「監査論のテキストを読んでも、文字が頭に入ってこない…」 「リスク・アプローチ? アサーション? なんだかフワフワしてて、全くイメージが湧かない…」
公認会計士受験生の皆さん、こんにちは!現役で公認会計士をしているSatoです。かつての私も、あなたと全く同じ悩みを抱えていました。特に実務経験がないと、監査論のテキストに書かれていることは、まるで異国の言葉のように感じられますよね 。
しかし、断言します。あなたが監査論を「わからない」と感じるのは、実務をイメージできていない、ただそれだけです。そしてそれは、経験がないのだから当然のことなのです。
この記事では、そんな受験生の皆さんのために、「もしあなたが新人会計士として監査現場に行ったら?」という視点で、監査の一連の流れをストーリー仕立てで解説します。難解な専門用語も、豊富な図解と平易な言葉で「見える化」していきます。
この記事を読み終える頃には、監査論の知識がバラバラな「点」ではなく、一つの大きな「線」として繋がり、「なるほど、だからこの手続が必要なのか!」と、理解に基づいた学習ができるようになっているはずです。

公認会計士試験全体の勉強計画については、こちらの完全ロードマップ記事をご覧ください。
目次
監査論が「わからない」「つまらない」本当の理由
多くの受験生が監査論でつまずく最大の理由は、学習内容が抽象的で、具体的なアクションに結びつかないことにあります 。
財務会計論なら仕訳が、管理会計論なら原価計算が、企業法なら条文があり、具体的な「作業」をイメージできます。しかし、監査論のテキストには「リスクを評価する」「監査証拠を入手する」といった、一見すると漠然とした言葉が並びます。
この「イメージの壁」を乗り越えないまま暗記に走ってしまうと、「なぜこれが必要なのか?」という本質的な理解が抜け落ち、応用問題に対応できなくなってしまうのです 。
近年の試験傾向:単なる暗記では通用しない
近年の公認会計士試験、特に監査論では、監査基準の結論だけを問うような単純な問題は減少し、基準の背景にある考え方や、具体的な場面での適用を問う問題が増えています 。これは、監査実務で求められる思考力や判断力を試すためです 。
つまり、合格するためには「監査基準委員会報告書にこう書いてあるから」というレベルから一歩進んで、「なぜ、そのようなルールになっているのか」を自分の言葉で説明できるレベルの理解が不可欠なのです。
【ストーリーで学ぶ】新人会計士として監査現場を体験しよう!
それでは、ここからあなたを監査の現場へお連れします。あなたは今日から監査法人に入所した新人会計士。先輩会計士と一緒に、初めてクライアント(監査対象の会社)である「株式会社ビジュアル」の監査を担当することになりました。
第1章:すべてはここから始まる「監査計画の立案」
あなた: 「先輩、いよいよ今日からですね! まずは何から始めるんですか? とりあえず片っ端から伝票をチェックすればいいんでしょうか?」
先輩: 「落ち着いて(笑)。闇雲に伝票を見ても、重要な問題は見つけられないよ。監査は壮大な宝探しみたいなものなんだ。やみくもに地面を掘るんじゃなくて、どこにお宝(=重要な虚偽表示リスク)が埋まっていそうか、地図(=監査計画)を作ってから始めるんだよ。」
監査の第一歩は、監査計画の策定です。これは、限られた時間の中で効率的かつ効果的に監査を進めるための設計図を作る作業です 。
監査計画で決めること | 具体的なアクション(イメージ) |
監査チームの編成 | 「この会社の業界に詳しいAさんをメンバーに入れよう」 |
監査上の重要性(マテリアリティ)の設定 | 「この会社の規模なら、税引前利益の5%(例:500万円)を超える間違いは重要と考えよう」 |
リスク評価手続の計画 | 「まずは会社の経理部長にヒアリングして、どんな業務プロセスなのか理解しよう」 |
リスク対応手続の計画 | 「売上計上にリスクがありそうだから、重点的に証拠を集める手続を計画しよう」 |
この計画があるからこそ、私たちは膨大な取引の中から、本当にチェックすべきポイントに集中できるのです。
第2章:名探偵の推理「リスク評価手続」
あなた: 「なるほど、計画が大事なんですね。次は『リスク評価』ですか? なんだか難しそう…」
先輩: 「大丈夫。要は、『この会社、どこで間違いや不正が起きやすそうかな?』とアタリをつける作業だよ。会社のビジネスや内部統制(社内ルール)を理解することが第一歩だね。」
リスク評価手続とは、財務諸表に重要な虚偽表示(要するに、大きな間違いや粉飾)が含まれる可能性を評価するプロセスです。
【リスク評価の3ステップ】
- 会社の理解: まずは、会社がどんな事業を行っていて、どんな業界に属しているのか、どんな社内ルール(内部統制)で動いているのかを理解します。経理部長へのヒアリングや、社内規程の閲覧などを行います。
- リスクの識別: 会社の理解を基に、「売上が架空計上されるリスク」「在庫が過大計上されるリスク」など、具体的なリスクを洗い出します。
- リスクの評価: 識別したリスクが、財務諸表全体に影響を及ぼすレベルなのか、それとも特定の取引(勘定科目)レベルなのかを評価します。
このリスク評価こそが、監査の核心である「リスク・アプローチ」の心臓部です。リスクが高いと評価した領域には、より多くの監査資源(時間と人員)を投入し、重点的にチェックすることになります。
第3章:証拠は現場にある「実証手続」
あなた: 「先輩! リスク評価の結果、株式会社ビジュアルでは『売掛金が架空計上されているリスク』が高いと判断されました。次はいよいよ証拠集めですね!」
先輩: 「その通り! ここで登場するのが『実証手続』だ。財務諸表に書かれている数字が正しいかどうか、客観的な証拠(監査証拠)を集めて裏付けを取っていくんだ。今回は、売掛金の『実在性』を確かめよう。」
実証手続は、リスク評価の結果を受けて、具体的な勘定科目の金額が正しいかを検証する手続です。ここで重要になるのが「アサーション(監査要点)」という考え方です。
アサーションとは? 経営者が財務諸表を通じて「この数字は正しいですよ」と主張している内容のこと。監査人は、この主張が真実かどうかを検証します。
今回は、売掛金の「実在性(本当にその売掛金は存在するのか?)」というアサーションを検証します。そのための具体的な監査手続が「残高確認」です。
【売掛金の残高確認(実務イメージ)】
- 対象先の選定: 監査チームが、株式会社ビジュアルの得意先リストから、残高確認状を送る相手を複数選びます(例:残高が大きい上位20社と、残りをランダムに10社)。
- 確認状の作成・発送: 株式会社ビジュアルに依頼して確認状を作成してもらいますが、発送作業は監査チームが直接行います。これは、会社が途中で内容を改ざんできないようにするためです 。
- 回答の回収: 得意先からの返信は、会社の経理部ではなく、監査法人の事務所に直接届くようにします。これも、情報の信頼性を確保するためです 。
- 回答の分析: 回収した回答と、会社の帳簿残高を照合します。もし金額に差異があれば、その原因を徹底的に調査します。
このように、第三者から直接証拠を入手することで、私たちは「売掛金が確かに実在する」という強い心証を得ることができるのです。

監査手続は、財務諸表が適正であるという経営者の主張を検証するために行われます。したがって、監査を理解するためには、その対象である財務諸表がどのように作成されるか、すなわち財務会計論の深い理解が不可欠です。
第4章:監査のゴール「監査意見の形成と監査報告書」
あなた: 「先輩、すべての監査手続が終わりました。集めた証拠を分析した結果、株式会社ビジュアルの財務諸表に重要な間違いはない、という結論に至りました。」
先輩: 「よく頑張ったね。それが私たちの最終的な成果物、『監査意見』になるんだ。この意見を『監査報告書』という形で世の中に公表することで、私たちの責任は果たされるんだよ。」
すべての監査手続を終えた後、監査人は集めた監査証拠を総合的に評価し、財務諸表が全体として適正かどうかについて結論(監査意見)を形成します。この意見は、主に4種類あります。
監査意見の種類 | どんな意味?(ざっくり解説) |
無限定適正意見 | 「財務諸表は、全体として重要な問題なく、正しく作られていますよ」というお墨付き。ほとんどの上場企業がこれです。 |
限定付適正意見 | 「一部に問題はあるけれど、全体に与える影響は限定的。その部分を除けば、だいたい正しいですよ」という意見。 |
不適正意見 | 「財務諸表は、全体に影響を及ぼすような重大な間違いがあり、正しくありません」という厳しい意見。 |
意見不表明 | 「重要な監査手続が実施できず、証拠が十分に集まらなかったので、正しいかどうかの意見を言えません」という意見。 |
この監査意見を記載した監査報告書を提出することで、投資家や銀行といった利害関係者は、その会社の財務諸表を安心して利用することができるのです。
【完全図解】難解な監査手続をビジュアル化
ストーリーで監査の流れを掴んだら、次は特に重要な概念を図解で整理しましょう。
【フローチャート】監査全体の流れ
監査は、以下の図のようなプロセスで進んでいきます。これまでストーリーで見てきた各章が、どの段階に当たるかを確認してみてください。
[監査契約の締結]
↓
[監査計画の立案] ← ストーリー第1章
↓
[リスク評価手続の実施] ← ストーリー第2章
(会社のビジネス・内部統制を理解し、虚偽表示リスクを評価)
↓
[リスク対応手続の実施] ← ストーリー第3章
(評価したリスクに応じて、実証手続や内部統制の運用評価テストを実施)
↓
[監査証拠の評価と意見形成]
↓
[監査報告書の作成・提出] ← ストーリー第4章
【相関図】最重要!アサーションと監査手続の関係
「アサーション(監査要点)」と「監査手続」の関係を理解することは、監査論攻略の鍵です 。どの手続が、どのアサーションを検証するために行われるのか、代表的な例を表にまとめました。
勘定科目 | アサーション(経営者の主張) | 主な監査手続(監査人の検証アクション) |
現金預金 | 実在性(本当にあるか?) | ・実査:金庫の中の現金を実際に数える ・残高確認:銀行に確認状を送付する |
売掛金 | 実在性(本当にあるか?) 評価の妥当性(回収不能額は適切に引当られているか?) | ・残高確認:得意先に確認状を送付する ・貸倒引当金の検討:滞留債権の状況や回収可能性を分析する |
棚卸資産(在庫) | 実在性(本当にあるか?) 評価の妥当性(陳腐化している在庫の評価損は計上されているか?) | ・棚卸立会:会社の在庫実地棚卸に立ち会い、手続を観察・一部をテストカウントする ・評価損の検討:長期滞留在庫リストなどを分析する |
買掛金 | 網羅性(計上すべき債務がすべて計上されているか?) | ・支払依頼書等の閲覧:決算日後、早い時期に支払われた買掛金の内容をチェックし、期末に計上すべきものが漏れていないか確認する |
売上 | 期間配分の適切性(正しい会計期間に計上されているか?) | ・カットオフ・テスト:決算日前後の売上伝票や出荷記録をチェックし、売上が期ズレしていないか確認する |
この表を眺めながら、「なぜこのアサーションには、この手続が有効なんだろう?」と考えてみてください。例えば、買掛金の「網羅性」を確かめるのに、帳簿に載っている取引先に残高確認状を送っても、帳簿に載っていない(簿外の)債務は見つけられませんよね。だからこそ、決算日「後」の支払記録から遡って調べる手続が有効になるのです。
【イラスト解説】内部統制の評価(ウォークスルー)とは?
リスク評価の段階で、監査人は会社の内部統制(社内ルール)がきちんとデザインされているか(整備状況)を評価します。その代表的な手法が「ウォークスルー」です 。
ウォークスルーとは、ある一つの取引を選び、その取引が発生してから会計帳簿に記録されるまでの一連の流れを、書類や担当者への質問を通じて追跡していく手続のことです 。
【ウォークスルーのイメージ】
(ここに、受注→出荷→請求→入金という一連の流れを、各部署の担当者と書類が連なっていくイラストを挿入するイメージ)
監査人は、この追跡調査を通じて、会社が作成した「内部統制の3点セット」(①業務記述書、②フローチャート、③リスク・コントロール・マトリックス(RCM))の記述が、実際の業務と一致しているかを確認します 。これにより、社内ルールが絵に描いた餅ではなく、実際に機能するように作られているかを評価するのです。
監査論の理論問題を確実に得点するための暗記術
ここまでイメージを掴むことの重要性を解説してきましたが、もちろん最終的には知識を暗記することも必要です 。しかし、やみくもな丸暗記は禁物です。
丸暗記ではなく「なぜこの手続が必要か」を理解する
監査論の学習で最も大切なのは、常に「なぜ?」と自問自答することです 。
- なぜ、監査人は独立していなければならないのか?
- なぜ、監査計画で重要性を設定するのか?
- なぜ、リスクが高い領域にはより詳細な手続を実施するのか?
これらの「なぜ?」に対する答え(趣旨・目的)を理解すれば、個別の知識は自然と頭に入ってきます。テキストを読むとき、問題を解くとき、常にその基準や手続の「目的」を意識する癖をつけましょう。
監査基準のキーワードを抑えるコツ
監査基準の文章をすべて覚えるのは不可能です。重要なのは、その基準の核となるキーワードを正確に押さえることです。
例えば、監査報告書の「監査上の主要な検討事項(KAM)」について学習するなら、 「当年度の財務諸表監査で特に重要であると判断した事項を、監査役等と協議した事項の中から決定する」 といった、定義の骨格となる部分を重点的に覚えます。
出典:金融庁「監査基準の改訂に関する意見書」(令和2年11月6日)、日本公認会計士協会 監査基準委員会報告書701
キーワードを繋ぎ合わせることで、論文式試験でも骨太な文章が書けるようになります。

監査論は学習範囲が広く、各論点の有機的な繋がりを独学で体系的に理解するのは容易ではありません。もし、効率的な学習計画や質の高い教材を用いて最短ルートで合格を目指したいと考えているのであれば、専門学校が提供するカリキュラムを検討することも、有効な戦略の一つです。
まとめ:監査論は、未来の自分(公認会計士)の仕事を知るための科目
監査論は、多くの受験生にとって、とっつきにくく、点数が伸び悩む「鬼門」かもしれません。しかし、視点を変えれば、監査論ほど合格後の実務に直結する科目はありません。
テキストに並ぶ無味乾燥に見えた言葉の一つひとつが、実はプロフェッショナルである公認会計士の思考プロセスそのものです。
「わからない」と投げ出してしまう前に、ぜひこの記事で紹介したように、あなた自身が新人会計士になったつもりで、監査の現場を追体験してみてください。そうすれば、きっと監査論が「未来の自分の仕事を知るための、面白い科目」に変わるはずです。
あなたの挑戦を、心から応援しています!

監査論の知識が将来実務にどのように役立つのか?こちらの記事も参考にしてください。
よくある質問(Q&A)
監査論の短答式試験と論文式試験では、勉強法はどのように変えるべきですか?
短答式は監査基準等の「結論」を正確に暗記しているかが問われるため、問題演習を繰り返して知識の精度を高めることが重要です。一方、論文式は結論に至る「背景や理由」を記述させる問題が中心です。試験本番では監査基準等が配布されますが、参照する時間は限られています。そのため、日頃から「なぜこの基準が必要なのか」という趣旨を理解する学習が、論文式の得点力を大きく左右します。
分厚い監査基準委員会報告書は、すべて読み込む必要がありますか?
すべてを原文で読み込むのは非常に効率が悪いため、おすすめしません 。公認会計士試験の監査論は、出題の約6割が監査基準委員会報告書からですが、過去問で問われる論点には一定の傾向があります。まずは予備校のテキストや問題集で頻出論点を押さえ、理解を深めるために該当部分の報告書を参照するという使い方が最も効果的です。特に近年の試験では、監査基準の改訂点が出題されやすい傾向にあります 。
どうしても暗記が苦手です。何かコツはありますか?
監査論は「理解なき暗記」が最も非効率な科目です [7]。まずは、この記事で紹介するようなストーリーや図解を通じて、監査全体の流れ(=線)の中で各手続(=点)がどのような役割を果たしているのかをイメージすることから始めてみてください。例えば、「売掛金の実在性を確かめる(目的)→だから取引先に直接手紙を出す(残高確認という手続)」のように、常に「目的」と「手続」をセットで理解する癖をつけるだけで、記憶の定着度は格段に上がります。
監査法人に入所したら、受験で学んだ監査論の知識は本当に役立ちますか?
はい、間違いなく役立ちます。むしろ、監査論で学んだ知識は、監査法人で働く上での「共通言語」であり、すべての実務の土台となります。監査計画の立案、リスク評価、監査手続の選択、意見表明に至るまで、監査論で学んだフレームワークに沿って実務は進みます。受験勉強で「なぜ?」を深く考え抜いた経験は、将来あなたがプロの会計士として活躍するための、何よりの財産になります。
ある専門学校の中からいくつかご紹介致します。資格取得に際し専門学校選びのご参考として頂けますと幸いです。
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