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株式上場(IPO)の実務(9) IPO準備の全貌:3年間のスケジュールと内部管理体制構築の完全ガイド

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • IPOの全体像とスケジュールを把握したい
  • 上場審査で何が問われるか知りたい
  • 内部管理体制の構築方法がわからない
  • 最新のガバナンス・開示規制を知りたい

鐘を鳴らす、その先へ – IPO準備が「短距離走」ではなく「マラソン」である理由

証券取引所で鐘を鳴らす——。それは多くの経営者が夢見る、輝かしい瞬間です。しかし、その一瞬のために、企業は長く、そして極めて緻密な準備期間を走り抜かなければなりません。IPO(新規株式公開)は、単なる資金調達のイベントではありません。それは、企業が「社会の公器」として生まれ変わり、株主や社会全体に対して恒久的な責任を負う存在になるための、組織全体の変革プロセスです 。  

この記事では、2025年時点の最新の規制動向、特に厳格化するコーポレートガバナンス改革や新たに義務化されるサステナビリティ情報開示の要請を踏まえ、IPO準備の全貌を解き明かします。3年以上にわたる道のりを具体的なスケジュールに落とし込み、審査を突破するために不可欠な内部管理体制の構築、そして日々の業務レベルで何をすべきかまで、網羅的かつ実践的なロードマップを提示します。IPOという壮大な「マラソン」を走り切るための、信頼できる伴走者として、本稿をご活用ください。

IPOへの道筋:3年間の詳細スケジュールとアクションプラン

IPOの準備は、思い立ったその日から始められるものではありません。特に、上場申請の直前2期間については、監査法人による会計監査が必須であり、この監査は過去に遡って受けることができないため、最低でも3年程度の計画的な準備期間が必要となります 。この期間は一般的に、上場申請を行う期を「N期」とし、そこから遡って「N-1期(直前期)」「N-2期(直前々期)」「N-3期(直前々々期)」と呼ばれます 。  

以下に、各期間で達成すべき目標と具体的なアクションプランをまとめたマスタースケジュールを示します。これは、IPO準備という長距離走におけるペースメーカーとなるものです。

表1: IPO準備マスタースケジュール(N-3期から申請期まで)

時期主要目的具体的なアクション主要関係者
N-3期以前 (体制構築準備期間)IPOの意思決定と 外部専門家の選定・IPOの意思決定、プロジェクトチームの結成 ・事業計画および後戻りできない資本政策の策定 ・監査法人の選定とショートレビュー(IPO課題調査)の実施 ・主幹事証券会社の選定 ・必要に応じてIPOコンサルタントの選定経営陣、 管理部門、 監査法人、 主幹事証券会社
N-2期 (体制整備・運用期間)内部管理体制の 本格的な整備と監査対応・ショートレビューで指摘された課題の改善 ・内部統制(J-SOX)の構築、内部監査部門の立ち上げ ・社内規程の網羅的な整備 ・会計監査(準金融商品取引法監査)の開始 ・上場申請書類(Iの部・IIの部)の作成開始経営陣、 全従業員、 監査法人、 主幹事証券会社
N-1期 (試運転期間)整備した体制の 完全運用と審査準備・N-2期に構築した内部管理体制の期首からの完全運用 ・主幹事証券会社による引受審査の開始 ・上場申請書類ドラフトの完成とレビュー ・株式事務代行機関の選定 ・適時開示体制のテスト運用経営陣、 管理部門、 監査法人、 主幹事証券会社
N期 (申請期)上場申請と 取引所審査への対応・取締役会での上場申請決議 ・東京証券取引所への上場申請書類の提出 ・取引所によるヒアリングや質問への対応 ・上場承認後、公募・売出しの実行経営陣、 管理部門、 監査法人、 主幹事証券会社

このスケジュールから明らかなように、IPO準備の成否は、いかに早期から計画的に外部の専門家を巻き込み、社内体制を構築できるかにかかっています。特にN-3期における監査法人の選定や資本政策の策定は、その後のすべてのステップに影響を及ぼすため、極めて重要な意思決定となります 。  

審査突破の鍵:東証が求める「上場適格性」の徹底解剖

東京証券取引所(以下、東証)による上場審査は、企業の「上場適格性」を多角的に評価するプロセスです。この審査基準は、大きく分けて「形式要件」と「実質審査基準」の2つに分類されます 。  

  • 形式要件: 株主数、流通株式数、時価総額、利益の額など、数値で客観的に測定可能な基準です。これらは上場申請のための最低限のハードルと言えます 。  
  • 実質審査基準: 数値では測れない企業の質的な側面を評価する基準です。審査の核心部分であり、上場企業としてふさわしい「品格」と「能力」が問われます 。  

特に重要なのが、以下の5つの実質審査基準です。これらは単なる過去の実績ではなく、未来にわたって企業が公器としての責任を果たせるかどうかの将来性を見極めるためのものです 。  

  1. 企業の継続性及び収益性: 過去の利益だけでなく、策定された事業計画が合理的であり、それを遂行するための事業基盤が整っているかが問われます。将来の業績見通しの合理性も厳しく審査されます 。  
  2. 企業経営の健全性: 事業が公正かつ忠実に行われていること。特に、親会社や特定の株主の利益のために、企業の経営が歪められていないかといった独立性が重視されます 。  
  3. コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性: 企業の規模や特性に応じて適切なガバナンス体制や内部管理体制が整備されているだけでなく、それが実際に「有効に機能している」ことが求められます。これは次章で詳述する内部統制の核心部分です 。  
  4. 企業内容等の開示の適正性: 投資家が適切な投資判断を下せるよう、企業内容やリスク情報を正確かつ分かりやすく、タイムリーに開示できる体制が整備されているか。専門用語の多用や過大な表現は修正を求められます 。  
  5. その他公益又は投資者保護の観点から東証が必要と認める事項: 反社会的勢力との関係排除、株主間の権利の公平性、重大な訴訟の有無など、投資家保護のために考慮すべきあらゆる事項が対象となります 。  

これらの基準は、上場を目指す市場(プライム、スタンダード、グロース)によって求められる水準が異なります。自社の成長ステージや事業特性に合った市場を選択することが、最初の重要な戦略となります。

表2: 【市場別】主要な上場審査基準の比較(プライム・スタンダード・グロース)

審査項目プライム市場スタンダード市場グロース市場
株主数800人以上400人以上150人以上
流通株式・流通株式数 2万単位以上 ・流通株式時価総額 100億円以上 ・流通株式比率 35%以上・流通株式数 2千単位以上 ・流通株式時価総額 10億円以上 ・流通株式比率 25%以上・流通株式数 1千単位以上 ・流通株式時価総額 5億円以上 ・流通株式比率 25%以上
時価総額250億円以上10億円以上(形式要件なし)
利益の額最近2年間の利益合計が25億円以上 または 売上高100億円以上かつ時価総額1,000億円以上最近1年間の利益が1億円以上(形式要件なし)
純資産の額50億円以上正であること正であること
継続性・収益性継続的に事業を営み、安定的かつ優れた収益基盤を有する継続的に事業を営み、安定的な収益基盤を有する合理的な事業計画を策定し、遂行するための事業基盤を有する

出典:東京証券取引所「上場審査基準」等に基づき作成  

この表が示すように、グロース市場は高い成長可能性を重視するため利益要件がありませんが、その分「事業計画の合理性」が極めて厳しく審査されます。一方でプライム市場は、安定的かつ優れた収益基盤が求められるなど、より成熟した企業向けの基準となっています。審査基準は、単なる数字の羅列ではなく、各市場がどのような企業を求めているかというメッセージそのものなのです。

信頼の砦を築く:内部管理体制の構築とJ-SOX対応の実務

上場審査において最も重要視され、かつ構築に多大な時間を要するのが「内部管理体制」です。これは、社内の不正やミスを防ぎ、業務を正しく効率的に進めるための仕組みやルールの総称です 。この体制が有効に機能していることを証明するプロセスが、いわゆる「J-SOX対応」です。  

そもそも内部統制とは?4つの目的と6つの基本的要素

内部統制は、経営者が従業員一人ひとりを常に監視していなくても、組織として正しく事業が運営されるための仕組みです。金融庁は、内部統制が達成すべき目的として以下の4つを挙げています 。  

  1. 業務の有効性及び効率性: 事業活動の目標達成のため、ヒト・モノ・カネといった資源を無駄なく有効活用すること。
  2. 財務報告の信頼性: 決算書などの財務情報に虚偽や誤りがなく、信頼できるものであることを保証すること。
  3. 事業活動に関わる法令等の遵守: 法律や社内規程などのルールを守って事業活動を行うこと。
  4. 資産の保全: 会社の資産(現金、在庫、情報など)が不正や誤謬により失われることがないよう、適切に取得・使用・処分されること。

これらの目的を達成するために、「統制環境」「リスクの評価と対応」「統制活動」「情報と伝達」「モニタリング」「ITへの対応」という6つの基本的要素を、組織全体で整備・運用していく必要があります 。  

J-SOX対応の具体的なステップ

J-SOX(内部統制報告制度)は、上記4つの目的のうち、特に「財務報告の信頼性」を確保するための制度です 。上場企業は、自社の内部統制が有効であるかを経営者自らが評価し、その結果を「内部統制報告書」として開示する義務があります 。IPO準備においては、上場後スムーズにこの義務を果たせるよう、N-1期を試運転期間として、以下のステップで対応を進める必要があります。  

  1. 評価範囲の決定: 全ての業務を対象とするのは非効率なため、財務報告に重要な影響を及ぼす勘定科目を起点に、評価対象とする事業拠点や業務プロセスを決定します。
  2. 文書化: 評価対象となった業務プロセスについて、いわゆる「3点セット」を作成し、業務の流れとリスク、それに対するコントロール(チェック体制)を可視化します 。
    • 業務フローチャート: 業務の流れを図で表現したもの。
    • 業務記述書: フローチャートの内容を文章で補足したもの。
    • リスク・コントロール・マトリックス(RCM): 業務に潜むリスクと、そのリスクを低減するためのコントロール(統制活動)を一覧にしたもの。
  3. 整備・運用状況の評価: 文書化されたコントロールが、計画通りに整備され、期末まで継続して運用されているかをテストによって検証します。不備が発見された場合は、速やかに是正措置を講じます 。  
  4. 内部統制報告書の作成: 期末時点で、経営者が内部統制の有効性を最終的に評価し、その結果を内部統制報告書としてまとめます。この報告書は、上場後に有価証券報告書と合わせて提出されます 。  

2024年4月改正J-SOXのポイントとIPO準備への影響

近年、企業内外のリスクが複雑化する中で、2024年4月1日から改正された内部統制の枠組みが適用されています 。この改正は、特に経営者の役割と不正リスクへの対応を重視しており、IPO準備企業もこの新しい考え方を念頭に置く必要があります。具体的には、リスク評価の際に不正リスクをより明確に識別し、それに対応する統制活動を重点的に評価することが求められます。これは、内部統制が単なる形式的な手続きではなく、企業文化に根差した倫理観の表明であることを示唆しています。  

2025年の新常識:ガバナンス改革とサステナビリティ開示への対応

2025年のIPO準備において、従来の枠組みに加えて新たに対応が必須となるのが、「コーポレートガバナンス改革」と「サステナビリティ情報開示」という2つの大きな潮流です。これらは、企業価値の定義そのものが変化していることを示しています。

「稼ぐ力」を問うコーポレートガバナンス・コード改革

金融庁と東証は、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を促すため、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」を公表し、改革を推進しています 。この改革がIPO準備企業に求めるのは、単に形式を整えることではなく、実質的な企業価値向上に繋がる経営の実践です。  

特に以下のテーマは、上場審査やその後の投資家との対話において、企業の姿勢が厳しく問われるポイントです。

  • 資本コストや株価を意識した経営: PBR(株価純資産倍率)1倍割れが問題視されるなど、企業は投下した資本に対してどれだけのリターンを生み出しているかを常に意識し、投資家に説明する責任を負います 。  
  • 人的資本への投資: 従業員を単なるコストではなく、価値創造の源泉である「資本」と捉え、人材育成戦略や従業員エンゲージメント向上への取り組み、関連する指標(女性管理職比率、男女間賃金格差など)を開示することが求められます 。  
  • 政策保有株式の縮減: 事業上の関係維持などを目的とした株式の持ち合い(政策保有株式)について、その経済合理性を厳しく検証し、縮減に向けた方針を開示することが強く要請されています 。  

IPOを目指す企業は、自社の成長戦略がこれらの要請にいかに応えるものであるかを、説得力をもって語る必要があります。

IPO準備に必須となったサステナビリティ情報開示(SSBJ基準)

これまで任意開示が中心だったサステナビリティ(ESG)情報は、今や財務情報と並ぶ重要な開示項目となりました。2025年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が公表した日本版基準(SSBJ基準)は、国際的な基準(IFRS S1号・S2号)と整合しており、有価証券報告書での開示が段階的に義務化されます 。  

上場を目指す企業にとって、これは「上場してから考えればよい」という話ではありません。投資家は上場時点から高いレベルの開示を期待するため、準備段階から対応が不可欠です。SSBJ基準が求める開示の4つの柱は以下の通りです 。  

  1. ガバナンス: サステナビリティ関連のリスクと機会を監督する取締役会などの体制。
  2. 戦略: サステナビリティ課題が自社のビジネスモデル、戦略、財務計画に与える短期・中期・長期的な影響。
  3. リスク管理: それらのリスクを識別、評価、管理するためのプロセス。
  4. 指標と目標: リスクと機会を評価・管理するために用いる指標(例:GHG排出量、女性管理職比率、男性の育休取得率など)と、企業が設定した目標 。  

これらの情報を、財務情報と同時に、同等の信頼性をもって開示できる体制を構築するには、複数年にわたるデータ収集と管理プロセスの構築が必要です。サステナビリティ対応は、もはやCSR部門だけの仕事ではなく、経営戦略そのものなのです。

縁の下の力持ち:IPOを支える日常業務と管理部門の役割

IPO準備という壮大なプロジェクトは、経営陣のリーダーシップだけでは成し遂げられません。経理、法務、人事といった管理部門が、日々の業務レベルで上場企業にふさわしい水準を達成し、維持することが不可欠です。IPOは、企業のバックオフィスをコストセンターから、企業価値を守り、高めるための戦略的機能へと変革させるプロセスでもあります 。  

管理部門の強化:経理・法務・人事のミッション

各管理部門には、従来の業務に加えて、IPO準備段階で以下のような高度なミッションが課せられます 。  

  • 経理・財務部門:
    • 月次決算の早期化・精度向上: 上場企業としてタイムリーな情報開示を行うため、月次決算を翌月のできるだけ早い段階で確定させる体制を構築します。
    • 監査法人対応: 監査法人からの膨大な資料要求や質問に、迅速かつ正確に対応します。
    • 開示資料作成: 有価証券報告書(Iの部)など、法定開示書類の作成を主導します。
  • 法務・コンプライアンス部門:
    • 契約書管理体制の整備: すべての契約書を適切に管理し、法務レビューが徹底される体制を構築します。
    • コンプライアンス体制の構築: 全社的なコンプライアンス研修の実施や、内部通報制度の整備・運用を行います。
    • 反社会的勢力排除の徹底: 取引先に対する反社チェックの仕組みを構築し、その運用記録を確実に保持します 。  
  • 人事・労務部門:
    • 労務コンプライアンスの徹底: 未払残業代の有無を確認し、必要であれば過去に遡って精算します。労働時間管理は、PCログや入退室記録など客観的な記録に基づいて行う必要があります 。  
    • 人事関連規程の整備: 就業規則、賃金規程、育児・介護休業規程などを法令に準拠した形で整備し、全従業員に周知徹底します 。  
    • J-SOX対応: 給与計算や人事評価プロセスにおける不正や誤りを防ぐためのチェック体制を構築し、文書化します 。  

情報開示体制とIR機能の構築

上場企業には、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼす事実が発生した場合、直ちにその内容を開示する「適時開示」の義務が課せられます 。社内の情報を迅速に収集し、開示の要否を判断し、正確な開示資料を作成・公表するための一連のフローを確立しておく必要があります 。また、上場後には株主や投資家との対話を行うIR(インベスター・リレーションズ)活動が重要になるため、その準備も進めておくべきです。  

関連当事者取引の整備と法令遵守

経営者やその親族、大株主など、会社と特別な関係にある者との取引(関連当事者取引)は、会社の利益が不当に害されるリスクがあるため、上場審査で厳しくチェックされます 。例えば、取締役と会社との間の利益相反取引は、会社法第365条(取締役会設置会社の場合)に基づき、取締役会の承認を得て、その重要な事実を開示することが義務付けられています。こうした取引は、価格の妥当性や取引条件の合理性を客観的に説明できるように、議事録等の証拠を整備しておくことが不可欠です。  

法令の引用について 本稿で言及した会社法や金融商品取引法等の条文は、デジタル庁が提供する「e-Gov法令検索」にて確認することができます 。法令は頻繁に改正されるため、常に最新の情報を参照することが重要です。  

  • 参照元: e-Gov法令検索 (https://elaws.e-gov.go.jp/)
  • 参照条文例: 会社法(平成十七年法律第八十六号)、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)

新たな航海へ – 公開企業としての第一歩

IPO準備の道のりは、長く険しいものです。しかし、それは単に上場というゴールに到達するための作業ではありません。このプロセスを通じて、企業は組織としての規律を学び、透明性を高め、社会からの信頼に足る強固な経営基盤を築き上げることになります。

成功裏にIPOを達成するための柱は、以下の3つに集約されます。

  1. 緻密かつ長期的な計画: 3年以上の期間を見据えた、現実的なロードマップを策定し、着実に実行すること。
  2. 堅牢な内部構造: 強固なガバナンスと有効に機能する内部統制を、企業文化として根付かせること。
  3. 時代の要請への適応: サステナビリティを始めとする新たな情報開示の要請に、先んじて対応すること。

このマラソンを走り切った時、あなたの会社は単に上場企業というだけでなく、持続的な成長を遂げるための強靭な体力を備えた、真に優れた企業へと変貌を遂げているはずです。このレポートが、その新たな航海への第一歩を踏み出すための、確かな羅針盤となることを願っています。

よくある質問(Q&A)

IPO準備には、最低でもなぜ3年という期間が必要なのですか?

主な理由は、上場審査において、申請直前の2期間(N-1期とN-2期)について、公認会計士または監査法人による監査証明が必要となるためです 。この会計監査は過去に遡って実施することができないため、N-2期の期首から監査を受けられる体制を整える必要があります。さらに、その準備期間として、監査法人を選定したり、ショートレビューで指摘された課題を改善したりする期間(N-3期)も考慮すると、実質的に最低3年は必要となります 。

最近よく聞く「サステナビリティ開示」ですが、まだ非上場のうちから対応する必要があるのでしょうか?

はい、対応が必須と考えてください。サステナビリティ情報の有価証券報告書での開示は、企業の時価総額に応じて段階的に義務化されますが、投資家はIPOの時点から高いレベルの開示を期待します 。GHG排出量などのデータは、収集・算定体制の構築に時間がかかります。また、サステナビリティへの取り組みは、企業の長期的な成長戦略やリスク管理能力を示す重要な指標であり、上場審査における「事業計画の合理性」や「企業経営の健全性」の評価にも影響します。準備期間中から計画的に対応を進めることが、企業価値の向上に繋がります。

内部統制(J-SOX)の構築は、コンサルタントに全て任せても良いのでしょうか?

専門的な知見を持つコンサルタントの活用は非常に有効ですが、「全て任せる」ことはできません。内部統制は、その会社の事業内容や企業文化に根差したものでなければ有効に機能しません 。コンサルタントはあくまで構築を支援する役割であり、主体はあくまで会社自身です。特に、経営者が内部統制の重要性を理解し、全社にその方針を浸透させる「統制環境」の醸成は、経営者にしかできない重要な役割です 。従業員を巻き込み、自社の業務に合った実効性のある仕組みを、主体的に構築していく姿勢が不可欠です 。


ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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