1.会計・税務

建設仮勘定の消費税はいつ計上?課税仕入れの2つの時期と仕訳例を公認会計士が解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

はじめに:経営者と経理担当者が直面する「タイミング」の問題

工場の建設や大規模な設備投資など、完成までに数ヶ月から数年を要するプロジェクトでは、資材費や外注費などの支払いが複数回にわたって発生します。その際に支払った消費税は、仕入税額控除の対象となりますが、多くの経営者や経理担当者が頭を悩ませるのが「一体、どのタイミングで経費として計上し、消費税の控除を受ければ良いのか?」という問題です。

この計上時期を誤ると、キャッシュフローに予期せぬ影響を与えたり、税務調査で指摘を受けたりする可能性があります。特に、決算期をまたぐような長期のプロジェクトでは、適切な会計処理が不可欠です。

この記事では、会計・税務の専門家の視点から、建設仮勘定や仕掛品に含まれる消費税の計上時期について、国税庁の指針に基づき、2つの認められた方法と実務上の注意点を分かりやすく解説します。

1. 大原則:消費税法における「課税仕入れ」のタイミングとは?

建設仮勘定の消費税について理解する前に、まず消費税法の大原則を知る必要があります。事業者が支払った消費税を、納付する消費税額から差し引くこと(仕入税額控除)が認められるのは、「課税仕入れを行った日」が属する課税期間です 。  

では、「課税仕入れを行った日」とはいつでしょうか。原則として、以下の通り定められています 。  

  • 資産の購入の場合: その資産の引渡しを受けた日
  • サービスの提供を受ける場合: その役務の提供が完了した日

例えば、10月に納品された資材の代金を12月に支払った場合でも、「課税仕入れを行った日」は資材の引渡しを受けた10月となります。この「引渡し・完了」という事実が、消費税計上のタイミングを決定する最も重要な基準です。この原則を念頭に置くことで、後述する建設仮勘定の特例的な扱いがなぜ存在するのかを深く理解できます。

2. 建設仮勘定:選択可能な2つの計上方法

長期にわたる建設工事などでは、資材の購入や設計業務の完了など、複数の「引渡し・完了」が段階的に発生します。この複雑さを考慮し、建設仮勘定については、国税庁により以下の2つの処理方法が認められています 。  

2.1. 方法A(原則):課税仕入れが発生する都度、計上する方法

これは、消費税法の大原則に沿った方法です。建設プロジェクトに関連する資材の納品や、設計料・外注費といった役務の提供が完了するたびに、その都度、課税仕入れとして計上し、仕入税額控除を適用します 。  

国税庁の消費税法基本通達11-3-6においても、建設仮勘定として経理した場合でも、課税仕入れ等については、その仕入れ等を行った日の属する課税期間において仕入税額控除の規定が適用される、と明記されています 。  

【仕訳例】設計会社に設計料110万円(うち消費税10万円)を支払い、役務提供が完了した

勘定科目借方貸方
建設仮勘定1,000,000円
仮払消費税等100,000円
現金預金1,100,000円

この方法の最大のメリットは、支払った消費税の還付(または納付額からの控除)を早期に受けられるため、キャッシュフロー上有利になる点です。

2.2. 方法B(例外):目的物の引渡し時に一括で計上する方法

もう一つの方法は、工事期間中に発生したすべての課税仕入れを、最終的に建物などの目的物が完成し、引渡しを受けた日が属する課税期間にまとめて計上する方法です 。  

この方法は、工事期間中の経理処理の手間を大幅に削減できるというメリットがあります。ただし、この方法を選択する場合、「継続適用」が要件となります 。つまり、一度この方法を採用したら、合理的な理由なく原則的な処理(方法A)に戻すことはできず、すべての建設案件について同じ方法で処理し続ける必要があります。  

【仕訳例】建物が完成・引渡しを受け、建設仮勘定3,000万円(関連する仮払消費税等300万円を含む)を建物勘定に振り替える

勘定科目借方貸方
建物30,000,000円
仮払消費税等3,000,000円
建設仮勘定33,000,000円

※この仕訳は、方法Bを選択し、期中の課税仕入れを消費税込みで建設仮勘定に計上していた場合の完成時の一例です。

2.3. 【比較表】どちらの方法を選ぶべきか?自社の状況に合わせた戦略的判断

方法Aと方法Bの選択は、単なる経理処理の違いではなく、企業のキャッシュフロー戦略や管理体制に影響を与える経営判断です。以下の比較表を参考に、自社に最適な方法を選択してください。

比較項目方法A(都度計上)方法B(完成時一括計上)
仕入税額控除のタイミング早期(課税仕入れの都度)遅延(完成引渡し時)
キャッシュフローへの影響◎ 有利(早期に還付・控除)△ 不利(資金が寝る期間が長い)
経理処理の負担△ 煩雑(複数回の計算・計上)◎ 軽微(一括で処理)
国税庁の要件特になし(原則的な処理)継続適用が必須
推奨される企業・キャッシュフローを重視する企業 ・経理体制が整っている企業・経理の簡素化を優先する企業 ・資金繰りに余裕がある企業

資金繰りを最優先するならば方法A、管理コストの削減を重視するならば方法Bが適していると言えるでしょう。

3. 実務上の注意点:手付金・中間金の取り扱い

建設工事の契約でよくある「手付金」や「中間金」の支払いには、特に注意が必要です。これらはあくまで前払金であり、支払った時点ではまだ資産の引渡しや役務の提供が完了していません

したがって、手付金や中間金を支払っただけでは、原則として課税仕入れとして計上することはできません 。これらの支払いが、後の資材納品や工事の出来高に充当された時点で、初めてその部分について課税仕入れが認識されます。  

過去の裁決事例でも、課税仕入れの時期は契約日や支払日ではなく、あくまで「目的物の引渡し日」や「役務の全部の提供が完了した日」であると判断されています 。安易に支払い時点で仕入税額控除を行うと、税務調査で否認されるリスクがあるため、厳密な管理が求められます。  

4. 「仕掛品」および「未成工事支出金」への応用

これまで解説してきた原則は、他の勘定科目にも応用できます。

  • 仕掛品(Work in Progress): 販売目的の製品を製造している途中の状態を指す棚卸資産です。仕掛品を構成する材料の購入費などは、その材料の引渡しを受けた時点で課税仕入れとして計上するのが原則です 。決算時に期末の仕掛品を計上する際は、消費税を含めない「税抜きの金額」で資産計上します。  
  • 未成工事支出金(Costs on Uncompleted Contracts): 建設業会計で用いられる勘定科目で、販売目的の不動産(建売住宅など)の工事原価を指します。これも建設仮勘定とほぼ同様に、原則として資材の引渡しや外注先の役務提供が完了した都度、課税仕入れを計上します。例外的に、継続適用を要件として、目的物の完成引渡し時にまとめて計上することも認められています 。  

本質的な考え方は「資産の引渡し・役務の提供が完了した時点」であり、その資産が自社利用目的(建設仮勘定)か販売目的(仕掛品・未成工事支出金)かで、基本的なルールは変わりません。

5. まとめと専門家への相談

建設仮勘定に関する消費税の計上時期について、以下の3つのポイントを必ず押さえてください。

  1. 原則は「都度計上」: 資材の納品やサービスの完了のたびに課税仕入れを計上する方法が基本です。これはキャッシュフロー上、有利な選択肢です。
  2. 例外は「完成時一括計上」: 経理の簡素化のため、完成引渡し時にまとめて計上することも可能ですが、「継続適用」が必須条件です。
  3. 手付金・前払金は即時控除不可: 支払い時点ではなく、実際のモノやサービスの提供があった時点で控除対象となります。

どちらの方法を選択するかは、企業の資金状況や管理体制によって異なります。本記事は、国税庁の指針(例:消費税法基本通達11-3-6)に基づき一般的な情報を提供するものですが、個別の案件で判断に迷う場合は、必ず顧問税理士などの専門家に相談し、最適な会計処理を行うようにしてください。


ここでは、あくまで私個人の視点から、ご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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