2021年3月期から「会計上の見積りの開示に関する会計基準」が適用されていることから、開示項目を識別する判断基準や、KAM(監査上の主要な検討事項)との関係性についてまとめました。
開示項目を識別する判断(基準5項)
1.当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目(開示対象項目)を識別します。
したがって、当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目して開示する項目を識別するのではありません。
2.識別する項目(開示対象科目)は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債となります。
このため、例えば、固定資産の減損損失の認識は行わないとした場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクを検討した上で、当該固定資産が(上記の「当年度の財務諸表に計上した資産」に該当し)開示項目として識別される可能性があります(基準23項)。
3.翌年度の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、「影響の金額的大きさ」及びその「発生可能性」を総合的に勘案して判断します。このように、 具体的な判断の規準は見積開示会計基準では示されておりません。
4.直近の市場価格により時価評価する資産及び負債の市場価格の変動は、会計上の見積りに起因するものではないため、考慮しません。
5.以下の項目について、開示する項目として識別することもあります。
①当年度の財務諸表に計上した収益及び費用(一定の期間にわたり充足される履行義務に係る収益の認識やストック・オプションの費用処理額の見積り等)
②会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債(偶発債務等)
③注記の金額を算出するにあたって見積りを行ったものについて、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリクがある場合(金融商品時価注記、賃貸等不動産の時価注記等)
注記項目
会計上の見積りの注記は独立して注記します。
そして、識別した開示対象項目について、識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記し(基準6項)、各項目ごとに以下の事項を注記します(基準7項)。
① 当年度の財務諸表に計上した金額
② 会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報(※)
例えば、以下が挙げられる。
(ⅰ)当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
(ⅱ)当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
(ⅲ)翌年度の財務諸表に与える影響
(※)「会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報」の記載について
「当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法」には、会計基準に定められた算出方法や一般的に使用されれいるモデルの名称・概要等を記載することが考えられます。
「主要な仮定」については、定量的情報(感応度分析等)・定性的情報を記載します。
「影響」については、翌年度の財務諸表に与える影響を定量的に示す場合、単一の金額のほか、合理的に想定される金額の範囲を示すことも考えられます。
注記内容や記載方法については、最終的には、開示目的に照らして各社で判断することとなります。
KAM(監査上の主要な検討事項)と会計上の見積りの開示に関する会計基準との関係
監査人は、KAM(監査上の主要な検討事項)を決定するに際し、見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りを考慮すべきことが挙げられていることから(監基報701号10項)、見積りの不確実性が高いと識別された会計上の見積りがKAMの対象となることが考えられます。
なお、本稿の参考となる書籍はこちらをご覧ください。