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IFRS導入実務(6)実務詳説②:IFRSで会社が変わる?「リース」「のれん」「退職給付」の3大インパクト

Sato|元・大手監査法人公認会計士が教える会計実務!

Sato|公認会計士|
あずさ監査法人、税理士法人、上場会社経理、コンサルファームを経て独立。
IPO支援・M&A及び上場会社経理業務を専門とし、企業の成長を財務面からサポート。
このブログでは、実務に役立つ会計・税務・株式投資のノウハウを分かりやすく解説しています。

こんな方におすすめ

  • IFRS導入で「負債」がどれくらい増えるか心配な経営者
  • 膨大な「リース契約書」の管理・収集方法に悩む実務家
  • 「のれん」の減損テストが日本基準とどう違うか知りたい方
  • 「有給休暇」を負債計上する計算ロジックを知りたい方
  • 監査法人との協議をスムーズに進めたい経理責任者

はじめに:B/S(貸借対照表)が「膨らむ」衝撃に備える

「えっ、コピー機のリースまで資産計上するんですか?」

「有給休暇が負債になるなんて聞いたことがありません!」

IFRS(国際財務報告基準)導入プロジェクトの現場では、このような驚きの声が絶えません。前回の記事では、P/L(損益計算書)のトップラインである「売上(収益認識)」と、資産管理の基礎である「固定資産」について解説しました。

今回は、企業のB/S(貸借対照表)の姿を劇的に変えてしまう3つの基準、すなわち「リース(IFRS第16号)」、「のれんの減損(IAS第36号)」、そして「従業員給付(IAS第19号)」について深掘りします。

これらは単に「会計処理が変わる」だけでなく、自己資本比率の低下や、利益のボラティリティ(変動性)の増大など、経営数値にダイレクトなインパクトを与えます。実務担当者にとっては、社内のあらゆる部署から契約書やデータをかき集める「総力戦」となるフェーズです。

本記事では、難解な基準書の要点を実務の視点で解きほぐし、明日からの実務に使える知識として提供します。


第1章 IFRS第16号「リース」:すべての「借りる」が負債になる

IFRS導入において、最も事務負担が大きいのがこの「リース」です。

従来、日本の会計基準では、パソコンや社用車、オフィスの賃貸借などは「オペレーティング・リース(賃貸借処理)」として、毎月の支払い時に費用処理するだけで済みました(オフバランス)。

しかし、IFRS第16号では、「原則としてすべてのリースをB/Sに計上(オンバランス)する」ことが求められます

1-1. 借りているモノは「資産」、支払義務は「負債」

IFRSでは、リース契約に基づき資産を使用する権利を「使用権資産(Right-of-Use Asset)」、将来のリース料支払義務を「リース負債(Lease Liability)」として計上します。

【仕訳イメージ】オフィスを借りた場合

(条件:年間家賃1,200万円、契約期間5年、割引率など考慮後の現在価値が約5,500万円とする)

① 契約開始時(B/S計上)

(借) 使用権資産 55,000,000 / (貸) リース負債 55,000,000

② 毎月の支払い時(P/L費用化と負債返済)

(借) リース負債 XXX / (貸) 現金預金 1,000,000

(借) 支払利息 XXX

(借) 減価償却費 XXX / (貸) 使用権資産累計額 XXX

日本基準では毎月「地代家賃 100万円」だけで済んでいた処理が、IFRSでは「利息」と「減価償却費」に分かれ、さらにB/Sには巨額の資産と負債が計上されます。これにより、見かけ上のROA(総資産利益率)が悪化し、負債比率が上昇します

1-2. 実務の救世主?「短期リース」と「少額資産」の免除規定

「文房具のリースまで資産計上するの?」という懸念に対して、IFRSは実務的な配慮(免除規定)を用意しています。この規定をうまく活用することが、実務負荷を減らすカギです。

免除規定の種類概要と条件実務上のポイント
短期リース リース期間が12ヶ月以内のリース「購入オプション」がついている場合は適用不可。クラス(資産の種類)ごとに適用を選択。
少額資産のリース新品時の価値が少額(約5,000米ドル以下)の資産中古車などはNG(新品時の価値が高いため)。パソコン、タブレット、オフィス家具などが対象。リースごとに個別に選択可能。

実務指針の参照

借手は、次のいずれかについて、この項の要件(使用権資産とリース負債の認識)を適用しないことを選択することができる。

(a) 短期リース

(b) 原資産が少額であるリース(IFRS第16号 第5項)

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【実務アドバイス】

「少額」の基準について、基準書に明記はありませんが、結論の根拠(BC100項)では「US$5,000(約50〜80万円)」という目安が示されています。実務上は、社内方針書で「取得価額〇〇万円以下の資産は少額資産として処理する」と明確に定め、監査法人と合意しておくことが必須です。ただし、自動車は通常、新品価格が高額なため、たとえ中古で安く借りていてもこの免除は使えません(ここがよくある間違いです!)。

1-3. 最大の難所:「リース期間」の見積もり

実務担当者を最も悩ませるのが、「いつまで借りるつもりか?」という見積もりです。

契約書に「契約期間2年」と書いてあっても、IFRS上のリース期間が2年とは限りません。

IFRS第16号では、リース期間を以下のように定義しています。

  1. 解約不能期間
  2. 借手が延長オプションを行使することが「合理的に確実」である期間
  3. 借手が解約オプションを行使しないことが「合理的に確実」である期間(IFRS第16号 第18項)

ケーススタディ:店舗の賃貸借契約

  • 契約書:2年ごとの自動更新
  • 内装工事:耐用年数10年の高価な内装を施した
  • 実態:過去の実績からも、少なくとも10年は営業する予定

この場合、形式的には「2年」ですが、実質的には10年使うことが「合理的に確実」とみなされ、リース期間は「10年」として計算しなければなりません。

これにより、B/Sに計上される負債の金額が5倍に膨れ上がります。「契約書の期間で入力すれば終わり」ではないのが、IFRSリースの怖いところです。


第2章 IAS第36号「資産の減損」:のれんは償却しない、だが…

M&Aを積極的に行う企業にとって、日本基準とIFRSの最大の違いの一つが「のれん(Goodwill)」の扱いです。

2-1. 「定期償却」がないメリットとリスク

  • 日本基準: のれんは20年以内で定額償却します。毎期の利益(販管費)が圧迫されますが、リスクは徐々に減っていきます。
  • IFRS: のれんは償却しません(非償却)。その代わり、毎期必ず「減損テスト」を行わなければなりません(IAS第36号 第10項)。

【メリット】

償却費が計上されないため、営業利益が大きく押し上げられます。M&A直後の利益率を維持しやすいのが特徴です。

【リスク(崖効果)】

償却によって簿価が減らないため、B/S上に巨額ののれんが残り続けます。もし買収した事業の収益性が悪化し、減損が必要になった場合、過去に償却していなかった分も含めて、一気に巨額の損失を計上することになります。これを「崖効果(Cliff Effect)」と呼び、株価に大打撃を与える要因となります。

2-2. 減損テストの「1ステップ法」はシビア

減損の兆候があるかどうかの判定プロセスも、日本基準より厳格です。

  • 日本基準(2ステップ): まず「割引前キャッシュフロー」と比較して、プラスであれば減損不要(Step 1)。金利の影響を受けにくく、減損になりにくい仕組みです。
  • IFRS(1ステップ): 最初から「回収可能価額(割引後現在価値)」と簿価を比較します

IFRSには「割引前CFでの判定」というクッションがありません。そのため、事業計画が少しでも未達になったり、市場金利が上昇して割引率が上がったりすると、即座に減損損失が発生するリスクがあります。

実務指針の参照

企業は、事業年度中に企業結合で取得したのれんについて、減損の兆候があるかどうかにかかわらず、毎年(少なくとも年に1回)、減損テストを行わなければならない。(IAS第36号 第10項)

【CPAの実務アドバイス】

IFRS導入企業の経理担当者は、毎年決算時期になると、経営企画室と連携して詳細な「将来事業計画」を作成し、監査法人の厳しいチェック(Valuation監査)を受けることになります。これが決算スケジュールのボトルネックになりやすいため、期中の早い段階から準備を進める必要があります


第3章 IAS第19号「従業員給付」:隠れた負債「有給休暇」

最後に、多くの日本企業が見落としがちな論点、「有給休暇引当金」について解説します。

3-1. 未消化の有給休暇は「借金」である

日本基準では、従業員が有給休暇を使わずに翌年に繰り越しても、特に会計処理はしません(重要性が低いとみなされることが多いため)。

しかし、IFRS(IAS第19号)では、「従業員が労働を提供した時点で、企業は将来の有給休暇という対価を支払う義務を負った」と考えます

したがって、期末時点で従業員が保有している「未消化の有給休暇日数」に対して、将来支払うと見込まれる金額を負債(引当金)として計上しなければなりません(IAS第19号 第13項、第16項)。

計算ロジック:消化率がカギ

有給休暇引当金 = (日給×未消化日数×予想消化率)

  • 未消化日数: 翌期に繰り越される日数。
  • 予想消化率: 全員が100%消化するわけではないため、過去の実績から「将来どれくらい消化されそうか」を見積もって乗じます。

実務指針の参照

企業は、有給休暇の形態による短期従業員給付の予想コストを、累積型有給休暇(繰越可能なもの)の場合には、従業員が将来の有給休暇の権利を増加させる勤務を行った時に認識しなければならない。(IAS第19号 第13項)

3-2. 実務上のインパクト

「たかが有給」と侮ってはいけません。従業員数が多い企業や、有給消化率が低い(=繰越が多い)企業では、この引当金が数億円規模になることも珍しくありません。

また、計算のためには「従業員ごとの正確な日給データ」「有給残日数」「過去の消化率データ」が必要になります。人事システムと会計システムが連携していない場合、Excelでの集計作業は地獄のような作業量になります。


まとめ:IFRSは「隠れたリスク」を可視化する

今回解説した3つの論点は、いずれも日本基準ではB/Sに載っていなかったり、影響が緩和されていたりした項目です。

  • リース: 「借りている」という事実を負債として可視化する。
  • のれん: 「買収の成否」を毎期の減損テストで厳しく問う。
  • 有給休暇: 「従業員への債務」をきっちりと計上する。

IFRS導入は、これらの「隠れた実態」を白日の下に晒すプロセスでもあります。最初は数値の悪化や手間に戸惑うかもしれませんが、これらはすべて、企業の財政状態をより正確に把握し、投資家に対して透明性の高い情報を提供するために必要なステップです。

次回は、いよいよシリーズ後半戦。「グループ会社間の取引」や「ITシステムの対応戦略」について、現場の泥臭い話も交えて解説していきます。

よくある質問(Q&A)

リース契約書が各拠点に散らばっていて集まりません。どうすればいいですか?

最も苦労するポイントです。まずは「重要性」の基準を決めましょう。 例えば、「月額〇万円以下の契約は少額資産免除を使うので集計対象外」と割り切り、影響額の大きい不動産リースや主要な設備リースから優先的に収集するアプローチが現実的です。また、これを機にリース管理システム(契約書データベース)を導入し、本社一括管理に切り替える企業も多いです。

 のれんの減損テストは、いつ行えばいいですか?

「毎年同じ時期」であれば、期末でなくても構いません。 多くの企業は、本決算の繁忙期を避けるため、第3四半期や第4四半期の初めに減損テストの基準日を設定しています(IAS第36号 第96項)。ただし、その後に急激な環境変化があった場合は、期末に追加の検討が必要になります。

退職給付の数理計算上の差異の扱いは?

日本基準と大きく異なります。 IFRSでは、数理計算上の差異は発生時に即座に「その他の包括利益(OCI)」として認識し、その後リサイクル(P/Lへの振替)は禁止されています(IAS第19号 第120項、第122項)。つまり、年金資産の運用損が出てもP/Lの営業利益などは傷つきませんが、純資産(利益剰余金)がダイレクトに減ることになります。

IFRS適用で、管理会計も変更する必要がありますか?

必須ではありませんが、統合することをお勧めします。 制度会計(IFRS)と管理会計(日本基準ベースなど)がバラバラだと、「IFRSでは利益が出ているのに、管理上の目標は未達」といった混乱が生じます。IFRSは「マネジメント・アプローチ」を重視するため、経営管理の数値もIFRSベースに統一することで、経営判断のスピードと質が向上します。

 のれんの減損テストで「使用価値」を計算する際の割引率はどう決めますか?

税引前WACC(加重平均資本コスト)を用いるのが原則ですが、実務上は税引後WACCで計算した結果から逆算して税引前レートを開示する手法が多く採られています。

有給休暇引当金は税務上、損金になりますか?

基本的に損金算入(税金計算上の費用)は認められません。したがって、会計上は費用計上しますが、税務調整で加算(否認)され、繰延税金資産の対象となります。

IFRS導入初年度の期首残高(開始財政状態計算書)はどう作ればいいですか?

移行日(IFRS適用開始の2年前の期首)時点での遡及修正が必要です。ただし、IFRS第1号の免除規定を活用することで、過去のデータをすべて作り直す手間を軽減できます。


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専門家としての経験に基づき、現場で本当に『武器』になった数冊を厳選しました。理論だけで終わらない、実践に裏打ちされた知恵を求める方の参考になれば幸いです。


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