このページはプロモーションを含みます 1.会計実務 IFRS導入実務

IFRS導入実務(2)IFRSと日本基準の決定的差異5選と影響額試算|のれん・有給・リースの実務完全ガイド

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士|
あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。
IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。
このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • IFRS導入で利益がどう変わるか知りたい
  • のれん非償却のメリットとリスクを知りたい
  • 有給休暇引当金の計算方法を知りたい
  • 監査法人との協議ポイントを整理したい
  • IFRS適用による財務指標の変化を予測したい

みなさん、こんにちは。公認会計士のSatoです。

前回の記事では、日本企業がIFRS(国際財務報告基準)を目指す戦略的背景や、資金調達・M&Aにおけるメリットについて解説しました。今回は、経営者や実務担当者の皆様が最も懸念し、かつ関心をお持ちであろう「IFRSを適用すると、具体的に決算書の数字はどう変わるのか?」というテーマについて、徹底的に深掘りしていきます

「IFRSを導入すると営業利益が増える」という話を聞いたことがある経営者の方は多いでしょう。一方で、実務の現場からは「今まで見えていなかった負債が急に現れる」という悲鳴にも似た声が聞こえてきます。結論から申し上げますと、これらはどちらも事実であり、IFRS導入がもたらす財務諸表へのインパクトは、単なる会計ルールの変更の域を超え、経営管理指標(KPI)や業績評価制度にまで波及する重大なものです。

日本基準(J-GAAP)とIFRSの間には、会計処理の哲学(概念フレームワーク)の違いに起因するいくつかの「決定的な差異」が存在します。この差異を正しく理解し、自社の財務数値に当てはめてシミュレーション(影響額試算)をしておくことが、導入プロジェクト成功の第一歩となります。

本レポート(記事)では、実務へのインパクトが特に大きく、経営判断を左右する「5つの主要論点」に絞り、具体的な仕訳や計算例を交えながら解説します。


1. 営業利益が急増する?「のれん」の非償却と減損リスク

経営者にとって、IFRS導入の最大のドライバー(動機)となることが多いのが、M&A(企業買収)に伴う「のれん(Goodwill)」の扱いです。これはP/L(損益計算書)の「営業利益」に直結する論点であり、多くの日本企業がIFRS移行を決断する決定打となっています。

日本基準とIFRSの決定的違い:償却か、減損か

日本基準とIFRSでは、買収によって生じた「のれん」に対するアプローチが根本的に異なります。

日本基準(J-GAAP)のアプローチ:費用配分

日本基準では、のれんは「時間の経過とともに価値が減少するもの」あるいは「投資の回収期間」と捉えられます。そのため、20年以内の合理的な期間で定額償却(毎年費用計上)することが義務付けられています(企業会計基準第21号『企業結合に関する会計基準』第32項)。これにより、M&A直後から多額の償却費(販売費及び一般管理費)が計上され、営業利益を押し下げる要因となります。

sato
sato

日本基準を継続適用する場合、のれんの償却期間の設定が利益に直結します。日本基準の実務における「適切な償却期間の決め方とリスク」の詳細はこちら。

のれん償却期間、会計と税務の違いは?5分でわかる決め方

IFRSのアプローチ:資産価値の維持

一方、IFRSでは、のれんは「減損しない限り価値が持続するもの」と捉えられます。したがって、「のれんの定期償却」は行いません(非償却)(IFRS第3号『企業結合』第B63項)。その代わり、毎年少なくとも1回、または減損の兆候がある場合に必ず減損テストを実施し、回収可能価額が帳簿価額を下回った場合にのみ、その減少分を損失として計上します(IAS第36号『資産の減損』第10項(b))。

以下の表は、両基準の差異をまとめたものです。

項目日本基準 (J-GAAP)IFRS経営への影響(IFRS適用時)
定期償却あり(最長20年で定額償却)なし(償却禁止)営業利益の大幅な増加
減損テスト減損の兆候がある場合のみ実施毎期実施(必須)および兆候発生時実務負担(コスト・工数)の増加
減損後の戻入れ不可不可(のれんに関しては禁止)一度落としたら戻らない(共通)

影響額の試算シミュレーション

具体的な数値を用いて、営業利益へのインパクトを試算してみましょう。

【設例】

  • 買収金額:100億円
  • 被買収企業の純資産(時価評価後):60億円
  • のれん発生額:40億円
  • 日本基準での償却期間:20年(定額法)

この条件下での、決算書(P/L)への影響は以下のようになります。

1. 日本基準の場合

年間償却費= 40億円÷20年 =2億円

毎年2億円が「販売費及び一般管理費」として計上され、営業利益が2億円減少します。

2. IFRSの場合

年間償却費= 0円

定期償却費は発生しません。減損が発生しない限り、費用はゼロです。

【結果の比較】

IFRSを適用することで、日本基準と比較して営業利益が年間2億円「かさ上げ」されます。もし償却期間を10年としていた場合は年間4億円の差となり、インパクトはさらに大きくなります。M&Aを成長戦略の柱に据える企業にとって、この「利益の押し上げ効果」は極めて魅力的であり、株価評価(バリュエーション)の向上や、資金調達余力の拡大に寄与します。

【実務家の視点】「崖効果(Cliff Effect)」という時限爆弾

これだけを聞くと「IFRSは魔法の杖だ」と思われるかもしれませんが、公認会計士の視点からは、強い警鐘を鳴らさざるを得ません。のれん非償却は、「リスクの繰り延べ」という側面を持っているからです。

日本基準は、毎年少しずつ費用処理することで、買収した事業の価値減少リスクを平準化しています。しかし、IFRSでは償却を行わないため、のれんの残高は(追加の買収がない限り)40億円のままB/Sに残り続けます。

もし、買収した事業の収益性が悪化し、将来キャッシュ・フローの見積もりが低下して減損テストで「回収可能価額が30億円しかない」と判定された場合どうなるでしょうか。

減損損失 = 40億円(帳簿価額) - 30億円(回収可能価額) = 10億円

この10億円が、ある年度に一気に「営業損失」として計上されます。日本基準であれば既に費用化されていた部分も含めて、過去に認識しなかった費用が一挙に噴出するのです。これを実務の世界では、業績が崖から落ちるように急落することから「崖効果(Cliff Effect)」と呼びます。

経営者は、IFRS導入によって毎期のP/Lは見栄えが良くなる一方で、B/Sには「減損リスクという時限爆弾」が積み上がり続けることを覚悟しなければなりません。また、監査においても「将来キャッシュ・フローの見積もり」は最も厳しく見られる領域であり、監査法人とのタフな交渉が求められます。

sato
sato

IFRSでは減損リスクがより注視されます。監査法人がどこを重点的にチェックするのか、「KAM(監査上の主要な検討事項)」の視点から減損リスクを分析した実例を解説しています。

監査上の主要な検討事項(KAM)とリスク分析手法|のれん減損の実例


2. 隠れ負債の顕在化!「有給休暇引当金」の衝撃

次に、実務担当者が導入準備(ギャップ分析)の段階で最も驚き、かつデータ収集に苦労するのが「有給休暇引当金」です。日本基準では馴染みのないこの科目が、IFRSでは負債としてオンバランスされます。

「休む権利」は負債である

日本基準では、有給休暇に対して引当金を計上することは一般的ではありません(※一部の厳格な運用を除く)。「従業員が実際に休んだ時に給与を払えばよい」という考え方が主流だからです。

しかし、IFRS(および米国基準)では、会計の考え方が異なります。「従業員が労働を提供した時点で、将来有給休暇を取得する権利(=会社にとっては対価を支払う義務)が発生している」と考えます。これを「短期従業員給付」として認識します(IAS第19号『従業員給付』第11項、第13項)。

具体的には、期末時点で従業員が保有している「未消化の有給休暇」は、会社が将来「賃金を支払うが労働は提供されない」という経済的負担を負っている状態、あるいは「退職時に買い取る義務がある(国や制度による)」状態とみなされ、負債(有給休暇引当金)として計上しなければなりません。

計算ロジックと影響額試算

有給休暇引当金の計算には、以下の3つの要素が必要です9

  1. 未消化の有給残日数:全従業員の繰越日数+当期付与残日数
  2. 日給(日割り給与):基本給等を所定労働日数で割った単価
  3. 消化率(取得率):過去の実績に基づく、将来実際に取得される確率

【計算式】

有給休暇引当金 = (各従業員の未消化日数×日給単価×予想消化率)

【設例による影響額シミュレーション】

中堅規模の製造業を想定して試算してみましょう。

  • 従業員数:1,000人
  • 平均日給(社会保険料込み):15,000円
  • 一人当たり平均有給残日数(繰越分含む):15日
  • 過去の平均有給消化率:60%
  • 社会保険料の会社負担分も加味(実務上の要請)

1,000人 × 15日 × 15,000円 × 60% = 1億3,500万円

このケースでは、IFRS適用初年度の開始貸借対照表において、1億3,500万円もの負債がいきなり計上されます。相手勘定は「利益剰余金」の減少(調整)となるため、自己資本が同額だけ減少することになります。

実務対応のポイント:人事データとの連携

この計算における最大の実務的課題は、「データの取得」です。

多くの日本企業では、人事システム(勤怠管理)と会計システムが分断されています。「誰が何日残っているか」は管理していても、「その人の日給はいくらか」「過去の消化率は部署ごとにどう違うか」といったデータを、決算のたびに即座に集計できる体制になっていないことが多いのです。

IFRS導入プロジェクトでは、経理部門だけで完結せず、人事部門を巻き込んで「引当金計算のためのデータ抽出ロジック」をシステムに組み込む必要があります。また、この引当金繰入額は原則として税務上の損金(経費)にはならないため、税効果会計(繰延税金資産の計上)の検討もセットで行う必要があります。


3. 賃貸契約がすべて借金に?「リース会計(IFRS 16)」

3つ目は、B/S(貸借対照表)の総資産・総負債を大きく膨らませる要因となる「リース会計」です。これは2027年度から日本基準でも同様のルール(新リース会計基準)が適用される予定ですが、IFRS導入企業は先行してこの影響を受けることになります。

sato
sato

日本基準でも2027年からIFRSに準拠した「新リース会計基準」が強制適用されます。IFRS先行導入企業以外も知っておくべき、最新のリース実務対応ガイドはこちら。

【担当者向け完全ガイド】2027年から適用される新リース会計基準の要点と実務対応ステップを徹底解説

オペレーティング・リースのオンバランス化

従来の日本基準では、ファイナンス・リース(実質的な購入)を除く、単に借りているだけの契約(オペレーティング・リース)は、毎月の家賃を「賃借料」として費用処理するだけで、B/Sには載りませんでした(オフバランス取引)。

しかし、IFRS第16号『リース』では、原則としてすべてのリース契約をB/Sに載せる(オンバランスする)ことが義務付けられています(IFRS第16号 第22項)。

  • 借方(資産)使用権資産(Right-of-use asset) - 資産を使う権利
  • 貸方(負債)リース負債(Lease liability) - 将来の賃料支払義務

例外としてオンバランス処理が免除されるのは、以下の2点のみです。

  1. 短期リース:リース期間が12ヶ月以内のもの
  2. 少額資産リース:新品時の価値が5,000米ドル(約75万円)以下のもの(例:パソコン、オフィス家具など)

財務指標へのインパクト:ROAの低下とEBITDAの改善

この変更は、財務指標に劇的な変化をもたらします。

1. 総資産・総負債の増加(ROA・自己資本比率の悪化)

オフィスの賃貸借契約、店舗のテナント契約、社用車、倉庫、コピー機など、あらゆる「借りているもの」が資産と負債に計上されます。これにより分母である総資産が膨らむため、ROA(総資産利益率)や自己資本比率は、計算上低下します(実態は変わっていないにもかかわらず)。

2. 営業利益・EBITDAの変化

P/L上の費用項目も変わります。

  • 日本基準:「賃借料」(販管費)として定額計上
  • IFRS:「使用権資産の減価償却費」(営業費用) + 「リース負債の利息費用」(金融費用)

営業利益の段階では、利息費用が含まれない(営業外費用になる)ため、日本基準よりも営業利益が増加する傾向があります。また、減価償却費が増えるため、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は大幅に改善して見えます。

影響額の試算

【設例】

  • オフィス賃料:年間1,200万円(月額100万円)
  • リース期間:5年
  • 割引率:2%

【日本基準】

  • B/S計上:なし
  • P/L費用:賃借料 1,200万円(営業費用)

【IFRS】

  • B/S計上(初年度)
    • 使用権資産:約5,700万円(現在価値)
    • リース負債:約5,700万円
  • P/L費用(初年度)
    • 減価償却費:1,140万円(営業費用)
    • 利息費用:110万円(金融費用
    • 営業費用計:1,140万円(日本基準より60万円減少 → 営業利益60万円増加

実務上は、国内外の全拠点から契約書を収集し、割引率を用いて現在価値を計算するという膨大な作業が発生します。Excelでの管理は限界を迎えるため、専用のリース管理システムの導入が必須となるでしょう。


4. 株式の売却益が利益にならない?「FVTOCIとリサイクリング禁止」

4つ目は、少し専門的ですが、日本企業の伝統的な経営手法である「株式の持ち合い」や「益出し」にトドメを刺す論点です。IFRS第9号『金融商品』における株式の評価差額の取扱いです

FVTOCI :(Financial Assets at Fair Value Through Other Comprehensive Income)とは、IFRS(国際財務報告基準)における金融資産の分類の一つで、「その他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産」を指し、公正価値(時価)で評価し、その評価損益を純損益(P/L)ではなく「その他包括利益(OCI)」で処理する会計処理です。これは日本基準の「その他有価証券」に似ていますが、売却時の損益もOCIに留保され、純損益にリサイクリングされない(益出しができない)点が大きな違いとなります。

純利益に入らない「その他の包括利益(OCI)」

日本基準では、保有している「その他有価証券」を売却して利益が出れば、それは「投資有価証券売却益」として当期純利益を構成します。業績が苦しい時に含み益のある株式を売って利益を嵩上げする「益出し」は、決算対策の常套手段でした。

しかし、IFRSでは、トレーディング目的以外の株式投資(政策保有株式など)について、公正価値の変動をP/Lではなく「その他の包括利益(OCI)」に計上することを選択できます(FVTOCIオプション)(IFRS第9号 第5.7.5項)。

リサイクリング(組替調整)の禁止

IFRS第9号の最大の特徴は、FVTOCIを選択した株式については、売却しても、その累計評価益をP/L(当期純利益)に振り替えること(リサイクリング)が禁止されている点です(IFRS第9号 第B5.7.1項)。

売却時に実現した利益は、OCIから直接「利益剰余金(Retained Earnings)」に振り替えられます。つまり、P/Lを一切通らずに、B/Sの中で資本が移動するだけになります。

アクション日本基準IFRS (FVTOCI選択時)経営への影響
株式の時価上昇時B/S純資産直入 (OCI)B/S純資産直入 (OCI)変化なし
株式の売却時P/L 当期純利益に計上P/L 計上不可(利益剰余金へ直入)「益出し」による利益確保が不可能に
減損処理P/L 特別損失等に計上減損処理なし(時価評価のみ)損失もP/Lに出ない(安定性は向上)

経営への影響

これにより、経営者は「本業の不振を株式売却益でカバーする」という手段を失います。P/Lは純粋なビジネスの収益力を映す鏡となり、ごまかしが効かなくなります一方で、株価暴落時に巨額の減損損失(P/Lヒット)を迫られるリスクもなくなります(FVTOCIの場合)

この変更は、企業の投資戦略(政策保有株の縮減など)を加速させる要因にもなっています。


5. 「特別損益」の廃止と営業利益の定義変更

最後は、P/Lの表示区分、いわゆる「見せ方」の変更です。

特別損益という「逃げ場」はない

日本基準のP/Lでは、「営業利益」「経常利益」の下に「特別利益」「特別損失」という区分があります。工場の火災損失、リストラ費用、固定資産の売却損などをここに計上することで、「これは臨時的なものであり、本業の実力(営業利益・経常利益)は傷ついていない」と説明することができました。

しかし、IFRS(IAS第1号『財務諸表の表示』)では、「特別損益(Extraordinary items)」という項目そのものの表示が禁止されています(IAS第1号 第87項)。

営業利益のボラティリティ増大

これまで特別損失として処理していたリストラ費用や減損損失は、IFRSでは原則として「営業費用」の一部として計上されます。その結果、IFRSの営業利益は、日本基準の営業利益や経常利益に比べて、変動(ボラティリティ)が激しくなる傾向があります。

投資家に対して「営業利益が下がったが、これは一時的な要因(リストラ費用)によるものだ」と説明するためには、P/Lの数字だけでなく、注記や決算説明資料での補足説明(Non-GAAP指標の活用など)がより重要になります。


影響額のまとめと実務への提言

ここまでの5つの差異をまとめると、以下のようになります。

論点日本基準IFRSP/Lへの影響B/Sへの影響参照基準
1. のれん定期償却(~20年)非償却(減損のみ)営業利益 増加資産維持(減損リスク有)IFRS 3, IAS 36
2. 有給休暇計上なし引当金計上人件費 増加(初回)負債 増加IAS 19
3. リース賃貸借処理(一部)全オンバランス営業利益 微増 / 金融費用 増総資産・総負債 激増IFRS 16
4. 株式売却純利益に計上純利益計上不可 (FVTOCI)突発利益 減少変動なし(資本内振替)IFRS 9
5. 特別損益あり表示禁止営業利益 変動大影響なしIAS 1

【実務の現場から】:「見積り」への意識改革

ここまで数字の話を中心にしてきましたが、IFRS導入の現場で最も苦労するのは、実は計算そのものではなく、担当者の「意識の変革」です。

日本基準は伝統的に「細則主義(ルールベース)」であり、「基準書の何項にこう書いてあるから」という形式的な正解探しが重視される傾向がありました。対してIFRSは「原則主義(プリンシプルベース)」です。「なぜその処理が自社の経済実態を最も適切に表していると言えるのか?」を、企業自らが論理構成し、説明しなければなりません。

例えば、有給休暇引当金の計算一つとっても、「消化率を何%と見積もるか?」という判断に、一律の正解はありません。「過去3年の平均を使うのか、あるいは働き方改革による将来の取得増を加味するのか」といった仮定に対し、会社としての論理的根拠(アカウンタビリティ)が求められます。

監査法人に対しても、「基準に書いてある」ではなく「当社のビジネス実態はこうだから、この見積もりが正しい」と主張できる「見積りの力」と「論理的説明力」こそが、IFRS時代の経理担当者に求められる最強のスキルセットと言えるでしょう

sato
sato

次回は、これらの差異を乗り越え、スムーズに導入を進めるための「プロジェクト体制の構築とリソース計画」について、失敗事例を交えながら詳しく解説します。

よくある質問(Q&A)

IFRS導入にかかる期間はどれくらいですか?

一般的には、プロジェクト立ち上げから適用まで2年~3年程度かかります。日本基準との差異を洗い出す「ギャップ分析」に約半年、会計方針の策定とシステム対応に1年~1.5年、そして本番前にリハーサルを行う「並行開示期間」に1年を要するためです。

中小企業でもIFRSを適用するメリットはありますか?

将来的に海外市場への上場を目指す場合や、海外企業とのM&A、あるいは海外投資家からの資金調達を計画している場合には大きなメリットがあります。しかし、システム改修や監査報酬の増加などコスト負担も大きいため、国内ビジネス中心の非上場企業であれば、コスト対効果を慎重に見極める必要があります。

有給休暇引当金は税務上の損金(経費)になりますか? 

いいえ、原則として損金算入は認められません。有給休暇引当金はあくまで会計上の見積もりによる費用(債務確定していない費用)であるため、法人税の申告書上で「加算調整(利益に戻す処理)」を行う必要があります。これに伴い、税効果会計における「繰延税金資産」の計上可能性も検討することになります。

 IFRSにすると決算発表は遅くなりますか? 

導入直後は慣れないため作業時間が増えることがありますが、多くの企業は業務プロセスの見直し(月次決算の早期化など)をセットで行います。IFRSは「見積り」を許容する範囲が広いため、確定数値を待たずに合理的な見積もりで計上する「ハードクローズ」の手法を導入することで、むしろ早期化に成功している事例も多くあります。

のれんの減損テストは監査法人にお任せできますか?

いいえ、監査法人に計算を丸投げすることはできません(独立性の観点から禁止されています)。減損テストに必要な将来キャッシュ・フローの見積もりや割引率の決定は、あくまで「経営者の責任」で行う必要があります。自社で理論武装するか、外部の評価専門家(バリュエーション会社)の支援を仰ぐのが一般的です。


sato
sato

専門家としての経験に基づき、現場で本当に『武器』になった数冊を厳選しました。理論だけで終わらない、実践に裏打ちされた知恵を求める方の参考になれば幸いです。


  • この記事を書いた人
  • 最新記事

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士|
あずさ監査法人、税理士法人、コンサルファームを経て独立。
IPO支援・M&Aを専門とし、企業の成長を財務面からサポート。
このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

-1.会計実務, IFRS導入実務