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はじめに:貸手の変更点は限定的、でも油断は禁物
こんにちは、公認会計士のSatoです。
新リース会計基準導入実務シリーズ、第6回は「貸手(資産を貸す側)」の会計処理に焦点を当てます。
これまでの回で解説してきた通り、今回の新基準は「借手(借りる側)」に非常に大きな影響を与えます。それを聞いて、「うちはリース会社だから、あまり関係ないかな?」と思われている貸手企業のご担当者様もいらっしゃるかもしれません。
確かに、貸手の会計処理の基本的な枠組みは維持され、変更点は借手に比べて限定的です。しかし、「全く変わらない」わけではありません。特に、これまで特定の会計処理を採用していた企業にとっては、収益の計上パターンが大きく変わる可能性があります。
この記事では、リース会社や不動産賃貸業を営む企業の経理担当者の皆様に向けて、「何が変わり、何が変わらないのか」を明確にし、実務で押さえておくべきポイントを分かりやすく解説します。
新リース会計基準の導入実務についてのおさらい記事はこちらをご参照ください。
貸手の基本方針:ファイナンスとオペレーティングの区分は維持
まず最も重要な点として、貸手の会計処理は、借手のように単一のモデルにはならず、引き続きリース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれに応じた会計処理を行います(企業会計基準第34号第44項)。
| 借手(借りる側) | 貸手(貸す側) | |
| 新基準のモデル | 単一モデル (原則すべてのリースをオンバランス) | 区分モデル (ファイナンスとオペレーティングの区分を維持) |
この非対称なアプローチは、新基準が主に借手側のオフバランス問題を解決することを目的として開発された経緯を反映しています。したがって、貸手にとっては、現行実務からの大きな骨格変更はない、と理解していただいて大丈夫です。
ファイナンス・リースの会計処理
何が変わらないか?所有権移転・移転外の区分は維持
ファイナンス・リースは、さらに「所有権移転ファイナンス・リース」と「所有権移転外ファイナンス・リース」に分類されますが、この区分と判定基準も基本的に変更ありません。
例えば、リース期間終了後に所有権が借手に移転する条項や、割安購入選択権(バーゲン・パーチェス・オプション)が付与されているかどうかが、引き続き判定の基準となります(企業会計基準第34号第23項)。
何が変わるか?最大の変更点「割賦基準の廃止」
貸手のファイナンス・リースにおける最大の変更点は、会計処理方法の一つである「リース料受取時に売上高と売上原価を計上する方法」(いわゆる割賦基準)が廃止されることです。
これは、収益認識に関する会計基準において、収益を分割で認識する割賦基準が認められなくなったこととの整合性を図るための改正です。
この結果、今後はすべてのファイナンス・リース取引について、リース取引開始日に売上高と売上原価(またはリース投資資産)を一括で計上する方法に統一されます(通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理)(企業会計基準第34号第45項)。
| これまで(割賦基準採用の場合) | 今後(新基準) | |
| 売上計上 | リース料の回収日に、回収期限の到来したリース料を売上計上 | リース開始日に、リース料総額(利息抜き)を一括で売上計上 |
| 収益パターン | リース期間にわたり、分割して計上 | リース開始年度に集中して計上 |
この変更により、これまで割賦基準を採用していた貸手企業は、移行年度において一時的に利益が大きく計上される可能性があります。また、将来の収益計上パターンが、分割計上から一括計上へと変わるため、収益の変動性が高まることになります。この影響については、株主や投資家への十分な説明が必要となるでしょう。
オペレーティング・リースの会計処理
基本は不変:通常の賃貸借取引として処理
貸手のオペレーティング・リースの会計処理は、これまで通り、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて行われます。つまり、リース資産を固定資産として計上し、減価償却を行いながら、受取リース料をリース期間にわたって収益として計上します。
論点の明確化:フリーレントの収益認識
ただし、新基準では、収益認識会計基準との整合性を図る観点から、一部の論点が明確化されました。その一つが、フリーレント(契約開始から一定期間、賃料が無料になる契約)の取り扱いです。
新基準では、たとえ特定の期間に賃料の受け取りがなくても、リース期間全体で提供するサービスの対価としてリース料総額を受け取るものと考えます。したがって、受取リース料の総額をリース期間にわたって、原則として定額法で収益認識する必要があります(企業会計基準第34号第48項、企業会計基準適用指針第33号第82項)。
これにより、キャッシュの動きと収益認識のタイミングがズレることになります。
【設例】フリーレント付きオフィス賃貸契約
- 契約期間:3年(36か月)
- フリーレント期間:最初の6か月
- 月額賃料:100万円(7か月目以降)
この場合、貸手が受け取る賃料総額は 100万円 × 30か月 = 3,000万円 です。
会計上は、この3,000万円を契約期間全体(36か月)で按分して収益を認識します。
- 月々の収益認識額:3,000万円 ÷ 36か月 = 約83.3万円
<1年目の仕訳イメージ>
| 1~6か月目(フリーレント期間) | 7~12か月目 | |
| 現金入金 | 0円 | 100万円/月 |
| 収益認識 | 83.3万円/月 | 83.3万円/月 |
| 仕訳(簡略) | (借)未収収益 83.3 / (貸)受取家賃 83.3 | (借)現金預金 100 / (貸)受取家賃 83.3 (貸)未収収益 16.7 |
このように、フリーレント期間中も収益を計上し、キャッシュの入金がない分は「未収収益」などの資産で処理することになります。
まとめ:貸手企業が押さえるべき3つのポイント
今回は、新リース会計基準における貸手の会計処理について解説しました。借手ほど大きな変更はありませんが、以下の3点は確実に押さえておきましょう。
- ポイント1:基本方針は不変。引き続きファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類して会計処理を行う。
- ポイント2:ファイナンス・リースでは「割賦基準」が廃止され、リース開始日に売上を一括計上する方法に統一される。
- ポイント3:オペレーティング・リースでは、フリーレント期間を含めたリース期間全体で収益をならして認識する必要がある。
自社がどのリース取引に該当し、どの会計処理を採用しているかを確認し、変更点がある場合は、収益計画への影響を早期に把握することが重要です。
次回は、セールアンドリースバック・サブリース(転貸)の会計処理を詳しく解説していく予定です。ぜひ、そちらもご覧ください。
よくある質問(Q&A)
貸手側では、既存のリース契約をすべて見直して、ファイナンスかオペレーティングかを再判定する必要はありますか?
いいえ、原則としてその必要はありません。経過措置により、現行のリース会計基準を適用している既存のリース取引については、新基準における再度の分類判断を行わずに、これまでの分類を引き継ぐことが認められています(企業会計基準適用指針第33号第115項)。
サブリース(転貸)取引の会計処理に変更はありますか?
基本的な考え方に大きな変更はありません。中間的な貸手は、原則としてヘッドリース(元のリース)とサブリース(転貸)を2つの別個の契約として扱い、それぞれ借手と貸手の両方の会計処理を行います(企業会計基準適用指針第33号第89項)。
なぜ借手と貸手で会計処理のモデルが異なる(非対称な)のですか?
今回の基準開発の主な目的が、国際的に問題視されていた「借手のオフバランス処理」を解消することにあったためです 。貸手の会計処理は国際的にも大きな変更がなかったため、実務への影響を考慮し、従来の枠組みが基本的に維持されました。
割賦基準を適用していましたが、新基準への移行時にどのような会計処理が必要ですか?
経過措置の適用方法によりますが、原則的な取扱いでは、適用初年度の期首に、これまで分割計上してきた売上高と売上原価の未計上分を一括して利益剰余金に加減算するなどの会計処理が必要となります。詳細は会計専門家にご相談ください。
貸手の場合、注記情報で何か大きな変更点はありますか?
貸手に関しても、財務諸表利用者がリースによる影響を評価するための情報開示が求められます 。例えば、ファイナンス・リースについてはリース投資資産の内訳や将来の回収予定額、オペレーティング・リースについては将来の受取リース料の予定額などの注記が必要となります(企業会計基準適用指針第33号第100項、第102項)。
ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。