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新リース会計基準導入実務(10)【新リース会計基準 まとめ】導入プロジェクト完全ロードマップ|公認会計士が4つのフェーズと成功の秘訣を解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • 新リース対応のプロジェクト担当者の方
  • 導入までの全体像と流れを把握したい方
  • 具体的なタスクリストが欲しい方
  • プロジェクトの失敗を避けたい方

はじめに:シリーズ総まとめ!プロジェクト成功への道筋

こんにちは、公認会計士のSatoです。

全10回にわたってお届けしてきた「新リース会計基準導入実務」シリーズも、いよいよ最終回を迎えました。これまで、リースの識別から具体的な会計処理、税務への影響まで、各論点を詳しく解説してきました。

最終回となる今回は、これまでの知識を総動員し、「実際にどのようにプロジェクトを進めていけばよいのか」という問いに答えるための総まとめとして、導入プロジェクトの全体像を具体的なロードマップの形で示します。

新リース会計基準への対応は、経理部門だけの閉じた話ではありません。全社を巻き込む一大プロジェクトです。どこから手をつければよいか分からない、という方も多いのではないでしょうか。

この記事を読めば、プロジェクト開始から完了までの具体的なステップ、各フェーズでやるべきこと、そして成功のための勘所が分かります。ぜひ、自社のプロジェクト計画を立てる際の羅針盤としてご活用ください。

新リース会計基準 導入プロジェクト・ロードマップ

新リース会計基準の導入プロジェクトは、大きく4つのフェーズに分けられます。ここでは、一般的な18ヶ月のスケジュールを想定して解説します。

フェーズ1:計画と体制構築(開始〜3ヶ月)~すべての土台作り~

プロジェクトの成否は、最初の計画段階で8割決まると言っても過言ではありません。

  • 責任者とチームの組成: 経理・財務部門が主体となりつつも、契約情報を管理するIT、法務、調達、各事業部門を巻き込んだクロスファンクショナルなチームを組成し、プロジェクト責任者を任命します。
  • スコープと予算の確定: どの範囲の契約を対象とするか(国内子会社、海外子会社など)、システム導入や外部コンサルタントの活用は必要かなどを検討し、予算を確保します。
  • 情報収集と関係者教育: 経営層を含む関係者に対し、新基準の概要と自社への影響(特に財務指標へのインパクト)について説明会などを実施し、全社的な理解と協力を得る基盤を築きます。
  • 監査法人との協議開始: プロジェクト計画や、後々論点になりそうな主要な会計方針(リース期間の決定方針など)について、早期に監査法人と協議を開始し、認識の齟齬を防ぎます。

フェーズ2:契約の網羅的把握と評価(3〜9ヶ月)~最も地道で重要な工程~

このフェーズは、プロジェクトの中で最も地道で、かつ最も時間のかかる作業です。ここでの精度が、後続作業の質を決定します。

  • 契約の網羅的収集: 全社に散在するリースに該当しうる契約(賃貸借契約、レンタル契約、業務委託契約、保守契約など)を漏れなく収集します。各部署へのヒアリングや、勘定科目からのアプローチが有効です。
  • リースの識別: 収集した契約について、本シリーズ第2回で解説した基準に基づき、リースに該当するかどうかを判定します(企業会計基準第26項)。
  • 重要情報の抽出: リースに該当する契約から、計算に必要な情報を抽出・整理します。
    • リース期間: 延長・解約オプションの行使可能性を評価して決定します(企業会計基準第31項)。事業部門の計画が重要な判断材料となるため、密な連携が不可欠です。本シリーズで第3回解説した基準も参考にしてください。
    • リース料: 固定リース料、変動リース料などを特定します。
    • 割引率: 貸手の計算利子率が不明な場合、借手の追加借入利子率を算定します(企業会計基準適用指針第33号 第37項)。財務部門との連携が必要です。

フェーズ3:会計処理とシステム構築(9〜15ヶ月)~計算と仕組み化~

データ収集が完了したら、具体的な計算と、それを継続的に処理するためのシステムへの落とし込みを行います。

  • リース台帳の作成: 収集・評価した情報に基づき、リース契約ごとの管理台帳を作成します。Excelでの管理も可能ですが、契約数が数十件を超える場合は、計算の自動化や内部統制の観点から、専用のリース管理システムの導入を強く推奨します。
  • 使用権資産・リース負債の計算: 各契約について、使用権資産とリース負債の金額を計算します(企業会計基準第33項、第34項)。
  • 会計処理・仕訳パターンの設計: 新基準に基づく仕訳パターンを設計し、会計システムへの連携方法を確立します。税効果会計への影響もこの段階で具体的に検討します。

フェーズ4:移行と報告体制の整備(15〜18ヶ月)~最終準備と定着化~

最終段階として、新基準への移行準備と、適用開始後の運用体制を構築します。

  • 経過措置の決定と影響額の算定: 本シリーズ第8回で解説した経過措置の方針(原則法か簡便法か)を最終決定し、適用初年度の期首における財務諸表への影響額(利益剰余金への影響など)を算定します(企業会計基準適用指針第33号 第118項、第123項)。
  • 開示情報の準備: 注記で必要となる定性的・定量的情報(リース負債のマチュリティ分析など)を収集・作成します(企業会計基準第54項、第55項、企業会計基準適用指針第33号 第95項、第97項、第99項、第100項、第102項)。
  • 業務プロセスの構築と文書化: 新規契約時の対応や契約変更時の対応など、新たな会計処理やデータ管理に関する業務フローを整備し、マニュアル等に文書化します。これは内部統制(J-SOX)の観点からも非常に重要です。

導入成功のための3つの秘訣

これまでの10回にわたる解説の締めくくりとして、私の監査経験から導入プロジェクトを成功に導くための3つの秘訣をお伝えします。

  1. 早期着手(Start Early): 最大の失敗要因は、準備期間の見積もりの甘さです。特にフェーズ2の「契約の網羅的把握」には、多くの企業が想定以上の時間を要しています。強制適用の時期(2027年4月〜)を待たず、今すぐ着手することが最も重要です。
  2. 全部門の巻き込み(Involve Everyone): これは経理部門だけのプロジェクトではありません。契約情報を持ち、リース期間の判断材料を提供する各事業部門の協力なくして成功はあり得ません。「なぜこの作業が必要なのか」を丁寧に説明し、全社的なプロジェクトとして推進するリーダーシップが求められます。
  3. 監査法人との対話(Talk to Your Auditor): 判断に迷う論点(リースの識別、リース期間の算定、経過措置の選択など)については、決算間際に指摘を受けて覆されるリスクを避けるため、プロセスのできるだけ早い段階で監査法人と協議し、合意を形成しておくべきです。

【ダウンロード可能】プロジェクト管理用タスクチェックリスト

プロジェクトを円滑に進めるために、具体的なタスクリストを作成しました。ぜひ、自社の状況に合わせてカスタマイズしてご活用ください。

フェーズタスク担当部署(例)完了確認
フェーズ1:計画プロジェクトリーダーの任命経営層、経理
プロジェクトチームの組成経理、IT、法務、事業部門
予算確保経営層、経理
監査法人とのキックオフミーティング経理、監査役
フェーズ2:データ収集リース契約候補のリストアップ全部門
リース識別方針の決定・文書化経理
割引率算定方針の決定経理、財務
リース期間判定方針の決定経理、事業部門
フェーズ3:計算・システムリース管理台帳の作成経理
リース管理システムの選定・導入経理、IT
使用権資産・リース負債の計算経理
会計システムへの仕訳パターン設定経理、IT
フェーズ4:報告・移行経過措置の方針決定経理、経営層
適用初年度の期首仕訳の準備経理
開示注記情報のドラフト作成経理
新業務フローの文書化と研修実施経理、関連部門

終わりに:計画的な準備こそが、成功への唯一の道

全10回にわたり、新リース会計基準の実務対応について解説してきました。この基準変更は、単なる会計ルールの変更ではなく、企業の契約管理や業務プロセス、さらには財務戦略そのものを見直すきっかけとなり得ます。

道のりは長く、地道な作業も多いですが、本シリーズで解説したロードマップとポイントを押さえ、計画的に準備を進めれば、必ず乗り越えることができます。

この連載が、皆様の実務の一助となれば幸いです。最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。

sato
sato

新リース会計基準の導入実務についてのおさらい記事はこちらをご参照ください。

よくある質問(Q&A)

プロジェクトはいつから始めるべきですか?

結論から言うと「今すぐ」です。特に全社に散らばる契約書を漏れなく収集する作業は、多くの企業が想定以上に時間を要しています。2027年4月からの強制適用を待つのではなく、少なくとも1年半~2年前にはプロジェクトを本格始動させることを強くお勧めします。

リース契約の管理はExcelでも可能ですか?

契約件数が10~20件程度であればExcelでの管理も不可能ではありません。しかし、それ以上になると、計算の複雑さ、バージョン管理、内部統制の観点からリスクが高まります。減価償却や利息計算、契約変更時の再計算などを自動で行えるリース管理システムの導入を検討するのが現実的です。

プロジェクトを進める上で、最も困難な点は何ですか?

多くの企業が、フェーズ2の「契約の網羅的把握」と「リース期間の決定」で苦労します。契約書が各部署でバラバラに管理されていたり、「業務委託契約」などの名称に隠れたリースを見抜けなかったりするためです。また、リース期間の決定には事業部門の将来計画が関わるため、経理部門だけでは判断できず、部門間の調整が難航するケースも少なくありません。

経過措置の「簡便法」を使えば、過去の契約を全く見直さなくてよいのですか?

いいえ、それは誤解です。簡便法はあくまで適用初年度の「計算方法」を簡略化するものです。適用初年度の期首時点で存在するすべてのリース契約(これまでオフバランスだった不動産賃貸借契約などを含む)を洗い出し、「リースの識別」をやり直す必要があります。その上で、残りのリース期間やリース料を把握し、リース負債を計算することになります。

経営層になかなか重要性を理解してもらえません。どう説明すればよいでしょうか?

2つのアプローチが有効です。1つは「財務インパクト」です。BSが大きく膨らむことで自己資本比率などの財務指標が悪化し、金融機関との融資契約(財務制限条項)に抵触するリスクがあることを具体的に示すことです。もう1つは「業務インパクト」です。全社的な契約の洗い出しや新システムの導入など、対応が遅れると決算・開示に間に合わなくなるリスクがあることを伝え、早期の経営判断を促しましょう。


sato
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ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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