個別決算の税効果は何とか乗り越えても、連結決算になると「未実現利益の消去」や「子会社の留保利益」といった複雑な調整が加わり、一気に難易度が上がります。さらに2025年からは、巨大多国籍企業を対象とした「グローバル・ミニマム課税」の注記実務もスタートします。
「連結特有の調整で、なぜこの税率を使うのか説明できない」「2025年の四半期決算で何を注記すればいいのか分からない」
そんな不安を抱える経理担当者やCFOの皆様に向けて、監査人に「実務を完璧に理解している」と思わせる論理武装のポイントを解説します。
目次
1. 連結特有の論点:未実現利益消去と「売却元税率」の適用
連結決算では、グループ会社間で行った取引による利益(未実現利益)を消去します。この際、消去した利益に対して税効果を認識しますが、ここで実務担当者が最も間違えやすいのが「適用税率」です。
なぜ「売却元」の税率を使うのか?
結論から言うと、未実現利益の消去に伴う税効果会計では、「資産を売却した会社」の法定実効税率を使用します。
- 理由: その利益に対して、すでに売却元の会社で税金が発生(あるいは課税所得に算入)しているからです。連結上で利益を消去するということは、売却元で払った税金を「前払費用」のように繰り延べる処理を意味します。
設例:親会社(税率30%)が子会社(税率25%)に商品を売却
親会社が原価800円の商品を子会社に1,000円で売り、子会社に在庫として残っている場合:
- 連結上で未実現利益200円(1,000 - 800)を消去。
- この200円に対して、親会社の税率30%を適用し、60円の繰延税金資産を計上します。
【連結修正仕訳】
| 借方 | 貸方 |
| 売上高 1,000 | 売上原価 1,000 |
| 売上原価 200 | 商品 200 |
| 繰延税金資産 60 | 法人税等調整額 60 |
ここで監査人は、「子会社の在庫なんだから、子会社の税率を使うべきではないか?」という初歩的な、しかし鋭い質問を投げかけてくることがあります。これに対し、「売却元で課税された税額を調整するのが連結税効果の原則です」と即答できる準備が必要です。
2. 連結子会社の留保利益:「配当しない方針」の証拠力
親会社が子会社から将来受け取る「配当」についても、実は税効果を考える必要があります。子会社が稼いだ利益(留保利益)のうち、将来親会社に配当される際には、親会社側で受取配当金の益金不算入枠を超えた部分に課税されるからです。
監査人が狙う「仕訳の漏れ」
原則として、子会社の留保利益のうち配当予定額には「繰延税金負債」を計上しなければなりません。しかし、多くの日本企業では「配当しない方針」として計上を回避しています。
監査人はここを突いてきます。「配当しない方針だと言うなら、その証拠を見せてください」と。
【防衛実務】議事録こそが最強の盾
単に担当者が「配当しません」と言うだけでは不十分です。以下の証憑をセットでアーカイブしておくことが、監査対応の急所となります。
- 子会社の取締役会議事録: 「当面の間、内部留保を設備投資に充てるため、親会社への配当は行わない」旨の決議。
- 親会社の中期経営計画: 子会社の資金を海外再投資に回すなど、資金使途が明確に示されている文書。
「昔、海外子会社の議事録がたった1枚ないだけで、監査人から数億円の負債計上を迫られたケースがありました。結局、現地から急ぎで議事録を取り寄せて事なきを得ましたが、あの時の冷や汗は忘れられません」(連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針第17項、第18項)。
3. グループ通算制度における「二段構え」の企業分類判定
2022年からスタートしたグループ通算制度。この制度を適用している場合、繰延税金資産の回収可能性を判断するための「企業分類」は、個別決算よりも複雑な「二段構え」の判定が求められます。
「個社」と「グループ全体」のどちらが優先か?
実務対応報告第42号に基づき、以下の2つの視点で判定を行います。
- 通算グループ全体の分類: グループ全体を1つの会社とみなした業績で判定。
- 通算会社(個社)の分類: 各社単独の業績で判定。
結論として、「通算グループ全体の分類」と「個社の分類」のいずれか高い方(有利な方)を適用できるというルールがあります。
| ケース | グループ全体の分類 | 個社の分類 | 適用される分類 |
| 子会社A(赤字) | 分類2(優良) | 分類4(赤字) | 分類2 |
| 親会社B(黒字) | 分類2(優良) | 分類2(優良) | 分類2 |
このように、個社が赤字であっても、グループ全体が黒字で安定していれば、子会社でも繰延税金資産を計上できる可能性が高まります。監査人に対しては、グループ全体の所得見積りシートを提示し、損益通算の実効性を証明することが重要です(グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い(実務対応報告第42号)第13項、第17項)。
4. 【2025年最新】グローバル・ミニマム課税の注記対応
2025年4月1日以後開始する連結会計年度から、国際課税の大きな変革である「グローバル・ミニマム課税(IIR)」の注記実務がいよいよ本格化します。
四半期決算での「計上しない旨」の注記
実務対応報告第46号では、当面の間、期中財務諸表(四半期や中間決算)においてグローバル・ミニマム課税に係る法人税等を「計上しない」ことが認められています。ただし、「計上していないという事実」を注記することが義務付けられています。
- 注記すべき場所: 法人税等に関する注記、または追加情報。
- 内容: 「当連結会計期間において、グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等を計上していない」旨を記載します。
2025年6月の第1四半期決算でこの注記を忘れると、監査人から「開示の不備」として指摘を受けることになります。早い段階で、開示システムのテンプレートを更新しておくべきです。
5. 子会社株式評価損の罠:個別と連結での「ズレ」を説明する
個別決算で子会社株式の評価損を計上した場合、税務上は原則として「損金不算入(一時差異)」となります。しかし、連結決算ではこの評価損自体が消去されるため、税効果の処理が非常にややこしくなります。
監査人が突くポイント
「個別決算で繰延税金資産を立てているのに、連結決算では消えている。この不一致の理由は?」
この問いへの正解は、「連結上、子会社株式の評価損という事象そのものが消去されるため、それに付随する税効果(繰延税金資産)も取り消す必要がある」ということです。
個別と連結の架け橋となる「差異調整表」を作成し、どの項目が連結消去の影響を受けているかを明示することが、監査人に対抗するエビデンスとなります。
まとめ:連結・高度実務を「攻めの姿勢」で攻略する
連結税効果や新しい国際課税制度は、一見すると複雑怪奇ですが、その根底にあるのは「どの会社の、どの利益に、いつ課税されるのか」というシンプルなロジックです。
2025年の最新制度改正を先取りし、「議事録」や「差異調整表」といった物証を揃えておくことで、監査人との交渉を優位に進めることができます。高度な実務を乗り越えることは、CFOや経営企画担当者としての市場価値を飛躍的に高めるチャンスでもあります。
本連載もいよいよ次回が最終回。最後は「監査報告書」と「KAM(主要な検討事項)」への最終防御策をお伝えします。
よくある質問(Q&A)
未実現利益消去の税率は、なぜ「売却元」なのですか?売却先ではない理由は?
未実現利益を消去することは、「売った側が計上した利益(とそれに対する税金)」を無かったことにする処理だからです。買った側(売却先)の税率は、その資産が将来外部に売られる時に影響するものなので、連結上の「今」の調整には売却元の税率を使います。
グローバル・ミニマム課税の注記は、2025年3月期から必要ですか?
2025年3月期(通期決算)では、制度の内容等の注記が求められます。さらに重要なのは「2025年4月1日以後開始する年度の期首」からです。これにより、2025年6月の第1四半期決算から「法人税等を計上していない旨」の注記が必須となります。
子会社の留保利益に対する「配当しない方針」は、毎年議事録が必要ですか?
原則として、毎期の方針を確認する必要があります。ただし、経営環境に大きな変化がなく、中期経営計画などで継続的な資金使途が示されている場合は、それを補完資料とすることが可能です。監査人は「状況の変化」に敏感なため、最低でも年1回は経営陣の意思を確認しておくべきです。
グループ通算制度で、グループ全体が赤字なら子会社が黒字でも計上できませんか?
その通りです。グループ全体が分類5(常に赤字)などの場合、個社が黒字であっても、損益通算によって資産性が否定されるリスクが高まります。グループ全体の所得見積りが、個社の資産計上可否を左右するのが通算制度の特徴です。
連結上の繰延税金資産も「5年の壁」はありますか?
はい、あります。個別決算と同様、連結上の将来課税所得の見積り(未実現利益の解消などを考慮した後)に基づき、企業分類に応じた期間(分類3ならおおむね5年)の制限を受けます。
専門家としての経験に基づき、現場で本当に『武器』になった数冊を厳選しました。理論だけで終わらない、実践に裏打ちされた知恵を求める方の参考になれば幸いです。