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【第5回】防衛財源確保・納税環境整備・関税編 【令和8年度(2026年)税制改正】防衛特別所得税と関税・マルサのデジタル化実務

こんな方におすすめ

  • 防衛特別所得税の影響を知りたい給与実務担当者
  • 最新の国税犯則調査の動向を把握したい方
  • 暗号資産の税務リスクを把握したい経営者
  • 越境ECや個人輸入ビジネスを手掛けている方

令和8年度税制改正における防衛財源確保と納税環境の全体像

令和8年度(2026年度)の税制改正は、個人の所得税や法人税の控除額見直しにとどまらず、「国家の防衛財源確保」というマクロな政策が実務に直結する内容となっています。さらに、税務行政の現場においては「デジタルデータを活用した調査・徴収能力の飛躍的な向上」と「グローバル化に対応する関税の適正化」、そして各種間接税の抜本的な見直しが行われました。

筆者の実務経験によれば、税制改正において最も経営リスクが高まるのは「税率の変更」そのものよりも、「当局の調査手法や徴収権限の強化」に企業側が気付かず、旧態依然としたコンプライアンス体制を放置してしまうことです。

本記事では、私たちの毎月の給与計算に直結する「防衛特別所得税」の創設をはじめ、クラウドデータへの強制調査、暗号資産の差押え、各種自動車関係諸税、そして越境ECビジネスに極めて大きな影響を与える関税の見直しについて分かりやすく解説します。

防衛特別所得税の創設と給与計算・源泉徴収実務への影響

令和9年(2027年)1月1日から、防衛力強化の財源を確保することを目的として、所得税額に対して1%の税率を上乗せする「防衛特別所得税」が新たにスタートします。

復興特別所得税の引き下げ(2.1%→1.1%)と合計税率の維持

このニュースを耳にして、「ただでさえ物価高で苦しいのに、これ以上の増税で給与の手取りが減ってしまうのではないか」と懸念される経営者や従業員の方も多いでしょう。しかし結論から申し上げますと、この改正単独によって給与の手取り額が減少することはありません。

実質的な税負担が増加しない理由は、防衛特別所得税の創設と同時に「復興特別所得税の税率引き下げ」が行われるためです。現在、東日本大震災の復興財源として、所得税額に対して「2.1%」の復興特別所得税が上乗せされています。これが、令和9年1月1日からは「1.1%」へと1%分引き下げられます。その分、復興財源の総額を確保するため、課税期間は令和29年まで延長されることになります。

結果として、「防衛1% + 復興1.1% = 合計2.1%」となり、所得税に上乗せされる付加税の合計税率は現状と全く同じ水準に保たれます。

適用期間復興特別所得税防衛特別所得税合計付加税率
~令和8年12月31日2.1%(なし)2.1%
令和9年1月1日~1.1%1.0%2.1%

手計算による「1%上乗せ」の厳禁と給与システムのアップデート

給与計算や源泉徴収を担う人事労務の実務担当者にとって、税制改正はシステム対応や業務フローの見直しを迫られる重大なイベントです。しかし、源泉徴収の際に所得税額に「102.1%」を乗じて合計税額を算出する仕組み自体には、一切の変更がありません。また、算出された税額に1円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てるという処理ルールも従来通りです。

筆者が過去に目にした実務の失敗例として、税制改正の際に担当者が良かれと思ってエクセルの計算式に「防衛特別所得税の1%」を手作業で別途加算するように組み込んでしまい、後の年末調整で源泉徴収税額が全く合わずに大混乱に陥ったケースが存在します。令和9年1月以降の給与計算においては、名称変更に対応した国税庁公表の最新の「源泉徴収税額表」を利用するか、アップデートされた給与計算ソフトを使用するだけで、適正な処理が完結します。納付書についても、所得税・復興特別所得税・防衛特別所得税の3つを合算して1枚の「所得税徴収高計算書」で納付することが認められています。

Sato
Sato

【設例】租税条約が適用される非居住者への支払実務

海外の企業やフリーランス(非居住者等)に対して、日本国内で使用する知的財産権のロイヤリティや報酬を支払う場合、対象国との「租税条約」による特例が適用されるケースが多々あります。 国税庁の「防衛特別所得税及び復興特別所得税(源泉徴収関係)Q&A」によれば、租税条約の規定によって限度税率(例:10%)が適用されたり免税となったりする場合には、その範囲内に防衛特別所得税等も含まれるものと解され、別途付加税を加算して徴収する必要はありません。ただし、租税条約上の限度税率が15%で、国内法上の所得税率が10%であるような「国内法の税率のほうが低いケース」においては、国内法を適用して「10.21%」を源泉徴収しなければならないため注意が必要です。

国税犯則調査手続のデジタル化(電磁的記録提供命令)

次に見逃せないのが、悪質な脱税事件等を強制調査する国税犯則調査(査察調査、いわゆる「マルサ」)の手続きの抜本的なデジタル化です。

クラウドデータやサーバー情報の強制提出と企業コンプライアンス

現代のビジネス環境において、会計帳簿や請求書、契約書のデータは物理的な紙ではなく、クラウドサーバー上に保存されているのが一般的です。これまで、税務当局が強制調査に入っても「パスワードを忘れた」「データは海外のサーバーにある」と物理的なアクセス権を盾に証拠提出を拒むケースが存在し、これが脱税の温床の一つとなっていました。

この抜け穴を塞ぐため、令和9年(2027年)10月1日より、国税通則法が改正され「電磁的記録提供命令」という極めて強力な制度が創設されます。 これは、裁判官の許可状に基づき、企業が保有するクラウド上のデジタルデータ(電磁的記録)を、調査官の管理する記録媒体に記録・移転させるよう強制的に命じる制度です。

この新制度において企業側が最も警戒すべきは、強力な「罰則」と「秘密保持命令」の存在です。 電磁的記録提供命令に違反してデータの提供を拒んだ場合、対象者には「1年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」という重い法定刑が科されます(国税通則法第127条の2)。法人の代表者や従業員が違反した場合には、法人自身にも罰金が科される両罰規定も適用されます(国税通則法第130条)。

さらに、システム管理者などに対してデータの提供を命じた際、対象者が「マルサが調査に入っている」と他部門に漏らして証拠隠滅が図られることを防ぐため、裁判官の許可を得て最大1年間の「秘密保持命令」を出すことが可能になります。クラウドデータが強制抽出され、かつその事実を口止めされる時代において、電子帳簿保存法に準拠した適正なデータ管理体制の構築は、最高の企業防衛策となります。

自動車関係諸税・国際観光旅客税・関税の抜本的見直し

令和8年度は、マクロ経済や特定の事業領域に関わる間接税制にも大きなメスが入っています。事業のランニングコストや国際物流に直結するため、経理・財務担当者は確実なキャッチアップが必要です。

環境性能割・軽油引取税暫定税率の廃止とエコカー減税の延長

自動車関係諸税について、大きな制度変更が行われます。自動車重量税の「エコカー減税」は、減免区分の基準となる燃費基準の達成度を引き上げた上で、適用期限が2年延長されます。 一方で、自動車税等の「環境性能割」は令和8年(2026年)3月31日をもって廃止され、軽油引取税の「当分の間税率(暫定税率)」についても令和8年4月1日に廃止されることが決定しています。これにより、多数の営業用車両を保有する法人や運輸業においては、車両調達コストやランニングコストの精緻な再シミュレーションが急務となります。

国際観光旅客税の引上げと少額輸入貨物への関税対策(迂回防止)

観光需要の回復とオーバーツーリズム対策等の財源確保に伴い、国際観光旅客税の税率が、出国1回につき現行の1,000円から3,000円に引き上げられます。海外出張の多い企業は旅費規程や予算の見直しが必要になるでしょう。

また、越境EC(海外の巨大ECサイトから日本の消費者への直接販売)が急増する中、関税等のルールも抜本的に見直されます。特に影響が大きいのが、個人使用貨物に係る「0.6掛け特例」の廃止です。現在、海外からの購入価格が16,666円以下なら関税・消費税がかからないという実務上の目安がありますが、この「0.6掛け特例」は、令和10年(2028年)4月1日をもって完全に廃止されます(関税定率法等の一部を改正する法律等準拠)。さらに同日より、1万円以下の少額輸入貨物の販売についても、プラットフォーム事業者を介在させる形で消費税の課税対象となります。

加えて、不当廉売関税(AD関税)の課税を逃れるための迂回輸入を防止する「迂回防止制度」が、すでに令和8年(2026年)4月1日から施行済みです(関税定率法等の一部を改正する法律等準拠)。港や空港で外国貨物を管理する「保税業者」に対しても、税関長による「業務改善命令」の制度が令和8年(2026年)6月1日から施行されており、違反時には最大60日間の貨物搬入停止処分等が下されます。

特定電子移転財産権(暗号資産等)の徴収手続の整備

税金の滞納処分(差し押さえ)の手法についても、デジタル資産の普及に対応して強力なアップデートが行われます。

ウォレット移転の強制と滞納処分逃れへの刑事罰

これまで、個人が自身のスマートフォン等で秘密鍵を管理している「自己管理ウォレット」にある暗号資産は、本人が秘密鍵を開示しない限り実効性のある差し押さえが困難であり、徴収逃れの抜け穴とされてきました。

この課題を解決するため、令和9年(2027年)4月1日より、暗号資産をはじめとする「特定電子移転財産権」について、徴収職員の管理下に移すよう命じる「移転命令」の手続きが整備されました(国税徴収法第72条の2)。原則として徴収職員が直接管理を移しますが、それが困難な場合には、滞納者や権利者に対して直接「移転せよ」と命じることができるようになります。

万が一、正当な理由なくこの移転命令に従わなかった場合、「3年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金」という極めて重い刑事罰の対象となります(国税徴収法第187条の2)。法人の業務に関連して違反した場合には、法人自身も処罰される両罰規定も設けられています(国税徴収法第190条)。「秘密鍵を忘れた」という物理的な言い逃れが、そのまま刑事罰のリスクに直結するのです。

なお、企業会計において、法人が保有する活発な市場が存在する暗号資産は、期末において市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、その帳簿価額との差額は、当期の損益として処理しなければならない。国税当局が暗号資産の動きを正確に追跡できる体制を整える中、企業側も日々の会計処理の透明性を高く保つことが不可欠です。

まとめ:実務担当者へのアクションプラン

令和8年度税制改正における「防衛財源確保・納税環境整備・関税」の分野は、デジタル化とグローバル経済の構造変化に対応する政府の強い意志が反映された内容となっています。以下の点をただちに確認し、社内体制のアップデートを図ってください。

  1. 給与計算・経費精算の確認: 令和9年1月からの防衛特別所得税の導入に向け、給与ソフトのアップデート対応スケジュールを確認しましょう。また、国際観光旅客税の引き上げや自動車諸税の廃止に伴う経費シミュレーションを実施してください。
  2. データ管理とコンプライアンスの徹底: クラウドデータが強制調査の対象となることを前提に、電子帳簿保存法に準拠したファイルの保存要件を満たしているか見直してください。自己管理ウォレットで暗号資産を保有している法人は、時価評価の会計処理と秘密鍵の管理体制を再構築してください。
  3. 輸入・ECビジネスの原価見直し: 個人輸入の0.6掛け特例を利用したビジネスを行っている場合は、令和10年4月の廃止を見据え、適正な商業輸入への切り替えと、消費税課税を含めた価格転嫁のシミュレーションを早期に開始してください。

よくある質問(Q&A)

防衛特別所得税が導入されると、給与の手取りは減りますか?

いいえ、減りません。防衛特別所得税(1%)の導入と同時に、現在課されている復興特別所得税が2.1%から1.1%に引き下げられます。合計の付加税率は2.1%のままで維持されるため、給与の手取り額に影響はありません。

クラウド上に保存している会計データも税務調査の対象になりますか?

はい、対象になります。令和9年10月より「電磁的記録提供命令」が創設され、クラウド上のデータであっても提出が強制されるようになります。違反した場合は1年以下の拘禁刑などの重い罰則が科されるリスクがあります。

環境性能割などの自動車関連税制はどう変わりますか?

自動車税等の環境性能割は令和8年3月31日をもって廃止され、軽油引取税の暫定税率も令和8年4月1日に廃止されます。一方、エコカー減税は要件を厳格化した上で2年間延長されます。

自分で秘密鍵を管理している暗号資産は差し押さえられないと聞いたのですが?

令和9年4月以降は、自己管理ウォレットの暗号資産であっても、滞納者に対する「移転命令」によって強制的に差し押さえられるようになります。正当な理由なく移転を拒否した場合には、3年以下の拘禁刑などの刑事罰の対象となります。

海外からの個人輸入に関わる「0.6掛け特例」はいつ廃止されますか?

令和10年(2028年)4月1日より完全に廃止されます。少額輸入に対する消費税のプラットフォーム課税なども同時期にスタートするため、いまのうちに事業モデルの適法性と原価を見直すことを強くお勧めします。

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Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士|税理士|
あずさ監査法人、税理士法人、上場会社経理、コンサルファームを経て独立。
IPO支援・M&A及び上場会社経理業務を専門とし、企業の成長を財務面からサポート。
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