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サスティナビリティ情報開示(9)【公認会計士解説】サステナビリティ保証実務指針5000とは?義務化時期と対応を徹底網羅

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • サステナビリティ保証の義務化時期を知りたい経営者・担当者
  • 「実務指針5000」や「ISSA 5000」の内容を簡単に理解したい方
  • 限定的保証と合理的保証の具体的な違いを知りたい方
  • 監査法人対応や内部統制の準備を始めたい経理・サステナ部門の方

目次

はじめに:なぜ今、サステナビリティ情報の「保証」が経営の最重要課題なのか

変わりゆく企業の評価軸と会計士の視点

こんにちは。公認会計士のSatoです。普段は上場企業の会計監査や、内部統制の構築支援、そして最近急増しているサステナビリティ情報の開示支援に携わっています。

皆さんは、ここ数年で企業の評価基準が劇的に変化していることを肌で感じていらっしゃいませんか?

かつて、企業の良し悪しを測る物差しは「売上高」や「利益」といった財務情報がすべてでした。決算書がきれいであれば、その企業は優良企業とされていたのです。

しかし、現在は違います。「どれだけ儲かっているか」と同じくらい、あるいはそれ以上に、「その利益は持続可能な方法で生み出されたものか」「環境や社会に負荷をかけていないか」という非財務情報(サステナビリティ情報)が重視されるようになりました

私が監査の現場で経営者の方々と対話していても、「投資家からCO2排出量の削減計画について厳しく突っ込まれた」「取引先から人権デュー・デリジェンスの報告を求められた」といった相談を受けることが日常茶飯事となっています。

「言ったもん勝ち」の時代から「信頼性」の時代へ

サステナビリティ情報は、これまで企業が自主的に開示するものでした。極端な言い方をすれば、少し見栄を張って「環境に配慮しています」とアピールしても、それを厳密にチェックする仕組みは存在しなかったのです。これがいわゆる「グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)」の問題です。

しかし、投資家やステークホルダーは「そのきれいなスローガンやデータは本当に正しいのか?」という疑いの目を向け始めています。そこで登場するのが、第三者による「保証(Assurance)」です。

2025年11月20日、日本公認会計士協会(JICPA)からサステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」(公開草案)が公表されました。これは、企業のサステナビリティ情報に対し、私たち公認会計士などの専門家が「この情報は正しい」とお墨付きを与えるための、日本における統一ルール案です。

本記事では、この難解な「実務指針5000」について、専門用語を極力噛み砕き、図表や具体的な事例を交えながら徹底的に解説します。単なる制度解説にとどまらず、現場を知る会計士だからこそ語れる「実務への影響」や「今やるべき準備」まで細かな疑問にもお答えしていきます。

長文となりますが、これを読めばサステナビリティ保証のすべてが分かると自負しております。ぜひ最後までお付き合いください。


第1章 サステナビリティ保証業務実務指針5000(公開草案)の全体像と背景

まずは、今回公表された「実務指針5000」がどのようなもので、なぜこのタイミングで出てきたのか、その背景と位置づけを整理しましょう。

1-1. 「実務指針5000」とは何か?その正体

一言で言えば、「企業のサステナビリティ情報が正しいかどうかをチェック(保証)するための、監査人向けのルールブック(マニュアル)」です。

これまでも、ISAE 3000(国際保証業務基準3000)などを参考にした保証業務は行われていましたが、サステナビリティ情報特有の難しさ(定性的な情報が多い、将来予測が含まれるなど)に対応するための、より具体的で包括的な基準が求められていました。

そこで、国際会計士連盟(IFAC)の国際監査・保証基準審議会(IAASB)がISSA 5000(国際サステナビリティ保証基準5000を開発しました。今回の「実務指針5000」は、この国際基準をベースに、日本の法制度や実務環境に合わせて策定されたものです。

【表1:実務指針5000の基本データ】

項目内容
正式名称サステナビリティ保証業務実務指針5000「サステナビリティ情報の保証業務に関する実務指針」
公表元日本公認会計士協会(JICPA)
公表日2025年11月20日(公開草案として)
ベースとなる国際基準ISSA 5000(General Requirements for Sustainability Assurance Engagements)
対象となる情報気候変動、人的資本、人権、ガバナンスなど、すべてのサステナビリティ情報
特徴どのような開示基準(SSBJ基準、GRI、SASBなど)で作成された情報にも適用可能(フレームワーク・ニュートラル)

1-2. なぜ「5000」番なのか?

会計士業界では、基準に番号を振って管理します。財務諸表監査の基準は「監査基準委員会報告書(J-GAAS)」と呼ばれますが、今回のサステナビリティ保証はこれとは別体系であることを示すため、国際基準(ISSA 5000)に合わせて「5000」という番号が採用されました。これには、「財務監査とは異なる新しい領域の基準である」というメッセージと、「国際基準との整合性を重視する」という意図が込められています。

1-3. 財務諸表監査と何が違うのか?

「決算書の監査と同じようなものでしょ?」と思われるかもしれませんが、似ているようで全く異なる部分があります。この違いを理解することが、対応の第一歩です。

【表2:財務諸表監査とサステナビリティ保証の比較】

比較項目財務諸表監査サステナビリティ保証(実務指針5000)
対象情報財務データ(売上、利益、資産など)非財務データ(GHG排出量、女性管理職比率、人権リスクなど)
測定単位貨幣価値(円、ドルなど)トン(CO2)、%(比率)、件数、記述情報(文章)など多様
基準会計基準(企業会計原則、IFRSなど)開示基準(SSBJ基準、ESRS、GRI、TCFDなど)
時間軸過去の実績(歴史的情報)が中心過去の実績に加え、将来の目標やシナリオ分析が含まれる
実施者公認会計士・監査法人に限定公認会計士に加え、サステナビリティ専門家(エンジニア等)も参画可能(職業専門家ニュートラル)

特に重要なのは「時間軸」です。財務諸表は「去年いくら儲かったか」という過去の話ですが、サステナビリティ情報は「2050年にカーボンニュートラルを達成するために、来年どうするか」という将来情報を多く含みます。将来のことは誰にも確実には分からないため、保証の難易度は格段に上がります。この点について、実務指針5000では慎重な手続を求めています。


第2章 【最重要概念】限定的保証と合理的保証の違いを完全理解する

サステナビリティ保証を理解する上で、最大の山場であり、かつ最も誤解されやすいのが「保証の水準(Level of Assurance)」です。

実務指針5000では、「限定的保証(Limited Assurance)」と「合理的保証(Reasonable Assurance)」という2つのレベルを明確に区別しています。

ここは非常に重要ですので、身近な例え話を使って解説します。

2-1. 健康診断で例える「2つの保証」

あなたが自分の健康状態を証明したいとします。

  • 限定的保証(Limited Assurance)
    • イメージ: 会社の定期健康診断(問診、聴診、基本的な血液検査)。
    • 医師(保証人)の言葉: 「ざっと診察しましたが、特に異常は見当たりませんでしたよ」。
    • 信頼性: 「まあ、大きな病気はないだろう」というレベル。
    • コスト・時間: 短時間で終わり、費用も安い。
  • 合理的保証(Reasonable Assurance)
    • イメージ: 大学病院での精密検査(MRI、CTスキャン、生検、24時間モニタリング)。
    • 医師(保証人)の言葉: 「あらゆる角度から徹底的に検査しましたが、あなたの健康状態は適正であると断言します」。
    • 信頼性: 「ほぼ間違いなく健康だ」という高いレベル。
    • コスト・時間: 入院が必要で、費用も高額。

2-2. 実務指針5000における定義と結論の表明

会計的な定義に戻りましょう。実務指針5000では、保証報告書に記載される「結論の書き方」が全く異なります。

【表3:限定的保証と合理的保証の詳細比較】

項目限定的保証(Limited)合理的保証(Reasonable)
結論の形式消極的形式 (Negative Form)
「~重要な虚偽記載があると信じさせる事項は認められなかった」
積極的形式 (Positive Form)
「~すべての重要な点において適正に表示されている」
リスク評価重要な虚偽表示リスクを識別するが、その評価までは求められない場合があるリスクを識別し、その発生可能性と影響度を詳細に評価しなければならない
内部統制内部統制のデザイン(整備状況)の理解にとどまることが多い内部統制が実際に機能しているか(運用状況)のテストが必須となる
証拠の量相対的に少ない(質問や分析が中心)膨大(詳細な文書突合、再計算、実地確認が必要)
現在の主流当面はここからスタート(規制上の要求もまずはこちら)将来的なゴール(投資家が求めているのはこちら)

筆者の視点(ここがポイント!)

「限定的保証だから、適当でいい」というわけではありません。実務指針5000では、限定的保証であっても、「意味のある保証水準」を得るために十分な証拠を集めるよう求めています。「何も見なかったからOK」ではなく、「これだけ調べたけれど、おかしいところはなかった」と言えるレベルの作業が必要です。

2-3. どちらを目指すべきか?

現在、日本やEU(CSRD)などの規制当局は、導入初期の負担を考慮して、まずは「限定的保証」から義務化をスタートさせる方針です

しかし、数年後(2030年代初頭など)には「合理的保証」への移行が予定されています

企業としては、まず「限定的保証」をクリアできる体制を作りつつ、将来の「合理的保証」に耐えうる堅牢なデータ管理システム(内部統制)を徐々に構築していく、という「二段構え」の戦略が必要です。


第3章 実務指針5000に基づく保証業務のプロセス(シミュレーション)

では、実際に監査人がやってきて、どのような手順で保証業務が行われるのでしょうか?

ここでは、架空の製造業「株式会社サステナ製作所」が、初めてCO2排出量(スコープ1・2)の保証を受けるシーンを想定し、実務指針5000の流れに沿ってシミュレーションしてみましょう。

STEP 1:契約の受嘱と独立性の確認(Engagement Acceptance)

まず、監査人は「この仕事を引き受けても大丈夫か?」を慎重に検討します。

実務指針5000では、国際倫理規定(IESBAコード)に基づき、監査人の独立性が厳しく求められます。

  • チェックポイント:
    • 監査人がサステナ製作所の株を持っていないか?
    • 監査チームの中に、サステナ製作所の役員の親族がいないか?
    • 監査人が、保証対象となるデータの作成自体を手伝っていないか?(自己監査の禁止)

特に3点目は重要です。コンサルタントとして排出量の算定を手伝った人が、そのまま保証人になることはできません。「自分で作って自分でチェックする」ことになり、客観性が保てないからです。

STEP 2:計画とリスク評価(Planning & Risk Assessment)

契約が成立したら、監査計画を立てます。ここで「マテリアリティ(重要性)」を決定します。

  • マテリアリティの決定:
    • 「1トンの誤差は許容するが、1,000トンの誤差は見過ごせない」といった基準値を決めます。これは財務監査と同じ考え方です。
  • リスク評価(ここが腕の見せ所):
    • 監査人は、サステナ製作所のビジネスを理解し、「どこで間違いが起きそうか」を予想します。
    • 監査人の思考: 「この会社は海外に工場があるな。海外の電気代の請求書は現地通貨だ。円換算する際の為替レートを間違えるリスクが高いぞ」
    • 監査人の思考: 「古い設備が多いな。ガス漏れなどの排出が見落とされている可能性があるのではないか?」

実務指針5000 第103L項/R項等に基づき、これらのリスクを識別します。

STEP 3:証拠の入手と手続の実施(Evidence Gathering)

ここが実作業のメインです。リスクに応じて証拠を集めます。

① 質問

  • 監査人: 「工場の電力使用量は誰がどのように集計していますか?」
  • 担当者: 「各工場の担当者がExcelに入力し、本社の私がメールで受け取って合算しています」
  • 監査人: (Excelか……手入力のミスが起きそうだな)

② 観察

  • 監査人: 実際にデータ入力を行っている画面を横で見せてもらう。

③ 閲覧

  • 監査人: 「電力会社からの請求書(原本)」と「集計されたExcel表」をランダムに選び、数値が一致しているか突き合わせる。

④ 再計算

  • 監査人: 「電力使用量 × 排出係数 = CO2排出量」の計算が合っているか、監査人自身が電卓やPCで計算し直す。特に「排出係数」が最新のもの(環境省の公表値など)を使っているかは重点的にチェックします。

⑤ 分析的手続

  • 監査人: 去年のデータと今年のデータをグラフにして比較する。「生産量は10%増えているのに、電力使用量が5%減っているのはおかしい。なぜですか?」と質問し、合理的な説明(例:新型の省エネ機を導入した等)と裏付け資料を求める。

設例による解説:限定的保証と合理的保証の手続の違い

  • 限定的保証の場合: 上記の「⑤分析的手続」と「①質問」が中心になります。「異常な増減がないか」を見て、担当者の説明に矛盾がなければOKとすることが多いです。
  • 合理的保証の場合: 「③閲覧」や「④再計算」の件数を大幅に増やし、さらに「実地棚卸(Site Visit)」として、実際に海外工場まで足を運び、メーターが実在するか、正しく動いているかを確認します。

STEP 4:結論の形成と報告(Reporting)

全ての手続が終わり、マテリアリティを超えるような重要な虚偽(ミス)がなければ、保証報告書を発行します。

もし、修正不可能なミスが見つかった場合はどうなるでしょうか?

実務指針5000 第170項に基づき、「限定付結論」や「否定的結論」を出さざるを得なくなります。これは企業にとって、投資家からの信頼を失う大きなダメージとなります。


第4章 日本における義務化スケジュールの影響

「いつから対応すればいいの?」という疑問は、経営者にとって最大の関心事でしょう。

金融庁のワーキンググループ等での議論を踏まえた、最新のロードマップを解説します8。

4-1. 導入ロードマップ(2025年12月時点の想定)

保証の義務化は、企業の規模(時価総額)によって段階的に適用されます。

対象企業(時価総額)開示基準(SSBJ)の適用保証(限定的保証)の義務化
3兆円以上(プライム市場のトップ層)2027年3月期(早期適用は2025年から)2027年3月期 または 2028年3月期
1兆円以上2028年3月期以降順次拡大(開示の1〜2年後を目途)
その他プライム上場2030年3月期以降(見込み)順次拡大
全上場企業検討中2030年代

※上記は議論の状況により変更される可能性があります。重要なのは、「開示の義務化」と「保証の義務化」にはタイムラグがある場合があるという点です。まずは開示体制を整え、その後に保証に耐えうる品質へ引き上げる猶予期間が設けられる見込みです。

4-2. 海外規制(CSRD)の影響

日本企業であっても、EUに子会社を持つ場合、EUのCSRD(企業サステナビリティ報告指令)の対象となる可能性があります11。

CSRDでは、2024年以降の会計年度から順次、保証が義務化されています。対象となる日本企業は、日本のルール(SSBJ)だけでなく、EUのルール(ESRS)に基づいた保証も受けなければならない「二重対応」のリスクがあります。この場合、実務指針5000(ISSA 5000準拠)を用いた保証が、国際的に通用するパスポートとして機能することが期待されています。

4-3. 中小企業への「トリクルダウン効果」

「うちは上場企業じゃないから関係ない」と思っていませんか? それは大きな間違いです。

これからの時代、大企業は自社の排出量だけでなく、サプライチェーン全体の排出量(スコープ3)の開示を求められます。

スコープ3を算定するためには、部品を納入している中小企業(サプライヤー)の排出データが必要です。

  • 今後起こりうること:
    1. 大企業A社が、サプライヤーB社(中小企業)に「御社のCO2データをください」と依頼する。
    2. さらにA社は、「そのデータは正しいですか? 監査を受けていますか?」と聞いてくる。
    3. B社が正確なデータを出せない場合、A社は「リスク管理ができないサプライヤー」としてB社との取引を縮小するかもしれない。

これを「トリクルダウン効果(波及効果)」と呼びます。実務指針5000は、監査人が中小企業のデータを検証する際にも使用される基準となるため、間接的にすべての中小企業に影響を及ぼすのです。


第5章 企業が今すぐ始めるべき「3つの準備」と内部統制の構築

実務指針5000への対応は、一朝一夕ではできません。推奨する具体的なアクションプランは以下の3つです。

対策1:内部統制(J-SOX)のサステナビリティ版を構築する

財務報告には「J-SOX(内部統制報告制度)」という仕組みがあります。これと同じように、サステナビリティ情報についても、「誰が、いつ、どのようにデータを入力し、誰が承認したか」というプロセスを文書化する必要があります。

これを専門的には「サステナビリティ情報の内部統制」と呼びます。

  • 具体的なアクション:
    • 3線モデルの適用: 現場(第1線)、管理部門(第2線)、内部監査(第3線)の役割分担を明確にする。
    • 文書化: Excelで管理しているデータの入力ルールをマニュアル化する。「前任者の頭の中にしかない」という状態が一番危険です。
    • IT統制: スプレッドシート(Excel)依存からの脱却。変更履歴が残らないExcelは、保証の観点からはリスクが高いとみなされます。専用のESGデータ管理システムの導入を検討すべき時期に来ています。

対策2:経理部・監査役との連携強化

サステナビリティ情報は、環境部やCSR部だけで完結するものではありません。

  • 経理部のノウハウ: 経理部は長年、監査法人との対応を行っており、「証拠資料の整え方」や「監査人への説明の仕方」を熟知しています。このノウハウをサステナビリティ部門に移植することが成功の鍵です。
  • 監査役・監査委員会の関与: 実務指針5000では、ガバナンスのあり方も評価対象となります。取締役会や監査役が、サステナビリティ情報をどのように監督しているか、議事録に残すなどの対応が必要です。

対策3:早期の「ドライラン(予行演習)」

いきなり本番の保証を受けると、不備が多発してパニックになります。義務化の1〜2年前から、監査法人やコンサルタントに依頼して「ドライラン(予行演習)」を受けることを強くおすすめします。

「現状の管理体制で、実務指針5000の基準に耐えられるか?」を早めに診断(ギャップ分析)し、不足している証拠書類やプロセスを洗い出しておくことが、スムーズな本番移行につながります。


第6章 コストとメリット:これは「コスト」か「投資」か?

6-1. 保証にかかる費用(監査報酬)

経営者が最も気にするのがコストです。

サステナビリティ保証の報酬は、企業の規模、事業所の数、業種、そして保証レベルによって大きく異なります。

一般的には、財務諸表監査の報酬の10%〜30%程度からスタートするケースが多いと言われていますが、合理的保証に移行すれば、さらにコストは増加します。

また、外部に支払う報酬だけでなく、データ収集にかかる社内の人件費やシステム導入費も考慮する必要があります。

6-2. 得られるメリット(ROI)

しかし、これを単なる「コスト」と捉えるのはもったいないことです。

  • 資金調達コストの低減: 信頼性の高いESG情報は、ESG投資を呼び込む呼び水となります。「サステナビリティ・リンク・ローン」などで金利優遇を受ける際にも、保証付きのデータが求められることがあります。
  • 企業価値の向上: 「リスク管理ができている」「透明性が高い」企業として、市場からの評価(PBR向上など)につながります。
  • 経営管理の高度化: 正確なデータがあれば、経営者は「どこを改善すればCO2が減るか」「どこに投資すべきか」を的確に判断できるようになります。

第7章 結論:透明性が企業の生存戦略になる

実務指針5000(公開草案)の公表は、日本の企業情報のあり方を根本から変える転換点です。

「面倒な作業が増える」と後ろ向きに捉えるのではなく、「自社のサステナビリティ経営の質を高めるチャンス」と捉えてください。

投資家は、きれいな言葉よりも、「保証された確かな数字」を求めています。

実務指針5000を羅針盤として、透明性の高い情報開示体制を構築することは、これからの時代を生き抜くための最強の生存戦略となるはずです。

もし対応に不安がある場合は、早めに公認会計士や監査法人に相談することをお勧めします。準備は早ければ早いほど、手戻りが少なく、効率的に進めることができます。

よくある質問(Q&A)

サステナビリティ保証はいつから義務化されますか?

プライム市場上場のトップ企業(時価総額3兆円以上)は、早ければ2027年3月期から義務化される見込みです。その後、段階的に対象企業が拡大されます。中小企業には当面法的義務はありませんが、取引先からの要請はすでに始まっています。

限定的保証と合理的保証の違いは何ですか?

「証拠集めの深さ」と「保証人の責任の重さ」が違います。限定的保証は「質問・分析」が中心で「異常がないこと」を確認するレベル。合理的保証は「詳細テスト・実地確認」を行い「適正であること」を積極的に証明するレベルです(実務指針5000 第12L/R項参照)。

「実務指針5000」と国際基準「ISSA 5000」は違うものですか?

実質的にはほぼ同じです。実務指針5000は、国際基準であるISSA 5000を日本の法制度や実務慣行に合わせて翻訳・調整したものです。したがって、実務指針5000に対応していれば、国際的な投資家に対しても十分な説明責任を果たせます。

保証業務を行うのは監査法人だけですか?

実務指針5000は「すべての保証業務実施者」を対象としており、公認会計士だけでなく、ISO認証機関などのサステナビリティ専門家もこの基準を使って保証を行うことができます(これを「職業専門家ニュートラル」といいます)。ただし、財務情報との整合性が重要視されるため、監査法人が担当するケースが増えると予想されます。

誤った情報を開示してしまった場合、罰則はありますか?

金融商品取引法に基づく有価証券報告書での開示(法定開示)において、重要な虚偽記載があった場合、訂正報告書の提出命令や課徴金納付命令、最悪の場合は刑事罰の対象となる可能性があります。現在、将来予測情報に関する「セーフハーバー(法的責任の免責)ルール」についても議論が進んでいますが、故意や重過失による虚偽は免責されません。

sato
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サステナビリティ情報開示について、これまでに記載した記事はこちらになります。


sato
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ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍をご紹介します。

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