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固定資産減損実務(7)減損の会計処理・税務と監査報告

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士|
あずさ監査法人、税理士法人、上場会社経理、コンサルファームを経て独立。
IPO支援・M&A及び上場会社経理業務を専門とし、企業の成長を財務面からサポート。
このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。
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こんな方におすすめ

  • 減損損失を計上した後の「別表4」の書き方を知りたい方
  • 減損した資産の翌期以降の減価償却計算に悩んでいる方
  • 繰延税金資産の回収可能性について監査人と揉めている方
  • 経営層に「減損の税務インパクト」を分かりやすく説明したい方

減損会計の長い道のりも、ようやく最終コーナーです。第1回から第6回まで、膨大な資料と格闘し、監査法人とギリギリの交渉を続けて「減損損失の計上」という苦渋の決断に至った皆様、本当にお疲れ様でした。

しかし、経理実務の本当の「後片付け」はここから始まります。会計上で損失を計上しても、国税当局(税務署)は簡単にはそれを認めてくれません。また、せっかく出した損失が「税効果会計」によってさらなる混乱を招くこともあります。最終回となる今回は、減損計上後の「リハビリ期間」とも言える、会計・税務・監査の完結編をお届けします。

減損損失の仕訳とPL表示:特別損失への計上

まず、決定した減損損失をどのように帳簿に反映させるかを確認しましょう。

基本仕訳と表示科目

減損損失は、原則として「特別損失」の区分に表示します (固定資産の減損に係る会計基準 三)。

【設例:建物について3,000万円の減損を計上する場合】

(借)減損損失(特別損失) 3,000万円 / (貸)建物減損損失累計額 3,000万円

※直接、建物勘定から減額する「直接減額法」も認められますが、実務上は取得価額を維持するために「間接控除法(累計額勘定)」を用いることが一般的です。

監査人が注記で厳しくチェックする「経緯」

財務諸表には、単に金額を載せるだけでなく、以下の内容を注記する必要があります(固定資産の減損に係る会計基準 四)。

  1. 減損損失を認識した資産(グループ)の概要
  2. 減損損失の認識に至った経緯
  3. 減損損失の金額と資産の種類ごとの内訳
  4. 回収可能価額の算定方法(割引率など)

特に「2. 認識に至った経緯」は重要です。監査人は「なぜこのタイミングで減損が必要になったのか、これまでの事業計画とどう整合するのか」というストーリーの整合性を、第4回で解説した事業計画と照らし合わせて厳しく精査します。

減損後の減価償却費:新しい簿価での再スタート

減損損失を計上した後、翌期以降の減価償却費はどうなるのでしょうか?

結論から言うと、「減損後の帳簿価額」をベースに、残りの耐用年数で償却を計算し直すことになります。これを会計用語で「適正な原価配分」と呼びます。

項目処理内容根拠規定
償却の基礎数値減損後の帳簿価額(減額後の金額)適用指針第55項
耐用年数原則として、見直し後の経済的残存耐用年数適用指針第55項
計算方法会社が採用している方法(定額法、定率法等)適用指針第55項

実務上のポイントは、減損を認識するほどの状況であれば、当初予定していた耐用年数自体が短くなっている可能性が高いという点です。償却費の計算を間違えると、翌期の利益予測が大きく狂うため、固定資産台帳のマスター修正は慎重に行う必要があります(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針 第55項)。

税務上の「損金不算入」という厳しい現実

ここが経理担当者にとって最大の泣き所です。会計上の「減損損失」は、法人税法上、原則として損金(費用)として認められません。

法人税法第33条の壁

法人税法では、資産の評価換えによる損失計上を厳格に制限しています(法人税法第33条)。税務上、損金として認められるのは、災害による著しい損傷や、1年以上の遊休など、ごく限られた「資産の評価換えができる場合」に限定されています(法人税法施行令第68条)。

通常の「収益性の低下(儲からなくなったから減らす)」による減損は、この例外規定に該当しません。そのため、申告書作成時に以下の調整が必要になります。

別表4での加算(留保)処理

会計上の利益からスタートして、税務上の所得を計算する「別表4」において、計上した減損損失を「加算(留保)」します。

【別表4のイメージ】

  • 当期純利益:△5,000万円(減損損失3,000万円計上後)
  • 加算項目:減損損失否認 3,000万円
  • 差し引き所得:△2,000万円

この加算した金額は、将来その資産を売却したり、除却したり、あるいは毎期の減価償却を通じて会計上の償却費が税務上の償却限度額を下回った時に「認容(減算)」として損金化されていきます。

税効果会計の修羅場:繰延税金資産の回収可能性

「会計では損失だけど、税金は安くならない」。この一時的なズレを調整するのが「税効果会計」です。しかし、減損が出るような状況では、この税効果会計が新たな火種となります。

回収可能性という「第2の減損テスト」

減損損失(一時差異)に対して、将来の税金を安くする効果を期待して「繰延税金資産(DTA)」を計上しようとします。しかし、繰延税金資産を計上するためには、「将来、その効果を使い切れるだけの十分な課税所得(利益)が出るか」を証明しなければなりません。

監査人はここで主張します。

「減損を出すほど事業計画が悪化しているのに、なぜ将来は利益が出て、税金が安くなると言い切れるのですか?」

これは、実質的に「第2の減損テスト」です。分類(会社分類1~5)の変更を余儀なくされ、繰延税金資産の全額取り崩し(=さらなる純資産の減少)というダブルパンチを食らう企業は少なくありません。

監査報告書(KAM)への記載と経営者への報告

近年、上場企業の監査報告書には「監査上の主要な検討事項(KAM:Key Audit Matters)」が記載されます。固定資産の減損は、KAMの常連です。

KAMで何が書かれるのか

監査人は、なぜその減損(あるいは減損の不計上)を重要視したのか、どのような監査手続き(事業計画の精査、外部専門家の評価の利用など)を実施したのかを詳細に記述します。

経営者にとっては、自社のビジネスの不確実性が公にされることになります。CFOとしては、KAMのドラフト(草案)段階から監査人とコミュニケーションを取り、投資家に対して不要な不安を与えない、かつ正確な開示内容を模索する必要があります。

会計士の体験談:経営陣への「税引後」の伝え方

あるクライアントで、巨額の減損を計上することになった際、社長から「で、キャッシュはいくら減るんだ?」と聞かれました。

会計士として「キャッシュは減りませんが、税金も安くならないので、純資産だけがごっそり削られます」と答えた時の、社長のあの落胆した顔は忘れられません。

経営層は「損が出るなら税金も安くなる(損金になる)」と思い込んでいることが多いものです。「会計上の損失額」と「税務上の影響」、そして「税引後の最終的な自己資本へのインパクト」を整理して報告することが、我々経理・財務担当者の重要な職務です。


まとめ:シリーズ「減損会計のバイブル」を終えて

全7回にわたり、減損会計の迷宮を歩いてきました。

グルーピングに悩み(第2回)、赤字の継続に焦り(第3回)、20年ルールの罠にはまり(第4回)、WACCの0.1%を争い(第5回)、のれんの道連れに怯え(第6回)、そして最後に税務と開示の壁にぶち当たる(第7回)。

減損会計は、単なる「数字の整理」ではありません。それは、自社の事業を客観的に見つめ直し、将来へのリスタートを切るための「外科手術」です。本シリーズが、皆様が監査人という厳しいプロフェッショナルとの対話において、自信を持って論理を構築するための一助となれば幸いです。

よくある質問(Q&A)

遊休資産を減損した場合、翌期の減価償却費はどう表示しますか?

原則として「営業外費用」に表示します。稼働していない資産の費用を売上原価や販管費に入れるのは不適切だからです(固定資産の減損に係る会計基準の適用指針 第56項)。

減損損失が税務上で「認容」されるのは具体的にいつですか?

その資産を除却・売却した時、あるいは毎期の税務上の償却限度額が会計上の償却費を上回った際に、その差額分が順次認容されます 。

子会社株式評価損が損金として認められる「著しい悪化」の基準は?

実務上、子会社の1株あたりの純資産(実質価額)が、取得価額の50%程度以下に下落し、かつ近い将来に回復する見込みがない場合に認められます(法人税基本通達9-1-9)。

注記の「減損に至った経緯」は、どの程度詳細に書くべきですか?

決まった書式はありませんが、監査上の主要な検討事項(KAM)との整合性が重要です。「主要な市場である〇〇の需要が急減し、事業計画を下方修正したため」といった、客観的な外部環境の変化と内部の意思決定を紐付けて記載します。

一度減損した資産の収益がV字回復した場合、損失を戻し入れることはできますか?

いいえ。日本基準では減損損失の戻入れは禁止されています。一度計上した減損は、その後どんなに業績が良くなってもそのままです (固定資産の減損に係る会計基準 三 2.) 。

よくある質問(Q&A)


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専門家としての経験に基づき、現場で本当に『武器』になった数冊を厳選しました。理論だけで終わらない、実践に裏打ちされた知恵を求める方の参考になれば幸いです。


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