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【担当者向け完全ガイド】2027年から適用される新リース会計基準の要点と実務対応ステップを徹底解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • 新基準の概要を短時間で把握したい経理部長の方
  • 実務への影響と対応策を具体的に知りたい財務担当者
  • 自社が対応すべきことの全体像を知りたい経営層の方
  • 中小企業への適用猶予や特例が気になる小規模事業者

2027年、あなたの会社の「リース」が変わります

2027年4月1日から、新しいリース会計のルールがスタートします。これは、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した「企業会計基準第34号『リースに関する会計基準』」に基づくもので、特に上場企業や大会社にとって、会計処理のあり方を根本から見直す必要のある大きな変更です 。  

これまで、多くの企業でコピー機や社用車、不動産などのリース契約は、単なる「経費(賃借料)」として処理されてきました。しかし新基準では、これらのリース契約のほとんどを会社の「資産」と「負債」として貸借対照表(バランスシート)に計上する、「オンバランス」という考え方が原則となります 。  

この変更は、単なる経理部門の事務作業の変更に留まりません。会社の財務状況を示す重要な指標に直接影響を与えるため、経営者や財務責任者が正しく理解し、戦略的に備えるべき経営課題と言えます 。本記事では、公認会計士がこの重要な変更のポイントを、図表を交えながら分かりやすく解説します。  

なぜ変わる?新リース会計基準導入の背景

今回の会計基準改正の最も大きな目的は、日本の会計ルールを国際的な基準(特にIFRS第16号「リース」)に合わせることにあります 。グローバルに活動する企業が増える中で、国内外の企業の財務状況を同じ物差しで比較できるようにする必要性が高まっています。  

従来の日本の基準では、多くのリース契約が「オペレーティング・リース」として扱われ、貸借対照表に載らない「オフバランス取引」となっていました。これは、投資家から見ると、企業が抱える実質的な負債が見えにくいという問題がありました 。新基準は、すべてのリース利用の実態を財務諸表に正確に反映させることで、投資家に対する透明性を高め、より適切な投資判断を促すことを目指しています。  

最大の変更点:「すべてのリースを資産計上」とは?

新基準の核心は、借手(リースを利用する側)において、これまで区別されていた「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の会計処理を一本化することです 。  

  • 現行基準: 解約不能など、実質的に購入したとみなされる「ファイナンス・リース」のみを資産・負債として計上。一般的なレンタルに近い「オペレーティング・リース」は、毎月の支払額を費用として処理するだけでした 。  
  • 新基準: 原則としてすべてのリース契約について、リース物件を使用する権利を「使用権資産」、将来のリース料支払義務を「リース負債」として、貸借対照表に計上します 。  

これにより、これまで費用(支払リース料)として処理していたオペレーティング・リースの支払いは、「リース負債の返済」と「支払利息」に分解され、資産として計上した「使用権資産」は、リース期間にわたって減価償却を行うことになります 。  

この違いを理解するために、以下の比較表をご覧ください。

表1: 新旧リース会計処理の比較(借手側)

項目現行基準新基準(2027年〜)
ファイナンス・リース
貸借対照表(B/S)資産・負債を計上変更なし(使用権資産・リース負債として計上)
損益計算書(P/L)減価償却費・支払利息を計上変更なし
オペレーティング・リース
貸借対照表(B/S)計上なし(オフバランス)【変更】使用権資産・リース負債を計上
損益計算書(P/L)支払リース料(費用)を計上【変更】減価償却費・支払利息を計上

我が社は対象?新基準が適用される企業

この新基準は、すべての企業に一律で強制されるわけではありません。自社が対象となるかどうかを正確に把握することが、最初の重要なステップです。

強制適用の対象となる企業

以下のいずれかに該当する企業は、新リース会計基準を強制的に適用する必要があります 。  

  1. 上場企業とその子会社・関連会社 :金融商品取引法のもとで財務諸表の開示が求められる企業です 。  
  2. 大会社: 会社法で定められた「大会社」(資本金5億円以上、または負債総額200億円以上の株式会社)です 。  
  3. 会計監査人を設置している会社: 上記の条件に当てはまらなくても、任意で会計監査人を設置している場合は対象となります 。  

中小企業への影響は?

上記に該当しない多くの中小企業は、新基準の強制適用の対象外です。これまで通り「中小企業の会計に関する指針」に沿った会計処理(支払リース料を費用計上する賃貸借処理)を継続することが認められています 。  

ただし、中小企業であっても、将来的な上場を目指している、あるいは金融機関や取引先への説明責任から、より透明性の高い財務諸表を作成したいと考える場合には、任意で新基準を適用することも可能です 。  

実務上の例外:「短期リース」と「少額リース」

新基準が適用される企業であっても、実務的な負担を考慮し、すべてのリースを資産計上しなくてもよい例外規定が設けられています。以下のリースは、従来通り賃貸借処理(支払額を費用計上)が可能です 。  

  • 短期リース: リース開始日時点のリース期間が12ヶ月以内のリース。ただし、割安購入選択権(購入オプション)が付いている場合は対象外です 。  
  • 少額リース: 企業の判断で、以下のいずれかの基準を選択して適用します。一度選択した基準は継続して適用する必要があります 。
    1. リース契約1件あたりのリース料総額が300万円以下のリース 。  
    2. リース対象の資産そのものが少額であるリース(新品購入時の価格が5,000米ドル以下が目安) 。  

これらの例外規定をうまく活用することで、経理業務の複雑化をある程度抑制することができます。

表2: オンバランス不要のリース取引 判定ガイド

例外の種類判定基準注意点
短期リースリース期間が12ヶ月以内購入オプションが付いていないこと
少額リース以下のいずれかを選択: ① リース料総額が300万円以下 ② 原資産の新品価額が少額(目安5,000ドル以下)企業の方針として一貫して適用する必要がある

財務諸表への影響と経営へのインパクト

オペレーティング・リースを多用している企業が新基準を適用すると、財務諸表の見た目が大きく変わります。これは経営判断にも影響を及ぼす可能性があります。

  • 貸借対照表への影響: これまで表に出てこなかったリース契約が「使用権資産」と「リース負債」として計上されるため、総資産と総負債が同時に増加します。会社規模が大きく見える一方、負債比率が悪化し、より多くの負債を抱えているように見える可能性があります 。  
  • 経営指標への影響:
    • 悪化する可能性のある指標: 総資産が増加するため、健全性を示す自己資本比率(自己資本÷総資産)や、収益性を示す総資産利益率(ROA)(利益÷総資産)は、分母が大きくなることで低下する傾向にあります 。  
    • 改善して見える可能性のある指標: 従来の「支払リース料」(主に販売管理費)が、「減価償却費」(営業費用)と「支払利息」(営業外費用)に分かれるため、営業利益の段階では利益が押し上げられる効果が出ることがあります 。  
  • 税務への影響: 会計上の処理は変わりますが、法人税の計算方法は基本的に変わりません 。税務上は、従来通り支払ったリース料が損金として認められるため、会計上の利益と税務上の所得に差異が生じます。この差異を調整するため、法人税申告書で別途「   申告調整」という作業が必要になり、経理業務はより複雑になります 。  

特に注意すべきは、金融機関との融資契約に含まれる「財務制限条項(コベナンツ)」です。自己資本比率や負債比率などの特定の指標を維持することが融資の条件になっている場合、会計基準の変更によって意図せず契約に抵触してしまうリスクがあります。該当する企業は、事前に金融機関と協議しておくことが不可欠です。

移行に向けた3つの準備ステップ

2027年の適用開始までにはまだ時間がありますが、影響の大きい企業にとっては、準備は決して早くありません。計画的に以下のステップを進めることをお勧めします 。  

Step 1: 全契約の棚卸しとリース判定

まずは、社内に存在するすべての契約を洗い出すことから始めます。契約書に「リース」と書かれていなくても、実質的に資産を長期間にわたって支配・使用する権利を得ている契約(特定の機器の長期レンタル契約や不動産賃貸借契約など)は、新基準ではリースに該当する可能性があります 。法務部門や各事業部門と連携し、網羅的に契約をリストアップし、新基準に照らしてリースに該当するかを一つずつ判定していく作業が必要です。  

Step 2: 財務影響の試算

洗い出したリース契約を新基準で会計処理した場合、貸借対照表や損益計算書、そして各種経営指標がどのように変化するのかをシミュレーションします 。この試算結果をもとに、経営陣は事前に影響を把握し、投資家や金融機関などのステークホルダーへの説明方針を準備することができます。  

Step 3: 業務プロセス・システムの再構築

新基準に対応するためには、リース契約の情報を一元管理し、複雑な計算(リース負債の現在価値計算、利息と元本の按分、減価償却など)を自動で行える仕組みが必要です。既存の会計システムで対応できない場合は、リース管理専用のシステム導入や、システムの改修を検討する必要があります 。IT部門を巻き込み、早期にシステム要件の定義と選定に着手することが成功の鍵となります。  

まとめと専門家による監修情報

2027年から始まる新リース会計基準は、企業の財務報告に大きな変革をもたらします。重要なポイントは以下の通りです。

  • 適用時期: 2027年4月1日以降開始の事業年度から(早期適用も可)。
  • 対象企業: 主に上場企業、大会社、会計監査人設置会社。多くの中小企業は対象外。
  • 主な変更点: オペレーティング・リースも原則として資産・負債に計上(オンバランス)。
  • 経営への影響: 総資産・総負債が増加し、自己資本比率などの経営指標が悪化する可能性がある。
  • 必要な準備: 全契約の棚卸し、財務影響の試算、業務プロセス・システムの再構築が急務。

この変更は、会計部門だけの問題ではなく、全社的なプロジェクトとして捉える必要があります。まずは自社が適用の対象となるかを確認し、社内にどのような契約が存在するのか、その全体像を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。

引用・参照情報

本記事の作成にあたり、以下の公的機関および専門機関の情報を参照しています。

  • 企業会計基準委員会(ASBJ):「企業会計基準第34号『リースに関する会計基準』」  
  • 企業会計基準委員会(ASBJ):「企業会計基準適用指針第33号『リースに関する会計基準の適用指針』」  
  • e-Gov法令検索:「会社法」 - 第三百二十八条(会計監査人の設置義務)  
  • 中小企業庁:「中小企業の会計に関する指針について」  
  • 国税庁:「令和7年度法人税関係法令の改正の概要」

よくある質問(Q&A)

なぜ今、リース会計基準が変更されるのですか?

従来の会計基準では、多くのリース契約が貸借対照表(BS)に計上されない「オフバランス」取引となり、企業の隠れた債務が投資家から見えにくいという問題がありました。国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図り、財務諸表の透明性と比較可能性を高めるため、原則として全てのリースを資産・負債として計上する「オンバランス」化へと変更されます。

新基準の導入で、企業の財務諸表には具体的にどのような影響がありますか?

最も大きな影響は、総資産と負債が同時に増加することです。これにより、自己資本比率や負債比率といった財務指標が悪化する可能性があります。一方で、EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)は、支払リース料が費用から減価償却費と支払利息に変わるため、増加する傾向にあります。金融機関からの評価や契約上の財務制限条項(コベナンツ)に影響が及ぶ可能性があるため、早期のシミュレーションが重要です。

中小企業向けの経過措置や特例はありますか?

はい、中小企業会計指針などでは、実務上の負担を考慮した簡便的な取り扱いや、大企業とは異なる適用時期が設けられることが予想されます。例えば、短期リース(例:12ヶ月以内)や少額リース(例:50万円以下など)については、資産計上を免除する特例が設けられる可能性が高いです。ただし、具体的な基準はまだ確定していないため、今後の公表情報を注視する必要があります。


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