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配当可能限度額を超えた場合の法的責任と対応策

企業の経営者や株主にとって、利益の分配である「配当」は大きな関心事です。しかし、会社法で定められた「配当可能限度額」というルールを正しく理解しないまま配当を実施してしまうと、思わぬ法的トラブルに発展する可能性があります。

この記事では、万が一、配当可能限度額を超えて配当(違法配当)をしてしまった場合に、どのような問題が生じ、どう対応すべきかを分かりやすく解説します。

そもそも「配当可能限度額」とは?

まず、基本となる「配当可能限度額」についておさらいしましょう。

配当可能限度額とは、会社が株主に対して配当として分配できる財産の最大限度額のことです。なぜこのような制限があるのでしょうか?

それは、会社の債権者を保護するためです。会社が利益を度外視して無制限に配当を行ってしまうと、会社の財産が不当に流出し、いざという時に債権者への支払いができなくなる恐れがあります。これを防ぎ、会社の財産的基礎を維持するために、会社法で厳格なルールが定められているのです。

配当可能限度額は、大まかに言うと、会社の純資産額から資本金や準備金などを差し引いて計算されます。計算方法は複雑ですが、「会社の財産を守るための上限ライン」と理解しておきましょう。

配当可能限度額を超えた場合の法的影響

もし、計算ミスや認識不足でこの限度額を超えて配当を行ってしまった場合、主に以下の3者に法的な責任や義務が生じます。

1. 配当を受け取った株主の責任【返還義務】

違法配当を受け取った株主は、金銭の交付を受けた額(限度額を超えた部分)を会社に返還する義務を負います(会社法第463条)。たとえ、株主自身が「その配当が違法だと知らなかった(善意だった)」としても、この返還義務を免れることはできません。

2. 配当の職務を行った取締役等の責任【てん補責任】

配当の決議に関わった取締役や執行役など(業務執行取締役等)は、違法に配当された総額について、会社に対して連帯しててん補(穴埋め)する責任を負います(会社法第462条)。

つまり、株主から返還されなかった不足分は、取締役たちが自腹で会社に支払わなければならないのです。これは非常に重い責任です。

ただし、取締役が「その職務を行うについて注意を怠らなかったこと」を証明した場合は、この責任を免れることができます。しかし、現実的にはこの証明は容易ではありません。

3. 刑事罰の可能性【違法配当罪】

さらに、取締役などが自己や第三者の利益を図る目的で違法配当を行った場合、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはその両方が科される可能性があります(会社法第963条5号)。これは「違法配当罪」と呼ばれるもので、悪質なケースでは刑事事件に発展するリスクもはらんでいます。

違反が発覚した場合の具体的な対応ステップ

万が一、配当可能限度額の違反が発覚した場合、迅速かつ誠実な対応が求められます。パニックにならず、以下のステップで対応を進めましょう。

ステップ1:事実関係の正確な把握

まずは、いつ、いくら、なぜ超過してしまったのか、事実関係を正確に調査・確認します。会計帳簿や株主総会の議事録などを基に、超過額を確定させることが第一歩です。

ステップ2:株主への通知と返還請求

次に、違法配当を受け取った株主に対して、事実を誠実に説明し、超過分の返還を正式に請求します。書面で通知を行い、返還の根拠と金額、支払期限などを明確に伝えましょう。

ステップ3:取締役によるてん補責任の履行

株主からの返還が滞ったり、全額回収できなかったりした場合は、業務執行取締役等が連帯して不足額を会社に支払います。誰がいくら負担するかを協議し、速やかに責任を履行する必要があります。

ステップ4:専門家への相談

この問題は、法務と会計・税務が複雑に絡み合います。必ず弁護士公認会計士・税理士といった専門家に相談してください。法的に正しい手続きを進め、二次的なトラブルを防ぐために専門家の助言は不可欠です。

ステップ5:会計・税務処理の修正

違法配当の返還やてん補が行われた場合、それに応じた会計処理の修正(仕訳の訂正など)が必要です。また、法人税や源泉所得税の取り扱いにも影響が出る可能性があるため、税理士と相談しながら適切な税務申告の修正を行います。

違反を防ぐための予防策

最も重要なのは、このような事態を未然に防ぐことです。

  • 配当決議前の入念な計算:配当を決議する株主総会の前に、必ず正確な配当可能限度額を計算し、記録に残す。
  • ダブルチェック体制の構築:経理担当者だけでなく、複数の目、あるいは監査役によるチェック体制を整える。
  • 顧問税理士等への事前確認:計算結果に不安がある場合は、決議の前に必ず顧問税理士や公認会計士にレビューを依頼する。

まとめ

配当可能限度額の超過は、単なる計算ミスでは済まされず、株主、取締役、そして会社自身に深刻な影響を及ぼす可能性があります。その責任は非常に重く、会社の信用を大きく損なうことにもなりかねません。

日頃からコンプライアンス意識を高く持ち、配当を行う際は慎重な手続きを徹底することが、健全な会社経営の基本です。万が一の事態に備えて正しい知識を身につけ、予防策を講じておきましょう。

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