開業おめでとうございます!希望に満ち溢れる一方で、「初めての確定申告、何から手をつけていいかわからない…」「経理なんてやったことないのに、本当に一人でできるの?」といった不安をお持ちではないでしょうか。
手書きやExcelでの帳簿付けは、時間がかかるだけでなく、計算ミスや記入漏れのリスクがつきものです。そして何より、個人事業主にとって最大の節税メリットである「青色申告特別控除」を逃してしまう可能性が高くなります。
しかし、ご安心ください。現代の個人事業主・フリーランスには、「クラウド会計ソフト」という強力な味方がいます。この記事では、公認会計士である私が、経理初心者の方でも安心して確定申告を乗り越え、事業に集中できるようになるための「クラウド会計ソフトの選び方」を、わかりやすく解説します。

「法人」でクラウド会計ソフトを利用される方は、こちらの記事で解説しています。
目次
なぜ個人事業主に会計ソフトが必要?青色申告65万円控除への最短ルート
個人事業主になったら、まず目指すべきは「青色申告での65万円控除」です。これは、あなたの所得から無条件で65万円を差し引いてくれる、非常に強力な節税制度です。例えば、所得税率が10%の方なら、これだけで住民税と合わせて約10万円近く税金が安くなる計算です。
この最大の控除を受けるためには、税務署が定めた2つの条件をクリアする必要があります。
- 複式簿記(ふくしきぼき)での記帳これは、少し専門的な方法で日々の取引を記録することです。「家計簿」よりも詳しい「会社の公式な帳簿」とイメージしてください。簿記の知識がない方が手作業で行うのは、ほぼ不可能です。
- e-Taxによる電子申告作成した確定申告書を、税務署に持参したり郵送したりするのではなく、インターネット経由で提出することです。
この2つの条件を聞いて、「やっぱり無理かも…」と思った方もいるかもしれません。ですが、クラウド会計ソフトを使えば、このハードルは一気に下がります。日々の取引を入力するだけで、ソフトが自動的に専門的な「複式簿記」の帳簿を作成してくれ、確定申告の時期には画面の案内に従ってクリックしていくだけで「e-Tax」での申告が完了するのです。
つまり、クラウド会計ソフトは、単なる経理の効率化ツールではなく、65万円控除という最大の節税メリットを誰でも簡単に手に入れるための「必須アイテム」なのです。
クラウド会計ソフト一択の時代!インストール型と何が違うの?
会計ソフトには、大きく分けて「クラウド型」と「インストール型」の2種類があります。結論から言うと、これから始める個人事業主の方には「クラウド型」一択です。
- クラウド型: インターネットブラウザやスマホアプリで利用するサービス。freee、マネーフォワード、やよいの青色申告オンラインなどがこれにあたります。
- インストール型: パソコンにCD-ROMやダウンロードファイルでソフトをインストールして使うタイプ。
なぜクラウド型が圧倒的におすすめなのか、比較表で見てみましょう。
項目 | クラウド型 | インストール型 | こんな人におすすめ |
料金体系 | 月額・年額の継続課金(サブスク) | 買い切り+毎年の更新料 | クラウド型: 初期費用を抑えたい方 |
法改正対応 | 自動・無料で常に最新の状態 | 有料の更新版の購入が必要 | クラウド型: 法律の変更に手間なく対応したい方 |
データ共有 | 税理士やスタッフと簡単に共有可能 | USBメモリやメールでのデータ移動が必要 | クラウド型: 税理士に相談する可能性がある方 |
デバイス | PC(Win/Mac)、スマホ、タブレット対応 | 主にWindows PCのみ | クラウド型: Macユーザーやスマホで作業したい方 |
バックアップ | 自動で安全にバックアップ | 自分でバックアップを取る必要がある | クラウド型: データ紛失のリスクを避けたい方 |
初期設定 | 登録後すぐに使える | インストール作業が必要 | クラウド型: すぐに使い始めたい方 |
特に重要なのが「法改正対応」です。近年、「インボイス制度」や「電子帳簿保存法」といった、経理に関する大きな法改正が続いています。インストール型の場合、これらの変更に対応するために毎年有料のバージョンアップ版を購入し、手動で更新作業をしなければなりません。これを怠ると、知らないうちに法律違反になってしまうリスクがあります。
一方、クラウド型はサービス提供会社が法律の変更に合わせてシステムを自動でアップデートしてくれるため、ユーザーは何も意識することなく、常に最新の法令に準拠した状態で会計処理ができます。この「何もしなくてもコンプライアンスが保たれる」という安心感は、本業で忙しい個人事業主にとって計り知れない価値があります。
失敗しない!個人事業主の会計ソフト選び7つのチェックポイント
「クラウド会計ソフトが良いのはわかったけど、具体的にどう選べばいいの?」という方のために、選定時に確認すべき7つのポイントをまとめました。このチェックリストを使えば、あなたにぴったりのソフトが見つかります。
- 簿記知識がなくても使えるか初心者にとって最も重要なのが、操作の分かりやすさです。専門用語が少なく、質問に答える形式で入力が進められるなど、直感的に使えるインターフェースかを確認しましょう。
- 料金プランは予算に合うかほとんどのソフトが月額1,000円前後から始められます。ただし、プランによって使える機能が異なります。無料お試し期間を活用して、自分に必要な機能が予算内のプランに含まれているかを確認することが大切です。
- サポート体制は充実しているか初めての確定申告シーズンは、必ず疑問点が出てくるものです。そんな時に、チャットやメール、電話で気軽に質問できるサポート体制があると心強いです。特に不安な方は、サポートの手厚さを重視して選びましょう。
- 銀行口座・カード連携はスムーズかクラウド会計ソフトの最大のメリットは、銀行口座やクレジットカードを連携させることで、取引明細を自動で取り込み、仕訳を自動化できる点です。自分がメインで使っている金融機関に対応しているかは必ず確認しましょう。
- スマホアプリは使いやすいか外出先での経費精算や、レシートを写真に撮って経費登録するなど、スマホアプリの使い勝手も重要です。隙間時間で経理作業を進められると、確定申告前の負担が大きく減ります。
- 請求書発行機能はあるかクライアントに請求書を発行する機会が多いフリーランスの方は、ソフト内に請求書作成機能があると便利です。作成した請求書のデータがそのまま売上として帳簿に記録されるため、二重入力の手間が省けます。
- 将来性(インボイス・消費税申告)開業当初は免税事業者でも、将来的に売上が伸びたり、取引先の要望で「インボイス発行事業者」になったりする可能性があります。その際に、消費税申告機能がきちんと備わっているソフトを選んでおくと、後で乗り換える手間がありません。
【徹底比較】freee・マネーフォワード・弥生、あなたに合うのはどれ?
個人事業主向けのクラウド会計ソフトは数多くありますが、実際には「freee会計」「マネーフォワード クラウド確定申告」「やよいの青色申告 オンライン」の3社で市場シェアのほとんどを占めています。この3つの中から選べば、まず間違いありません。
まずは、それぞれの特徴を一目でわかるように比較してみましょう。
ソフト名 | こんな人におすすめ | 最大の特徴 | 料金目安(年額・税抜) |
freee会計 | 簿記の知識が全くない、経理が苦手な方 | 質問に答えるだけで帳簿が完成する直感的な操作性 | 11,760円~ |
マネーフォワード クラウド確定申告 | 機能の豊富さとコストのバランスを重視する方 | 連携サービスの多さと詳細なレポート機能 | 10,800円~ |
やよいの青色申告 オンライン | 実績と信頼性を重視する方、コストを抑えたい方 | 業界の定番ソフトとしての安心感と初年度無料キャンペーン | 初年度0円~ |

概要を把握された方は、各社の公式サイトで詳細を確認してみてください!
それでは、各ソフトの料金プランや機能をさらに詳しく見ていきましょう。
freee会計:簿記初心者でも直感的に使える!
freee会計の最大の特徴は、簿記の専門用語(借方・貸方など)を極力使わず、「収入」「支出」といった分かりやすい言葉で入力できる点です 2。まるで家計簿をつけるような感覚で操作できるため、「経理アレルギー」の方でも挫折しにくい設計になっています。
プラン | 年払い料金(月あたり/税抜) | 主な機能 | こんな人におすすめ |
スターター | 980円 (年額 11,760円) | ・確定申告、青色申告決算書の作成 ・銀行/カード連携 ・請求書作成 ・チャット/メールサポート | 消費税を申告しない免税事業者の方。 まずはシンプルに始めたい方。 |
スタンダード | 1,980円 (年額 23,760円) | スターターの全機能に加えて… ・消費税申告機能 ・レシート写真取込(枚数UP) ・月次レポート ・優先サポート | インボイス発行事業者(課税事業者)の方。 経理業務をより効率化したい方。 |
【注意点】
freee会計で最も安価な「スタータープラン」には、消費税の申告機能が含まれていません。将来インボイス制度に登録して課税事業者になる可能性がある方は、初めから「スタンダードプラン」を選ぶか、後でアップグレードが必要になることを覚えておきましょう。
マネーフォワード クラウド確定申告:機能豊富でコスパ◎
マネーフォワード クラウド確定申告は、豊富な機能と詳細なレポート機能が魅力です。銀行やクレジットカードとの連携可能数が業界トップクラスで、多くの金融サービスを自動で取り込めます。少し会計に慣れてきて、経営状況をしっかり分析したいと考えるようになった方にも満足できる機能を備えています。
プラン | 年払い料金(月あたり/税抜) | 主な機能 | こんな人におすすめ |
パーソナルミニ | 900円 (年額 10,800円) | ・確定申告、青色申告決算書の作成 ・銀行/カード連携 ・請求書作成(取引先15件まで) ・チャット/メールサポート | 消費税を申告しない免税事業者の方。 取引先が少ない方。 |
パーソナル | 1,280円 (年額 15,360円) | パーソナルミニの全機能に加えて… ・消費税申告機能 ・請求書作成(取引先 無制限) ・詳細な経営レポート ・帳簿残高の照合機能 | インボイス発行事業者(課税事業者)の方。 多くの取引先へ請求書を発行する方。 |
【注意点】
マネーフォワードも同様に、最安の「パーソナルミニプラン」では消費税申告ができず、請求書の宛先登録も15件までという制限があります。多くのBtoB取引を行う方や、インボイス登録を検討している方は「パーソナルプラン」が実質的な選択肢となります。
やよいの青色申告 オンライン:実績と信頼の定番ソフト
「弥生」は会計ソフトの老舗であり、その信頼性と実績は抜群です。多くの税理士も利用しているため、将来的に税理士に相談する際もスムーズに連携できます。最大の特徴は、サポート内容に応じて料金プランが分かれており、どのプランでも全ての機能が使えること、そして初年度無料のキャンペーンが非常に強力であることです。
プラン | 初年度料金(税抜) | 2年目以降(年額/税抜) | サポート内容 |
セルフプラン | 0円 | 10,300円 | サポートなし |
ベーシックプラン | 0円 | 17,250円 | 電話/メール/チャットでの操作サポート |
【ポイント】
弥生のプランは、機能で差がつくのではなく、サポートの有無で料金が変わります。どのプランを選んでも、確定申告や消費税申告といった全ての機能が初めから利用可能です。そのため、「まずは無料で1年間全ての機能を試してみたい」という方には最適な選択肢と言えるでしょう。なお、請求書作成は「Misoca」という連携サービスが初年度無料で利用できます。

各社、無料プランや無料お試し期間があるため、無料期間を利用して比較することをお勧めします!
【重要】2024年以降の必須知識!インボイス制度と電子帳簿保存法への対応
最後に、最近の法改正で全ての事業主が知っておくべき2つの重要なルールについて解説します。難しく聞こえるかもしれませんが、クラウド会計ソフトを使えば簡単・確実に対応できるのでご安心ください。
インボイス制度、登録する?しない?ソフトで何が変わる?
インボイス制度とは、簡単に言うと「消費税のルール変更」です。個人事業主の方は、「適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)」に登録するかどうかを選択する必要があります。
- 登録しない(免税事業者のまま):
- メリット: これまで通り、消費税の申告・納税は不要です。
- デメリット: あなたに仕事を発注する課税事業者(企業など)が、消費税の計算で少し損をしてしまうため、取引を敬遠されたり、値下げを交渉されたりする可能性があります。
- 向いている人: 主な顧客が一般消費者(BtoC)の方や、取引先も免税事業者である場合。
- 登録する(課税事業者になる):
- メリット: 課税事業者の取引先とも安心して取引を継続・拡大できます。
- デメリット: 売上にかかる消費税を預かり、確定申告で納税する義務が発生します。
- 向いている人: 主な顧客が法人などの課税事業者(BtoB)である場合。
もしインボイス発行事業者に登録した場合、会計ソフトの「消費税申告機能」が必須になります。ソフトを使えば、日々の取引から自動で消費税額を計算し、複雑な申告書も自動で作成してくれます。特に、小規模事業者向けの負担軽減措置である「2割特例」にも多くのソフトが対応しており、申告の手間を大幅に削減できます。
(参照: 国税庁「インボイス制度の概要」)

個人事業主が知っておくべきインボイス制度解説はこちらで確認してください。
全員対象!電子帳簿保存法に会計ソフトでラクラク対応
インボイス制度と違い、「電子帳簿保存法」は全ての事業者が対象となる法律です。特に重要なのが「電子取引データの保存義務」です。
これは、メールで受け取ったPDFの請求書や、AmazonなどのECサイトからダウンロードした領収書などを、紙に印刷して保存するのではなく、受け取った電子データのまま保存しなければならないというルールです。
この法律を守るためには、主に以下の2つの要件を満たす必要があります。
- 検索できること: 「取引年月日」「取引先」「金額」ですぐにデータを見つけられるようにしておく必要があります。
- 改ざんされていないことを証明できること: データが後から変更されていないことを担保する措置が必要です。
これを自力で管理するのは非常に大変ですが、クラウド会計ソフトを使えば、これらの要件を自動で満たすことができます。例えば、メールで受け取った請求書をソフトにアップロードしたり、スマホでレシートを撮影して保存したりするだけで、法律で定められた形式で安全にデータが保管されます。つまり、普段通りに会計ソフトを使っているだけで、自然と電子帳簿保存法に対応できるのです。
(参照: 国税庁「電子帳簿保存法が改正されました」)

電子帳簿保存法違反にならないように、こちらの詳細記事も確認してください。
まとめ:最初の一歩は無料お試しから
ここまで、個人事業主向けのクラウド会計ソフトの選び方について解説してきました。
- 経理がとにかく苦手な方 → freee会計
- 機能とコスパを両立したい方 → マネーフォワード クラウド確定申告
- まず無料で全部試してみたい方 → やよいの青色申告 オンライン
これが基本的な選び方になりますが、最終的にはご自身の操作感の好みも重要です。幸い、今回ご紹介した3つのソフトは、すべて無料のお試し期間を設けています。
ぜひ、気になるソフトをいくつか実際に触ってみて、「これなら続けられそう!」と思えるものを選んでください。最適な会計ソフトは、あなたの事業を軌道に乗せるための、最も頼りになるパートナーとなってくれるはずです。

無料のお試し期間を利用して各社会計ソフトの使いやすさを比較することをお勧めします!
よくある質問(Q&A)
Macを使っているのですが、どのソフトがおすすめですか?
ご安心ください。今回ご紹介した「freee会計」「マネーフォワード クラウド確定申告」「やよいの青色申告 オンライン」の3つのクラウド会計ソフトは、すべてMacに対応しています 。インターネットブラウザ経由で利用するため、WindowsでもMacでも同じように使うことができます。
一度使い始めたソフトを後から変更することはできますか?
はい、変更することは可能です。しかし、過去の取引データを新しいソフトに移行する作業は非常に手間がかかり、専門的な知識が必要になる場合もあります。そのため、できる限り最初の段階で、無料お試し期間などを活用して自分に合ったソフトをじっくり選び、長く使い続けることをお勧めします。
事業を始めたばかりで取引が少ないのですが、それでもソフトは必要ですか?
65万円の青色申告特別控除を受けたいのであれば、取引の量に関わらず会計ソフトの利用が必須です 。もし、控除額の少ない白色申告で済ませる場合でも、手作業による計算ミスを防ぎ、正確な申告を行うためにソフトの利用を強く推奨します。多くのソフトには安価なプランが用意されているので、事業規模が小さいうちから導入しておくのが得策です 。
数ある会計ソフトの中からいくつかご紹介致します。会計ソフト導入のご参考として頂けますと幸いです。
1〜30名規模でバックオフィスを効率化したい企業様

個人事業主様・フリーランス・副業などで確定申告をする必要がある方

法人の方、個人事業主の方、IT導入補助金を活用したい方

法人の方、個人事業主の方、IT導入補助金を活用したい方

個人事業主の方、法人の方、給与・勤怠・労務をラクにしたい方
