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新リース会計基準導入実務(9)【新リース会計基準と税務】申告調整は必要?税効果会計への影響を公認会計士が解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • 新リース基準の税務への影響を知りたい方
  • 新リース基準の法人税の申告調整について理解したい方
  • 税効果会計を担当されている方
  • 顧問税理士との連携を考えている方

はじめに:会計と税務の「ズレ」は避けられない最重要テーマ

新リース会計基準導入実務シリーズ、第9回は、多くの経理・財務担当者の方が最も頭を悩ませるであろう「税務」との関係についてです。

新リース会計基準を適用して会計上の処理が大きく変わる中で、「法人税の申告はどうなるの?」「何か特別な調整が必要になるの?」という疑問は尽きないかと思います。

結論から言うと、会計上のルールと税務上のルールに「ズレ」が生じるため、法人税の申告調整が新たに必要となり、税効果会計にも大きな影響が及びます。

この記事では、この「会計と税務のズレ」がなぜ生じるのか、そして、その結果として具体的にどのような申告調整や税効果会計の処理が必要になるのか、その考え方の核心部分を分かりやすく解説します。

大原則:税法上のリース取引の考え方は変わらない

まず、絶対に押さえておくべき大原則があります。それは、「会計基準が変わっても、法人税法上のリース取引の考え方は変わらない」ということです。

税法では、引き続きリース取引を「法人税法上のリース取引(実質が売買と認められるもの)」と「それ以外のリース取引(賃貸借取引)」に区分し、それぞれに応じた処理を行います(法人税法第64条の2第3項)。

区分税務上の取り扱い
法人税法上のリース取引 (会計上の旧ファイナンス・リースに類似)資産の売買があったものとして処理。賃借人はリース資産を計上し、減価償却費を損金算入する。
それ以外のリース取引 (会計上の旧オペレーティング・リースに類似)賃貸借取引として処理。支払リース料を損金算入する。

つまり、会計上はすべてのリースが原則としてオンバランス(資産・負債計上)されても、税務上のルールは従来の考え方がそのまま維持されるため、両者の間に「ズレ」が生じることになるのです。

会計と税務の「ズレ」から生じる申告調整

この会計と税務のズレは、法人税の申告書を作成する上で調整(申告調整)する必要があります。

旧オペレーティング・リースが最大の調整項目に

最も大きな影響が出るのは、会計上はオペレーティング・リースとして処理していたものの、税務上は賃貸借取引に該当すると判断されるリースです(例:多くの不動産賃貸借契約)。

会計上の費用税務上の損金
旧オペレーティング・リース使用権資産の減価償却費支払利息支払リース料

このように、会計上の費用認識額と税務上の損金算入額の金額とタイミングが異なるため、この差額を法人税申告書で調整する必要が出てきます。

これは、リース契約が満了するまで、毎年調整計算が必要になることを意味します。リース契約を多数抱える企業にとっては、税務申告業務が大幅に煩雑化する可能性があるため、早期の準備が不可欠です。

具体的な申告調整のイメージ(別表四、五)

法人税申告書の別表四(所得の金額の計算に関する明細書)では、会計上の利益(税引前当期純利益)を税務上の所得に修正するため、以下のような調整が行われます。

  1. 会計上の利益に、会計上の費用(減価償却費、支払利息)を加算(損金として認めないため)。
  2. そこから、税務上の損金である支払リース料を減算(損金として認めるため)。

<別表四での調整イメージ>

区分調整内容
加算(留保)認容:使用権資産減価償却費 認容:支払利息
減算(留保)減算:支払リース料

この結果生じる会計上の資産・負債(使用権資産、リース負債)と税務上の資産・負債(ゼロ)の差額(一時差異)は、別表五(一)(利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書)で管理されることになります。

税効果会計への影響

新たな「一時差異」の発生と繰延税金資産・負債

申告調整が必要となる会計と税務のズレ(一時差異)は、税効果会計の対象となります。

旧オペレーティング・リースの場合、会計と税務で以下のような資産・負債の差額が生じます。

会計上のBS税務上のBS一時差異の種類
資産使用権資産なし(ゼロ)将来加算一時差異
負債リース負債なし(ゼロ)将来減算一時差異

この一時差異に対して、法定実効税率を乗じて「繰延税金資産」または「繰延税金負債」を計上する必要があります。

  • 使用権資産:将来、減価償却費として費用計上されるが、税務上は損金不算入となるため、将来の税金負担を増やす効果がある(→繰延税金負債の発生要因)。
  • リース負債:将来、リース料の支払い(元本返済)が行われるが、税務上はその支払額が損金算入されるため、将来の税金負担を減らす効果がある(→繰延税金資産の発生要因)。

なぜ税務担当者との早期連携が不可欠なのか

このように、新リース会計基準の導入は、法人税申告業務だけでなく、税効果会計にも大きな影響を及ぼします。

特に重要なのは、会計上の判断(例:リース期間の決定、割引率の算定など)が、そのまま税務上の繰延税金資産・負債の金額に直接影響を与えるという点です。

私自身も監査の現場で、「会計処理は決まったけれど、税務への影響が考慮されていなかった」というケースに遭遇することがあります。後から手戻りが発生しないよう、新リース会計基準対応プロジェクトの初期段階から、税務部門や顧問税理士を巻き込み、これらの差額を正確に管理・追跡するための仕組みを構築することが、円滑な決算・申告業務の遂行に不可欠です。

まとめ:会計・税務の連携が円滑な移行の鍵

今回は、新リース会計基準が税務に与える影響について解説しました。

  • ポイント1:会計基準は変わるが、法人税法上のリースの考え方は変わらない
  • ポイント2:旧オペレーティング・リースを中心に、会計と税務の「ズレ」が生じ、法人税の申告調整が必須になる。
  • ポイント3:この「ズレ(一時差異)」は税効果会計の対象となり、繰延税金資産・負債の計上が必要になる。
  • ポイント4:会計上の判断が税務インパクトに直結するため、プロジェクト初期からの会計・税務の連携が成功の鍵を握る。

新リース会計基準への対応は、会計部門だけのタスクではありません。全社的な視点を持ち、特に税務との連携を密にしながら、計画的に準備を進めていきましょう。

sato
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次回は、新リース会計基準導入プロジェクト・ロードマップについて詳しく解説していく予定です。ぜひ、そちらもご覧ください。

よくある質問(Q&A)

税務上のリース取引の判定基準は、会計上の旧ファイナンス・リースの判定基準と全く同じですか?

基本的な考え方は非常に似ていますが、完全に同一ではありません。例えば、税法独自の基準として「リース期間が法定耐用年数に比して著しく短いリース取引」を所有権移転リース取引とみなす規定などがあります。そのため、個別の契約ごとに税法上のどの区分に該当するかを改めて確認することが重要です。

会計上、短期リースや少額リースの簡便処理を適用した場合、税務上の扱いはどうなりますか?

会計上で使用権資産・リース負債を計上しない簡便処理を適用した場合、会計上の費用は「支払リース料」となります。これは税務上の「賃貸借取引」における損金(支払リース料)の考え方と一致するため、原則として申告調整は不要となります。

申告調整は具体的にいつから必要になりますか?

新リース会計基準を適用した事業年度の法人税申告から必要になります。例えば、3月決算法人が2027年4月1日から始まる事業年度で新基準を適用した場合、2028年3月期の申告から調整が必要となります。

繰延税金資産の回収可能性の判断に影響はありますか?

はい、影響があります。リース負債に関連して新たに多額の繰延税金資産が計上される場合、その回収可能性(将来の課税所得の見積りなど)を慎重に検討する必要があります。特に、将来減算一時差異(リース負債)と将来加算一時差異(使用権資産)の解消スケジュールが一致しないため、個別の検討が求められます。

消費税の扱いに変更はありますか?

いいえ、消費税の取り扱いに変更はありません。消費税法上の扱いは法人税法上の扱いに準じます。したがって、法人税法上で売買とみなされるリース取引(所有権移転外ファイナンス・リースなど)は、原則としてリース開始時にリース料総額に係る消費税を一括で仕入税額控除します。賃貸借取引とされるものは、引き続き支払リース料ごとに仕入税額控除を行います。


sato
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ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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