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株式上場(IPO)の実務(15) IPOの成否を握る最重要パートナー!「主幹事証券会社」の選び方

株式上場(IPO)という、会社の未来を賭けた一大プロジェクト。その成否は、誰をパートナーに選ぶかに大きく左右されます。中でも、「主幹事証券会社」の選定は、IPO準備における最も重要といっても過言ではない経営判断です。

彼らは単なるアドバイザーではありません。IPOまでの道のりを導く「航海士」であり、上場に値するかを厳しくチェックする「審査官」でもあり、そして上場後は会社の株を世に送り出す「販売責任者」でもあります。

この重要なパートナー選びを、知名度や漠然としたイメージだけで決めてしまうと、後々大きな困難に直面しかねません。

本記事では、いつ、何を基準に、どうやって最高のパートナーを見つけるのか、主幹事証券会社選定の全プロセスを徹底解説します。

いつ選ぶべきか?最適なタイミングは「N-2期」

多くの経営者が悩むのが、「いつ証券会社とコンタクトを取るべきか」という問題です。

結論から言うと、理想的なタイミングは「申請期の2期前(N-2期)」、遅くともその前半です。

なぜそんなに早く選ぶ必要があるのでしょうか?

  • 後戻りできない論点への助言: 資本政策(持株比率やストックオプション)や内部管理体制の構築など、早期に固めるべき重要な論点について、専門的な指導を受けながら進めることができます。
  • 監査法人ショートレビューへの同席: N-2期に行われる監査法人による予備調査(ショートレビュー)に同席してもらうことで、課題を早期に共有し、対策を講じることができます。
  • 信頼関係の構築: IPOは数年にわたる長い道のりです。早期にパートナーシップを組むことで、じっくりと信頼関係を築くことができます。

「直前期(N-1期)になってから…」と考えるのは、典型的な失敗パターンです。手遅れになる前に、早めに行動を開始しましょう。

どんな会社がある?証券会社の種類と特徴

主幹事の候補となる証券会社は、主に3つのタイプに分類できます。自社の規模や業種、目指す市場に合ったタイプを見極めましょう。

タイプ主な証券会社特徴(メリット / デメリット)
大手総合証券野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などメリット: 圧倒的なブランド力、国内外の機関投資家・個人投資家への強い販売網、大型案件の実績豊富。
デメリット: 小規模な案件だと、手厚いサポートが受けにくい可能性も。
ネット証券SBI証券、楽天証券などメリット: 個人投資家への強い影響力、IT・スタートアップ企業への理解が深い、柔軟な対応が期待できる。
デメリット: 機関投資家へのネットワークは大手総合証券に及ばない場合も。
独立系・その他上記以外の証券会社メリット: 独自の強みや専門性を持つ。一社一社に寄り添った、きめ細やかなサポートが期待できる。
デメリット: 知名度や販売網の規模は限定的。

「大手だから安心」と短絡的に考えるのではなく、自社の成長を最も親身に、かつ効果的に支援してくれるのはどのタイプか、という視点で検討することが重要です。

どうやって決める?選定プロセス「ビューティーコンテスト」の流れ

通常、複数の証券会社に提案を依頼し、最も優れたパートナーを選ぶ「ビューティーコンテスト(選定会)」というプロセスを経ます。

  1. 候補先の選定(4〜5社): 自社のタイプに合いそうな証券会社をリストアップし、コンタクトを取ります。
  2. 情報提供と守秘義務契約: 事業計画や財務情報など、審査に必要な資料を提示します。
  3. 提案(プレゼンテーション): 各社から、IPO戦略、想定時価総額、資本政策、手数料などに関する提案を受けます。
  4. 質疑応答・面談: 提案内容について深く掘り下げて質問し、担当者との相性を見極めます。
  5. 最終決定・契約: 1社に絞り込み、「アドバイザリー契約」を締結。ここから二人三脚の準備が本格的にスタートします。

失敗しないための選定基準5選

ビューティーコンテストで各社の提案を受ける際、どこに注目すれば良いのでしょうか。失敗しないための5つの視点をご紹介します。

1. IPOの実績(特に同規模・同業種)

「これまで何社のIPOを成功させたか」という全体の実績はもちろん重要です。しかし、さらに踏み込んで「自社と似た規模や業種の会社を上場させた経験があるか」を必ず確認しましょう。成功事例だけでなく、困難だった事例とその乗り越え方なども聞けると、その会社の真の実力が分かります。

2. 担当チームとの相性・熱意

企業のブランド力もさることながら、それ以上に重要なのが「実際に自社を担当してくれるチームとの相性」です。数年にわたり、苦楽を共にすることになる担当者が、信頼でき、事業内容を深く理解しようとしてくれるか。経営者のビジョンに共感し、熱意を持ってくれるか。 senior な役職者だけでなく、実務を担う中堅・若手担当者とも必ず面談しましょう。

3. 審査部門の体制と厳しさ

証券会社の営業担当者(公開引受部)は、案件を獲得するために非常に熱心です。しかし、最終的にGO/NOの判断を下すのは、社内の独立した「審査部門」です。この審査部門がしっかり機能している証券会社は、厳しいですが、結果的に取引所審査を通過できる確度の高い指導をしてくれます。「何でもできます」という甘い言葉だけでなく、自社の課題を的確に指摘し、厳しい視点を提供してくれるかを見極めましょう。

4. 販売力(ディストリビューション能力)

IPO時に売り出す株式を、確実に投資家に届ける力です。国内外の機関投資家や、全国の個人投資家に対してどれだけ強い販売網を持っているかは、株価の安定や、ひいては企業の資金調達額に直結します。

5. 想定時価総額への考え方

提案の場で、各社から「想定時価総額(いくらの価値があるか)」が提示されます。経営者としては、最も高い評価額を提示した会社に惹かれがちです。しかし、なぜその評価額になるのか、その算出根拠が論理的で納得できるかを冷静に見極めてください。契約欲しさに、実現不可能な高い評価額を提示するケースも無いとは言えません。誠実で、現実的な議論ができる相手を選びましょう。

まとめ:最高のパートナー選びが、IPO成功の第一歩

主幹事証券会社の選定は、単なる業者選びではありません。会社の未来を共に創る、戦略的パートナーシップの始まりです。

知名度や聞こえの良い言葉に惑わされず、自社の事業を心から理解し、時には厳しく、しかし常に寄り添って成功まで導いてくれる熱意あるチームを見つけ出すこと。この最初の、そして最大の経営判断に全力を注ぐことが、IPO成功への最も確実な一歩となるのです。

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