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はじめに:公認会計士試験の「心臓部」、財務会計論を制する者は試験を制す
「財務会計論は範囲が広すぎて、どこから手をつければいいか分からない…」 「計算問題に時間がかかりすぎるし、理論はただの暗記でつらい…」
公認会計士試験の勉強を始めると、多くの受験生がまず「財務会計論」という巨大な壁にぶつかります。その圧倒的なボリュームから、学習の途中で挫折してしまう方が後を絶たないのも事実です 。
しかし、断言します。財務会計論は、正しい戦略と手順で学習すれば、誰でも必ず得意科目にできる科目です。
受験生時代、私もあなたと同じように財務会計論(旧試験では簿記と財務諸表論でした)の膨大な範囲に圧倒され、試行錯誤を繰り返しました。その経験と、公認会計士としての専門知識を基に、この記事では財務会計論を最短で攻略するための完全な学習ロードマップを提示します。
本記事を読み終える頃には、あなたは財務会計論という科目を恐れるのではなく、合格への最大の武器として使いこなすための具体的な道筋を手にしているはずです。

公認会計士試験全体の勉強計画については、こちらの完全ロードマップ記事をご覧ください。
そもそも財務会計論とは?試験における位置づけを理解しよう
戦略を立てる前に、まずは敵を知ることから始めましょう。財務会計論が公認会計士試験においてどのような位置づけにあるのかを正確に理解することが、効率的な学習の第一歩です。
公認会計士試験の「最重要科目」と呼ばれる理由
財務会計論が「最重要科目」と呼ばれる理由は、主に2つあります。
- 圧倒的に高い配点 短答式試験は合計500点満点ですが、そのうち財務会計論は200点を占めています 。実に全体の40%です。論文式試験においても、「会計学」という科目名で出題され、管理会計論と合わせて300点満点という高い配点が設定されています 。この科目の出来が、合否に直結することは言うまでもありません 。
- 他の全科目への波及効果 財務会計論は、単に配点が高いだけではありません。企業の財務情報をルール(会計基準)に則って作成・報告するための学問であり、その知識は他の科目を学ぶ上での土台となります。
- 監査論:財務諸表が正しく作られているかをチェックするのが監査です。当然、財務諸表の作り方を知らなければ監査はできません。
- 企業法:会社法などの法律は、株式会社の計算書類の作成や開示について定めています。財務会計論と企業法は密接に関連しています。
- 租税法:税金の計算は、会計上の利益をベースに調整を加えて行います。会計の知識は税法を理解する前提となります。
このように、財務会計論をマスターすることは、他の科目の学習効率を飛躍的に高める相乗効果を生み出します 。逆に言えば、ここでつまずくと試験全体の学習が停滞してしまう危険性があるのです。

財務会計論の知識が土台となる『管理会計論・監査論・企業法・租税法』の学習法はこちらをご覧ください。
計算(簿記)と理論(財務諸表論)の根本的な違いとは?
財務会計論は、大きく分けて「計算」と「理論」の2つの側面を持っています。短答式試験では、計算問題が「簿記」、理論問題が「財務諸表論」と呼ばれます 。この2つは性質が全く異なるため、それぞれに適したアプローチが必要です。
表1:「計算」と「理論」の学習特性比較
観点 | 計算(簿記) | 理論(財務諸表論) |
目的 | 会計ルールに基づき、正確かつ迅速に数値を算出する | 会計ルールの背景や目的(なぜそうなっているか)を理解する |
学習の中心 | 問題演習を通じたアウトプット中心 | テキストの読み込みを通じたインプット中心 |
求められる能力 | パターン認識能力と高速な処理能力 | 論理的思考力と、事象を言語化する説明能力 |
おすすめの学習法 | テキスト例題の反復、下書きの定型化 | 計算との関連付け、理由の言語化 |
初心者が陥りがちなのは、この2つを同じように勉強しようとすることです。計算はスポーツのように反復練習で体に覚え込ませる「スキル」、理論は背景を理解し自分の言葉で説明できるようにする「知識」と捉え、意識的に学習方法を切り替えましょう 。
短答式試験と論文式試験では何が違うのか?
同じ財務会計論でも、短答式試験と論文式試験では問われる能力が異なります。この違いを理解しておくことで、学習の進捗に合わせて対策を最適化できます。この試験形式の違いは、金融庁の公認会計士・監査審査会が公表する「公認会計士試験の出題範囲の要旨」にも示されています 。
表2:「短答式」と「論文式」の対策比較
観点 | 短答式試験 | 論文式試験 |
試験形式 | マークシート択一式 | 記述式 |
評価ポイント | 知識の正確性と処理スピード | 思考力・応用力・論述力 |
勉強法の力点 | 網羅的なインプットと反復演習 | 重要論点の深い理解と答案構成練習 |
求められるレベル | 「ルールを知っているか」 | 「ルールを理解し、説明できるか」 |
短答式は広く浅く、論文式は狭く深く、とよく言われます。まずは短答式で問われる網羅的な知識の土台を固め、その上で論文式で求められる深い理解と応用力へとステップアップしていくイメージを持つことが重要です。
【完全版】財務会計論・初心者向け学習ロードマップ
ここからは、財務会計論をゼロから得意科目に変えるための具体的な学習ロードマップを3つのステップで解説します。
ステップ0:まず簿記資格は取るべき?永遠の疑問に終止符を打つ
公認会計士の勉強を始めるにあたり、「先に日商簿記検定を取るべきか?」という疑問は多くの人が抱きます。これには様々な意見がありますが 、結論から言うと、これはあなたの状況や性格によって最適な選択が異なる戦略的な問題です。
- Path A(簿記検定から始めるのがおすすめな人)
- 会計に触れるのが全く初めてで、何から手をつけていいか不安な方段階的な目標があった方がモチベーションを維持しやすい方大学生など、比較的学習期間に余裕がある方
- Path B(いきなり会計士の勉強を始めるのがおすすめな人)
- 大学で会計を学んだ経験があるなど、ある程度の基礎知識がある方
- 高い目標に向かって一直線に進む方が得意な方
- 社会人受験生など、限られた時間で合格を目指す方
どちらの道を選んでも、最終的に必要な知識量は変わりません。ご自身のタイプを見極め、最適なスタートを切りましょう。

簿記学習のヒントについては、こちらの記事で詳しく解説しています。
ステップ1(基礎固め期):計算を制圧せよ!「簿記はスポーツ」と心得る
学習の初期段階で最も重要なのは、計算の基礎を徹底的に固めることです。理論の理解は、計算がある程度できるようになった後の方がスムーズに進みます。この時期の合言葉は「簿記はスポーツ」です 。
- テキスト例題の反復がすべての基本 予備校のテキストに載っている基本的な例題は、いわば野球の「素振り」やサッカーの「リフティング」です。これができなければ応用問題は絶対に解けません。まずは各論点の例題を、何も見なくてもスラスラ解けるレベルになるまで、何度も何度も繰り返しましょう 。特に学習初期の簡単な論点のうちに「これでもか」というくらいやり込むことで、財務会計論の学習法そのものが身につきます 。
- 「下書き」のパターン化でスピードと正確性を両立 試験本番のプレッシャーの中で、毎回ゼロから解き方を考えていては時間が足りません。特に、連結会計のタイムテーブルや退職給付会計のワークシートなど、複雑な論点では自分なりの一貫した「下書き」の型を作ることが合格の鍵を握ります 。この型を体に覚え込ませることで、問題を解く際の思考の負荷が減り、ミスなくスピーディーに解答を導き出せるようになります。
- とにかく手を動かす 計算の理解は、頭で考えるだけでは深まりません。実際に鉛筆を握り、仕訳を書き、電卓を叩くという物理的な作業を通じて初めて定着します 。テキストを眺めている時間を減らし、1問でも多く自分の手で問題を解くことを心がけてください。
ステップ2(応用力養成期):計算と理論を繋げる思考法
計算の基礎が固まってきたら、次のステップは理論の学習を本格化させ、計算と理論を有機的に結びつけることです。この2つは別々の科目ではなく、表裏一体の関係にあります 。
この段階で最も重要な習慣は、常に「なぜ?」と自問することです。
- 計算問題を解いた後:「なぜこの会計処理になるんだろう?背景にある会計基準のルールは何だっけ?」
- 理論のテキストを読んだ後:「このルールは、具体的にどんな計算問題として出題されるんだろう?」
このように、計算と理論を常に行き来する思考を持つことで、知識は単なる点の集まりから、強固な線、そして立体的な構造へと進化していきます 。
理論の学習法:丸暗記から「理解を伴う記憶」へ
理論の膨大な学習範囲を前にして、「全部丸暗記なんて無理だ」と絶望する必要はありません。記憶にはレベルがあり、段階的にレベルアップさせていくことで、効率的に知識を定着させることができます 。
表3:記憶のレベル別・理論学習法
レベル | 目指す状態 | 具体的なアクション |
レベル1:正誤判断 | 文章を読んで、正しいか間違っているかが分かる | テキストを読み、短答式の○×問題を解く。まずはキーワードに慣れる。 |
レベル2:自分の言葉で説明 | 会計基準の趣旨を、自分の言葉で言い換えられる | テキストの章を読み終えた後、本を閉じて内容を声に出して要約してみる。 |
レベル3:キーワードで説明 | 会計基準で使われる専門用語を正確に使って説明できる | 重要な論点について、キーワードを盛り込んだ短い要約をノートに書き出す練習をする。 |
レベル4:完全暗唱 | 資産の定義など、ごく一部の最重要項目を一言一句間違えずに言える | フラッシュカードなどを使って、定義やごく短い条文の暗唱を繰り返す。 |
最初からレベル4を目指すのは非効率です。まずはレベル1から始め、テキストの読み込みや問題演習を繰り返す中で、徐々にレベル2、レベル3へと記憶の解像度を上げていくイメージを持ちましょう。理解が深まれば、記憶の定着度は飛躍的に向上します 。
ステップ3(実践力完成期):最難関「連結会計」を克服し、得点源に変える
多くの受験生が最後まで苦しむのが「連結会計」です。複数の会社の財務諸表を扱い、複雑な修正仕訳が大量に出てくるため、つまずきやすいポイントが満載です 。
連結会計の攻略には、「機械的な処理」と「概念的な理解」を意識的に分けて学習するデュアルモードのアプローチが有効です。
- 【スポーツモード】処理手順を体に叩き込む まずは理屈を抜きにして、タイムテーブルや連結修正仕訳の一連の処理フローを完全にマスターすることを目指します。これはまさにスポーツの練習と同じです。質の高い総合問題を何度も何度も繰り返し解き、解答プロセスが自動的に頭に浮かぶレベルまで体に覚え込ませましょう 。
- 【学者モード】背景理論をじっくり考える 問題演習から一旦離れ、「なぜ内部利益を消去する必要があるのか?」「非支配株主持分とは、そもそも誰の持ち分なのか?」といった根本的な理論をテキストでじっくり読み込み、理解する時間を取ります。「親会社説」といった連結会計の根底にある考え方を学ぶことで、個々の仕訳の意味が腑に落ちるようになります 。
この2つのモードを意識的に使い分け、最終的に統合することで、連結会計は苦手分野から、ライバルに差をつける強力な得点源へと変わるはずです。

公認会試験本番での時間配分や戦略については、こちらの記事で詳しく解説しています。
ライバルに差をつける!財務会計論の得点力を最大化するテクニック
ここからは、学習をさらに効率化し、本番での得点力を最大化するための具体的なテクニックを紹介します。
計算力を飛躍させる3つの秘訣
- 勘定科目の略称活用 試験中に「その他有価証券評価差額金」などと丁寧に書いている時間はありません。自分だけが分かる一貫したルールで勘定科目を略記する習慣をつけましょう(例:「その他有価」→「他有」)。これだけで1問あたり数十秒の時間を短縮できます 。
- 電卓操作の高速化 電卓のメモリ機能(M+, M-, RM)や定数計算機能を使いこなすのは必須です。ブラインドタッチで打てるように練習すれば、計算ミスが減り、思考を中断させずに問題を解き進められます。
- 問題の取捨選択(トリアージ) 試験本番では、満点を取る必要はありません。難しい問題や時間がかかりそうな問題に固執せず、勇気を持って後回しにする「捨てる」判断が重要です。このスキルは、答練や模試などの時間制限がある演習を通じて磨かれます 。
理論問題で安定して得点するための思考プロセス
理論問題で高得点を取るためには、単なる暗記ではなく、各会計基準が「なぜ」そのように定められているのか、その趣旨や背景を理解することが不可欠です 。
学習の際には、テキストを読むだけでなく、企業会計基準委員会(ASBJ)のウェブサイトなどで公表されている会計基準の「結論の背景(Basis for Conclusions)」に目を通してみることをお勧めします。そこには、なぜその会計処理が採択されたのか、どのような議論があったのかが書かれており、基準への理解が格段に深まります 。
教材選びの最適解:予備校テキストを軸に問題集を使い分ける方法
教材選びは合否を左右する重要な要素です。基本戦略として、大手予備校(CPA会計学院、TAC、資格の大原など)のテキストをメインの軸にすることを強く推奨します。これらの教材は、試験合格に特化して作られており、論点ごとに出題可能性ランク(A・B・Cなど)が付されているなど、効率的な学習をサポートする工夫が凝らされています 。
ただし、財務会計論は範囲が非常に広いため、メインテキストの問題集だけでは演習量が不足する可能性があります。様々なパターンの問題に触れるため、補助的に市販の問題集を1〜2冊追加で解くと、対応力が格段に向上します 。

財務会計論の学習は、専門学校が作成したテキストや答練(答案練習)の反復練習が強力な武器になります。無料の資料請求で学習計画のヒントを得ることも可能です。
まとめ:財務会計論は正しい努力で必ず得意科目に変わる
最後に、この記事の要点を振り返ります。
- 財務会計論は配点・影響度ともに公認会計士試験の最重要科目です。
- 計算は「スポーツ」。反復練習と下書きの型化で、自動的に解けるレベルを目指しましょう。
- 理論は「理解を伴う記憶」。計算と結びつけ、「なぜ」を常に追求することが鍵です。
- 学習は段階的に。基礎固めから応用、実践へとステップアップする計画的な学習が不可欠です。
財務会計論の学習は、長く険しい道のりです。しかし、今日ご紹介したロードマップに沿って正しい努力を続ければ、その道のりは確実にゴールへと繋がっています。巨大に見える壁も、一つ一つのブロックに分解し、着実に積み上げていけば、必ず乗り越えることができます。
あなたの挑戦を心から応援しています。

財務会計論の知識が将来実務にどのように役立つのか?こちらの記事も参考にしてください。
よくある質問(Q&A)
計算問題がどうしても時間内に終わりません。どうすれば速く解けるようになりますか?
スピードアップには3つのポイントがあります。1つ目は「解法パターンの暗記」です。典型的な問題は、見た瞬間に解き方が思い浮かぶレベルまで反復練習しましょう。2つ目は「下書きの効率化」です。自分なりの書き方を確立し、書く量を最小限に抑える工夫をしてください。3つ目は「時間配分の練習」です。普段から時間を計って問題を解き、難しい問題は後回しにするなど、本番を意識した練習を積むことが効果的です。
理論の暗記が苦手です。何か良い方法はありますか?
丸暗記に頼らないことが重要です。まずは、その会計基準が「なぜ存在するのか」という背景や目的を理解することから始めましょう。次に、計算問題と結びつけて、「このルールは、あの計算処理のためにあるのか」と具体的にイメージします。また、一度に完璧に覚えようとせず、「まずはキーワードだけ」「次は自分の言葉で説明できるように」と段階的に記憶の精度を上げていく方法も有効です 。
短答式試験と論文式試験の勉強は、いつから切り替えればよいですか?
理想的には、完全に切り替えるのではなく、並行して進める意識を持つことが重要です。特に論文式対策は早期に着手することが合格の鍵となります。短答式の学習段階から、単に正解を覚えるだけでなく、「なぜそうなるのか」を常に考える癖をつけておけば、それがそのまま論文式の深い理解に繋がります。短答式試験の2〜3ヶ月前からアウトプットの比重を短答対策に大きく傾け、短答式試験終了後、すぐに論文式の答案作成練習に全力を注げるように準備しておくのが王道のスケジュールです。
数ある専門学校の中からいくつかご紹介致します。資格取得に際し専門学校選びのご参考として頂けますと幸いです。
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