2.会計

のれんの償却期間と予想回収期間の考え方とは?

企業結合を行った際に生じる「のれん(営業権)」。日本基準では、こののれんを一定期間で償却することが求められていますが、その償却期間の決定には慎重な判断が必要です。

今回は、のれんの償却期間をどのように決定するのか、そしてその根拠となる「企業結合に係る投資の予想回収期間」とはどう考えるべきかを解説します。

1. のれんとは?

のれん(営業権)とは、買収対価が被取得企業の純資産の公正価値を上回る部分を指します。ブランド力、取引先との関係、人材、ノウハウなど、目に見えない無形資産の価値を示すものです。


2. のれんの償却期間とは?

日本基準(企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」)では、のれんを20年以内のその効果が及ぶと見込まれる期間で定額償却することとされています。

参考条文(企業結合会計基準 第29項)
「のれんは、耐用年数が20年以内のその効果が及ぶと見込まれる期間にわたり、定額法その他の合理的な方法により、系統的に償却する。」


3. 償却期間の決定要素:「予想回収期間」の考え方

では、償却期間をどのようにして具体的に決めるべきなのでしょうか?

その根拠の一つが、企業結合に係る投資の予想回収期間です。つまり、「買収により支出した投資額を、どれくらいの期間で回収できる見込みか」を見積もることになります。

【予想回収期間を判断する際の要素】

  • 被取得企業の将来キャッシュ・フロー予測
  • 業界の成長性や競争環境
  • シナジー効果の実現可能性と期間
  • 投資の性質(短期的利益目的か、中長期的安定収益か)
  • 経営統合に要する期間
  • 類似の過去案件との比較

【実務上の対応】

多くの企業では、5年~10年程度の償却期間を設定しているケースが多いです。これは、中長期的に投資効果を見込む保守的な見積もりが背景にあります。

ただし、場合によっては15年〜20年の償却期間も正当化可能です。その際は、合理的な見積もり根拠と**回収可能性を裏付ける資料(事業計画、DCF分析など)が必要になります。


4. 償却期間の開示義務

のれんの償却期間とその理由については、注記による開示が求められます。償却期間が10年を超える場合は、なぜそれだけ長期間にわたって効果が継続すると見込むのか、明確な説明が必要です。


5. IFRSや米国基準との比較

  • IFRS:のれんは償却せず、毎期減損テストを行います
  • 米国基準(US GAAP):かつては償却あり → 現在は非償却・減損テストを行います

これらに比べて、日本基準はのれんは「償却主義」を採用しているのが特徴です。


6. まとめ

  • のれんは、20年以内の合理的期間で償却する必要があります
  • 償却期間は、「企業結合に係る投資の予想回収期間」に基づいて判断されます
  • 投資の性質や事業計画の見通しにより、償却期間は5年〜20年の範囲で設定されます
  • 根拠資料や説明責任が重要。10年超は特に注記の工夫が求められます

実務メモ(経理・財務部向け)

  • 新たな企業結合が発生した場合、M&Aの評価レポート経営統合計画に目を通し、のれん償却期間の算定根拠を確認すること
  • 内部資料に基づいた社内説明用メモを作成しておくと、スムーズに監査に対応できます
  • 「なぜ◯年なのか?」を第三者が理解できる形で言語化しておくことがカギとなります

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