収益認識会計基準が適用されたことにより、「原価回収基準」の取扱いが基準で明示されました。建設業等における収益認識の適用に際し、原価回収基準の適用に対する社内体制は構築されていない部分であると考えられることから、以下に原価回収基準適用の際の留意事項を記載します。
(1)原価回収基準
原価回収基準とは、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法をいいます(収益認識基準15項)。
(2)一定の期間にわたり充足される履行義務かどうかの検討
工事契約については、契約における取引開始日に、識別された履行義務が、一定の期間にわたり充足される履行義務か、一時点で充足される履行義務かを判定しますが、工事契約の場合、「一定の期間にわたり充足される履行義務」に該当するケースが多いものと考えられます。
(3)履行義務の充足に係る進捗度が見積もれるかどうかの検討
一定の期間にわたり充足される履行義務について、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができる場合、進捗度に基づき、収益を一定の期間にわたり認識します(従来の工事進行基準と同様の処理)。
一方で、一定の期間にわたり充足される履行義務について、進捗度を合理的に見積もることができない(例えば、実行予算未提出の状況)が、発生する費用を回収することが見込まれる場合(例えば、契約締結済、かつ、発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に寄与する場合(※))には、進捗度を合理的に見積もることができる時まで、原価回収基準により処理します(収益認識基準45項)。
(※)発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に寄与する場合
例えば、発生する費用を回収することが見込めない場合(発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に寄与しない場合)とは、下記の場合が想定されます。
・契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコスト
・重大な施工上の事故や重大な施工ミス等に関するコスト
(4)原価回収基準を適用しない場合(代替的な処理)
収益認識適用指針99項及び172項では、詳細な予算が編成される前等、「契約の初期段階」において進捗度を合理的に見積もることができない場合には、収益を認識せず、進捗度を合理的に見積もることができる時から収益を認識することができるとされています。
詳細な予算が編成される前等、契約の初期段階においては、その段階で発生した費用の額に重要性が乏しいと考えられ、当該契約の初期段階に回収することが見込まれる費用の額で収益を認識しないとしても、財務諸表間の比較可能性を大きく損なうものではないと考えられるため、代替的な取扱いが定められております。
(5)原価回収基準の適用における留意点
「(4)原価回収基準を適用しない場合(代替的な処理)」は、詳細な予算が編成される前等、契約の初期段階のみ容認される代替的な処理となります。
そのため、原価回収基準を社内に導入する際には以下の点に留意する必要があります。
①原価回収基準を適用しないことができる「契約の初期段階」については、社内の経理規程、マニュアル等で定義しておくことが必要(「契約の初期段階」の判断に関する恣意性の介入を排除するため)
②「契約の初期段階」にあるとして原価回収基準を適用していない識別された履行義務について、「契約の初期段階」であることを確認する仕組みを構築する
③原価回収基準を適用する場合、首尾一貫した判断基準により、回収可能性の判断が行われる仕組みを構築する(発生原価の回収可能性及びその範囲は、発注者からの着工指示の有無や、発注者との交渉状況、既発生原価の把握の状況等を総合的に考慮し、各社において事象毎に判断を行う)
④原価回収基準が適用対象となる履行義務に対して網羅的に適用されていることが確認できる仕組みを構築する
⑤決算日ごとに、②∼④の見直しを、識別された履行義務ごとに行われる仕組みを構築する。
なお、本稿の参考となる書籍はこちらをご覧ください。