「租税法の計算問題、どこから手をつけていいか分からない…」 「条文を覚えても覚えても、すぐ忘れてしまう…」
公認会計士試験の受験生の皆さん、こんにちは。公認会計士のSatoです。かつて予備校で講師をしていた頃、このような悩みを本当に多く聞いてきました。租税法は、その複雑さから「ゴリゴリの暗記科目」と思われがちですが、実はそれは大きな誤解です。
租税法の計算プロセスは、一本の筋が通った論理的な流れに基づいています。この流れさえ掴んでしまえば、暗記の負担は劇的に減り、応用問題にも対応できる「思考力」が身につきます。
この記事では、私が多くの合格者を輩出してきた「フローチャート学習法」を大公開します。複雑な法人税の所得計算や消費税の納税額計算を、多数の図解やフローチャートを用いてステップ・バイ・ステップで分解します。この記事を読み終える頃には、租税法の計算がただの暗記パズルではなく、論理的な思考ゲームに見えてくるはずです。あなたの苦手科目を、一気に得点源に変えていきましょう。

公認会計士試験全体の勉強計画については、こちらの完全ロードマップ記事をご覧ください。
目次
なぜ租税法の計算は「暗記パズル」に感じるのか?その構造的理由
皆さんが租税法の計算に苦しむのは、決して理解力がないからではありません。科目そのものが持つ、以下のような構造的な理由があるのです。
- 複数の法律の交差点であること: 租税法は一つの法律ではありません。「法人税法」「所得税法」「消費税法」など、それぞれが独立したルールを持つ法律の集合体です。それぞれの計算体系をバラバラに覚えようとすると、情報が錯綜してしまいます。
- 会計と税務の「ズレ」: 特に法人税で顕著ですが、会社が作成する決算書(会計)の利益と、税法が計算する所得は一致しません。会計上の「費用」が税法上は「損金」として認められない(損金不算入)など、この「ズレ」を調整する税務調整という作業が、計算を複雑にする最大の要因です。
- 例外規定と頻繁な法改正: 税法には「原則として〇〇だが、△△の場合は××とする」といった例外規定が非常に多く存在します。また、毎年のように法改正が行われるため、常に知識のアップデートが求められ、丸暗記だけでは対応が難しくなっています。
これらの理由から、多くの受験生が「全体像が見えないまま、細かいピースをひたすら集めている」ような感覚に陥ってしまうのです。
思考がクリアになる「フローチャート学習法」3つの絶大なメリット
この複雑な租税法を攻略する鍵が「フローチャート学習法」です。この学習法には、主に3つの絶大なメリットがあります。
- 全体像の可視化: 計算のスタートからゴールまでの一連の流れが一本の線で繋がります。今自分がどの段階の計算をしているのかが明確になり、迷子になることがありません。これは、点と点を線でつなぎ、大局を意識する学習法です。
- 計算プロセスの標準化: フローチャートは、あなただけの「計算マニュアル」になります。どんな問題が出ても、常に同じ手順で解き進めることができるため、ケアレスミスや手順の飛ばしを劇的に減らすことができます。
- ミス発見の効率化: 答練などで間違えた際、フローチャートのどのステップで間違えたのかをピンポイントで特定できます。「Step 2の損金不算入項目を見落としていた」など、ミスの原因分析が容易になり、的確な復習が可能になります。
【法人税編】所得金額計算の完全フローチャート・マスターガイド
法人税の所得金額計算は、租税法計算の最重要論点です。まずは、全体の流れを示すマスターフローチャートをご覧ください。
【図解:法人税 所得金額計算マスターフローチャート】
[会計上の当期純利益] → (+) → [加算項目(損金不算入など)] → (-) → [減算項目(益金不算入など)] → (=) → [課税所得]
この流れに沿って、各ステップを詳しく見ていきましょう。
Step 1: 会計上の利益(当期純利益)からスタート
すべての計算は、損益計算書(P/L)に記載されている「当期純利益」から始まります。これは、会計と税務をつなぐ最初の架け橋です。問題用紙に当期純利益の金額が与えられたら、まずそれをスタート地点として書き出しましょう。
Step 2: 加算項目(損金不算入)を足す - 税務調整の第一関門
次に、会計上は「費用」として計上されているものの、税法上は経費(損金)として認められない項目を、利益に足し戻します。これを「損金不算入」といい、税務調整の核心部分です。
試験で頻出する損金不算入項目は限られています。以下の表でしっかり押さえましょう。
項目 | 概要 | 参照条文(e-Gov法令検索より) |
法人税等 | 支払った法人税、地方法人税、都道府県民税・市町村民税の本税。税金は利益処分と考えられるため、損金にはなりません。 | 法人税法 第三十八条 |
交際費等 | 接待や贈答のための支出。原則として損金不算入ですが、資本金1億円以下の中小法人などには一定の損金算入枠があります。 | 租税特別措置法 第六十一条の四 |
寄附金 | 事業に直接関係のない寄附金は、一定の限度額を超える部分が損金不算入となります。 | 法人税法 第三十七条 |
役員給与 | 不相当に高額な部分や、毎月同額でない給与(定期同額給与以外のもの)など、一定の要件を満たさない役員給与は損金になりません。 | 法人税法 第三十四条 |
減価償却超過額 | 会社が計上した減価償却費のうち、税法が定める償却限度額を超えた部分の金額です。 | 法人税法 第三十一条 |
各種加算税・延滞税等 | 税金の申告漏れなどに対するペナルティ(加算税、延滞税、罰金など)は、罰則的な性質のため損金にはなりません。 | 法人税法 第五十五条、国税通則法 |
出典:法人税法、租税特別措置法、国税通則法(e-Gov法令検索)
Step 3: 減算項目(益金不算入など)を引く
次に、会計上は「収益」として計上されているものの、税法上は利益(益金)としない項目などを、利益から差し引きます。代表的なものは以下の通りです。
- 益金不算入: 他の法人から受け取った配当金(受取配当金)など。二重課税を避けるための調整です。
- その他: 納付した事業税の損金算入や、法人税の還付金など。
Step 4: 課税所得の確定
これで最後のステップです。以下の式で、税率を掛ける前の最終的な所得金額が確定します。
会計上の利益+加算項目−減算項目=課税所得
この一連の流れをフローチャートとして頭に入れておけば、複雑に見える法人税計算も、体系的に整理できるはずです。
【所得税編】10種類の所得区分を制覇する整理術
所得税は、所得を10種類に区分し、それぞれの性質に応じて計算方法を変えるのが特徴です。ここで重要になるのが「総合課税」と「分離課税」という2つの課税方式の違いを理解することです。
【重要図解】総合課税と分離課税の全体像を掴む
- 総合課税: 複数の所得を合算して、一つの所得金額として税額を計算する方法。所得が多いほど税率が高くなる「超過累進税率」が適用されます。
- 分離課税: 他の所得とは分離して、特定の所得だけで税額を計算する方法。退職金や土地の売却益など、臨時的に発生する大きな所得に適用されることが多いです。
【図解:総合課税と分離課税のバケツイメージ】
[10種類の所得] → [総合課税のバケツ] OR [分離課税のバケツ]
どの所得がどちらのバケツに入るのか、以下の表で整理しましょう 。
所得区分 | 総合課税 | 申告分離課税 | 源泉分離課税 |
事業所得 | ○ | ||
給与所得 | ○ | ||
不動産所得 | ○ | ||
譲渡所得(総合) | ○ | ||
一時所得 | ○ | ||
雑所得 | ○ | ||
利子所得 | △ (一部) | ○ (原則) | |
配当所得 | ○ (選択可) | △ (選択可) | |
退職所得 | ○ | ||
山林所得 | ○ | ||
譲渡所得(土地建物・株式) | ○ |
給与所得と事業所得の計算フロー
特に重要な給与所得と事業所得の計算は、シンプルなフローで覚えましょう。
【図解:給与所得の計算フロー】
[給与収入の合計額] → (-) → [給与所得控除額] → (=) → [給与所得の金額]
【図解:事業所得の計算フロー】
[事業収入の合計額] → (-) → [必要経費] → (= → [事業所得の金額]
【消費税編】納税額計算の3ステップ・フローチャート
消費税の計算は、一見複雑ですが、原理は非常にシンプルです。「預かった消費税」から「支払った消費税」を差し引くだけです。
【図解:消費税納税額計算の3ステップ・フローチャート】
- Step 1: 課税売上高に係る消費税額を計算 お客様から商品やサービスの対価として「預かった消費税」の合計額を計算します。
- Step 2: 課税仕入れ等に係る消費税額を控除 仕入れや経費の支払いで、自社が「支払った消費税」の合計額を計算します。これを差し引くことで、消費税の二重課税を防ぎます。
- Step 3: 納税額(または還付額)の算出
Step 1
の金額からStep 2
の金額を差し引きます。結果がプラスなら納税、マイナスなら還付となります 。
計算ミスを9割減らす!現役会計士が教える3つの実践テクニック
フローチャートで論理を理解したら、次は実践でミスを減らすためのテクニックです。私が受験生時代に実践し、多くの合格者に伝授してきた3つの方法をご紹介します 。
Technique 1: 自分の「ミスの癖」を可視化する「ミスノート」作成術
間違えた問題をただ解き直すだけでは、同じミスを繰り返します。大切なのは、自分の「ミスの癖」を客観的に分析することです。そのために「ミスノート」を作成しましょう 。
ポイントは、ミスを「①知識不足・理解不足」と「②ケアレスミス(読み間違い、転記ミスなど)」に分類することです。
- ミスノートの記録項目:
- 問題の概要
- ミスの原因(例:「交際費の損金不算入限度額の計算で、資本金の基準を間違えた」など具体的に)
- 正しい解法・思考プロセス
- 次からどう防ぐか(対策)
これを1ページにまとめることで、自分の弱点が可視化され、効率的な復習が可能になります 。
Technique 2: 時間配分を制する「問題用紙へのマーキング術」
試験本番では、焦りから問題文の重要な情報を見落としがちです。計算を始める前に、数十秒かけて問題文のキーワードにマーキングする習慣をつけましょう 。
- マーキングの例:
- 資本金の額を〇で囲む(法人税の特例判定に影響)
- 「中小法人」という記述に下線を引く
- 事業年度の日付を[ ]で囲む(期間按分計算など)
- 問われている内容(例:「所得金額を求めよ」)に波線を引く
この「事前準備」を行うだけで、問題の前提条件を誤るミスが劇的に減ります。
Technique 3: 検算を習慣化する「ダブルチェック・システム」
「時間がなくて検算できない」は禁物です。普段の演習から、検算をプロセスに組み込みましょう。
租税法における検算は、単なる再計算ではありません。「論理の再検証」です。
- 検算の例:
- 加算項目(損金不算入)のリストを見返し、「この項目は本当に加算で合っているか?」と自問自答する。
- フローチャートの各ステップを指で追いながら、自分の下書きと照合する。
- 最終的な所得金額が、常識的に見て大きすぎたり小さすぎたりしないか、概算で確認する。
この一手間が、本番での致命的なミスを防ぎます。
まとめ:フローチャート思考で租税法の計算を得点源にしよう
租税法の計算は、決して暗記だけの科目ではありません。一つひとつの計算には、明確な理由と論理的な流れが存在します。
今回ご紹介した「フローチャート学習法」は、その流れを可視化し、あなたの頭の中を整理するための強力なツールです。
- 法人税:会計上の利益からスタートし、加算・減算を経て課税所得に至る流れを掴む。
- 所得税:10種類の所得を、総合課税と分離課税の2つのバケツに正しく仕分ける。
- 消費税:「預かった税金」から「支払った税金」を引くというシンプルな原理を理解する。
この3つの大きな流れをフローチャートで脳に焼き付け、ミスを減らす実践テクニックを組み合わせれば、租税法は必ずあなたの得点源になります。
今日から、あなたもフローチャート思考を取り入れて、複雑な計算問題を楽しみながら攻略していきましょう!応援しています。

租税法の知識が将来実務にどのように役立つのか?こちらの記事も参考にしてください。
よくある質問(Q&A)
このフローチャート学習法は、すべての租税法の計算問題に応用できますか?
はい、応用可能です。この記事で紹介した法人税、所得税、消費税は基本的な型ですが、相続税や特殊な計算問題でも「スタート地点は何か」「どのような調整項目があるか」「ゴールは何か」を意識して自分なりの簡易的なフローチャートを作成することで、思考が整理され、格段に解きやすくなります。まずは基本の型をマスターすることが重要です。
フローチャートを自分で作成するのに時間がかかりそうで不安です。
最初は少し時間がかかるかもしれませんが、慣れれば数分で書けるようになります。完璧な図を目指す必要はありません。手書きの簡単なもので十分です。重要なのは、計算プロセスを自分の手で書き出して「可視化」する行為そのものです。この一手間が、結果的に記憶の定着を助け、長期的な学習効率を大幅に向上させます。
試験本番で、見たことのないパターンの問題が出た場合はどうすれば良いですか?
まさにそのような場面でフローチャート思考が真価を発揮します。未知の問題に直面しても焦らず、まずは「この問題のスタート(基礎となる数値)は何か?」「ゴール(最終的に何を問われているか?)は何か?」を特定してください。そして、その間を埋めるために、どの知識(損金不算入、所得区分など)が使えそうかを、フローチャートの各ステップに当てはめながら考えることで、解答への道筋が見えてきます。
数ある専門学校の中からいくつかご紹介致します。資格取得に際し専門学校選びのご参考として頂けますと幸いです。
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