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株式上場(IPO)の実務(14) IPOコンサルタントの上手な選び方・使い方|公認会計士が7つのポイントを徹底解説

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • 初めてIPO準備に取り組む経営者の方
  • 最適なIPOコンサルタントを探している方
  • コンサル選びで失敗したくない実務担当者
  • IPO準備の全体像と費用感を把握したい方

企業の成長戦略における大きな目標の一つ、株式新規公開(IPO)。経営者の方々にとって、その道のりは大きな期待と同時に、未知の課題に対する不安が入り混じるものではないでしょうか。IPOは、単に株式を市場に公開するだけでなく、企業が「社会の公器」として生まれ変わるための、数年がかりの壮大なプロジェクトです。

この複雑で長大な道のりを、自社だけの力で踏破することは極めて困難です。そこには、法律、会計、証券取引所の規則といった専門知識の迷宮が広がっており、監査法人や主幹事証券会社といった多くの関係者との厳しい対話が待ち受けています 。  

この旅路に不可欠な存在が、専門知識と経験を兼ね備えた「IPOコンサルタント」です。彼らは、いわばIPOという航海の「航海士」であり、企業の羅針盤となる戦略的パートナーです。本記事では、公認会計士の視点から、企業の未来を左右するIPOコンサルタントの重要性から、自社に最適なパートナーを見極めるための具体的な選び方、そしてその活用法まで、体系的に解説します。

なぜIPOコンサルタントは不可欠なパートナーなのか

IPO準備は、日常業務に加えて発生する、膨大なタスクを伴う一大プロジェクトです。なぜ専門家であるIPOコンサルタントの支援が、成功のために不可欠なのでしょうか。

圧倒的な業務量と専門性の壁

IPO準備で求められる作業は、全体スケジュールの策定、資本政策の立案、内部管理体制の構築、そして数百ページに及ぶ申請書類の作成など、多岐にわたります 。これらは、会計、財務、法務、そして証券取引所の規則といった高度な専門知識を融合させなければ遂行できません。これらの知見をすべて社内で賄うことは、ほとんどの企業にとって非現実的です 。専門家の支援なくしては、思わぬ会計処理の誤りや法令遵守の不備といった、致命的なリスクを抱え込むことになりかねません 。  

経営陣が「事業成長」に集中するための防波堤

IPO準備期間中、企業は主幹事証券会社や監査法人、証券取引所から厳しい審査を受け、絶え間ない質問や資料提出の要求に直面します 。もし経営のトップである社長や最高財務責任者(CFO)が、これらの実務対応に忙殺されてしまえば、本来最も注力すべき「事業の成長」というミッションから注意が逸れてしまいます。  

IPO審査において、事業の業績が計画通りに伸長していることは絶対条件です 。準備期間中に業績が停滞・悪化すれば、IPOそのものが頓挫しかねません。  

ここでIPOコンサルタントが「プロジェクトマネージャー」として機能し、外部機関とのコミュニケーションの窓口となることで、経営陣を守る「防波堤」の役割を果たします。彼らが複雑な要求を整理し、社内チームが実行可能なタスクに落とし込むことで、経営陣は安心して事業成長に集中できるのです。これは、コンサルタントがもたらす目に見えにくい、しかし極めて重要な価値と言えるでしょう。

IPOコンサルタントの種類と特徴:自社に合うのはどのタイプ?

IPOコンサルタントは、その出自によって大きく3つのタイプに分類されます。それぞれの強みと弱みを理解し、自社の状況と課題に最も適したパートナーを選ぶことが重要です。

まず、自社の現状を客観的に評価してみましょう。「上場企業レベルの経理体制は整っているか?」「IPO経験のあるCFOや管理部長はいるか?」「最大の課題は、社内体制の構築か、それとも取引所審査の対応か?」この自己分析が、最適なコンサルタント選びの第一歩となります。

1. 証券会社系コンサルタント

証券会社の公開引受部門や審査部門での実務経験者が中心です 。  

  • 強み:主幹事証券会社や証券取引所が行う「上場審査」に関する深い知見を持っています。審査官がどのような意図で質問をしているのか、どのような点を重視しているのかという「審査官の視点」を熟知しており、的を射た書類作成や質疑応答の準備を支援することに長けています 。  
  • 最適な企業:社内の会計体制や内部統制には比較的自信があるものの、証券取引所や主幹事証券会社との審査対応に万全を期したい企業に適しています。

2. 会計士系コンサルタント

公認会計士や監査法人出身者が多く、会計・内部統制のプロフェッショナルです 。このタイプは、支援のスタイルによってさらに2つに分かれます。  

  • 強み:監査法人の監査に耐えうる会計制度や、上場企業として必須となる内部統制システムの構築を得意とします 。企業の経理部門と監査法人の間に立ち、専門的な対話を円滑に進める「橋渡し役」も担います 。  
  • 最適な企業:特に、社内の管理体制の基盤固めから始めなければならない成長初期の企業にとって、心強いパートナーとなります。

ここで重要なのが、会計士系コンサルタントが提供するサービスの形態です。一つは、人手が足りない企業の代わりに規程作成や資料作成といった実務を代行する「業務代行型」。もう一つは、あくまでアドバイスに徹し、企業自身が体制を構築できるようノウハウを提供する「自立支援型」です 。  

業務代行型は短期間で成果を出しやすい一方、コンサルタントへの依存度が高まり、上場後の自走が難しくなるリスクもはらんでいます。一方で、自立支援型は社内にノウハウが蓄積されますが、実行力のある社内チームが存在しなければ計画が前に進みません。自社のリソースを見極め、どちらの支援が最適か慎重に判断する必要があります。

3. 独立系コンサルタント

上記のいずれにも属さず、事業会社のCFO経験者など、多様なバックグラウンドを持つ専門家です。特定の組織に属さないため、中立的な立場から幅広いアドバイスが期待できます。

これらの特徴をまとめたのが、以下の比較表です。

表1:IPOコンサルタントのタイプ別比較

種類主な強み支援の焦点こんな企業におすすめ
証券会社系証券取引所・主幹事証券会社の審査プロセスに関する深い知見上場審査への直接的な対応、審査書類の品質向上内部管理体制は整っているが、審査対応に万全を期したい企業
会計士系(業務代行型)内部統制・会計制度構築の実務能力規程作成、資料作成などの実務を代行し、準備を加速させる管理部門の人員が不足しており、早期に体制を整えたい企業
会計士系(自立支援型)内部統制・会計制度構築のノウハウ提供社内担当者を指導・教育し、自社で運用できる体制の構築を支援実行力のある社内チームがあり、上場後を見据え自走できる組織を作りたい企業

失敗しないIPOコンサルタント選び:7つの必須チェックポイント

自社に最適なパートナーを見つけるために、以下の7つの視点から候補となるコンサルタントを多角的に評価しましょう。

  1. 実績と業界経験: IPO支援の実績数はもちろん重要ですが、それ以上に「自社と同じ業界」での支援実績があるかを確認することが肝要です 。IT、製造、小売など、業界特有のビジネスモデルや会計上の論点、リスクを深く理解しているコンサルタントであれば、より的確なアドバイスが期待できます。  
  2. 得意領域と自社の課題のマッチング :自社の弱点がどこにあるのかを直視し、その課題解決を最も得意とするコンサルタントを選びましょう。例えば、内部統制の構築が急務であれば会計士系、審査対応が最大の懸念であれば証券会社系、といった具合です 。  
  3. 料金体系の透明性と費用対効果: IPOコンサルティングの費用は、年間500万円~1,500万円が一般的な相場です 。決して安価ではないからこそ、費用対効果を厳しく見極める必要があります。複数のコンサルタントから見積もりを取り、サービス範囲と料金を詳細に比較しましょう。「月額報酬にどこまでの業務が含まれるのか」「追加料金が発生するケースは何か」などを事前に明確にすることが、後のトラブルを防ぎます 。  
  4. IPOエコシステムへのアクセス力: IPO準備は、監査法人や主幹事証券会社といったパートナーなくしては進みません。特に近年、監査法人の引き受け手がなかなか見つからない「IPO監査難民」という問題が深刻化しています 。   ここで問われるのが、コンサルタントの「ネットワーク」です。有力なコンサルタントは、監査法人や証券会社と強固な信頼関係を築いています。彼らからの「紹介」という形であれば、自社でアプローチするよりも格段にスムーズに話が進む可能性があります。これは単なる「連携能力」ではなく、IPOという閉じたエコシステムへの「アクセス権」そのものです。面談の際には、「過去3年間で、どの監査法人とお仕事をご一緒されましたか?」「弊社の状況であれば、どの監査法人を紹介いただけそうでしょうか?」といった具体的な質問を投げかけてみましょう 。  
  5. 担当者との相性とコミュニケーション :IPO準備は3年以上に及ぶ長丁場です。その間、密に連携を取る担当者との相性は、プロジェクトの成否を左右するほど重要です。専門知識が豊富なだけでなく、自社の企業文化を理解し、経営陣や実務担当者と円滑にコミュニケーションが取れる人物か、面談を通じてしっかりと見極めましょう 。  
  6. サポートの範囲と柔軟性 :契約前に、サポートの範囲を明確に定義しておくことが重要です。上場準備期間中の支援だけでなく、上場後の適時開示体制の運用やIR(投資家向け広報)活動に関するアドバイスなど、ポストIPOのサポートが含まれているかも確認すべきポイントです 。  
  7. 自走化への道筋を示してくれるか :優れたコンサルタントは、最終的に自らが不要になることを目指します。つまり、単に業務を代行するだけでなく、その過程で社内チームを教育し、上場後には自社だけで運営していけるような仕組みとノウハウを社内に残してくれる存在です。面談では、「上場後、我々が自走できるようになるために、どのような支援をしていただけますか?」と問いかけ、その育成方針を確認しましょう 。  

コンサルタントの価値を最大化する上手な使い方

最高のパートナーを選んだとしても、その活用法を誤れば期待した成果は得られません。コンサルタントの価値を最大限に引き出すためのポイントを3つ紹介します。

  • 契約のタイミングは「N-3期」が理想 :IPO準備は、上場申請を行う期を「N期」とし、その前期を「N-1期」、前々期を「N-2期」と呼びます。コンサルタントとの契約は、理想を言えばそのさらに前の「N-3期」に完了させておくべきです 。この時期に監査法人によるショートレビュー(予備調査)を受け、早期に課題を洗い出すことで、監査対象となるN-2期からの2年間を、計画的に体制整備に充てることができます 。  
  • 強力な社内プロジェクトチームを組成する: コンサルタントはあくまで外部の支援者であり、主体は自社です。CFOや管理部長をリーダーとする、部門横断的な社内プロジェクトチームを必ず組成してください 。コンサルタントはこのチームと二人三脚でプロジェクトを推進します。特にCFOは、プロジェクト全体の進捗管理や外部関係者との調整役として、極めて重要な役割を担います 。  
  • プロジェクト管理を主導してもらう: IPO準備には無数のタスクが存在します。コンサルタントに依頼し、WBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)やガントチャートといったプロジェクト管理手法を用いて、全体のタスクとスケジュールを可視化してもらいましょう。これにより、タスクの抜け漏れを防ぎ、計画的な進捗管理が可能になります 。  

IPOコンサルティング費用の内訳と相場

コンサルティング費用は、企業の状況や依頼する業務範囲によって変動しますが、大まかな相場観を把握しておくことは重要です。

表2:IPOコンサルティング費用の目安

費用項目年間費用の目安主な内容
顧問契約(リテイナー)500万円~1,500万円定期的なミーティング、課題管理、各種相談対応、外部関係者との調整など、全般的な伴走支援  
J-SOX対応支援500万円~2,000万円内部統制の文書化(3点セット作成)、整備・運用評価の支援など、専門性が高い領域の支援  
成功報酬非公開(個別契約)IPOが成功裏に完了した場合に支払われる報酬

これらの費用は、監査法人費用や主幹事証券会社手数料、弁護士費用など、IPOにかかる総費用の一部です 。コンサルティング費用は、この莫大な総費用を無駄にしないための、そしてIPO成功の確率を最大化するための「戦略的投資」と捉えるべきでしょう。  

まとめ

株式新規公開(IPO)は、企業にとって飛躍的な成長を遂げるための重要なステップです。しかし、その道のりは複雑で険しく、専門的な知識と経験を持つ伴走者なしに成功へとたどり着くことは困難です。

IPOコンサルタントは、単なる業務委託先ではありません。彼らは、企業の弱点を補い、経営陣が事業成長に集中できる環境を整え、監査法人や証券会社といった外部関係者との橋渡し役を担う、不可欠な戦略的パートナーです。

本記事で解説した「コンサルタントの3つのタイプ」「選定のための7つのチェックポイント」そして「上手な活用法」を参考に、ぜひ貴社にとって最高のパートナーを見つけ出してください。正しい航海士を選ぶことが、IPOという偉大な航海の成功を左右する、最初の、そして最も重要な意思決定となるでしょう。

よくある質問(Q&A)

IPOコンサルタントとの契約は、いつ頃検討するのがベストですか?

理想は上場申請の3期前(N-3期)です。この段階で契約し、監査法人が行うショートレビュー(予備調査)で課題を洗い出すことで、その後の2年間の監査対象期間に向けた体制整備を計画的に進められます。準備が本格化するN-2期からでは手遅れになる課題もあるため、早めの相談が成功の鍵です。

コンサルティング費用が高額に感じます。コストを抑える方法はありますか?

費用だけで選ぶのは危険ですが、コストを最適化する方法はあります。まず、自社の状況を正確に把握し、本当に必要なサポート範囲を見極めることが重要です。例えば、社内に経理人材が豊富なら、業務代行ではなくアドバイス中心の契約にする、といった形です。複数社から見積もりを取り、サービス内容と費用を比較検討しましょう。

IPO責任者(CFOなど)がいれば、コンサルタントは不要ですか?

経験豊富なCFOがいる場合でも、コンサルタントの活用を強く推奨します。CFOは社内体制の構築やプロジェクト管理の主役ですが、コンサルタントは最新の審査動向や他社事例といった外部の知見を提供し、客観的な第三者としての視点で助言できます。両者がそれぞれの役割を果たすことで、より確実かつ効率的に準備を進めることができます。


ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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