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収益認識会計基準の開示を徹底解説|有価証券報告書と会社法計算書類の注記【会計士監修】

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • 収益認識の注記の書き方が知りたい方
  • 上場/非上場で開示がどう違うか知りたい方
  • 経理・財務の実務に携わっている方

はじめに:なぜ今「収益認識の開示」が重要なのか?

2021年4月1日以後開始する事業年度から、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)が本格的に適用され、企業の売上計上のルールが大きく変わりました 。この基準は、これまで業種ごとなどで異なっていた収益認識のルールを統一し、国際的な会計基準(IFRS第15号など)との整合性を図るために導入されたものです 。  

この変更は、単に会計処理が変わるだけではありません。投資家をはじめとするステークホルダーに対し、「自社がどのようにして、いつ、いくらの収益を上げているのか」を、これまで以上に詳細かつ明確に説明することが求められるようになりました。つまり、会計基準への対応は、自社のビジネスモデルを外部へ効果的に伝えるための戦略的なコミュニケーション活動そのものなのです。

本記事では、経営者や実務担当者の皆様に向けて、この収益認識会計基準における開示、特に「注記事項」に焦点を当てて解説します。特に、金融商品取引法に基づく「有価証券報告書」と、会社法に基づく「会社法計算書類」とでは、求められる開示内容に重要な違いがあります。特に非上場企業にとっては、開示負担を大幅に軽減できるポイントも存在します 。  

この記事を通じて、法令に準拠した適切な開示を行うための知識と、実務上のポイントを具体的に理解していきましょう。

【上場企業向け】有価証券報告書における収益認識の注記

上場企業など、有価証券報告書の提出が義務付けられている会社は、最も詳細なレベルでの開示が求められます。注記は大きく分けて「重要な会計方針」と「収益認識に関する注記」の2つで構成されます。

すべての基礎となる「重要な会計方針」の注記

これは、会社の収益認識に関する基本的な考え方を要約して示す、いわば「収益開示の顔」となる部分です。投資家が最初に目にする場所であり、ここで会社の収益構造の全体像を簡潔に伝える必要があります。

企業会計基準第29号の第80-2項および第80-3項に基づき、最低限、以下の2項目を記載しなければなりません 。  

  1. 企業の主要な事業における主な履行義務の内容: 「履行義務」とは、顧客に対して財やサービスを提供するという「約束」のことです。ここでは、自社の主要な事業が、顧客にどのような価値を提供することを約束しているのかを具体的に記載します。 (例:「完成品の製造販売」「サブスクリプション形式によるソフトウェアの提供」「長期請負工事の施工」など)
  2. 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点): 上記1.の「約束」をいつ果たしたと判断し、売上を計上するのかを記載します。 (例:「顧客への製品引渡し時点」「契約期間にわたり定額」「工事の進捗度に応じて」など)

もし、出荷基準を引渡時点の代替的な取扱いとして採用している場合など、会計処理において重要な判断を伴う代替的な取扱いを適用している場合は、その旨も重要な会計方針として記載することが考えられます 。  

詳細情報を示す「収益認識に関する注記」

「重要な会計方針」が全体像を示すものであるのに対し、「収益認識に関する注記」は、その内訳や根拠をより詳細に説明するものです。

この注記の最大の目的は、企業会計基準委員会(ASBJ)や金融庁が示す通り、「顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を提供する」ことにあります(会計基準第80-4項) 。  

この目的を達成するため、注記は以下の3つの柱で構成されます 。  

表1:有価証券報告書における「収益認識に関する注記」の3つの柱
注記の構成要素開示の目的主な記載内容の例参照基準
1. 収益の分解情報収益がどのような要因で構成されているかを示す・製品/サービスの種類別 ・地理的区分別 ・市場/顧客の種類別 ・契約期間別  企業会計基準第29号第80-10項
2. 収益を理解するための基礎となる情報収益計上の「方法」と「判断」を具体的に説明する・履行義務の内容(返品権、保証など)  ・取引価格の算定方法(変動対価など) ・履行義務の充足時点の判断根拠  企業会計基準第29号第80-12項
3. 当期及び翌期以降の収益を理解するための情報将来の収益見通しに関する情報を提供する・契約資産・契約負債の期首・期末残高  ・期首の契約負債から当期認識された収益額 ・残存履行義務に配分した取引価格  企業会計基準第29号第80-20項

金融庁が公表した「令和4年度有価証券報告書レビュー」の結果を見ると、多くの企業が形式的にはルールを遵守しているものの、開示の「十分性」という観点では課題が見られると指摘されています 。これは、単にテンプレート通りの記載をするだけでは不十分であることを意味します。  

例えば、「支配が移転した時点で収益を認識する」と記載するだけでなく、「なぜその時点が支配の移転した時点であると判断したのか」という企業の判断プロセスを開示することが求められています 。特に、返品権付きの販売や、複数のサービスを組み合わせた契約など、会計上の判断が求められる取引については、その判断根拠を丁寧に説明することが、規制当局や投資家からの信頼を得る上で不可欠です。この点は、国際会計基準IFRS第15号の適用時に海外企業が直面した課題とも共通しており 、グローバルな投資家の視点を意識した、より質の高い情報開示が求められていると言えるでしょう。  

【すべての株式会社向け】会社法計算書類における収益認識の注記

ここからは、上場・非上場を問わず、すべての株式会社に適用される会社法計算書類での開示について解説します。特に非上場企業にとっては、実務上の負担を大きく左右する重要なポイントが含まれています。

会社法における注記のルール(会社計算規則)

会社法計算書類における開示の具体的なルールは、法務省令である「会社計算規則」に定められています 。  

まず、「重要な会計方針」に関する注記(会社計算規則第101条第2項)については、有価証券報告書と実質的に同じ内容が求められます。つまり、すべての株式会社は、自社の主要な事業における「主な履行義務の内容」と「収益を認識する通常の時点」を注記する必要があります 。  

最大のポイント:非上場企業は注記を大幅に省略できる

会社法計算書類における開示の最大のポイントは、有価証券報告書の提出義務がない会社(非上場企業など)は、「収益認識に関する注記」を大幅に省略できるという点です 。  

このルールは、会社計算規則第115条の2に明確に定められています 。具体的には、有価証券報告書で求められる3つの柱のうち、以下の2つを省略することが認められています。  

  • 省略可能1:収益の分解情報
  • 省略可能2:当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

これにより、非上場企業が記載すべきなのは「収益を理解するための基礎となる情報」のみとなります。さらに、この記載内容が「重要な会計方針」の注記内容と重複する場合には、その旨を記載すればよく、改めて注記する必要はありません 。  

この違いは、特に中小企業にとって非常に重要です。将来の収益見通しに関する情報や、詳細な収益の内訳情報の作成・開示には多大な労力を要するため、この省略規定を正しく理解し活用することで、経理部門の負担を大幅に軽減することが可能です。

表2:開示要求の比較:有価証券報告書 vs. 会社法計算書類(非上場)
注記事項有価証券報告書提出会社有価証券報告書提出会社以外 (非上場企業など)根拠法令
重要な会計方針必要必要会社計算規則第101条2項
収益の分解情報必要省略可能会社計算規則第115条の2
収益を理解するための基礎となる情報必要必要 (※会計方針と重複する場合は参照可)会社計算規則第115条の2
当期及び翌期以降の収益情報必要省略可能会社計算規則第115条の2
引用・参考文献
  • 金融庁(FSA)公表資料(有価証券報告書レビュー結果など)  
  • 企業会計基準委員会(ASBJ)公表資料(企業会計基準第29号など)
  • e-Gov法令検索(会社計算規則)  

まとめ

収益認識会計基準の導入により、企業は自社の収益構造をより詳細に説明する責任を負うことになりました。最後に、本記事の重要なポイントをまとめます。

  • 収益認識の開示ルールは、金融商品取引法の「有価証券報告書」と会社法の「会社法計算書類」で異なる。
  • 上場企業は、「重要な会計方針」に加え、「収益の分解」「基礎情報」「将来情報」という3つの柱からなる詳細な注記が必須。
  • 非上場企業は、会社法計算書類において「収益の分解」と「将来情報」の注記を省略できるという大きなメリットがある(会社計算規則第115条の2)。
  • 開示の目的は、単にルールを守ることではなく、自社のビジネスモデルをステークホルダーに分かりやすく説明し、企業価値向上につなげることにある。

本記事が、皆様の決算・開示実務の一助となれば幸いです。

よくある質問(Q&A)

当社の事業が複数ある場合、「主要な事業」はどこまでの範囲で記載すべきですか?

「主要な事業」の範囲に明確な数値基準はありませんが、一般的には、売上高の大部分を占める事業や、会社の経営戦略上、特に重要と位置づけている事業が該当します。開示の目的は、財務諸表の利用者がその会社の収益構造の核となる部分を理解できるようにすることです。したがって、売上高などの定量的な要因と、事業の質的な重要性の両方を考慮して、実態に即して判断することが求められます。

「収益を理解するための基礎となる情報」として、具体的に何を書けばよいのでしょうか?

契約に含まれる重要な条件のうち、収益の金額や認識タイミングに影響を与えるものを具体的に記載します。例えば、製品販売に返品権が付与されている場合は、その内容や返品額の見積り方法を説明します 。また、通常の保証とは別に、追加の保守サービスなどを「保証」として提供している場合、それが独立した履行義務(収益を別途認識すべきサービス)である旨などを記載する必要があります 。自社の取引実態に照らして、投資家が収益内容を理解する上で重要と考えられる情報を記載することがポイントです。

私たちは非上場の会社ですが、会社法で省略可能な注記も、銀行融資などのために自主的に開示した方がよいのでしょうか?

法的な開示義務はありませんが、自主的な開示が有効な場合があります。金融機関や取引先、将来の出資者などのステークホルダーに対して、事業の透明性を示し、信頼性を高める効果が期待できます。特に、収益の内訳を示す「収益の分解情報」は、事業の多角化や成長性をアピールする上で有用な情報となり得ます。開示にかかるコストと、ステークホルダーとの関係構築というメリットを比較衡量し、経営判断として決定することをお勧めします。


なお、本稿の参考となる書籍はこちらをご覧ください。

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