストックオプション費用の処理
ストックオプション付与時に公正価値評価を行い、権利確定期間にわたり費用計上を行います(「ストックオプション等に関する会計基準」)。権利行使時には、既に計上済みのストックオプション費用は再度調整しません。
■ 注意点
- 自己株式の帳簿価額は、移動平均法または個別法によって計算します。
- 自己株式の取得価格が高い場合、権利行使価格との差額が小さい、または資本剰余金がマイナスになるケースもありますので、事前に確認が必要です。
- 開示面では、有価証券報告書などでの記載内容にも留意する必要があります。
■ まとめ
ストックオプションの権利行使に自己株式を用いると、希薄化抑制などのメリットがありますが、会計処理では自己株式の帳簿価額と権利行使価格の差額を「資本剰余金」として処理する必要があります。
適切な会計処理を行うためには、制度設計時点から帳簿価額の管理や開示を含めた準備が不可欠です。