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収益認識に関する会計基準とライセンス契約の基礎知識

今回は、企業の会計処理において非常に重要な「収益認識に関する会計基準」の中でも、特に「ライセンス契約」に焦点を当てて解説していきます。

テクノロジーやコンテンツが中心となる現代において、ライセンス契約は多岐にわたるビジネスで活用されています。しかし、その収益をいつ、どのように認識すべきかについては、複雑な判断が求められることがあります。この記事を読んで、基本を押さえ、適切な会計処理を行うためのヒントを見つけていただければ幸いです!


収益認識に関する会計基準の基本原則

まずは、収益認識に関する会計基準(以下、収益認識基準)の基本的な考え方をおさらいしましょう。日本の収益認識基準は、国際会計基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」とほぼ同内容となっています。

収益認識の5つのステップ

  1. 顧客との契約を識別する: 顧客との間で拘束力のある契約が存在するかを確認します。
  2. 履行義務を識別する: 顧客に約束した財またはサービス(履行義務)を特定します。
  3. 取引価格を算定する: 財またはサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を算定します。
  4. 取引価格を履行義務に配分する: 算定した取引価格を、識別したそれぞれの履行義務に配分します。
  5. 履行義務の充足時に又は充足するにつれて収益を認識する: 顧客が財またはサービスを支配した時点、または支配するにつれて収益を認識します。

この5つのステップを順に適用していくことで、複雑な取引であっても適切な収益認識が可能になります。


ライセンス契約の特殊性

さて、本題のライセンス契約です。ライセンス契約は、特許、著作権、商標、ソフトウェアなど、無形資産の使用を顧客に許諾する契約を指します。

ライセンス契約の収益認識において特に重要なのは、そのライセンスが「特定の期間にわたってアクセスする権利」なのか、それとも「特定の時点で使用する権利」なのかという点です。この区別によって、収益認識のタイミングが大きく変わってきます。

1. 特定の期間にわたってアクセスする権利

  • 特徴: ライセンス期間中、企業がその無形資産を継続的に提供したり、その資産が企業による継続的な活動から便益を得る場合、顧客はその期間中アクセスする権利を得ているとみなされます。例えば、クラウドサービス(SaaS)の利用権や、継続的に更新されるデータベースへのアクセス権などがこれに該当します。
  • 収益認識: このタイプのライセンスは、ライセンス期間にわたって収益を認識します(例えば、月額課金であれば毎月均等に収益を認識)。これは、企業が継続的に履行義務を果たしているとみなされるためです。

2. 特定の時点で使用する権利

  • 特徴: ライセンスを供与した時点において、顧客が無形資産を単独で利用できるようになり、その後、企業がその資産に対して追加的な活動を行う必要がない場合です。例えば、一度購入すれば永続的に利用できるパッケージソフトウェアのライセンスや、特定のコンテンツの利用権などがこれに該当します。
  • 収益認識: このタイプのライセンスは、ライセンスを供与した特定の時点(通常は契約締結時または引渡時)に収益を認識します。これは、企業がその時点で履行義務を完全に充足したとみなされるためです。

ポイント! ライセンス契約の収益認識を考える際には、まずそのライセンスが「アクセス権」なのか「使用権」なのかを慎重に判断することが重要です。

ロイヤリティに関する考慮事項

ライセンス契約においては、売上高や使用量に応じて支払われる「ロイヤリティ」が発生することがよくあります。収益認識基準では、ロイヤリティの処理についても明確な定めがあります。

基本的に、顧客のその後の売上や使用量に基づいて算定されるロイヤリティは、そのロイヤリティの額が変動対価に該当します。そして、その変動対価は、その後の売上や使用量が発生した時点、または条件が満たされた時点で収益を認識することになります。

ただし、変動対価であっても、見積り可能な範囲で収益に含める場合もありますので、個別の契約内容とリスクの考慮が必要です。


複数要素の契約

もし、ライセンス供与だけでなく、インストールサービスやカスタマイズ、保守サービスなどがセットになった契約の場合はどうでしょうか?

この場合は、契約に含まれるそれぞれの財またはサービスを個別の履行義務として識別し、それぞれに取引価格を配分する必要があります。そして、それぞれの履行義務の充足に応じて収益を認識していきます。

例えば、ソフトウェアライセンスと1年間の保守サービスがセットになった契約であれば、ライセンス部分は特定の時点で、保守サービス部分は1年間にわたって収益を認識することになります。


まとめ

収益認識に関する会計基準におけるライセンス契約のポイントをまとめると、以下のようになります。

  • ライセンスが「特定の期間にわたってアクセスする権利」か、「特定の時点で使用する権利」かを識別する。
  • 前者であれば期間にわたって、後者であれば特定の時点に収益を認識する。
  • ロイヤリティは原則として、売上や使用量が発生した時点で収益認識する。
  • 複数の履行義務がある場合は、それぞれに取引価格を配分し、個別に収益認識する。

ライセンス契約は一見シンプルに見えても、その実態は多岐にわたり、収益認識の判断は複雑になりがちです。契約内容を詳細に把握し、上記原則に照らし合わせて慎重に判断することが重要です。

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