1.会計・税務

清算中の子会社は連結から外す?会計処理と仕訳を会計士がわかりやすく解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

「うちの子会社、事業をたたむことになったんだけど、決算書はどうすればいいんだろう…?」

経営者の方から、このようなご相談をいただくことがあります。特に、複数の会社をグループ経営している場合、「連結決算」という作業が必要になり、子会社の清算は少し複雑な問題になります。

この記事では、公認会計士が、

  • そもそも連結決算って何?
  • 子会社を連結から外せるのはどんなとき?
  • 清算する子会社を連結から外すときの具体的な会計処理と仕訳
  • 意外と知らない「会計」と「税金」のルールの違い

について、図解を交えながらわかりやすく解説します。

1. 導入:そもそも「連結決算」って何?会社の成績表をグループでまとめる理由

連結決算を、ひとことで言うと「グループ全体の成績表」を作成することです。

会計ルールでは、親会社が子会社を「支配」している場合、その子会社の業績や財産も親会社のものと一体とみなして、合算した決算書(連結財務諸表)を作ることを原則としています 。これにより、投資家や銀行は、その企業グループ全体の本当の実力を正しく評価できるのです。  

しかし、ここで疑問が生まれます。

「もし、子会社が会社をたたむ(清算する)ことになったら、その『家族の家計簿』にも入れ続けるべきなのでしょうか?」

答えは「いいえ」です。このようなケースでは、子会社を連結の範囲から外す「連結除外」という手続きが必要になります。

2. 「連結除外」が認められる3つのケース

原則としてすべての子会社は連結の対象となりますが、例外的に連結から外すことが認められるケースがあります。主に以下の3つです 。  

【Point】 連結除外が認められる主なケース

  1. 清算や売却で支配がなくなる場合
  2. 支配が一時的な場合
  3. 重要性が乏しい場合
ケース1:清算や売却で支配がなくなる場合

本記事のメイントピックです。子会社が解散・清算手続きに入ると、その事業活動は停止します。もはやグループ全体の業績に貢献することはないため、連結に含めておく合理性がありません 。また、子会社の株式を外部に売却して支配を失った場合も同様に連結から除外します。  

ケース2:支配が一時的な場合

最初からすぐに売却する目的で子会社を取得した場合など、親会社の支配がごく短期間で終わることが明らかなケースです。このような一時的な関係の会社を連結に含めると、かえってグループの実態を正しく表せなくなるため、除外が認められます 。  

ケース3:重要性が乏しい場合

子会社の規模が非常に小さく、その会社の業績を連結に含めても、グループ全体の財務諸表にほとんど影響を与えない場合です 。このような重要性のない子会社まで連結の対象とすると、書類作成の手間ばかりが増えてしまうため、例外的に除外が認められています。  

3. 【本題】清算する子会社を連結から外すときの会計ルール

それでは、子会社が清算に入った場合の具体的な会計処理を見ていきましょう。

3-1. 公式ルールを確認:会計基準の定め

まず、会計処理の根拠となる公式ルールを確認します。日本の会計ルールブックである「企業会計基準」には、連結から除外できるケースが定められています。

企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」第14項 子会社のうち次に該当するものは、連結の範囲に含めない。 (1) 支配が一時的であると認められる企業 (2) (1)以外の企業であって、連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業

出典:e-Gov法令検索「連結財務諸表に関する会計基準

清算中の子会社は、事業活動が停止しており、もはやグループの一員として活動していないため、上記(2)の「連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業」に該当すると考えられ、連結から除外するのが一般的です。

3-2. 具体的な会計処理:仕訳と財務諸表への影響

連結除外が決まったら、親会社は会計処理を行う必要があります。ここでは「親会社の個別決算書での処理」と「グループ全体の連結決算書への影響」の2つの側面から見ていきます。

【親会社の個別決算書での処理(仕訳)】

親会社は、保有している子会社の株式の価値がなくなった(または著しく減少した)と判断し、損失を計上します。

(仕訳のイメージ)

  • Before: 親会社の貸借対照表に「子会社株式 100万円」が資産として計上されている。
  • After: 子会社の清算により、株式の価値がゼロになったと判断。
  • 仕訳: 資産である「子会社株式」をなくし、同額を費用(損失)として計上する。

具体的な仕訳は以下のようになります。

例:帳簿価額100万円の子会社株式の価値が、清算によりゼロになった場合

勘定科目借方貸方
投資有価証券評価損1,000,000円
子会社株式1,000,000円

この処理により、親会社のその期の利益が100万円減少することになります 。  

【連結財務諸表への影響】

連結除外を行うと、グループ全体の成績表である連結財務諸表にも変化が現れます。

  • 連結損益計算書・連結貸借対照表への影響
    • 除外した子会社の売上、費用、資産、負債のすべてが、グループ全体の数字から除かれます 。もし黒字の子会社が連結から外れれば、グループ全体の利益が減少する要因となります。  
  • 連結キャッシュ・フロー計算書への影響
    • キャッシュ・フロー計算書は、グループ全体の「お金の流れ」を示す計算書です。子会社の連結除外は、ここにも影響を与えます。
    • 特に清算の場合は注意が必要です。株式を売却してお金が入ってくるわけではないため、単純な収入として計上することはできません 。  
    • 【専門家の視点】100%子会社の場合
      • 子会社は清算の最後に残った財産(残余財産)を株主である親会社に分配します。
      • このとき、子会社側ではお金が出ていき(キャッシュ・アウト)、親会社側ではお金が入ってきます(キャッシュ・イン) 。  
      • グループ全体で見ると、このお金の動きは内部での移動にすぎず、相殺されてゼロになります。そのため、100%子会社の清算では、連結キャッシュ・フロー計算書上の増減は発生しません 。  

4. 【応用編】知っておきたい「会計」と「税務」の意外な違い

これは実務上、非常によくある誤解であり、重要なポイントです。

【注意】 会計上の損失 ≠ 税務上の損金

税金の計算ルール(税法)では、子会社が清算した場合の株式の損失は、原則として損金に算入できないとされています 。  

つまり、会計帳簿上は100万円の損失を計上して利益が減っていても、税金の計算上はその損失がなかったものとして扱われるため、節税効果は基本的にありません。

この会計と税務のズレを調整するために、法人税の申告書(別表四や別表五(一)といった書類)で特別な調整計算が必要になります 。  

ただし、一定の条件を満たす100%子会社の清算の場合、子会社が使い切れなかった税務上の赤字(繰越欠損金)を親会社が引き継げる制度もあります 。  

このあたりの判断は非常に専門的ですので、必ず税理士などの専門家に相談することをお勧めします。

5. まとめ:清算時の連結除外で押さえるべき3つのポイント

最後に、この記事の要点を3つにまとめます。

  1. 清算中の子会社は連結から外すのが原則
    • 事業活動が停止し、グループの実態を表さなくなるため、「連結除外」を行います。
  2. 会計処理では親会社で損失を計上
    • 親会社の個別決算書では、子会社株式の価値がなくなった分を「投資有価証券評価損」などの損失として処理します。連結決算書上は、その子会社の業績がすべて除外されます。
  3. 会計上の損失と税務上の損金は違う
    • 会計上、損失を計上しても、税金の計算上は損金として認められないのが原則です。税務申告には専門的な判断が必要なため、注意が必要です。

子会社の清算は、経営判断として避けられない場面もありますが、その会計・税務処理は複雑です。判断に迷った場合は、早めに公認会計士や税理士にご相談ください。


ここでは、あくまで私個人の視点から、ご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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