こんにちは!公認会計士のSatoです。これまで監査法人やアドバイザリー業務を通じて、数多くの企業の会計基準対応をサポートしてきました。
2024年9月13日、企業会計基準委員会(ASBJ)より「企業会計基準第34号『リースに関する会計基準』」が公表され、2027年4月からの強制適用が確定しました。
新基準の導入プロジェクトにおいて、経理担当者の皆様が最も頭を悩ませるのが、「社内にある無数のリース契約をすべてシステムに入力し、資産と負債を計算しなければならないのか?」という実務負担の大きさです。
実は、すべてのリースを貸借対照表(バランスシート)に載せる(オンバランス化する)必要はありません。本記事では、実務の負担を劇的に減らすことができる「少額リース」および「短期リース」の免除規定と、その適用にあたって監査人(公認会計士)から指摘を受けないためのポイントを、事例を交えながら分かりやすく解説します。
目次
はじめに:新リース会計基準でも「オフバランス」にできる?
新リース会計基準の最大の特徴は、原則としてすべてのリース契約を貸借対照表に「使用権資産」および「リース負債」として計上しなければならない点です。
しかし、数万円のパソコンやコピー機など、重要性の低いリース契約まで厳密に計算を求めていては、経理現場の業務がパンクしてしまいます。
実務の救世主!「短期リース」と「少額リース」の免除規定
そこで、企業の実務上の管理負担に対する配慮から、「短期リース」および「少額リース」については例外的な免除規定が設けられています。
これらの免除規定を適用した場合、借手は使用権資産およびリース負債を認識せず、従来の賃貸借処理と同様に、毎月の支払リース料を発生時にそのまま費用として処理(オフバランス処理)することが認められます。(企業会計基準適用指針第33号第20項、第22項)
どちらを選ぶ?「少額リース」の金額基準
少額リースに関する免除規定を適用する場合、企業は金額に関する基準を選択して会計方針としなければなりません。
実務で選ばれる「300万円基準」と「5,000米ドル基準」
適用指針では、以下のいずれかの基準を満たす場合に少額リースとして扱うことができます。
- (A) 300万円基準(日本基準の従来実務を踏襲): 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、かつ、リース契約1件当たりの金額に重要性が乏しいリース(リース料総額が300万円以下のリース)。(企業会計基準適用指針第33号第22項(2)①、BC43項)
- (B) 5,000米ドル基準(IFRSの考え方を踏襲): 原資産の価値が新品時におよそ5,000米ドル以下(為替相場にもよりますが概ね70万円〜80万円程度)であるリース。(企業会計基準適用指針第33号第22項(2)②、BC45項)
私のこれまでの支援経験からすると、実務的な観点からは圧倒的に「300万円基準」を採用する企業が多くなります。
理由は単純で、300万円基準の方が適用範囲が広く、オフバランスのまま処理できるリース契約が飛躍的に増加するため、現場の契約収集負担やシステムの入力・管理負担の大幅な軽減に直結するからです。
【発展編】300万円を超える独自の「重要性基準」は認められるか?
ここで、「当社は規模が大きいので、300万円ではなく独自の基準(例えば500万円)以下の契約を少額としてオフバランス処理できないか?」という疑問を持たれる方もいるかもしれません。 結論から言うと、リース契約1件当たりの金額が300万円を超えている場合であっても、会社独自に重要性の基準を定め、新リース会計基準を適用せずにオフバランス処理(費用処理)とすることは理論上可能です 。企業会計原則に定められている「重要性の原則」はリース会計にも適用されるため、会社にとって重要性が乏しい取引については、厳密なオンバランス処理を免除される余地があります 。
しかし、実務上のハードルは極めて高いと覚悟してください。新リース会計基準の中には、収益認識に関する会計基準などに見られるような「重要性が乏しい取引には、本会計基準を適用しないことができる」といった明示的な包括条文が設けられていないからです 。日本の会計実務において、この重要性の原則を直接的な根拠として処理や開示を免れることは、一般的にハードルが高いのが実情です 。 したがって、300万円を超える独自の金額基準を設定してオフバランス処理を行う場合は、その金額が自社の事業内容や財務規模に照らして重要性が乏しいと言える客観的かつ合理的な根拠を文書化し、監査法人と早期に協議して事前の合意を得ておくことが絶対に不可欠となります。
期間で判定する「短期リース」の要件
一方、「短期リース」とは、リース開始日において、借手のリース期間が12か月以内であり、購入オプションを含まないリースを指します。(企業会計基準適用指針第33号第4項(2))
この要件を満たす場合も、オフバランス処理が可能です。ただし、契約書上は1年であっても、実質的に更新を繰り返すことが見込まれる(合理的に確実である)場合は、リース期間が1年を超えると判定され、免除規定が使えなくなる点に注意が必要です。
監査人はココを見る!免除規定適用の厳格なチェックポイント
私が監査の現場に立つ際、この免除規定の適用に対しては「企業が面倒な処理を逃れるために、本来オンバランスすべき契約を不当に除外していないか?」という厳しい目(職業的懐疑心)を向けます。
チェックポイント1:契約の意図的な分割(潜脱行為)
監査において最も問題になるのが、契約の「意図的な分割」です。
例えば、本来であれば総額500万円の専用システム機器のリース契約があるとします。これをオンバランス化するのを嫌がり、意図的に「250万円の契約2本」に分割して契約を締結し、それぞれを300万円以下の少額リースとしてオフバランス処理しようとするケースです。
監査人は、同じ時期に同じベンダーと締結された類似の契約がないか、サンプリングテストを通じて厳格にチェックします。実質的に1つの契約とみなされるべきものを不自然に分割していると判断されれば、監査で否認され、オンバランス化の修正を求められます。
チェックポイント2:会計方針の継続的適用
会計方針には「継続性の原則」が適用されます。
「今年は利益を出したいからオフバランスになる300万円基準を使おう。来年は資産を大きく見せたいから少額リースの免除は使わないでおこう」といった、利益操作を目的とした恣意的な方針変更は認められません。監査人は、選択した基準が継続して適用されているかを厳しく検証します。
【事例と仕訳で解説】免除規定の適用による経理実務の違い
読者の皆様がイメージしやすいよう、具体例を用いて免除規定を適用した場合としない場合の仕訳の違いを見てみましょう。
事例:250万円のパソコン一括リース
- 契約内容: パソコン50台の一括リース契約。リース料総額250万円。
- リース期間: 5年間。毎月のリース料は約41,666円。
- 自社の方針: 300万円基準による少額リースの免除規定を適用する。
免除適用(オフバランス)と原則適用(オンバランス)の仕訳比較
【免除規定を適用した場合(オフバランス処理)】
毎月41,666円のリース料を支払った時の仕訳です。従来の処理と変わりません。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
| 支払手数料(費用) | 41,666 | 現金預金 | 41,666 |
【原則通りに処理した場合(オンバランス処理)】
仮に免除規定を使わなかった場合、契約開始時に将来支払うリース料の現在価値(仮に240万円とします)を計算して資産と負債に計上します。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 |
| 使用権資産(資産) | 2,400,000 | リース負債(負債) | 2,400,000 |
さらに毎月の支払い時や決算期には、この負債の支払利息と、資産の減価償却費を分けて計上することになります。免除規定を使えるかどうかで、経理部門の業務負荷が天と地ほど変わることがお分かりいただけると思います。
実務担当者必見!監査人との議論を乗り切る「証跡」の作り方
監査人からの厳しい指摘を防ぐためには、オフバランス処理とした多数の契約が、本当に「300万円以下」や「1年以内」という条件を満たしていることを証明する証跡(エビデンス)の整備が不可欠です。
経理担当者は、対象となるリース契約のリスト(リース管理台帳)を作成し、そこから免除規定を適用して除外した契約のリスト(母集団)を明確に抽出できるシステムや業務フローを構築する必要があります。また、契約の意図的な分割を疑われないよう、稟議書等の社内決裁記録と契約書をセットで保管し、取引の一体性を合理的に説明できる準備をしておくことが重要です。
公認会計士からのアドバイス:監査人との早期合意を
最後に、実務担当者の皆様に強くお伝えしたいのは、「少額リースをどの金額基準(300万円か5,000米ドルか)にするかという会計方針は、システム構築を始める前の極めて早い段階で監査人と合意しておくべき」ということです。
システムの要件定義が終わった後に「やっぱり免除規定の基準を変更したい」となれば、システムへの入力対象となる契約の数が数千件単位で変動し、プロジェクトが頓挫するリスクがあります。早い段階から自社の契約実態を分析し、方針について監査法人とコミュニケーションを強化することが成功の秘訣です。
よくある質問(Q&A)
現在、300万円以下のリースはすべて費用処理していますが、新基準でもそのまま費用処理を続けて問題ありませんか?
はい。新基準においても、企業の事業内容に照らして重要性が乏しく、1契約300万円以下であれば、少額リースとして引き続き費用処理(オフバランス処理)することが可能です。ただし、会計方針として文書化し、監査人の合意を得ておく必要があります。
1台20万円のパソコンを20台まとめて400万円でリース契約しました。パソコン1台あたりは少額ですが、この場合はどうなりますか?
300万円基準を採用している場合、契約1件当たりの総額で判定するため、400万円のこの契約は少額リースの対象外となり、原則としてオンバランス処理が必要になります。ただし、IFRSに基づく「新品時の価値が5,000米ドル以下」の基準を選択した場合は、パソコン1台ごとの価値で判定するため免除対象となる可能性があります。
総額500万円の契約を、稟議を分けて250万円の契約2本にすれば少額リースとして扱えますか?
原則として認められません。実質的に一体の取引であるにもかかわらず、免除規定を適用するためだけに契約を分割する行為は「潜脱行為」とみなされ、監査において厳格に指摘・否認される対象となります。
契約書上のリース期間が1年であれば、自動更新がついていても「短期リース」として費用処理できますか?
契約書上が1年であっても、過去の更新実績や対象物件への多額の造作投資など「使い続ける経済的インセンティブ」があり、延長が合理的に確実とみなされる場合は、リース期間が1年を超えると判定され、短期リースの免除は使えなくなります。
少額リースの免除規定を適用する契約について、注記などでの開示は必要ですか?
少額リースに該当するものについては、使用権資産やリース負債として計上されないため、関連する注記の対象からも除外されます。これも免除規定を適用する大きな実務上のメリットの一つです。
専門家としての経験に基づき、現場で本当に『武器』になった数冊を厳選しました。理論だけで終わらない、実践に裏打ちされた知恵を求める方の参考になれば幸いです。