日本公認会計士協会より2021年1月14日付で、監基報540「会計上の見積りの監査」の改正について公表がなされました。
適用時期は2023年3月期からとなりますが、ここ数年監督機関からの会計上の見積りの監査に関連する指摘が多いことから、監査上、改正540号への対応の重要度は高いものと思われます。
1.540号改正の背景
「会計上の見積りの開示に関する会計基準」の公表や監督機関による検査において会計上の見積りの監査手続に対して多くの指摘がなされており監査品質向上が必要となったことを背景に改正されるに至りました。
2-1.540号の主な改正点(1) 「固有リスク要因」の導入
会計上の見積りについて、重要な虚偽表示リスクの評価の際に、「固有リスク要因」に着目すべきことが要求されています。
なお、「固有リスク要因」は以下の通りです。
・見積りの不確実性(正確に測定できないという性質に影響される程度)
・複雑性(算出過程の複雑性の程度)
・主観性(経営者の判断が必要となる程度)
・その他の固有リスク要因(関連する財務諸表項目の性質や状況の変化等)
2ー2.540号の主な改正点(2) リスク評価手続の明確化
会計上の見積りにおける、リスク評価については、固有リスクと統制リスクをとを個別に分けて評価すべきことが求められます。
なお、固有リスクについて「固有リスクの分布」という概念が導入され、虚偽表示の金額的影響と発生可能性の2つの軸から評価すべきことが要求されています。
2ー3.540号の主な改正点(3) リスク対応手続の明確化(3つのアプローチ)
監査人が評価した重要な虚偽表示リスクに対応するリスク対応手続には、以下のアプローチのうち少なくとも一つは含めることが要求されています。
①監査報告日までに発生した事象からの監査証拠の入手
②経営者がどのように会計上の見積りを行ったかの検討
③監査人の見積額又は許容範囲の設定
また、上記アプローチの②及び③を実施する際の要求事項として以下の項目が規定されております。
・会計上の見積手法
・会計上の見積りに関する重要な仮定
・会計上の見積りに関するデータ
2ー4.540号の主な改正点(4) 注記事項に関する検討手続の充実
会計上の見積りに関する注記事項が、会計基準に準拠しているだけでなく、測定基礎の目的に合致しているかについても検討が求められます。
なお、見積の不確実性に関する注記事項については、「特別な検討を必要とするリスク」が生じていない場合においてもリスク対応手続としての検討が求められます。
2ー5.540号の主な改正点(5) 監査調書に記載すべき事項の範囲の拡大
会計上の見積りの監査において現行540号における監査調書の要求事項は2項目であったが、下記の5項目に記載すべき事項の範囲が追加された。
①会計上の見積りに関連する企業の内部統制を含む、企業及び企業環境に関し監査人が理解した主な内容
② 固有リスク又は統制リスクのいずれかに関連する重要な虚偽表示リスクの評価の根拠を考慮した、アサーション・レベルの重要な虚偽表示リスクと実施したリスク対応手続との関連性(監基報330第27項(2)参照)
③経営者が見積りの不確実性を適切に理解し対処するための措置を講じていない場合の監査人の対応
④(該当がある場合)会計上の見積りに関する経営者の偏向が存在する兆候及び第31項により求められる、監査への影響に関する監査人の評価
⑤会計上の見積り及び関連する注記事項が、適用される財務報告の枠組みに照らして合理的であるか虚偽表示であるかの監査人の決定における重要な判断
まとめ
改正540号では、その他、職業的専門家としての懐疑心の一層の発揮、監査役等とのコミュニケーションの必要性等についての強調がなされており、適用時期は2023年3月決算に係る財務諸表の監査からになります。
これまで監督機関による検査で会計上の見積りの監査手続に対して多くの指摘があったことを鑑みれば、改正540号への監査上の対応は、2023年3月期決算監査のトピックになるものと考えられます。
なお、監基報540「会計上の見積りの監査」の改正の詳細については、下記をご参照ください。