5.会計実務

簿記3級×英語力は鬼に金棒!外資系企業やグローバルキャリアを目指すための戦略

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

はじめに:2つの「言語」を操る人材が、これからの時代を勝ち抜く

グローバル化が加速する現代のビジネスシーンにおいて、2つの「言語」を自在に操れる人材の価値が、かつてないほど高まっています。一つは、世界中のビジネスコミュニケーションの基盤である「英語」。そしてもう一つが、あらゆる企業の経済活動を記録し、その成績を物語る「会計(簿記)」です 。  

公認会計士として、私はこれまで多くのグローバル企業や外資系企業の財務を見てきました。そこで確信したのは、これら2つのスキルは、単なる足し算(1+1=2)ではなく、掛け算(1×10=10)のように、あなたの市場価値を飛躍的に高めるということです 。  

「簿記3級だけでは、大きなアピールにはならないのでは?」 「英語は得意だけど、専門性がない…」

もしあなたが今、そう感じているなら、この記事はまさにあなたのためのものです。この記事では、簿記3級という会計キャリアの確かな第一歩と、英語力というグローバルな翼を組み合わせ、外資系企業や国際的なキャリアパスという大空へ羽ばたくための、具体的かつ実践的な戦略を、公認会計士の視点から徹底的に解説します。

なぜ「簿記3級×英語力」は最強の組み合わせなのか?

この組み合わせが「鬼に金棒」である理由は、ビジネスの根幹をなす2つの要素を同時に満たすからです。

  1. 会計知識:ビジネスの構造を理解する力 簿記3級で学ぶ知識は、企業の財政状態を示す「貸借対照表(B/S)」や、経営成績を示す「損益計算書(P/L)」を作成・読解するための基礎です 。これは、企業の健康状態を診断するためのカルテを読むスキルであり、経理職はもちろん、営業やマーケティングなど、あらゆる職種で求められる「ビジネスの共通言語」です 。  
  2. 英語力:グローバルな舞台で活躍する力 言うまでもなく、英語は国際的なビジネスシーンにおける公用語です。海外の取引先との交渉、本国へのレポーティング、最新の海外情報の収集など、グローバルな環境で働く上で英語力は不可欠です 。  

この2つを兼ね備えた人材は、「ビジネスの構造を理解し、それをグローバルな舞台で説明・活用できる人材」として、極めて希少価値が高くなります。事実、経理の実務能力と高い英語力を併せ持つ人材は、転職市場において常に需要が高く、一般的な経理職よりも高い年収が期待できるのです 。  

「簿記3級×英語力」で開く4つのキャリアの扉

では、具体的にどのようなキャリアの可能性が広がるのでしょうか。ここでは代表的な4つの扉をご紹介します。

扉1:外資系企業の経理・財務部門

外資系企業は、日系企業とは異なるカルチャーと業務プロセスを持っています。特に経理部門では、その違いが顕著に現れます 。  

  • スピード感のある月次決算: 本国への迅速なレポーティングのため、月末から数日で決算を締めることが求められます 。  
  • 国際会計基準(IFRS/US GAAP)への対応: 日本の会計基準だけでなく、国際的な会計ルールに則った処理が必要です 。  
  • 英語でのコミュニケーション: 本国の担当者とのメールや電話会議、英語でのレポート作成が日常業務となります 。  

これらの業務には、まさに簿記の知識と英語力が不可欠です。外資系企業は即戦力を求める傾向が強いですが、「簿記3級」の知識があり、ビジネスレベルの英語力があれば、未経験からでもポテンシャルを評価されて採用されるケースは少なくありません 。  

扉2:グローバル展開する日系企業

海外に子会社を持つ日系企業や、海外との取引が多い商社などでも、このスキルセットは絶大な力を発揮します。海外子会社の財務状況を把握し、それらを日本の本社と連結させる「連結決算」業務では、英語で書かれた財務諸表を正確に読み解く能力が必須となるからです 。  

扉3:国際会計事務所・コンサルティングファーム

より専門性を高めたいのであれば、グローバルな会計事務所やコンサルティングファームも視野に入ります。クライアントである外資系企業や日系グローバル企業の会計・税務をサポートする立場で、専門家としてのキャリアを築くことができます 。  

扉4:経理以外のグローバル職(営業・企画など)

このスキルの価値は、経理部門に限定されません。例えば、海外営業担当者が取引先の英語の決算書を分析し、財務状況に基づいた説得力のある提案をしたり、経営企画担当者が海外の市場データを分析してグローバルな事業戦略を立案したりと、あらゆる職種で「数字に強く、グローバルな視点を持つ人材」として活躍の場が広がります 。  

公認会計士が示す!グローバルキャリア実現への4ステップ戦略

夢のキャリアを実現するためには、具体的な行動計画が必要です。ここでは、簿記3級の学習から始める、現実的なステップアップ戦略をご紹介します。

ステップ1:簿記3級で「会計のOS」をインストールする

何よりもまず、簿記3級に合格し、会計の基礎知識という「OS(オペレーティングシステム)」を自身の頭脳にインストールすることが最優先です。これがなければ、どんな応用も始まりません。簿記3級は、ビジネスの基本構造を理解するための、最も効率的で確実な学習ツールです 。  

ステップ2:会計英語の基礎を学ぶ ― まずは「単語」から

英語力に自信があっても、「会計英語」は専門用語が多く、特別な学習が必要です。しかし、難しく考える必要はありません。まずは、簿記3級で学んだおなじみの勘定科目が、英語で何と言うのかを知ることから始めましょう 。  

【保存版】日英勘定科目・会計用語 対照表(簿記3級レベル)

日本語英語分類
会計の基本
借方 / 貸方Debit (Dr.) / Credit (Cr.)-
仕訳Journal Entry-
貸借対照表Balance Sheet (B/S)-
損益計算書Income Statement (I/S) / Profit and Loss Statement (P/L)-
資産 (Assets)
現金Cash流動資産 (Current Assets)
当座預金Checking Accounts流動資産 (Current Assets)
売掛金Accounts Receivable (A/R)流動資産 (Current Assets)
商品Merchandise / Inventory流動資産 (Current Assets)
建物Buildings固定資産 (Non-current Assets)
土地Land固定資産 (Non-current Assets)
負債 (Liabilities)
買掛金Accounts Payable (A/P)流動負債 (Current Liabilities)
借入金Loans Payable / Borrowings流動/固定負債
純資産 (Equity)
資本金Capital Stock純資産 (Equity)
収益 (Revenue)
売上Sales / Revenue収益 (Revenue)
受取利息Interest Income営業外収益 (Non-operating Income)
費用 (Expenses)
仕入Purchases売上原価 (Cost of Sales)
給料Salaries Expense販管費 (SG&A)
支払家賃Rent Expense販管費 (SG&A)
減価償却費Depreciation Expense販管費 (SG&A)

これらの基本的な単語を覚えるだけでも、英文の請求書や簡単な財務資料が格段に読みやすくなります。学習方法としては、市販の会計英語のテキストを読む、会計用語に特化した学習アプリを利用する、オンライン英会話で「ビジネス会計」コースを受講するなど、様々な選択肢があります 。  

ステップ3:国際会計基準(IFRS)の「考え方」に触れる

外資系・グローバル企業で働く上で避けて通れないのが「IFRS(イファース/国際財務報告基準)」です 。これは世界140カ国以上で採用されている会計のグローバルスタンダードです。簿記3級で学ぶ日本の会計基準とは、根本的な考え方にいくつかの違いがあります。  

  • 原則主義 vs 細則主義: 日本の基準が「こういう場合は、こう処理しなさい」と細かくルールを決めている(細則主義)のに対し、IFRSは「こういう考え方で、実態に合わせて判断しなさい」という大きな原則を示す(原則主義)のが特徴です 。  
  • 資産・負債アプローチ vs 収益・費用アプローチ: 日本基準が「いくら儲かったか(収益と費用)」を重視するのに対し、IFRSは「財産(資産と負債)がどう変化したか」を重視します 。  

最初は「そんな違いがあるんだ」と知っておくだけで十分です。この違いを意識することが、グローバルな会計センスを身につける第一歩となります。

ステップ4:次の資格で市場価値を「証明」する

基礎を固めたら、次はあなたのスキルを客観的に証明し、転職市場で強力な武器となる資格の取得を目指しましょう。

  • 日商簿記2級: まず目指すべきは簿記2級です。3級の商業簿記に加え、メーカーで必須の工業簿記も学びます。多くの企業の経理職求人で「簿記2級以上」が条件とされており、取得すれば応募できる求人の幅が格段に広がります 。  
  • TOEIC: 英語力を示す最も一般的な指標です。外資系経理を目指すなら、まずは700点、可能であれば800点以上を目標にしましょう 。  
  • USCPA(米国公認会計士): 「英語×会計」スキルの最高峰資格です。米国の公認会計士資格ですが、世界的に認知度が高く、グローバルキャリアを目指す上で絶大なブランド力を持ちます 。試験はすべて英語で行われ、会計知識と英語力を同時に証明できます。簿記3級レベルの知識がある方なら、   約1,000〜1,900時間の学習で合格を目指せると言われています 。科目ごとに受験できるため、働きながらでも挑戦しやすいのが魅力です 。  

結論:2つの言語を武器に、あなただけのキャリアを創造しよう

簿記3級から始まる会計の道は、英語力という翼を得ることで、日本国内だけでなく、世界という広大なフィールドへと繋がっていきます。

今回ご紹介した戦略は、決して簡単な道のりではないかもしれません。しかし、一つ一つのステップを着実に踏んでいけば、あなたの市場価値は確実に高まり、これまで想像もしなかったようなキャリアの扉が開かれるはずです。

まずは簿記3級の学習を始めること。そして、そこで学んだ勘定科目を、今日から少しずつ英語で言えるようにしてみること。その小さな一歩が、あなたをグローバルな舞台で活躍する未来へと導く、大きな推進力となるのです。会計と英語、2つの強力な言語を武器に、あなただけのキャリアを創造してください。

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