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【インボイス制度】レシートに税率がなくても大丈夫!適格簡易請求書(簡易インボイス)の5つの必須要件と実務対応ガイド

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士| あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。 IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。 このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • レシートの税率記載がなく経費精算に悩む経理担当者の方
  • 簡易インボイスの発行・受領時の必須項目を知りたい経営者の方
  • 通常のインボイスとの違いを正確に理解したい実務担当者の方

2023年10月からインボイス制度が始まり、日々の経理業務で戸惑う場面が増えていませんか。特に、タクシーの利用やコンビニでの備品購入時にもらうレシートを見て、「登録番号はあるけれど、請求書とは形式が違う。税率の記載がないように見えるけど、これは仕入税額控除の対象になるのだろうか?」といった疑問は、多くの経営者や実務担当者様から寄せられます。

この混乱の原因は、インボイス制度における「適格簡易請求書(てきかくかんいせいきゅうしょ)」の存在です。

本記事では、公認会計士の監修のもと、この適格簡易請求書(簡易インボイス)の基本的なルールから、通常の適格請求書との違い、受け取った後の実務対応までを分かりやすく解説します。この記事を最後までお読みいただければ、レシートや領収書が有効なインボイスかどうかを自信を持って判断し、正しく処理できるようになります。

1. 適格簡易請求書(簡易インボイス)とは?

適格簡易請求書(通称:簡易インボイス)とは、インボイス制度において、特定の事業者が発行を認められている、記載項目を簡略化したインボイスのことです 。  

なぜこのような簡易的な形式が認められているのでしょうか。それは、小売店や飲食店、タクシーのように、不特定多数のお客様を相手にする事業では、取引の都度、相手方の正式名称(宛名)を確認して記載した正式なインボイスを発行することが現実的ではないためです 。もしスーパーのレジで全顧客の会社名を確認していたら、長蛇の列ができてしまい業務が成り立ちません。  

このような実務上の負担を軽減し、制度を円滑に運用するために、法律は特定の事業者に対して、宛名の記載などを省略した簡易インボイスの発行を認めているのです。この制度は、税の透明性を確保するというインボイス制度の目的と、事業者の現実的なオペレーションとの間でバランスを取るための、いわば実用的な仕組みと言えます。

この制度は、消費税法及びその関連法令によって正式に定められています。

  • 根拠法令: 消費税法 第五十七条の四 第二項、消費税法施行令 第七十条の十一
  • 参照元: e-Gov法令検索

2. 誰が発行できる?適格簡易請求書を交付できる事業者

簡易インボイスは、どの事業者でも発行できるわけではありません。まず大前提として、発行元が税務署に登録済みの「適格請求書発行事業者」であることが必須です 。登録事業者でなければ、たとえ下記の対象業種であっても簡易インボイスを発行することはできません。  

その上で、簡易インボイスの交付が認められているのは、不特定多数の者を相手に取引を行う、以下の7つの業種に限られています 。  

表1:適格簡易請求書を交付できる事業者

事業の種類具体例
① 小売業スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ドラッグストア、書店など
② 飲食店業レストラン、カフェ、居酒屋、ラーメン店など
③ 写真業写真館、DPEショップ(写真の現像・プリント店)など
④ 旅行業旅行代理店(パッケージツアーの販売など)
⑤ タクシー業タクシー、ハイヤーなど
⑥ 駐車場業コインパーキングなど不特定多数が利用するもの
⑦ その他これらに準ずる事業自動販売機、コインランドリー、有料道路の通行料金、広く参加者を募るセミナーなど  

特に注目すべきは「⑦その他これらに準ずる事業」です。この項目は、将来登場する新しいビジネスモデルにも柔軟に対応できるよう、あえて幅を持たせた規定になっています。国税庁は、その判断基準として「相手方の氏名又は名称等を確認せず、取引条件等をあらかじめ提示して相手方を問わず広く資産の譲渡等を行うことが常態である事業」を挙げています 。つまり、個別の顧客ごとに契約内容が変わるのではなく、誰に対しても同じ条件で商品やサービスを提供している事業であれば、このカテゴリに該当する可能性が高いと言えます。  

3. これだけは必須!適格簡易請求書の5つの記載事項

受け取ったレシートや領収書が有効な簡易インボイスとして認められるためには、以下の5つの項目がすべて記載されている必要があります 。経理処理の際には、この5項目が揃っているかを必ず確認してください。  

表2:適格簡易請求書の5つの必須記載事項

番号記載事項解説
発行事業者の氏名又は名称及び登録番号事業者の名前と「T」で始まる13桁の登録番号が記載されているかを確認します。この番号がインボイスの最も重要な要素です。
取引年月日商品やサービスの提供を行った年月日です。通常はレシートの上部に記載されています。
取引内容「お品代」「飲食代」など、取引の内容がわかるように記載されています。軽減税率(8%)の対象品目には「※」や「軽」などの記号でその旨が示されます。
税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜又は税込)8%対象合計、10%対象合計のように、税率ごとの合計金額が記載されている必要があります。
税率ごとに区分した消費税額等 又は 適用税率ここが最重要ポイントです。税率ごとの消費税額(例:8%対象消費税 ¥24)か、適用税率(例:8%対象、10%対象)のどちらか一方が記載されていれば有効です。両方の記載は不要です。

これらの項目さえ満たしていれば、書類の名称が「領収書」や「レシート」、「ご利用明細」などであっても、法律上は有効な簡易インボイスとして扱われます 。  

4. 「税率がない」は誤解!通常のインボイスとの決定的な違い

多くの人がレシートを見て「税率の記載がない」と勘違いする原因は、簡易インボイスと通常の適格請求書との違いにあります。両者の決定的な違いは、「宛名の要否」と「消費税の記載方法」の2点です。

以下の比較表で、その違いを明確に理解しましょう。

表3:適格請求書と適格簡易請求書の比較

比較項目適格請求書(通常のインボイス)適格簡易請求書(簡易インボイス)
① 宛名の記載必要 例:「株式会社〇〇 御中」不要
② 消費税の記載適用税率 消費税額等の両方が必要適用税率 又は 消費税額等のどちらか一方で可

違い1:宛名の記載が不要

前述の通り、簡易インボイスでは取引相手の氏名や名称(宛名)を記載する必要がありません 。これにより、レジでの迅速な会計処理が可能になっています。  

違い2:「税額」または「税率」のどちらか一方で良い

これが最も重要なポイントです。通常のインボイスでは、「適用税率(8%, 10%など)」と「税率ごとの消費税額」の両方を記載しなければなりません。

しかし、簡易インボイスでは、このどちらか一方の記載があれば良いとされています 。  

つまり、

  • ケースA: レシートに「8%対象合計 xxx円」「10%対象合計 yyy円」と適用税率が書かれていれば、税率ごとの具体的な消費税額(例:消費税額24円)の記載がなくても有効です。
  • ケースB: レシートに「内消費税等(8%対象) 24円」「内消費税等(10%対象) 50円」のように消費税額が書かれていれば、「8%」「10%」という適用税率の文字がなくても有効です。

日常で受け取る多くのレシートはケースBに該当するため、「税率(%)の記載がない」ように見えても、税率ごとの消費税額が記載されていれば、それは完全に有効な簡易インボイスなのです。

5. 経理担当者必見!簡易インボイスを受け取った後の実務ガイド

簡易インボイスを受け取った後の、経理担当者が行うべき実務上のステップと注意点を解説します。

ステップ1:有効性の確認

日々の処理では、以下の3つのステップで簡易インボイスが有効かを確認しましょう。

  1. 発行元は対象事業者か?:小売業や飲食店など、表1に記載の業種かを確認します。
  2. 登録番号(T番号)はあるか?:レシートに「T」で始まる13桁の番号が記載されているかを確認します。
  3. 5つの必須項目は記載されているか?:表2の5項目がすべて満たされているかを確認します。

ステップ2:書類の保存義務

発行事業者・受領事業者の双方に、簡易インボイス(またはその写し)を7年間保存する義務があります。保存期間の起算日は、「その課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日」です 。例えば、3月決算の法人が2024年5月に受け取ったレシートは、2025年5月31日から7年間、つまり2032年5月30日まで保存する必要があります。  

ステップ3:特例措置の活用「少額特例」

日々の経費精算の負担を大幅に軽減できる重要な特例があります。それが「少額特例」です。

  • 内容: 税込価格が1万円未満の課税仕入れについては、インボイスの保存がなくても、一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められます 。  
  • 対象事業者: 基準期間(2事業年度前)の課税売上高が1億円以下、または特定期間(前事業年度の上半期)の課税売上高が5,000万円以下の事業者が対象です 。  
  • 適用期間: この特例は、2023年10月1日から2029年9月30日までの期間限定の措置です。

この特例は、インボイス制度導入による中小企業の急激な事務負担増を緩和するために設けられました。多くの交通費や消耗品費がこの対象となるため、自社が対象事業者であるかを確認し、積極的に活用することで経理業務を効率化できます。ただし、これはあくまで経過措置であり、恒久的な制度ではありません。この6年間のうちに、会計ソフトの導入や電子インボイスへの対応など、将来を見据えた体制を整えていくことが求められます。

まとめ:ポイントを押さえて日々の経理をスムーズに

最後に、本記事の重要なポイントをまとめます。

  • 小売店、飲食店、タクシーなどから受け取るレシートや領収書は、「適格簡易請求書」として有効な場合があります。
  • 有効な簡易インボイスかを確認するには、まず「T」で始まる登録番号の有無と、発行元が対象業種であるかを確認します。
  • 「税率の記載がない」ように見えても、「税率ごとの消費税額」または「適用税率」のどちらか一方が記載されていれば、要件を満たします。
  • 中小事業者には、税込1万円未満の取引でインボイス保存が不要になる「少額特例」があります(2029年9月30日まで)。

インボイス制度は複雑に感じられるかもしれませんが、簡易インボイスのような基本的なルールを正しく理解することで、日々の経理業務における疑問や不安を解消し、より正確で効率的な処理を行うことができます。

よくある質問(Q&A)

コンビニやタクシーのレシートに税率の記載がありません。インボイスとして無効でしょうか?

いいえ、無効ではありません。小売業やタクシー業などが発行する「適格簡易請求書(簡易インボイス)」では、「適用税率」または「税率ごとの消費税額」のどちらか一方の記載があれば要件を満たします。多くのレシートには消費税額が記載されているため、税率の記載がなくても有効なインボイスとなります。

簡易インボイスを受け取る際、自社の宛名を書いてもらう必要はありますか?

必要ありません。適格簡易請求書の大きな特徴の一つは、書類の受領者、つまり宛名の記載が不要である点です。宛名がなくても、他の必須記載事項(発行者名と登録番号、取引年月日など5項目)が満たされていれば、仕入税額控除の対象となります。

飲食店を経営しています。お客様に渡すレシートを簡易インボイスにするには、最低限何を載せればよいですか?

適格請求書発行事業者であることが前提ですが、レシートには最低限、①事業者名と登録番号、②取引年月日、③取引内容(軽減税率の対象品目である旨)、④税率ごとに区分した合計額、⑤税率ごとの消費税額または適用税率、の5項目を記載する必要があります。特に、テイクアウト(8%)と店内飲食(10%)が混在する場合は、税率ごとの合計額を明確に分けることが重要です。


ここでは、あくまで私個人の視点から、皆様のご参考としていくつかの書籍を挙げさせていただきます。

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