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TPM 最速上場の実務 第5回:上場維持費用と最新の「上場目的開示」実務

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士|
あずさ監査法人、税理士法人、上場会社経理、コンサルファームを経て独立。
IPO支援・M&A及び上場会社経理業務を専門とし、企業の成長を財務面からサポート。
このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。
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こんな方におすすめ

  • TPM上場後のコストを知りたい経営者
  • 上場準備の資金繰りに不安がある方
  • グロース市場への移行を検討中の方
  • 2026年の東証最新ルールを把握したい方

はじめに:上場はゴールではなく、終わりのない投資の始まり

TOKYO PRO Market(以下、TPM)への新規上場社数が右肩上がりで急増する中、多くの経営者が「最短で上場できる」というスピード感に魅力を感じています。しかし、公認会計士として多くの企業を支援してきた私から見ると、上場準備において「キャッシュフロー(資金繰り)の現実」を軽視しているケースがあまりにも多いことに強い危機感を覚えます。

TPMは、株主数や流通株式に関する形式基準がないため、「創業者(オーナー)一族が100%株式を保有したまま」でも上場できるという大きな特徴があります。

しかし、市場で株式を売買できるのは、銀行や保険会社などの機関投資家、資本金5億円以上の法人、または一定の純資産(3億円以上など)を満たして要件をクリアした個人といった「プロ投資家(特定投資家)」に限定されています。

そのため、TPMで資金調達を行う場合は、一般市場のように広く大衆から資金を集める公募増資を行うことはできず、特定のプロ投資家や事業会社などを引受先とする「特定投資家向け取得勧誘」や上場後の「第三者割当増資」といった方法に限られます。一般市場に比べて上場時の大規模な資金調達が極めて困難である一方で、上場を維持するためのコストは毎年確実にキャッシュを奪っていくという現実を直視しなければなりません。

本記事では、TPM上場に潜む「リアルな維持費用」の実態と、2026年に東京証券取引所(東証)が新たに打ち出した「上場目的の開示」ルールが実務にどのようなインパクトを与えるのか、そして一般市場(グロース市場等)へのステップアップを見据えた戦略について、初心者にも分かりやすく解説します。

上場はゴールではない!データで見るTPM上場の「リアルなコスト」

上場準備費用と毎年発生する維持費用の実勢価格

「TPMは一般市場よりもコストが安い」というのは事実です。しかし、それは「安い」のではなく「(一般市場に比べれば)相対的に少ない」という表現が正確です。

本業の収益基盤が強固でないまま上場を強行すれば、この維持費用自体が経営を圧迫することになります。具体的な実勢価格を見てみましょう

上場プロセスフェーズ費用の目安と主な内訳実務上の留意点
上場準備費用(上場前)2,000万〜4,000万円程度【主な内訳の相場】
・監査法人(ショートレビュー+直前1期分監査):約1,000万〜2,000万円
・J-Adviser(上場指導・審査・成功報酬等):約500万〜1,500万円
・東証新規上場料:定額300万円
※業種や規模、内部統制の構築状況により大きく変動します。
年間維持費用(上場後)1,500万〜2,500万円程度【主な内訳の相場】
・監査法人(年間監査報酬):約1,000万〜1,500万円(※費用の大部分を占めます)
・J-Adviser(モニタリング費用):年間約300万〜800万円
・東証年間上場料:定額120万円
・株主名簿管理人(信託銀行等):年間約100万〜300万円

ここで忘れてはならないのは、これらはあくまで「外部に支払うコスト」であり、社内で経理やIRを担当する人材の人件費は含まれていないという点です。

【上場に向けた準備費用の会計処理】

上場準備にかかるJ-Adviserへの指導料や、コンサルタントへの報酬は、原則として支出時(発生時)に「支払手数料」等の科目で当期の費用として処理します。一方、将来のステップアップ上場等で新たに株式を発行(公募増資)する際にかかる費用については、「株式交付費」として処理されます。

株式交付費は、原則として、支出時に営業外費用として処理しますが、繰延資産として計上し、株式交付のときから3年以内のその効果の及ぶ期間にわたって、定額法により償却することも認められています(繰延資産の会計処理に関する実務指針第3項)。

維持コストに耐えきれず自主的「上場廃止」を選択した企業の教訓

年間1,500万〜2,500万円という維持費用は、利益率の低いビジネスモデルの企業にとって重くのしかかります。実際に、2023年にはTPM上場企業のうち6社が上場廃止を選択しました。その中には、「資金調達環境において非上場化した方が有利である」と判断し、自主的に上場を廃止した企業も存在します。

「上場すること」自体を目的化してしまい、上場後の成長ストーリーや資金繰り計画が甘いと、数千万円のコストをかけて上場した後に、さらにコストに苦しめられるという悪循環に陥ります。上場はあくまで成長のための「手段」であることを忘れてはなりません。

2026年東証新ルール「上場目的の開示」が実務に与えるインパクト

このような「上場の目的化」を防ぎ、市場の質を向上させるため、東京証券取引所は2026年4月3日に「TOKYO PRO Marketへの上場目的の開示のお願い」を実施しました。これは、TPMを単なる「滑り止め」ではなく、多様な活用ニーズに対応する戦略的な市場として再定義する強力なメッセージです。

なぜ6割の企業が開示したのか?投資家・金融機関へのシグナル効果

この東証からの要請を受け、2026年6月15日時点で全TPM上場企業の約6割にあたる107社が、TDnet(適時開示情報伝達システム)を通じて「上場目的」の開示を行いました。東証は同年7月1日に、これら開示企業の一覧表を公式に公表しています

実務担当者は、この開示を単なる「東証からのお願いに対する事務手続き」と捉えてはなりません。開示を行った107社は、自社の成長戦略、人材採用目標、さらにはグロース市場等へのステップアップの時期を公式文書として市場にコミット(約束)したことになります。

裏を返せば、この一覧表に掲載されていない企業は、投資家や金融機関から「ガバナンスや情報開示に消極的である」という烙印を押されかねないという強いシグナル効果を持っています。

形式的開示が招くリスクと「多様な上場目的」言語化の重要性

全ての企業が一般市場への上場を最終的な目的としているわけではありません。東証の制度においても、TPMは「一般市場への移行」だけでなく、「人材採用の強化」「金融機関や取引先からの信用力向上」「事業承継の円滑化」など、非上場と一般市場の間にある多様な活用ニーズに対応する市場として位置付けられています。

どのような目的であれ、単に「会社の知名度を上げるため」といった形式的な文言を書くだけでは不十分です。

  • 一般市場への移行を目指す場合:中長期的な成長目標や上場予定市場、準備スケジュールなどの追加開示が求められます。
  • TPM上場を独自の目的で維持・活用する場合:獲得したい人材の層や、信用力を活かした新規事業の展開、事業承継の計画など、ステークホルダーが納得する具体性が必要です。

これらの開示内容は、金融機関からの融資審査においても重要な参考資料となります。「開示された成長ストーリーや目的に実現可能性があるか」が、借入金利や融資枠に直結するメカニズムが働き始めているのです。

TPMからグロース市場へ!2026年秋以降の審査効率化と移行戦略

TPMから一般市場(グロース市場など)へのステップアップ上場にかかる期間は、中央値で「約2年1か月」と言われています。この期間をさらに加速させるための強力な追い風が吹いています。

直前2期の監査要件とJ-SOX導入を見据えた組織設計

東証は2026年秋をめどに、「一般市場への上場審査の効率化」や「発行者情報と有価証券報告書の様式共通化」などの制度整備を予定しています。これにより、TPM段階での体制整備実績が正当に評価され、一般市場への移行がスムーズになることが期待されます。

しかし、この恩恵を享受するためには、TPM上場の段階から「一般市場で通用する水準」のガバナンスと予算管理体制を構築しておく必要があります。TPMでは免除されているJ-SOX(内部統制報告制度)や、直前2期の監査証明など、将来必要となる要件を逆算し、初期段階から高度な専門家(公認会計士など)を巻き込んだ拡張性のある組織設計を行っておくことが、移行戦略の最大の鍵となります。

まとめ:ロードマップの実践に向けて

TPMは、成長意欲の高い中堅・中小企業にとって極めて魅力的な選択肢です。特に2026年の東証による「上場目的の開示」の制度化や、秋以降の「ステップアップ審査の効率化」は、TPMを「戦略的ステップアップ市場」へと明確に昇華させました。

しかし、これまでの連載で解説してきた通り、その実質審査の裏側には、厳密な収益認識基準の適用、関連当事者取引の解消、そして労務監査に対する強固な内部管理体制の構築といった極めて高い壁が存在します。自己流の解釈でこれらの壁を乗り越えようとすることは、上場スケジュールの致命的な遅延や監査難民化を招きます。

経営者および実務担当者の皆様は、手遅れになる前に客観的かつ中立的な専門家の知見に基づく「ショートレビュー」を実施し、正しいロードマップを描いてください。それが最速上場への唯一にして不可欠な道標となります。

よくある質問(Q&A)

経営者や実務担当者が抱きやすい疑問について、以下の通りまとめました。

TPMの年間維持費用(約2,000万円)を少しでも削る方法はありますか?

監査報酬やJ-Adviser費用、東証への上場料など、大部分が固定費または市場の相場に連動するため、大幅に削ることは困難です。コスト削減よりも、上場による信用力向上を活かして本業の売上を2,000万円以上伸ばす(投資回収する)戦略を練ることが重要です。

2026年4月からの「上場目的の開示」は法的な義務(強制)なのですか?

法的な義務や上場規程上の明確な罰則を伴うものではありませんが、東証からの強い「お願い(要請)」であり、実質的なスタンダードになりつつあります。未開示の場合、金融機関やステークホルダーからの信用評価にマイナスに働くリスクがあります。

将来グロース市場へ移行したい場合、TPM上場時にどのような準備が必要ですか?

TPMでは直前1期の監査で済みますが、一般市場では直前2期の監査が必要です。そのため、TPM上場直後からすぐにJ-SOX(内部統制)の整備に着手し、一般市場と同水準の四半期決算体制を構築しておく必要があります。

TPMで公募増資(資金調達)を行うことは絶対に不可能なのですか?

制度上は不可能ではありませんが、TPMは「特定投資家(プロ投資家)」に限定された市場であるため、一般投資家から広く資金を集めることができず、実務上は極めてハードルが高いのが現実です。

ステップアップ審査が効率化されると、具体的に何が変わるのですか?

2026年秋以降、TPMで開示している「発行者情報」と一般市場の「有価証券報告書」の様式共通化などが予定されています。これにより、審査書類の作成負担が大幅に軽減され、スムーズな移行が可能になります。


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専門家としての経験に基づき、現場で本当に『武器』になった数冊を厳選しました。理論だけで終わらない、実践に裏打ちされた知恵を求める方の参考になれば幸いです。


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