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IFRS導入実務(3)IFRS導入の失敗しない体制図と費用相場:監査法人・コンサルの役割分担

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士|
あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。
IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。
このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • IFRS導入の失敗しない体制図と役割分担を知りたい方
  • 監査法人とコンサルの正しい使い分けと費用相場を知りたい方
  • 経理部だけでプロジェクトを進めることに限界を感じている方
  • 有給休暇引当金(IAS19)など実務への影響を知りたい方

はじめに:IFRS導入は「経理だけの仕事」ではありません

「IFRS(国際会計基準)の導入が決まったから、あとは経理部長、よろしく頼むよ」

もし、あなたが経営者で、このような指示をだそうとしているなら、少し待ってください。あるいは、あなたが実務担当者で、このような指示を受けて途方に暮れているなら、この記事はあなたのための救命ボートになるはずです。

多くの企業において、IFRS導入プロジェクトが炎上する最大の原因。それは、「IFRS=会計ルールの変更」という誤解から、経理部門だけに全責任を負わせてしまうことにあります。

断言します。IFRS導入は、会計基準の変更ではありません。「経営管理OSの全面刷新」です。

  • 人事制度が変わります: 従業員の「有給休暇」が負債として計上されるようになります。
  • ITシステムが変わります: 膨大なリース契約や固定資産を管理するためのシステム改修が必須になります。
  • 営業現場が変わります: 売上の計上タイミングが変わり、契約書の文言一つで業績が変わってしまいます。

このように、全社を巻き込む変革を成功させるためには、強固な「プロジェクト体制」と、現実的な「リソース計画(ヒト・モノ・カネ)」が不可欠です

本記事では、IFRS導入支援の最前線に立ってきた公認会計士の視点から、失敗しないチームビルディング、監査法人とコンサルタントの正しい使い分け、そして気になる費用の相場まで、教科書には書かれていない「実務のリアル」を徹底解説します。


第1章:成功するIFRS導入プロジェクトの「あるべき体制図」

IFRS導入プロジェクトは、通常2年〜3年の長丁場になります。この長い航海を乗り切るためには、誰が船長で、誰が航海士なのかを明確にした「組織図」が必要です。

1.1 「経理部にお任せ」が絶対に失敗する3つの理由

なぜ、経理部だけで進めてはいけないのでしょうか?

  1. 他部署への強制力がない(政治力不足):例えば、IFRS第16号(リース)の対応では、コピー機から社宅、倉庫に至るまで、すべての賃貸借契約書を集める必要があります。経理部長が「契約書を出してください」と頼んでも、忙しい営業部や総務部は後回しにしがちです。ここで必要なのは、経営トップからの「業務命令」としての強制力です。
  2. システム要件の不一致(ITスキルの欠如):会計基準の変更は、必ずERP(基幹システム)や固定資産管理システムの改修を伴います。経理部員だけで要件定義を行うと、システム実装の段階で「データが取れない」「連携できない」といった致命的な欠陥が発覚します。
  3. 意思決定の遅延(経営判断の欠如):IFRSには「のれんの非償却」や「公正価値評価」など、経営数値(利益)に直結する選択肢が無数にあります。これを担当者レベルで決めることは不可能です。

1.2 理想的なプロジェクト組織図

成功している企業は、例外なく以下のような部門横断型チームを組成しています。

チーム名メンバー構成主な役割と責任(R&R)
ステアリング・コミッティCFO, CEO, CIO, 監査役【意思決定機関】
予算承認、重要な会計方針(のれん、収益認識等)の決定、部門間の利害調整、進捗の最終責任。
PMO(事務局)PM(専任), 経理企画, コンサル【推進エンジン】
全体スケジュールの管理、課題(Issue)管理、会議体の運営、各分科会への指示出し、監査法人との窓口。
会計・税務チーム経理部、税務担当新会計基準に基づくグループ会計方針書の作成、連結パッケージの設計、開示書類(注記)の作成。
人事・労務チーム人事部, 総務部退職給付・有給休暇データの収集(IAS19対応)、就業規則や給与データの整備。
業務・ITチームIT部, 営業企画, 購買新システム要件の定義、ERP改修、固定資産・リース管理システムの導入・テスト。
グループ展開チーム海外管理部, 子会社CFO海外子会社へのインストラクション、決算期の統一調整、現地会計基準とのギャップ把握。

ポイントは、「ステアリング・コミッティ」に経営トップを巻き込むこと、そして「PMO」に専任者を置くことです。兼務の担当者だけで回せるほど、IFRS導入は甘くありません。

※ステアリングコミッティ:プロジェクトや組織の「舵取り」を行うための運営委員会


第2章:【部門別】現場担当者が直面する具体的タスクと仕訳

「他部署を巻き込めと言われても、具体的に何を頼めばいいのか?」

ここでは、IFRS特有の論点に基づき、各部門に依頼すべきタスクを、具体的な仕訳や計算式とともに解説します。

2.1 人事部への依頼:有給休暇引当金の衝撃(IAS第19号)

多くの日本企業が驚くのが、IAS第19号「従業員給付」における「有給休暇引当金(Paid Annual Leave)」の計上です。

  • 日本基準の考え方: 有給休暇は取った時に費用になる(事後処理)。
  • IFRSの考え方: 働いた時点で「将来有給を取る権利」という負債が発生している(発生主義)。

実務担当者は、期末時点で「従業員がまだ使っていない有給休暇」を計算し、負債計上しなければなりません。

【具体的な計算ロジック】

有給休暇引当金 = (各従業員の未消化日数×日給単価×予想消化率)

※ここでいう「消化率」は、過去の実績などから合理的に見積もる必要があります。

【仕訳イメージ】

  • 借方 (Dr):従業員給付費用(費用) 10,000,000
  • 貸方 (Cr):有給休暇引当金(負債) 10,000,000

人事部への依頼事項:

  1. 全従業員の有給付与日、残日数のデータ化(紙管理からの脱却)。
  2. 過去数年分の有給消化率データの算出。
  3. 日給計算の基礎となる給与データの提供。

これらは人事システムが整備されていないと算出不可能です。だからこそ、プロジェクト初期から人事部を巻き込む必要があるのです。

2.2 IT・総務部への依頼:リース資産の全数把握(IFRS第16号)

IFRS第16号「リース」では、原則としてすべてのリース契約をオンバランス(資産・負債計上)します。これまで経費処理していたオフィスの家賃、社用車、PC、倉庫などもすべて対象です。

【仕訳イメージ:オフィスを借りた場合】

  • 借方 (Dr):使用権資産(資産) 100,000,000
  • 貸方 (Cr):リース負債(負債) 100,000,000

総務・IT部への依頼事項:

  1. 契約書の物理的収集: 本社だけでなく、地方営業所や海外子会社が独自に結んでいる不動産契約、車両リース契約をすべて集める。
  2. データ化: 契約期間、賃料、更新オプションの有無などをリスト化する。
  3. システム導入: 固定資産の数が数倍〜数十倍に膨れ上がるため、Excelでの管理は不可能です。専用のリース管理システムや、固定資産モジュールの改修が必要になります。

2.3 事業部(営業)への依頼:売上の「検収基準」化(IFRS第15号)

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」では、資産の支配が顧客に移転した時点で売上を計上します。日本企業で一般的な「出荷基準(工場を出た日)」は、多くの場合認められず、「着荷基準」や「検収基準」への変更を迫られます。

営業部への依頼事項:

  1. 出荷から着荷(検収)までのリードタイムの把握。
  2. 契約書のレビュー(返品条件やリベート条項の洗い出し)。
  3. 月末の押し込み販売の禁止(出荷しても検収されなければ売上にならないため)。

第3章:監査法人とコンサルタントの「壁」と費用相場

社内リソースだけで対応できない場合、外部の専門家を頼ることになります。しかし、ここで「監査法人」と「コンサルタント」の役割を混同すると、法的なトラブルに発展します。

3.1 監査法人は「手伝ってくれない」のが法律上の正解

「いつも監査してくれている監査法人なら、内情も詳しいし、IFRS導入も手取り足取り教えてくれるだろう」

そう期待するのは危険です。公認会計士法第24条の2および倫理規則により、監査法人が被監査会社に対して特定の非監査業務(コンサルティング)を提供することは厳しく制限されています。

  • 自己監査の禁止(Self-audit prohibition):監査法人が「仕訳データの作成」や「会計方針の決定支援」を行ってしまうと、自分が作ったものを自分で監査することになります。これでは客観的なチェックが機能しません。
  • できること(2条1項業務の範疇など):
    • 会計論点の解釈に関する一般的な助言。
    • 会社が作成した資料のレビュー(添削)。
    • 課題の指摘。
  • できないこと(2条2項業務の一部):
    • 代行業務: 決算書の作成代行、仕訳の入力代行。
    • 意思決定: 「A案にしましょう」という決定。
    • システム構築: 会計システムの導入支援。

つまり、「手を動かして資料を作る」作業は、監査法人以外の外部コンサルタントに依頼しなければならないのです。これを「2項業務」や「非監査業務」と呼びます。

3.2 コンサルタント費用の相場観と予算計画

では、外部コンサルタントに依頼する場合、どれくらいの費用がかかるのでしょうか。以下は、一般的な市場価格(タイムチャージ)の目安です。

職位(ランク)時間単価(目安)期待される役割
パートナー / ディレクター4万円 〜 6万円プロジェクト全体の品質管理、経営層への報告、難解な論点の最終判断。
マネージャー2.5万円 〜 4万円プロジェクト管理(PMO)、論点整理、進捗管理、成果物のレビュー。
シニアスタッフ1.5万円 〜 2.5万円資料作成、データ集計、リサーチ、仕訳ドラフト作成。
スタッフ1万円 〜 1.5万円議事録作成、単純なデータ入力補助。

【プロジェクト全体の予算感】

  • 大手監査法人系(Big4)アドバイザリー:
    • 品質は高いが費用も最高額。
    • 総額:数千万円 〜 数億円(規模による)。
  • 中堅・独立系会計ファーム:
    • Big4出身者が多く、実務能力は高いが小回りが利く。
    • 総額:Big4の60%〜80%程度。
  • IT系コンサルティング:
    • システム導入がメイン。会計論点には弱い場合がある。
    • 時間単価:2万円〜5万円。

予算オーバーを防ぐコツ:

すべてをコンサルに丸投げ(タイムチャージ)すると、請求書を見て青ざめることになります。「論点の洗い出しと方針策定」という頭を使う部分はコンサルに依頼し、「データの収集や単純入力」という手を使う部分は社内スタッフや派遣社員を活用するなど、役割分担を明確にすることがコストコントロールの鍵です


第4章:【体験談】現場のリアル

私が実際に支援した現場で目撃した、「成功する会社」と「失敗する会社」の違いをシェアします。

失敗事例:用語の定義で大混乱したA社

A社(製造業)では、本社が作成した立派な「IFRS会計マニュアル」を海外子会社にメールで送付しました。しかし、半年後のテスト決算で上がってきたデータは惨憺たるものでした。

原因は「言葉の定義」です。例えば、「Rebate(リベート)」という言葉一つとっても、国によっては「ボリュームディスカウント」を指すのか、「販売奨励金」を指すのか、商習慣が全く異なります。

教訓マニュアルを配るだけでは伝わりません。PMOが現地に飛ぶか、Web会議で「具体的な取引例(インボイスのサンプルなど)」を見せ合いながら、泥臭く定義をすり合わせるプロセスが必要です。

成功事例:IFRSを「DX」の起爆剤にしたB社

B社(ITサービス)は、IFRS導入を機に、古くなっていた自社開発の会計システムを捨て、クラウドERPへ移行しました。

CFOは「これは会計基準の変更ではない。グループ経営管理の高度化だ」と宣言し、バラバラだった子会社のコード体系を統一しました。

その結果、IFRS化と同時に「月次決算の早期化」も実現し、経営判断のスピードが劇的に向上しました。

教訓IFRS対応を単なる「コスト」と捉えず、業務標準化と効率化のための「投資」と捉えられる企業は、導入後の運用もスムーズです。


第5章:まとめと次のアクション

IFRS導入の体制構築について解説してきました。要点を整理します。

  1. 全社プロジェクト化: 経理部だけで抱え込まず、人事・IT・事業部を巻き込んだ体制をトップダウンで作る。
  2. 実務タスクの明確化: 「有給休暇引当金(IAS19)」や「リース(IFRS16)」など、部署ごとの作業を具体化する。
  3. 外部リソースの適正活用: 監査法人の「独立性」の壁を理解し、コンサルタントを効果的に(予算に合わせて)活用する。
  4. スケジュールの確保: 準備から本番まで2〜3年はかかると心得る。
sato
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IFRSへの移行は、長く険しい道のりですが、それを乗り越えた先には、グローバルな資金調達力の向上や、透明性の高い経営管理基盤という大きな果実が待っています。

よくある質問(Q&A)

 IFRS導入には最低どれくらいの期間が必要ですか?

一般的には2年〜3年が必要です。IFRS適用初年度(X年)の比較情報として、前年度(X-1年)の財務諸表もIFRSで作成する必要があるため、さらにその期首(X-2年)のデータが必要になるからです。

監査法人にコンサルティングをお願いできますか? 

原則としてできません。公認会計士法等により、自己監査となる業務(財務書類の作成代行やシステムの構築など)は禁止されています。助言は可能ですが、実作業は別のコンサルタント会社に依頼する必要があります。

英語ができないとIFRS導入は難しいですか? 

必須ではありませんが、英語力は非常に有利です。IFRSの原文(基準書)は英語であり、微妙なニュアンスの違いを確認する際に原文にあたることが多いためです。また、海外子会社とのコミュニケーションが増えるため、翻訳ツールなどを活用できる体制が求められます。

コンサルタント費用を安く抑える方法はありますか?

「自社でできること」を増やすのが一番です。方針策定や論点整理などの高度な判断業務はコンサルタントに任せ、データの収集、加工、単純なドラフト作成は社内スタッフや派遣社員で行うことで、高単価なコンサルタントのチャージ時間を減らすことができます。

 中小規模の上場企業でもIFRSを導入するメリットはありますか?

あります。最大のメリットは「のれんの非償却」による営業利益の押し上げ効果です。M&Aを積極的に行う企業であれば、日本基準の定額償却負担がなくなることで、業績の見栄えが良くなり、株価へのプラス影響が期待できます(ただし減損リスクは高まります)。


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専門家としての経験に基づき、現場で本当に『武器』になった数冊を厳選しました。理論だけで終わらない、実践に裏打ちされた知恵を求める方の参考になれば幸いです。


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