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東証上場維持基準の不適合リスクと上場廃止の行方:2026年最新事例と監査の裏側を公認会計士が徹底解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士|
あずさ監査法人、税理士法人、上場会社経理、コンサルファームを経て独立。
IPO支援・M&A及び上場会社経理業務を専門とし、企業の成長を財務面からサポート。
このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。
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こんな方におすすめ

  • 東証上場維持基準の最新の動向を知りたい方
  • 監理銘柄や整理銘柄への指定リスクを学びたい方
  • 2026年の最新の基準不適合・指定解除事例に関心がある方
  • 監査や会計の視点から企業の真の実力を分析したい方

東京証券取引所(以下、東証)の市場区分が「プライム」「スタンダード」「グロース」の3市場へと再編されてから数年が経過し、日本の株式市場は極めて重要な転換点を迎えています。特に投資家や企業関係者が注目すべきは、市場再編時に設けられていた「上場維持基準の経過措置(基準の緩和)」がすでに終了し、本来の厳しい基準が適用され始めているという現実です

本記事では、公認会計士の専門的な視点から、上場維持基準に不適合となった場合に企業が辿るプロセスや、2026年春に発生している最新の監理銘柄指定・解除の事例を初心者にも分かりやすく紐解きます。さらに、上場廃止の瀬戸際にある企業において、決算や監査の現場でどのような「会計上の攻防」が繰り広げられているのか、そのリアルな裏側を余すところなく解説します。

東証の上場維持基準と「経過措置終了」がもたらす市場の現実

日本の株式市場をより国際的な競争力のあるものにし、各企業の持続的な企業価値向上を促すため、東証は市場区分の抜本的な見直しを行いました。しかし、この移行をスムーズに進めるために用意されていた「猶予期間」は終わりを告げ、現在は企業の実力がダイレクトに問われるフェーズに突入しています。

経過措置の終了と「改善期間」の到来

市場再編に伴い、2022年4月から2025年3月までの間は、新市場へ移行した企業に対して、新しい上場維持基準への適合を目的とした緩和的な経過措置が適用されていました 。しかし、この措置はすでに終了しており、現在はすべての上場企業に対して「本来の厳格な上場維持基準」による判定が容赦なく行われています

基準に適合していないと判定された企業は、直ちに上場廃止になるわけではなく、まずは所定の「改善期間」に入ります 。そして、2026年3月以降、この改善期間の期限が企業ごとに順次終了していくため、現在多くの企業が上場維持のデッドラインに直面しているのです 。

3つの市場区分の現在地:データが示す格差

2025年12月末時点の東京証券取引所の公式データをもとに、現在の各市場の規模と実態を比較してみましょう

市場区分企業数(割合)時価総額(割合)売買代金(割合)市場の主なコンセプト
プライム市場1,599社(42%)1,151兆円(96%)5兆1,204億円(95%)高い流動性とガバナンス水準を備え、グローバルな投資家との建設的な対話を中心に据えた企業向け
スタンダード市場1,569社(42%)33兆円(3%)1,416億円(3%)公開された市場における投資対象として十分な流動性とガバナンス水準を備えた企業向け
グロース市場614社(16%)8兆円(1%)1,368億円(3%)高い成長可能性を有する企業向け

この統計から浮かび上がるのは、企業数ではプライム市場とスタンダード市場がほぼ同数(約42%ずつ)であるにもかかわらず、時価総額と売買代金においてはプライム市場が全体の95%以上を独占しているという圧倒的な格差です 。スタンダード市場やグロース市場に属する企業にとって、投資家からの関心を集め、流動性や時価総額といった「上場維持のハードル」をクリアし続けることは、想像以上に過酷な道のりであることが分かります。

上場維持基準に不適合となった場合のプロセスと投資家への影響

企業が上場維持基準(株主数、流通株式数、流通株式時価総額、売買代金など)を満たせなくなった場合、どのような道を辿るのでしょうか。投資家保護の観点から、明確なステップが定められています。

改善期間から「監理銘柄」「整理銘柄」への移行

本来の基準に適合しない状態に陥った企業は、まず東証のウェブサイト上で「改善期間該当銘柄」として公表されます 。例えば3月末決算の企業であれば、4月中旬から6月中旬頃にかけて順次その事実が掲載されます

この改善期間(原則として1年間)内に、経営陣は自社株買い、配当の増額、事業再編などの株価対策や流動性向上策を打ち出し、基準の回復を目指します。しかし、努力も虚しく期間内に適合できなかった場合、いよいよ「監理銘柄」や「整理銘柄」に指定されることになります

銘柄のステータス状況の概要投資家の取引への影響
改善期間該当銘柄基準に不適合となったが、改善のための猶予期間が与えられている状態。通常通り取引可能だが、企業の将来性に対する不確実性が高まり、株価が不安定になりやすい。
監理銘柄改善期間内に基準を満たせず、上場廃止の恐れがあるため東証が審査・確認を行っている状態 取引自体は可能だが、NISA口座での新規買付が不可能になるという致命的な制限が課される
整理銘柄上場廃止が正式に決定し、廃止日までの一定期間(通常1ヶ月程度)、整理売買が行われている状態。上場廃止を前提とした取引となるため、株価が暴落するリスクが極めて高い。

NISA制限が引き起こす「負のスパイラル」

ここで特筆すべきは、監理銘柄に指定された瞬間に発動する「NISA(少額投資非課税制度)での新規買付停止」という制限の恐ろしさです

現代の日本の株式市場において、NISA経由の個人投資家の資金は企業にとって非常に重要な流動性の源泉です。この資金流入がシステム的に絶たれることで、株価の下落圧力は急激に強まります。株価が下がれば、さらに時価総額基準の達成が遠のき、機関投資家も内部規定(コンプライアンス)により投資を引き揚げるため、企業は底なしの流動性枯渇という「負のスパイラル」に陥ってしまうのです。

【2026年4月最新】監理銘柄の指定と劇的な解除事例

理論上のルールだけでなく、実際の市場で現在進行形で何が起きているのか、2026年4月の最新データを見ていきましょう。改善期間の満了に伴い、多くの企業の運命が分かれています。

予断を許さない新規指定銘柄群

2026年4月1日から4月中旬にかけて、改善期間の終了を迎えながらも上場維持基準への適合が確認できず、「監理銘柄」に指定される企業が相次ぎました。東証の公表資料によれば、以下のような企業がその対象となっています

  • 2026年4月1日指定: 株式会社フジタコーポレーション(3370)、ポラリス・ホールディングス株式会社(3010)、株式会社城南進学研究社(4720)など
  • 2026年4月14日・15日指定: ネポン株式会社(7985)、株式会社桜井製作所(7255)、澤藤電機株式会社(6901)、株式会社光陽社(7946)など

これらの企業は現在、東証による最終的な確認・審査の渦中にあり、上場を維持できるか、あるいは整理銘柄へと移行して上場廃止となるか、非常に緊迫した状況に置かれています。

ギリギリでの生還!指定解除を勝ち取った事例

一方で、地獄の淵から生還した企業も存在します。2026年4月1日時点では上場維持基準への適合が確認できず「監理銘柄(確認中)」に指定されていたものの、その後の詳細な審査によって見事に指定解除を勝ち取った事例です。

2026年4月15日の東証のニュースリリースによれば、以下の企業から提出された「株券等の分布状況表」に基づく審査の結果、改善期間の終了時点において上場維持基準への適合が確認されたため、翌4月16日付で監理銘柄の指定が解除されました

  • 佐藤食品工業株式会社(2814:スタンダード市場)
  • 株式会社ランシステム(3326:スタンダード市場)
  • 株式会社アズジェント(4288:スタンダード市場)
  • 株式会社レダックス(7602:スタンダード市場)
  • Bitcoin Japan株式会社(8105:スタンダード市場)
  • 京極運輸商事株式会社(9073:スタンダード市場)

公認会計士として監査の現場に立つと、こうした「改善期間の最終盤」における企業内部のピリピリとした緊張感は、肌で感じられるほど圧倒的なものです。経営陣は基準達成のために東奔西走し、深夜や休日を問わず対応に追われます。土壇場で基準をクリアし、指定解除を勝ち取った背景には、関係者の並々ならぬ執念があったことが強く推察されます。上場維持とは、単なる事務手続きではなく、企業の存続と威信を賭けた戦いなのです(有価証券上場規程施行規則第604条)。

決算書から読み解く!上場維持に向けた会計・監査の裏側

上場維持基準(特に純資産や時価総額に関する基準)を満たすためには、大前提として「良好な財務成績」が必要です。しかし、業績が悪化し、上場廃止の足音が近づいてきた時にこそ、会計上の「見積り」や「判断」を巡って、企業と監査人の間で激しい議論が交わされます。

監査とは、会社の作成した決算書が単に計算が合っているかを見るものではありません 。会計ルールに則って正しく作られており、「重大なウソや誤り(虚偽表示)がないか」を、独立した第三者の立場から厳格に検証し、意見を表明する極めて専門的なプロセスです

税効果会計と「繰延税金資産」という名の命綱

業績が苦しい企業が、純資産を維持するために最も頼りにし、同時に最も監査で揉めるのが「税効果会計」です。企業が赤字を出した際、一定の条件を満たせば、将来の税金負担が軽減される効果を見込んで「繰延税金資産」という資産を貸借対照表に計上することができます。

【設例:税効果会計の基本仕訳】 将来の税金が安くなると見込まれる場合、以下のような仕訳を作成します

  • 借方:繰延税金資産 300
  • 貸方:法人税等調整額 300

一見すると単純なこの仕訳には、まるで魔法のような効果があります。貸方に「法人税等調整額」という収益的な項目が計上されることで、損益計算書上の当期純利益が増加(または純損失が圧縮)し、その結果として貸借対照表の「純資産」が増加するのです。上場維持の純資産要件をギリギリでクリアしようとしている企業にとって、この繰延税金資産は絶対に手放せない「命綱」となります。

しかし、公認会計士はこの資産の計上をそう簡単には認めません。繰延税金資産を計上するためには、「将来、本当に十分な利益を出して、税金を払うだけの稼ぐ力があるのか」という回収可能性の判定が極めて厳格に求められます。

上場廃止リスクに怯える経営者が「来期からは新事業が当たって必ずV字回復します!」と強気の事業計画を提示してきても、監査人は過去の連続赤字という冷徹な事実に基づき、保守的な判断を下さざるを得ません。もし監査人によって「将来の黒字化は不確実である」と判断され、繰延税金資産の取り崩し(全額減額)が求められれば、一瞬にして数億円規模の純資産が吹き飛び、債務超過や上場維持基準への不適合が確定してしまう恐れがあるのです。

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税効果会計の監査手順と必要書類|回収可能性の判定を公認会計士が解説

税効果会計の監査手順と、厳格な回収可能性の判定についての詳細記事はこちらで。

減損会計の恐怖と事業計画の整合性

もう一つ、企業の純資産を脅かす巨大なリスクが「減損会計」です。企業が保有する工場設備、店舗、あるいはM&Aで買収した際の効果(のれん)などの収益性が著しく低下した場合、その帳簿価額を現在の価値まで強制的に切り下げる手続きです。

特に、株価が長期間低迷し、時価総額が帳簿上の純資産を大きく下回っているような状態は、減損の強力な兆候(トリガー)となります。経営者は減損損失の計上を回避するために、「設備はまだ使える」「将来のキャッシュフローは十分に見込める」と主張します。しかし監査の現場では、経営者が作成した事業計画の売上予測やコスト削減の根拠が合理的かどうか、他社の市場データなどと照らし合わせながら、何日にもわたって徹底的な検証が行われます。少しでも計画に甘さや矛盾があれば、容赦なく巨額の減損損失が計上され、企業の財務基盤は致命的なダメージを受けます。

監査人との対話は「年間を通じたマラソン」である

こうした決算期最終盤での予期せぬ指摘や、監査における「どんでん返し」を回避するために、企業はどうすべきでしょうか。

結論から言えば、期末の監査を待つ必要は全くありません 。税効果会計の回収可能性や減損の兆候といった「重要な見積りや判断」については、決算期が来る前から年間を通じて監査人や監査役等と議論を重ねることが極めて賢明です

決算短信は、厳格な監査手続きが完全に終了する前に「速報値」として世の中に開示されます 。そのため、会社自身が「おそらくこの数字でいけるだろう」と見切り発車で公表した後に、監査人との深刻な見解の相違が発覚し、後日慌てて決算数値を大幅に下方修正するという最悪の事態は、何としても避けなければなりません

会計上の見積りには常に高度な不確実性が伴うため、企業経営者は日頃から監査人と透明性の高いコミュニケーションを取り、強固な信頼関係を構築していくことが、上場を維持するための隠れた必須条件と言えるでしょう。

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【徹底解説】会計上の見積り監査の厳格化|監基報540改正で企業がすべき準備とは

重要な見積りや判断については、年間を通じて監査人と議論を重ねることが賢明です。

投資家と企業が今なすべきこと:リスクに備えるための指針

上場維持基準の厳格化という新たな現実を前に、投資家および企業側の視点から、どのような点に注意して行動すべきかを整理します。

投資家の方々へ:決算書から「見えない危険信号」を察知する

自分が投資している企業、あるいは投資を検討している企業が、上場維持基準の経過措置や改善期間に該当していないか、東証の公式ウェブサイトで定期的に確認する習慣をつけてください 。また、企業の決算短信や有価証券報告書を読む際は、以下のポイントに注目することで、数字の裏に潜むリスクを見抜くことができます。

  • 繰延税金資産の割合に警戒する: 純資産全体に対して「繰延税金資産」の占める割合が異常に高い企業は、業績が少しでも下振れした瞬間に、監査法人の指導で一気に資産が取り崩され、純資産が激減するリスクを抱えています。
  • KAM(監査上の主要な検討事項)を熟読する: 監査報告書には、監査人が「今年度の監査で最もリスクが高く、議論になった事項」を記述するKAMというセクションがあります。ここに「税効果会計の回収可能性」や「固定資産の減損」が長々と記載されている場合、その企業の見積りには高い不確実性が潜んでいる証拠です。

企業経営者・実務担当者の方々へ:事前の対話と合理性の追求

  • 客観的で実現可能な事業計画の策定: 上場維持の根拠や、会計上の見積りのベースとなる事業計画は、監査人に「絵に描いた餅」「希望的観測に過ぎない」と否定されないよう、外部環境の客観的なデータに基づいた精緻なものである必要があります。
  • 監査法人とのホットラインの常時稼働: ビジネス環境にネガティブな変化があった場合は、決算期末に事後報告するのではなく、直ちに監査法人に相談する体制を構築してください 。早期の相談こそが、致命的な会計処理の否認を防ぐ唯一の手段です 。

上場維持基準の経過措置が終了し、本来のルールが厳格に適用される現在の株式市場は、企業にとって非常に厳しい試練の場となっています。しかし、これは日本の市場全体の質を高め、投資家にとって魅力的な環境を作るためには避けて通れないプロセスです。投資家の皆様は、単なる表面的な株価の動きやニュースに一喜一憂するのではなく、その裏側にある「会計的な要因」や「監査の動向」にまで目を向けることで、より深く、確度の高い企業分析が可能になるはずです。

読者の疑問を解決!上場維持基準に関するQ&A

自分が持っている株が「監理銘柄」になったら、すぐに売却しなければならないのでしょうか?

直ちに売却しなければならないわけではありません。通常の株式取引自体は引き続き可能です。しかし、NISA口座での新規買付ができなくなるなど、市場での流動性が大きく低下するリスクがあります 。また、将来的に上場廃止となる可能性が高まっている状態(イエローカードの状況)ですので、企業が発表する改善計画の実現性を慎重に見極める必要があります。

改善期間は通常、どれくらいの長さが与えられるのですか?

抵触した上場維持基準の項目によって異なりますが、流通株式数や時価総額などの基準に満たなかった場合、原則として「1年間」の改善期間が設けられます。この猶予期間内に有効な対策を講じ、基準を回復できれば上場は維持されます。

企業が発表する「決算短信」の後に、監査によって利益が減ってしまうことはあるのですか?

はい、実際に起こり得ます。決算短信は、監査法人の厳格な監査手続きが完了する前に、会社側の責任において「速報値」として発表されるものです 。そのため、その後の監査の過程で重要な会計処理の誤りや、見積りの甘さが指摘された場合、有価証券報告書の提出時に利益が大きく下方修正されるケースが存在します 。

会社が赤字で苦しんでいるのに、貸借対照表に「繰延税金資産」という資産が増えるのはなぜですか?

会計のルールと税金のルールにはズレがあるためです。今は赤字で税金が安くならなくても、「将来黒字に回復した時に、過去の赤字と相殺して税金を安くしてもらえる権利」を、前倒しで資産として計上できる仕組みがあるからです 。ただし、この魔法のような資産を計上するには、将来の黒字化(回収可能性)を監査人に厳しく証明しなければなりません。

グロース市場の上場維持基準が厳しくて満たせない場合、スタンダード市場へ移ることはできますか?

はい、可能です。グロース市場は上場後10年が経過すると、時価総額40億円という高い基準が求められます。この成長要件の達成が現実的に厳しいと判断した場合、自社の安定的な実態に合わせて、より流動性基準に重きを置いたスタンダード市場への「市場区分の変更」を選択する企業も増えています。


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